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華も嵐も踏み越えろ!  作者: ゆえ
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第4話 名前

ページを開いていただきありがとうございます。

――透流、どうした?――


ドラゴンの声に若干フリーズが解けた。

ギギギギギ・・・と振り返り死体の山を指差す。


――あぁ・・・・・・――


ドラゴンは静かな声で言った。


――我がやった――


その静かな感情のこもらない声に俺の体が震えた。


――透流、我が怖いか?――



怖い?

ドラゴンが?

ドラゴンが怖い?

俺はこの人たちを殺したドラゴンが怖いの?


・・・・・・違う。


俺が怖かったのは死体の山と・・・・・・

感情の無いドラゴンの声。



――・・・・・・この者たちは我を討伐に来たと言った――


死体に視線を戻す。

鎧や色々な武器で武装した死体。

この人たちを殺さなければドラゴンが殺されていた。

ドラゴンはただ身を守っただけなんだ。


――透流、我が怖いか?――


・・・・・・怖くない。


「怖くないよ。生きててくれて嬉しいと思う。生きててくれてありがとう」


ドラゴンに笑いかけたけど、きっと微妙な顔になってたんだろうな。


――透流・・・――


包み込むような優しい声に涙がこぼれた。







――大丈夫か?透流?――

「うん、大丈夫」

――無理はするな――

「うん、大丈夫だから」

――だが・・・・・・――


俺は溜息をひとつつくと作業の手を止めて心配そうに覗き込むドラゴンを見上げた。


「大丈夫だよ」

――本当に?――

「本当に」


手が届く距離まで顔を近づけたドラゴンの頬をそっと撫でる。

ひんやりとした滑らかな鱗が気持ちいい。

ドラゴンも目を細めて気持ちよさそうにしている。


俺はこのでっかくて綺麗でかっこよくて優しくて心配性のドラゴンが大好きだ。




あの後俺は年甲斐もなく大泣きした。


死体のこと、ドラゴンのこと、浩輔と朱里のこと、元の世界のこと。

いろんなことがゴチャゴチャして感情がコントロールできなくて。

涙をこぼしながらわんわん泣いた。

寄せてくれたドラゴンの顔にしがみついて思いっきり泣いた。

ドラゴンはその間ずっと俺の名前を優しく呼んでくれて。

それが嬉しくてさらに泣いたことは・・・・・内緒にしたいけどドラゴンにはまるわかりだったと思う。


だって俺の思考は駄々漏れらしいから。



ひとしきり泣いたら満足したのか俺の気持ちはすっきりしていた。

なんだかんだ言っても寒いのは事実だし。

俺は死体の山に手を合わせると暖を取れそうなものが無いかと物色し始めた。



割り切らなきゃどうにもならないことがある。



――そうか・・・それならばよい――

「うん、ありがとね」


頬をもうひと撫でして作業を再開した。



風化してぼろぼろになった布とか錆び付いた鎧や剣とかなかなか使えそうなものが見つからない。

この死体、いったいいつからここにあるんだよ。

洞窟の中が乾燥してるのかな?

スプラッタ~な死体が無いことが救いかも。

骨もあるから一時期そんな状態があったのかもしれないけど・・・・・・・・・うん、想像するのはやめよう。

あ、これ使えるかな?

草色の布を見つけ引っ張ってみる。

・・・・・・・・・重!


「こん・・・にゃろ!」


思いっきり引っ張ると上に乗っていた死体と言うかミイラというか骨?が崩れて大振りの布が引きずり出された。


「うん、使えそうだ」


端を持ってばたばた振ると土埃(だと思いたい)が舞う。

顔を背けて息を止めてしばらく振って埃を払う。


「これって・・・マント?」

――ほう、いいものを見つけたな――

「いいのもなの?」

――あぁ、微弱ではあるが魔力を帯びている――

「これってマジックアイテムなんだ!・・・あぁ、だから風化しなかったとか?」

――そのようだな――


足元に目を向けるとこのマントの持ち主らしい死体があった。

他の死体と違って本人はミイラ化してても銀色の鎖帷子とか腰につけた短剣とか装備品はたぶん当時のままだ。

これとかもマジックアイテムなのかな?

――うむ、本当に弱いものだが状態維持の魔法が働いている――

「そうなんだ」

持ち主を見る。

鎖帷子に短剣、手に持っているのは・・・・・・杖?

この人・・・魔法使い?


・・・・・・ってことは、この世界、魔法があるんだ!


いや、ドラゴンがいるくらいだからさ、そうじゃないかな~とかそうだったらいいな~とか思ってたけどね。


感慨深く持ち主を眺めていたら


――ついでだ、他にも必要なものを探し出すといい――

「え?」

――お前が生きていくうえで必要なものだ。いつまでもここにいるわけにもいくまい?――

「俺に・・・出てけって言うの?」

じわっと涙が出てくる。

やばい、大泣きした所為で涙腺ゆるくなったか?


そんな俺にドラゴンは少し焦ったように

――いや、今すぐ出て行けと言っているわけではない――

そう言って俺を宥める。


――それに、お前は友人を探さなければならないのではないか?――


そうだけど・・・そうなんだけど・・・・・・


俺、ドラゴンとまだ一緒にいたい。


ごめん、浩輔、朱里。

俺、ドラゴンと一緒にいたい。


ドラゴンが溜息をついた。

その溜息に安堵が含まれてるって感じたのは俺の希望的観測?


――有って困るものでもないだろう。必要だと思うものを探し出しておくといい――

「うん・・・そうする」


こぼれそうな涙を袖で拭うと使えそうな物を探し始めた。


魔法使いが身に着けていた帷子に短剣というかナイフ?に、お、これ財布だ。

銀貨に・・・これは銅貨かな?

一応貰っておこう。

他には・・・

剣士?騎士?らしい人の持ってる装備は・・・重すぎて俺には無理だな。

財布の中身だけ貰うことにする。

この人は神官系?

白っぽい長いローブみたいなものを着ている。

髪が長いから女性なのかな。

服が残っているってことはマジックアイテムなのかな?

ローブはいらない、服は着れそうだから貰っておこう・・・・・・女物だろうけど。

財布には・・・お、これは金貨かな?

この人結構アクセつけてるな。

サークレットにイヤリングにブレスレットに・・・アンクレット。


――全部魔法を帯びている、防御系のものだ――

「いいものだね」

――あぁ、全部身に付けるといいだろう――

「うん、そうするよ」

たぶん全部女物だろうけど。



使えそうな物を粗方物色。

最初のパーティー(・・・なのかな?)からしかまともな物は手に入らなかったけど、金銀銅の貨幣や宝石とか魔石が手に入った。

こんなもんかな?


――もういいのか?――

「うん、ありがとう」

――うむ、では我の後ろに下がっていろ――

「うん・・・てか、何するんだ?」

――これらを消す――

「え?」

――これらがあるとお前が気に病む。消すことにした――

「・・・・・・・・・ありがとう」

ドラゴンの優しさが嬉しくて・・・苦しい。

――・・・気に病むな――



俺が背後に移動すると、ドラゴンはブレスを吐いた。

超高温の炎。

熱がものすごくて、俺は完全にドラゴンの影に隠れるようにして手を合わせ目を閉じて祈った。


どうか、安らかに眠ってください。

もし、生まれ変わったとしてもドラゴン退治をしようなんて思わないでください。

このドラゴンを退治しようとしないでください。


その利己的な祈りに俺は知らず涙をこぼしていた。



熱が去り、ドラゴンがゆっくりと体ごと振り返った。


――終わったぞ――

「うん」


見ると、灰すら残さず死体の山は消えていた。

ありえない、なんて炎だよ。


・・・・・・・・・でも・・・


俺はふとドラゴンを見上げた。


あぁそうか、灰すら残さない熱からドラゴンは俺を守ってくれてたんだな。


ドラゴンを見つめていたら、ふと浮かんだ言葉。



黒水晶(モーリオン)


――透流?――

「名前、モーリオンはどうかな?」

――黒水晶(モーリオン)?――

「うん、邪気を祓うとか浄化するとか言われている黒水晶」

俺を守ってくれた黒い竜。


――いい名だ、ありがとう――



ドラゴン、いや、モーリオンは俺を見つめた。



――我が名はモーリオン。汝、西島透流との契約を・・・受ける――


「けいやく?」


その瞬間、俺の全身を電流のようなものが駆け巡った。


「ひっ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっっ!」


何かが俺の中に入ってくる。

何?何だよこれ!

嫌だ・・・嫌だ・・・嫌だ・・・っ!怖いっっ!!

怖いのに・・・・・・何なんだよこれ!


頭の芯が痺れるような快感・・・・・・

こんなの知らない・・・知らない!


「モ・・・・・・リオ・・・ン、助・・・けて・・・・・・」


倒れかける俺の体をモーリオンが頭で支えてくれた。


快感はさらに増し、大きすぎるそれは苦痛でしかなく。




俺は意識を失った。

やっと名前がつきました。

そして、何かもう色々すみません。

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