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華も嵐も踏み越えろ!  作者: ゆえ
36/52

第36話 遠征(side浩輔)

浩輔単独です。

パーティの翌日から魔王討伐に向け本格的な準備が始まった。

俺は近衛騎士団に混じって剣術の鍛練。

両刃の剣なんて振ったことが無いから少しでも慣れておかなければ。


――もっと腰を落とせ!踏み込みが足らん!そんな事では妾を使いこなせぬぞ!――


厳しい師匠もいることだしな・・・



午前中を剣術の鍛練にあて、午後からは王の執務室で今後の予定の会議。

遠征はパレードで出発だと?

仕方がないとはいえ・・・本当に無駄が多い。



「え?一緒に行けないですって?」

「それ・・・どういうことですか?」

「アカァリ様は女性です。女性が戦地に赴くなど・・・」

会議に参加していた女官長が口を出してきた。

「でも、リーゼロッテさんも行くのでしょう?」

「聖巫女様は神聖魔法の使い手です。貴重な戦力となりますわ。ですが、アカァリ様は戦うことができません。戦地に行きお怪我をなさったらどうなさるおつもりですか?それに、足手まといになってしまいます」

「そうですね、アカァリ様は王都にお残りいただくのがよろしいでしょう」

女官長の言葉に宰相が賛同する。

この強硬さは・・・

体のいい人質か、それとも何か思惑が?

その両方かもしれない。

「でも・・・っ!」

「朱里」

「・・・浩輔くん・・・?」

引き下がれない朱里を俺は止めた。

そして日本語で話す。

「とりあえずこいつらの言うことを聞こう。ここまで強硬なのは何か思惑があるからだ」

「浩輔くんが逃げ出さないための人質ってことでしょう?」

「それが主な理由だろうな。・・・だが・・・」

「他にもある」

「あぁ」

「たぶん、側室に据えようとしてるんだと思うわ。昨夜、パーティーの時値踏みされてたもの。国王と踊ってるときが一番ひどかった」

「まだ透流が見つかっていない。ここで事を荒立てて後ろ盾を無くすのもまずい」

「確かに・・・」

「側室の件、対処できるか?」

「できるわ」

俺たちは頷き合う。

「話し合いは終わりましたか?」

「はい、朱里はここに残します」

宰相の問いに答える。

「同行は危険だと納得させました。僕がいない間、朱里のことをよろしくお願いいたします」

俺は頭を下げた。

「お任せください。アカァリ様は責任を持ってお預かりいたします」

宰相が頷き、

「アカァリは後宮でくつろいでいたらいい。私もできる限りのことはしよう」

国王が朱里に微笑みかける。

「陛下・・・どうぞ宜しくお願いいたしますわ」

「エレでいいと言っただろう?」

「はい、エレ様、お世話になります」

朱里はニッコリと華のような笑顔を浮かべた。

大輪のバラのようだとか牡丹のようだと言われる朱里の笑顔だが、俺から見たらラフレシアだ。

俺の考えに気がついたのか、朱里が軽く睨んできた。

付き合いが長いからなぁ・・・相手の考えてることがなんとなくわかるんだよな。

特に俺たちは思考パターンが似ているから。



夕闇が迫る頃、会議も一段落。

冬に向かう季節に北に向かうのは危険だがこのまま放っておくこともできない。

準備期間を見たとしても最速で10日後。

冬の季は氷雪系以外の魔物の活動も少なくなるとのことだから完全に冬の季に入る前までには魔物との戦いも収束するだろう。

問題は氷雪系の魔物だが、トゥラ山脈の北側での棲息は確認されているが、こちら側にはいないらしい。

2ヵ月後くらいには帰ってこれるかもしれない。

冬が明け、春になったらまた遠征だ。

俺は溜息を隠すようにティーカップに口をつけた。

紅茶だけは美味しいんだよな。


しばらく和やかに雑談していたら、文官が来た。

筒に巻かれた文書が一通。

宰相が受け取り、目を通し顔色を変える。


「陛下・・・これを」


王は頷き受け取ると目を通す。


「まずいな・・・」

「いかがいたしましょう?」

「討伐遠征の出発を早めることは可能か?」

「式典を中止にする必要があります」

「ふむ・・・、では何もかも一切いっさいを切り、出立するとしたらいつになる?」

「5日後には」

「3日だ」

「畏まりました」


宰相は一礼し、足早に執務室を出た。


何があった?


「コースケ、遠征出発は3日後だ」

「何かあったのですか?」

「うむ、黒竜の森で天へと昇る一条の閃光と巨大な火球が確認された」

「魔王ですか?」

「甚大な魔力も確認された。十中八九、魔王だろう」


3日後か・・・

魔王との直接対決・・・はできれば避けたいが、そうもいかないだろうな。


――ふん・・・魔王など、そんなところにおらぬわ――

アリアン?

――あやつは寒いのが苦手だからのぅ。そもそもあやつの拠点はルフじゃ――

・・・・・・もしかして知り合いか?

――知り合いたくもなかったが・・・不本意ながら知り合いじゃ――


驚いた、アリアンロッドが魔王と知り合い!?


前の救世主が倒したんじゃなかったのか?

――倒せるものなら倒しておるわ!あやつはリィンと意気投合し、あろうことか一緒に"がぁるずとぉく"をする仲になったのじゃ!妾まで巻き込みおって・・・――

・・・魔王って、女?

――男じゃ――

男でガールズトークって・・・

――思い出すだけで腹が立つ!妾はちと休むが、起こすでないぞ!――

そういうとアリアンは不貞寝した。


そうか・・・魔王じゃないんだ・・・・・・

じゃぁ何だ?

得体の知れなさに背筋が寒くなる。


――妾が感じた魔力には邪悪なものは感じなかった。・・・気に入らぬものに似通ったものは感じたがの。心配することはないであろう――

寝たんじゃないのか。

――ふん――

ありがとう、少し気持ちが落ち着いたよ。


アリアンの一言で恐怖感は薄れた。

まだ不確定要素が多すぎるけれど、俺はアリアンの感覚を信じよう。

・・・他に信じられるものが無いってだけなのだけれど。







慌しく準備を終え、出発の日を迎えた。

やはり時間が足りず、先行部隊として俺が小隊を率い、遅れて近衛騎士副団長が大隊を率いて駆けつけると言う形だ。

遠征する隊の規模で少し揉めたのだが、時期と黒竜の森の広さを考え一個大隊に落ちついた。

合流は最北の都市アレノス。


「浩輔くん、ちゃんと帰ってくるのよ?」

「あぁ、もちろんだ」

「いい?怪我とかしたら・・・透流くんが泣くわよ?」

「泣かせてたまるか」

「もし死んじゃったら・・・あぁ、それは構わないわ、透流くんは私がもらうから」

「死んでたまるかよ!」


朱里らしい見送りだ。

絶対に無事に戻ってやる!


「コースケ、頼んだぞ」

「はい、お任せください」


国王に見送られ出立。

大々的な式典やパレードが中止になったのが嬉しい。



しかし・・・・・・

糧食や備品は馬に直接積んだ荷駄隊が運ぶからもう少し早く進めると思ったのだがなぁ。

リーゼを乗せた馬車が足を引っ張っている。

いくら神聖魔法が戦力になるにしても・・・はっきり言って邪魔だ。

ただでさえゆっくり進む馬車なのに、王都での生活を遠征にまで持ち込んで欲しくない。

朝は陽が昇りきってから起床、優雅にブランチ、休養後出発。

こんな状態では1日に進めるのはわずかな距離だ。

行軍中にこんなのは有りか?この世界では当たり前のことなのか!?



10日が過ぎる頃、俺だけじゃなくの他の兵たちの苛立ちも積もってきた。

限界だ。

苛立ちがリーゼに暴力と言う形で向く前に何とかしなければ。

リーゼの家は王族に繋がる公爵家だ。

お嬢様を傷物にしたらとんでもないことになる。


今夜の野営場所に落ちついてから、俺はリーゼの馬車の扉を叩いた。


「リーゼ、話があります」

「コースケ?・・・少し待ってください」

中でゴソゴソ何かをしている音がする。

「準備ができました、どうぞお入りください」

声がかかった。

「失礼します」

居心地が良いようにクッションが敷き詰められた豪華な内装。

リーゼは侍女に傅かれ優雅に座っていた。

外では簡易テントを張りごつごつした地面ですごしているというのに・・・・・・

「コースケ、お話とはなんでしょう」

リーゼは頬を上気させ潤んだ瞳で見上げてきた。

俺はお茶の用意をしようとする侍女を制して、

「明日の朝、日が昇ると共にあなた方を置いて僕たちは先に出発します」

そう言った。

言われたことが理解できなかったのか、リーゼはポカンと俺を見上げる。

意味のわかった侍女は青ざめて俺を睨んできた。

「あの・・・コースケ?よくわからないのですが・・・」

「予定はすでに3日遅れています。本来ならばすでに最初の補給地であるニルヴェイに到着し、補給を行っているはずです。今の進み具合だと到着まで後5日はかかるでしょう」

「遅れているため糧食が足らなくなると?」

「余裕を持って積んでいますから切り詰めれば十分に持ちます」

「では・・・私も・・・」

「問題はそれじゃないんです。食べ物は狩をしたら確保できます。問題は遅れていることそのものです。僕たちは冬の季が始まる前には黒竜の森に着き、調査および魔物の駆除を行わなければなりません。このままでは黒竜の森に着く前に冬の季が始まってしまいます。この旅は気楽な物見遊山の旅じゃない!時間が限られてるんです!足手まといは必要ありません!」

強くそう言うと、リーゼの顔色は真っ青になった。

「私が・・・足手まとい・・・・・・」

「なんということを!お嬢様は稀代の聖巫女と呼ばれるほどの神聖魔法の使い手ですよ!?」

「行軍の邪魔になるような者はいくら攻撃が強くても必要ない。戦いに参加したいのならこの隊じゃなく、後から来る大隊と一緒に来ればよかったんだ」

「なんという無礼な・・・・・・」

「決定事項です。明朝、あなた方を置いて出発します」

「このようなところで置いて行くなど・・・死ねと言うようなものではありませんか!魔物や盗賊に襲われたら・・・」

「公爵家の私設の軍から護衛として10人連れてきているでしょう?こちらからも1分隊出します。20人強も兵がいたら襲ってきませんよ」

俺は侍女を冷めた目で見る。

「もう一度言います。これは決定事項です。そうですね、今後の予定だけは話しておきましょう。僕たちは、明朝、陽が昇ると共に出発しできるだけ急いでニルヴェイに向かいます。その後、補給が終わり次第出発。遅れを取り戻しつつアレノスに向かいます」

侍女からリーゼに視線を移す。

「戦いに行くという自覚がないのならこのまま引き返していただいても構いません。参加なさるのなら大隊と共に来てください。アレノスで待ちましょう」

そう言うと俺は馬車を出た。


さて、言うことは言った。

若干言い足りないが・・・まぁいいだろう。

分隊長を集めて話し合うとするか。

・・・実はまだ決定した事項じゃなかったりする。

俺は軽く溜息を吐くと、

「設営中すみません、手が空いたらで構いませんので分隊長に集まるよう伝令していただけませんか?」

近くに居たテント設営中の若い兵に言伝を頼んだ。



「忙しいところを集まっていただきありがとうございます」

俺のテントに分隊長5人が集まった。

俺は一呼吸置き、

「予定の遅れを取り戻すため、明日は陽が昇ると共に出発することにします」

きりだした。

「その後、馬の状態を見ながらできるだけ早駆けでニルヴェイを目指し、アレノスに着くまでには遅れを取り戻します」

「待ってください!」

俺の言葉に分隊長の一人が手を上げた。

「早駆けをすると・・・聖巫女様の馬車が付いて行けません」

他の分隊長も渋面で頷く。

だが、

「リーゼはここに置いて行きます」

俺がそう言った瞬間の分隊長たちの表情は見ものだった。

最初は驚愕、その後、ある者は怒りを、ある者は戸惑いを、そしてある者は不敵な笑みを浮かべる。

「もちろん、単独で放置するわけではありません。リーゼには私設の護衛が10人付いています。それだけでは心許ないので、この隊から1分隊を護衛として付けます」

俺は怒りを見せた分隊長に向き直り、

「その役目をあなたの隊にお願いします。あなたの隊と合わせて20人強の人数で護衛すれば危険も無いでしょう」

そう言うと、その分隊長は頷き、

「了解いたしました」

引き下がった。

それを見ていた不適な笑みを浮かべた分隊長は、さらに笑みを深くする。

しっかりばれているな、これは。

護衛として置いて行く分隊は貴族の子息で形成された物で、この小隊の中で浮いていた。

他の分隊は貧富の差はあれど平民出身で形成されている。

この10日間、貴族の分隊と平民の分隊で小さな喧嘩が絶えなかった。

特にあの不敵な笑みを浮かべた分隊の面子とのトラブルが多かったのだ。


うん、ついでに厄介払いをしたわけだ。


俺はすっきりした表情で分隊長に解散を命じる。

テントの中に最後まで残ったのはあの不敵な笑みを浮かべた分隊長だ。

「まだ何か?」

面倒事なら今のうちに一気に片付けておきたい。

後まで引っ張るのは困る。

「いや、あんたは面白いヤツだなと思っただけだ」

「面白い・・・ですか?」

「あぁ、面白いね」

ニヤリと笑い、

「今後、どう動くかが楽しみだよ」

そう言いテントを出て行った。


あの男の名は・・・確かシグルドだったか?

妙に聡いヤツだ。

何の思惑があってあんなことを言ったのか・・・要注意だな。



翌日早朝から俺たちは遅れを少しでも取り戻すために馬を駆った。

ニルヴェイに代替の馬が用意されていると聞き、限界ぎりぎりの速度で駆けている。

そこからアレノスまでは代替馬が無いため無茶はできない。

この間で少しでも挽回しなければ。


本来なら急ぐ必要はないのかもしれない。

この世界の住人ではない俺にとって、魔王や魔物と戦うことは義務ではないからだ。

だが、何のよすがも無いこの世界では救世主という立場は美味しい。

しかし・・・ここで失敗などしたら、後続の大隊に追いつかれなどしたら、一気に立場が弱くなってしまう。

弱くなればいいように扱われて終わりだ。

俺たちの最終目標は無事に元の世界に帰ること。

呑まれてたまるか!



翌々日、俺たちはニルヴェイに着き補給と馬替えをし、休憩もそこそこに出発した。

隊員は文句も言わず俺に従ってくれる。

こいつらも大隊に追いつかれたくはないはずだ。

近衛騎士団は分隊ごとに競わせ切磋琢磨しランク付けしている。

俺と一緒に出発した分隊は騎士団の中では中堅クラスということだ。

ここで手柄を立てればランクアップし給料も上がると聞いた。

貴族出身者の多い分隊は給料よりも名誉を取るそうだが、今、俺と一緒に駆けているやつらは生活がかかっている。

俺は状況によっては先行部隊だけで黒竜の森まで行くと宣言していたからな。

副団長のテオドールが「アレノスに着くまでに大隊に追いつかれたらその時点で先行部隊の編成をやり直す」なんてことを言っていたからこいつらも必死だ。

俺としてもここ十数日で馴染みはじめたこいつら以外とは組みたくないって感じ?

今からまたコミュニケーション取り直すなんて面倒だ。


俺たちはそれぞれの事情を抱え、馬を走らせた。



このペースならアレノスまで後5日。

遅れはとうに挽回した。

大隊がどんなに急いだところでもう追いつかれる心配もないだろう。

俺たちは久しぶりにのんびりと野営を設置した。


獲りたての新鮮な鳥やウサギの肉を調理し、適当に焚き火を囲む。

最初は分隊ごとに分かれていたが今ではばらばらだ。

一応束ねていることになっている俺が適当だからだろうな。

糧食もまとめて分配したほうがロスが無い。

余った分を捨てるなんてもったいない。


鳥肉を齧りながら思い出す。

キャンプの時に透流が作る飯は美味かったよな・・・・・・

チッ・・・中まで火が通ってないじゃないか。

俺は手にした肉をまた火にかざした。


「なんだ?救世主殿はしっかり焼けていないとダメなのか?」

俺の左側にどっかり腰を下ろし、シグルドがにやつきながら言う。

「衛生管理がしっかりした肉しか食ったことが無いのでね。あなた方よりも胃腸が繊細なんだ」

「肉に衛生とか管理とか必要なのか?」

「少なくとも俺たちには必用だ」

「柔だな」

「否定はしない」

「・・・お前をからかっても面白くないぞ」

「おや?からかってたんですか?気がつきませんでした」

「かわいくねぇガキだな」

「ありがとうございます。褒め言葉として受け取っておきますよ」

「ほんと、かわいくねぇ。最初に会ったときは貴族の坊ちゃんて感じだったのによ」

シグルドはぼさぼさした金茶の髪を掻き毟る。

「御しやすいとでも思ってたんですか?それは残念でしたね」

「むかつくガキだ」

緑の目で睨んできた。

どうでもいいことだが、誰かに似ているんだよな、こいつ。

誰だろう?

まぁ、そのうち思い出すだろう。

俺は睨む目を見返してニヤリと笑った。


俺は素を出していた。

まぁ、建前の性格を出してばかりも疲れるからね。

素を出しても弊害がないと判断したからだけれど。


「コースケ殿、その救世主の剣を見せてはもらえないか?」

シグルドが珍しく遠慮がちにそう言って脇に置いていたアリアンを指差した。

「これを?」

「あぁ、ダメか?」

「構いませんよ」

俺の返事にシグルドは嬉々としてアリアンを手に取った。

「触ってみたかったんだよなぁ・・・」

などと呟いている。

「抜いても?」

「どうぞ」

できるならね。

鞘を右手で、グリップを左手で握る。

シグルドは左利きだ。

そしておもむろに抜こうとしたが・・・抜けない。

「伝承は本物か・・・」

「俺にしか抜けませんからね」

シグルドは頷くと、

「ありがとう」

律儀にそう言ってアリアンを返してくれた。

ガサツな印象しかないが、シグルドは育ちがいいのかもしれない。


俺はアリアンを受け取った。


その瞬間。


――妾を抜け!――


アリアンが叫んだ。


敵か!?

緊張が走る。

そんな俺を見ていたシグルドも様子が変だと気がつき自分の剣を握り立ち上がると辺りを警戒した。

他の隊員もそれぞれが警戒する。

――敵ではない!――

「は?敵じゃない?・・・それならなんで抜けと言うんだ?」

思わずアリアンを見て気が抜けたように言うと、シグルドたちが訝しげに俺を見てきた。

――この先の大きな都じゃ!早う我を抜け!――

「大きな都?この先って言ったらアレノスだな。何かあるのか?」

――リィンじゃ!――

「え?先代!?」

――早う抜けと言うとろうがっ!――

脳内に響く子供の甲高い怒声に思わず剣を抜いた。


透明なクリスタルの刀身に焚き火の炎が映り、燃え上がるように赤く輝く。

何事かとこちらを見ていた隊員たちがその美しさに息を飲んだその時だった。


眩しいほどに剣が輝くと瞬く間に銀色の光球となり、あっという間に夜空に消えていく。


いきなりな展開に俺は呆然とそれを見送るしかなかった。


「コースケ殿・・・今のは・・・?剣はどこに・・・?」

シグルドが同じように呆然とアリアンが飛び去った方向を眺め聞いてくる。

「たぶん・・・アレノスに向かったんだと思う」

「剣が単独で・・・か?」

「あれはただの剣じゃないからな・・・意思がある。でも・・・」

光球になって飛んでくなんて聞いてないぞ!?

それに、アリアンが言った先代の名前。

アレノスに居るというのか?

どっちにしても俺に断りもなく勝手な行動をして・・・ッ!

お前は俺の協力者だろうが!


「剣に意思が・・・」

シグルドが俺を見る。

「救世主の剣だ・・・それもあるだろう・・・しかし、なんで飛んでいく?まさか・・・逃げた!?」

なんでそうなる。

「逃げたってことは無いだろう・・・まぁ、剣の事情だ、気にするな」

「気にするなって・・・」

「それよりも、のんびりしている暇は無くなった。まったくの私事になるのだが・・・アリアン・・・剣を捕まえるために先を急ぎたい。協力してくれるか?」

「協力も何も・・・救世主に武器がなくちゃカッコつかねぇだろう?」

シグルドの言葉にみんなが苦笑しながら頷く。

「おい、誰か、この鞘に合う寸法の剣持ってねぇか?」

「シグルド?」

「だから、武器がないとカッコがつかねぇんだよ。とりあえず代用で体裁つけとこうぜ」

あぁ、なるほど。

俺は頷くと、

「すまない」

隊員たちに頭を下げた。

「おいおい、あんたは仮にもこの隊の隊長さんだぜ?軽々しく頭を下げるな」

「・・・わかった。では、剣を貸してもらおう。それから、食事が終わったらすぐに準備をして出立する。異議は?」

「ねぇよ」

他の分隊長も頷き、各自食事の続きをし、終わった者から出発の準備にかかる。



俺はアリアンが消えたアレノスの方向を見た。


我が道を行くのは朱里だけで十分だって言うのに・・・


思い切り溜息を吐く。



「幸せが逃げてくぞー」



透流の声が聞こえたような気がした。





アリアンもかなり自分勝手に動く子です。

適当に出したシグルドが気にってきた・・・どうしよう。


間違い等がございましたらご連絡ください。

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