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華も嵐も踏み越えろ!  作者: ゆえ
32/52

第32話 ごはんを食べよう!①

必要なさそうな話なんですけれど・・・

うちにとっては必要なんです!

「遅い!」


集合場所に行くとすでにセレンとラウルが待っていた。


「ごめんなさいー、ちょっと値切り交渉に時間がかかっちゃったのよ」

「買い物はできたのですか?・・・それにしては荷物が・・・」

セレンは不思議そうに首を傾げる。

「フッフッフ・・・ぜ~んぶこの中に入ってるんだな~」

俺は袋を指差した。

「これに?」

ラウルが持ち上げようとして、

「ぐげっ!」

腰にきたらしい。

軽いと思って持ち上げるから・・・

「もしかしてギックリ腰?」

「なるか!」

「ギックリ腰は癖になるって言うからね」

「なってない!」

「ラウル、お大事に」

「だからなってないって!」

「うん、ただ言ってみただけ。それだけ腹筋背筋鍛えてればならないよね、ギックリ腰」

「・・・・・・とぉぉるぅぅぅ・・・」

「痛い痛い痛い痛い痛い!」

ラウルは俺にグリグリ攻撃してきた。

「なに?この世界にも春日部某所に住んでる永遠の5歳児一家がいるの!?てか、マジで痛いよ!剣士の力でグリグリしないでってー!」

「永遠の5歳児ってなんだよ。・・・ふん、トールごときに力いっぱいするわけないだろう?」

「でも痛いー!」

「トール、"ごめんなさい"は?」

「ごめんなさいーごめんなさいー・・・ごめんよ、かぁちゃん。オラもうしないからー」

「かぁちゃん!?」

ラウルはぱっと手を離した。

「かぁちゃんて・・・母ちゃ・・・?えぇ!?」

「うぅぅ・・・痛かった・・・」

俺はラウルを恨みがましく見る。

「みさえのばかぁ」

「俺は母ちゃんでもミサエでもない!・・・って、ミサエって誰!?」

混乱するラウルは放っておいて、

「セレン、お腹すいた。どこで食べるの?おいしいとこがいいな」

俺はセレンのローブを掴むとニッコリ笑ってねだるように見上げた。

セレンはこめかみを押さえて軽く首を振っている。

「セレン、頭が痛い?」

「あなたたちのっ・・・いや・・・もう、いいです・・・」

セレンは怒鳴りかけたけど途中でやめて、フッと力無く笑い、

「あぁ・・・周りの視線が痛い・・・」

遠くの空を見上げた。

なんとなく目が潤んでるように見えるのは気のせいかな?

首を傾げてサラを伺うと、

「もう・・・あんたたち・・・おバカ過ぎ・・・・・・」

目に涙まで浮かべ声を殺して笑っていた。







俺たちはファズさんお勧めの食堂を目指していた。


「何でも、ヘルメタートの南部の郷土料理だそうです」

「ヘルメタート南部か、まだそっちまで行ったことがないよな?」

「えぇ、ですから私も楽しみです」

「二人とも国外に出たことあるの?」

「ありますよ。国外といっても、ヘルメタートは首都のギルフェまで、アクシュヴィオンは保養地のウーナまでですけど」

「あなた達ギルフェまで行ったことがあるんだ。どんな所だった?」

「そうだなぁ、王都よりも活気があったぞ」

「多種多様な民族や種族の集まった国家ですからね」

「ねぇ、今度そっちまで足を延ばしてみない?」

「いいですね、久しぶりに国外に出るのもいいかもしれません」


などと3人が会話をしてたけど、俺はそれどころじゃなかった。

これは・・・この香りは・・・ッ!


「何か変わった香りがしますね」

「そうだな、不思議な匂いだ・・・」

「でも、私好きかも、この匂い」

「うんうん、俺も好きだな」

「あ、あの店のようですよ」


セレンが1軒の食堂を指差した。

歩道の一部まで席を設けているオープンカフェ仕様だ。

天気がいいから外で食べている人も多い。


・・・アレは・・・あの人たちが食べてるのは・・・ッ!


「ん?トール?どうした?・・・って、お前!?」

「ちょっと!どうしたのトール!?」

「トール?大丈夫ですか?何処か具合が悪いのですか?」


3人が俺を見てあたふたし始めた。


「どこか痛いの?お腹?大丈夫?」

「トール?黙ってちゃわからないぞ?どっか苦しいのか?」

「トール、何故泣いているのですか?宿に帰りますか?」


俺はふるふると首を振る。


「・・・レー・・・・・・」

「ん?どうした?」

ラウルが心配そうに俺を覗き込んできた。

「あれ・・・」

俺は食事をしている人を指差す。

「あの人?あの人がどうかしたの?・・・もしかして・・・」

「あの人があなたの探してる人なんですか!?」

俺はまた首を振り、それを否定した。

「ちがう・・・」

セレンも俯く俺の顔を覗き込む。

「トール?いったい何があったんですか?」

何がって・・・・・・

「何を泣いているんですか?」

だって・・・だってさ・・・

「だって・・・あの人が食べてるの・・・どっから見てもカレーなんだもん!」


だってカレーだよ!?

もう、家に帰るまで食べられないって思ってたカレーだよ!?


俺は感動のあまりぽろぽろと涙を零した。


あぁ、このスパイシーな香り!

食欲中枢を撹拌しまくる刺激的な香り!

たまんねぇ!


「行こう!すぐ行こう!そしてカレーを食おう!」

俺はセレンにしがみついた。

ついでにセレンのローブで鼻をかむ。

鼻水が出てたらせっかくのスパイスの香りが嗅げなくなる!

「トール!落ち着いて!あぁ!私のローブで鼻をかむんじゃありません!とりあえず顔を拭きましょう!」

セレンが取り出したハンカチで俺の顔をごしごし拭いてくれた。

「ありがと・・・」

拭いてもらったところがちょっとヒリヒリする・・・



店の中、俺たちは4人掛けの長テーブルに着く。

向かい正面にラウル、その左側にセレン、俺の右にサラだ。

浅黒い肌に白い歯がまぶしい某歯が命な芸能人そっくりなウエイターが注文をとりに来た。

メニューが書き込まれた薄い板とサラがにらめっこをしている。

「料理の名前がまったくわからない・・・・・・」

「そんな時は聞くのが一番だよ。サラもセレンもラウルもここの料理は初めてなんだよね?」

3人が頷く。

「OK、注文は俺がしてもいい?」

「トールはこの料理が何かわかるのですか?」

「料理の名前はわかんないよ?でもさ、他の人を見た感じ、煮込み料理がメインみたいだから何とかなると思う。主食はチャパティ?あ、ライスもある!」

「わかりました、お任せしましょう」

「あと、1つ質問ね。みんなは塩辛い物以外の辛い物って食べたことある?」

「塩辛い以外の辛い物?なんだそれ?」

首を傾げる3人の反応で経験無しと判断。

俺は頷くとウエイターに向き直った。

「えと、この店でスパイシーだけど一番辛くないものをこの3人にお願いします。3人とも香辛料・・・でいいのかな、それともスパイス?・・・が初めてだからできるだけ優しい味のがいいな。・・・ありますか?」

俺の質問にウエイターが歯をきらめかせながら笑い、

「はい、ございます。初めての方でも美味しくお召し上がりができるようなメニューも取り揃えてございます」

爽やかに言う。

従業員の教育が行き届いた店なんだろうな。

何かこの異世界の世界観にこの接客はものすごく違和感があるけど・・・・・・

「じゃぁ、お薦めのものを3つお願いします。主食はどっちでも料理に合うほうで」

「はい。・・・3種類で構いませんか?」

ウエイターの質問に俺は3人を見て、

「3種類頼んで取替えっこして食べるのって平気?」

とりあえず聞いてみる。

「私は構わないわよ。どっちかって言うといろんな物が食べられた方が嬉しいかな?」

「俺も平気。分けっこするのは構わないよ」

「私もです」

「ん、わかった」

3人の返事に俺は頷くと、

「初心者用を3種類お願いします」

俺はまず3人の分を注文した。

それから自分の分を頼もうとしたら・・・


「この店か?」

「変わった強い臭いがするって言ってたからこの店だろう」

「本当に美味いのかぁ?」


ガラの悪そうな厳つい冒険者風の3人が入ってきて、セレンの斜め後ろにあるテーブルに着いた。

そっちのテーブルには浅黒い肌に(真っ白な歯で)笑顔がまぶしい愛のメモリーなウエイターが付く。

何かすごいぞこのお店。


気を取り直して注文をしようと口を開くと・・・


「なんだって?俺たちには無理だぁ!?」

「"この店のオススメ"とか言っておきながら俺たちには食わせられないって言うのかよ」

「いえ、そういうことではなく、辛さに慣れていない方には食べられないかもしれないと申し上げているだけです。初めての方用に比較的辛くない物もご用意できますので・・・」

「あぁ?初めての方だぁ?俺らに初心者用を出すって言うのかよ?」


騒ぎが始まった。

昼真から酔っ払ってるよ、あいつ等。


呆気にとられて見ていたら、その中の一人と目が合う。


「何だ?臭い臭いと思ったら忌み色が2匹もいるじゃねぇか」

「忌み色のくせにこんなとこで食事かよ」

「自分が臭いくさいからこの臭いにおいでごまかそうとしてるんじゃねぇか?」

「違いねぇ」


そんな事を言ってゲラゲラ笑う。

ウザイ・・・

言い返すつもりは無いけど、こいつらウザイ。


「トール・・・」

俺がイラッとしてるのがわかったのか、ラウルはそっと俺の手を握った。

俺を見るラウルの目はとても静かで澄んだ青い色。

その目を見たらざわついていた俺の心がすぅっと静まった。

「うん、ごめん、ありがと。大丈夫」

「うん、気にするな」

ラウルがニカッと笑うから俺もちょっとだけ笑い返せた。

ラウルのすごいところはこんなところなんだよね。


俺はもう一度ラウルにちゃんと笑い返すと、自分の分の注文を・・・・・・


「だから言ってるだろうが!これでいいんだよ!」

「初心者用なんざ食えるか!」

「さっさと持ってくりゃいいんだよ!」


あーもう五月蝿いうるさい

でもさ、これって・・・何かオチが見えてるような気がする。

そしてこの店に迷惑がかかるというパターン?

・・・最低だよな。


「ねね、お兄さん」

俺はウエイターのお兄さんに小声で話しかけた。

「あの人たちが注文してる料理の辛さってどれくらい?」

お兄さんはちょっと驚いたように俺を見ると、

「そうですね・・・慣れてきた人がちょっと辛いって思うくらいだと・・・」

同じように小声で答えてくれた。

「ふぅん・・・」

向こうの様子を見ると注文はそれに決まったようだ。

んじゃ、俺も決めちゃいましょう。


「ねね、お兄さん、俺もあっちの人と同じ物がいいな」


俺はあえて大きな声で注文した。


「同じ物ですか?」

「うん、"この店のオススメ"なんでしょう?あの"お兄さんたち"が"どうしても食べたい"って言うくらいの美味しい物だったら俺も食べたいなぁ」

そう言うと、俺はニヤリとお兄さんに笑って見せた。

「かなり辛いですが・・・大丈夫ですか?」

お兄さんが小声で念を押す。

俺の思惑に気がついてるみたいだ。

「大丈夫、平気だから持って来ちゃってよ。できればあっちと同じくらいにね。あ、主食も同じ物でいいよ」

「わかりました」

小声でやり取り。

お兄さんは、

「かしこまりました。お持ちいたしますのでしばらくお待ちください」

(歯が)まぶしい笑顔でそう言うと頭を下げ厨房へと入って行った。

愛のメモリーなウエイターもちらりと俺を見て笑顔を見せると立ち去った。

やっぱり真っ白な歯がまぶしいよ。


酔っ払いはニヤニヤしながらこっちを見てる。


「なぁ、そんなパーティーなんか辞めて俺たちのとこにこねぇか?」

サラに話しかけてきた。

「そこのちびっこいお嬢ちゃんも一緒でいいぞ、忌み色だけど可愛い顔してるじゃねぇか」

「体は貧相だが、何、俺たちに任せてくれりゃぁいい女にしてやるぜ?」

「おいおい、お前がヤったらあんなチビ、壊れちまうぞ?」

「脅すなよ。大丈夫だぜ嬢ちゃん、痛いのは最初だけだ。すぐに気持ちよくしてやるよ」

ゲラゲラと昼間から下品極まりない。

俺のこと女だと思ってるし。


――透流、こやつ等・・・排除しよう。なに、我なら一瞬だ――

モーリオンが苛立たしく言う。

ダメだよ、ここでそれやっちゃうとお店に迷惑かかるよ。

今は我慢我慢。

――・・・うむ、わかった――


俺たちが無視をして午後からの予定とかを話していたら、本格的に絡んでくるつもりなのか一人が腰を上げた。

それを察したセレンの眉間のしわが深くなり、サラの目が剣呑な光を帯び、ラウルは・・・いつもと変わらない。


・・・ねぇ、モーリオン。

――なんだ?――

俺さ、普通に怒らせて怖いのはサラだけど本当に怒らせて怖いのはセレンだと思ってたんだよね。

――うむ、我もそう感じてはいるが・・・――

でもさ、真に怒らせて怖いのって・・・ラウルかもしれないって今思った。

――・・・ほほう――

だってこんな場合、一番にキレそうじゃん、ラウル。

でも、今はいつもと変わらない感じがする。

――いつもと変わらないわけではない。旅の途中で雑魚魔物に出合った時に似た気は放っておるぞ。ラウルにとってあやつ等は雑魚と変わらないのだろう。実際、実力もラウルたちのほうが上だからな――

うん、確かに。

今持ってる武器が使い慣れた物じゃなく借り物の武器だってことを差し引いても実力差は開きまくったまま変わらず・・・ってとこ?

――そうだな――


実力差にも気づかない男は席を立ちこっちに近づいてきた。


なんかやだ。


このまま喧嘩とかになってご飯食べられなくなるの・・・嫌だ。


せっかくのカレーが食べられないのってほんと、最悪だよね。


喧嘩なんかしたくないなぁ・・・・・・


俺はテーブルに突っ伏して溜息を吐いた。



ほんと、迷惑だよこの酔っ払いザコ




もう1話、ごはんの話が続きます。


早く浩輔や朱里と合流させたいと思いながらも遅々としてすすまなーい!

ジャンル「恋愛」が泣いていると思います・・・


間違い等がございましたらご連絡くださいませ。



感想も、できたら欲しぃ・・・ホゲァッ(撲


そんな贅沢なんて言っちゃダメ!

贅沢は敵だって昔の人も言ってるよっ!


あぁ、バットを持った透流ちゃんが見える・・・(萌

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