第31話 お買い物に行こう!②
お買い物②です。
小さい店ながらもちょっとしたホームセンター並みの品揃えのこの店。
1軒で必用な物がほぼ揃いそうだ。
狭い店に所狭しと品物があふれ、宝探し気分で物色していたら・・・
俺は本当にお宝を見つけた。
この鍋って・・・ダッチオーブンだ!
おまけに蓋まで使えるタイプ!
中古なのかな・・・シーズニングばっちりで黒光りしてるぞラッキー!
欲しい・・・これ欲しい!超欲しい!
「サラ!この鍋欲しい!買っていい?」
「鍋?鍋なら今使ってる物があるでしょ?」
「今の鍋も使えるけどさ、これだったら蓋も利用できるからオーブン調理ができるんだ!」
「おーぶん?」
んと・・・
「天火だよ。上下から加熱できるからおいしい物いっぱい作れるんだ」
「トール、料理できるの?」
「料理というか・・・野外で作るものばかりなんだけどね。そこそこできるぞ。材料さえあればだけどね」
だから食料庫は必須なんだな。
「おいしい物が作れるのね?」
「うん、家族でキャンプする時、料理は俺が担当だったからばっちりだ。もちろんおやつ・・・甘い物だって作れるよ」
「買いましょう!是非とも買いましょう!」
甘い物と聞いてサラは一気に乗り気になった。
どこの世界でも女の子は甘い物が好きなんだな。
その他、ダッチオーブンで使える底網と厚い皮手袋もみつけた。
んふふ・・・
――透流、嬉しそうだな――
「嬉しい!使い慣れた物と似たものがあったんだぞ。これで旅の間も美味しいご飯が食べられるー!・・・あ、もちろん今まで食べた物だって美味しかったけどね」
――アイスとやらも作れるのか?――
いや、それはまた別で・・・って、モーリオン、アイス気に入ったの?
――うむ、アレは本当に美味しかった。透流も作れるのか?――
モーリオンは期待に満ちたキラキラした目で俺を見る。
どうしよう、もう、たまんないくらい可愛いよ!
思わずギューッと抱きしめる。
「アイスくらいいつだって作ってあげる!材料があればだけど!」
よし、アイスを作るための道具も揃えよう!
小鍋に木ベラに泡だて器もいるよね、あとボール。
ボールは2個買っておこう。
あと、他にもいるものは・・・
俺は店をくまなく探索。
"俺にとって"旅に必用なあれこれをカウンターに積み上げた。
「トール・・・多すぎじゃない?」
サラが呆れたように言う。
「充実した楽しい異世界ライフには必要なものばかりだ!」
「・・・持ちきれる?」
「もちろん!・・・レボにがんばってもらおう」
「レボ・・・災難ね」
サラは苦笑した。
でもさ、がんばってもらうのは、今日、これを持ち帰るまでだからね!
とりあえず、大きめの袋も買ったからこれを四次元化して入れればOK。
「あらあら、こんなにたくさん買っていただけるの?」
おばさんが戻ってきた。
「こちらのぬいぐるみも?」
「うん、一緒のパーティーの剣士にそっくりなんだ。髪の色が違うけどね」
「髪の色、変えましょうか?」
「できるの!?」
「えぇ、これはうちの娘が作ったものなの。お昼には帰ってくるから付け替えてもらえるわよ」
「是非ともお願いします!」
「これで完璧にラウルになるわね」
サラはクスクス笑う。
「何色にしたらいい?」
「「もちろん黒!」」
おばさんもクスクス笑い、
「じゃぁ、この子だけお預かりしますね。夕方にはできていますから取りに来てください」
茶髪のラウルを大事そうに取り置いてくれた。
その後、カバンや小箱の大きさとかデザインを細かく打ち合わせしていたら遠くで鐘の音が聞こえた。
「お昼の鐘だわ。打ち合わせが終わったら集合場所に行きましょう」
「うん、打ち合わせはもう殆ど終わってるよ。後はお金を払うだけ」
「了解、そっちは私が担当ね」
サラは俺にウインクすると、おばさんに向き直りニッコリ笑った。
「おやおや、お手柔らかにお願いしますよ」
おばさんもニッコリ笑顔で対応。
値切りバトル開始ってヤツ?
俺は邪魔にならないように1歩引いておこう。
おっと、
「この袋、先にもらっててもいい?」
できれば先に袋の中を広げておきたいんだよね。
「いいですよ」
おばさんはニッコリ笑うと快諾してくれた。
「ありがとうございます」
俺はぺこんと頭を下げると袋を持ち、表に出た。
レボは・・・あのまま裏にいるのかな?
店の裏に回ると、勝手口の前でレボがぐったり横たわっていた。
「レボ!?」
あわてて駆け寄ると、
――・・・と・・・透流様・・・――
レボはよろよろと体を起こす。
「大丈夫!?いったい何があったの!?」
レボがこんなに消耗してるなんて・・・・・・
おばさん・・・実は超強い冒険者!?
――透流様・・・採寸とは・・・・・・とても大変なものなのですね――
「へ?・・・採寸?それだけ?」
――もう、あちこち触られて測られて・・・くすぐったさで死ぬかと思いました・・・――
「くすぐったいって・・・死ぬって・・・・・・」
――もうこりごりです――
レボの声に泣きが入ってる。
見たかった!
レボがくすぐったさに悶えて耐えてるのを見たかった!
すっげー見たかった!
――透流・・・それは悪趣味だと思うが・・・――
「だって・・・このレボがさ、あのおばさんの手で瀕死になってるんだよ?くすぐったさで悶えて・・・あ、ダメだ・・・想像しただけで笑いが・・・」
――・・・・・・確かに・・・それは我も見たかったかもしれない・・・――
モーリオンの声も笑ってる。
――お2人とも・・・酷い・・・――
お座りして背中を向けるレボの肩ががっくりと下がってるように見えるのは俺の気のせいじゃないと思う。
さて、周りには誰もいないし・・・
「レボ、モーリオン、誰か来そうになったら教えてね」
サラの交渉が終わる前にさっさと済ませちゃおう。
まずはこの袋を結界に包んで、それから、袋の中を広げる術を展開。
広さは・・・・困ったどれくらいにしたらいいんだ?
ま、いいか、買い物袋だし適当に魔力を込めておこう。
それから、入れるものが大きくても大丈夫なように袋の口の部分の空間を捻じ曲げてー・・・
ほんと、普通にこんなことやってるけどありえないよねこんな魔術。
こうしたいなーって思うだけで術の構成が浮かんでくるからなんでこうなるのかなんてまったくわかんない。
今展開してるのだって、やりたいことは結界含めて3つなんだけど、実際はいろんな術が複雑に絡まりあってる。
一つづつ紐解けば理解できるんだろうけど・・・めっちゃ多いぞこれ。
見ただけでやる気が失せる。
面倒なことは嫌いだからこれはこういうもんだってことで納得しとこ。
「術はこれでいいかな・・・ッと、忘れるとこだった」
出すときに間違えて出さないように入れるときはフォルダを作って名前付けて入れるようにしなきゃ。
その術も上掛けで展開。
ついでに破れないように強化して・・・さすがに防御はいらないか。
「四次元買い物袋になぁ~れ!」
パァァァッッと結界内が光り、買い物袋の完成。
よし、これで買ったもの全部入れられるぞ。
店に戻ると交渉は佳境に入っていた。
「この鍋、どう見ても売れ残りだったわ。おまけに中古じゃない。出せても半分ね」
「そういうわけにも行きません。この鍋は使い込むことでさらに使い勝手がよくなる物です。ここまで育て上げるのにどれだけかかったことか。この値段が最低です、これ以上は無理」
俺のダッチオーブンの交渉だ。
これは・・・おばさんの言い分が実は正しかったりするんだよね。
「それじゃぁこの網と手袋をサービスでつけるって言うのはどう?」
サラもそこんとこはわかって交渉してるっぽいね。
「参ったわねぇ。いいでしょう、網と手袋、それからこの小鍋もつけるわ」
「ついでにこれもね」
サラはウインクして木ベラも付け足した。
おばさん苦笑してるよ。
何とか値切り交渉は終了。
満足そうなサラと苦笑を浮かべるおばさん。
この戦い、勝者はサラのようだ。
「お嬢さんには完敗よ。あなた、いい奥さんになれるわよ。綺麗だし、うちの息子の嫁に欲しいくらいだわ」
おばさんには娘さんと嫁さん募集中の息子さんがいるようです。
「久々の強敵だったわ・・・」
サラは清々しい笑顔を浮かべ出てもいない汗を拭ってる。
「おめでとう!流石はサラ!かっこいい!惚れたぜ!」
俺が拍手をして勝利を称えると、
「ありがとう!トールも可愛いわ!」
サラはガシッと俺を抱きしめてきた。
可愛いはいらない!
おまけに頭を抱きしめてるから顔が胸で圧迫されて苦しい!
「ふふふ、髪の毛さらさら気持ちいい~」
頭にキスとか頬ずりとかしなくていいから放してくださいサラ様!
ああっ、セレンもラウルもいないから誰も助けてくれないー!
・・・ダメだ・・・お花畑と綺麗な小川が見える・・・・・・
――透流!しっかりしろ!透流ぅぅぅぅぅぅッ!――
モーリオンが必死でサラを俺から引き剥がそうとするけどサラの腕の力は微塵も揺るがない。
モーリオン、短い間だったけど楽しかったよ・・・・・・
――透流っ!――
「お嬢さん、そろそろ放してあげないとその子死んじゃうわよ」
おばさんがコロコロ楽しそうに笑いサラから俺を救出してくれた。
「・・・・・・マジ、死ぬかと思った・・・綺麗な花畑と小川が見えたよ」
「ごめんごめん、つい抱き心地がよくて・・・」
――透流、大丈夫か?――
「うん、大丈夫だよモール」
でも、おっきいお胸は凶器だよ、気をつけよう。
それはそうと・・・
「俺たち、集合時間に遅れてるよね?」
「あ!すっかり忘れてたわ」
サラは急いで品物の代金を払った。
「ありがとうございます。坊ちゃんのご注文の品は1週間後にお渡しできると思いますよ」
「はい、残りの代金は品物と引き換えに支払います。宜しくお願い致します」
「人形は今日の夕方に渡せると思いますから一度お立ち寄りくださいね」
「はい、受け取りに来ますね」
俺はもう一度おばさんに頭を下げるとカウンターに積んである購入した品物を買い物袋に詰め込んだ。
全部すっかり入ったからおばさんもサラもびっくりしてる。
おまけに袋は殆ど膨らんでいない。
俺は全開の笑顔で笑ってごまかし、袋を持ち上げようとして・・・
「お・・・重い!」
しまった!
中身の重さを消す術を忘れてた!
ここで術をかけるわけにはいかないし・・・どうしよう。
「あれだけ入れたら重いに決まってるでしょう」
サラが呆れたように言う。
「あう・・・」
「仕方ないわね、私が持つわ」
そう言ってサラはひょいっと袋を持ち上げた。
「やっぱり重いわね」
ちょっと眉を顰めるけど・・・
「いやいやいやいや、片手でひょいって持ち上げてそれは無いと思います」
マジで重いよその袋。
「そんなのトールが非力なだけじゃない。さぁ、セレンとラウルが待ってるわ、早く行きましょう」
サラが怪力なんだと思う・・・って言いたいけど怖いからやめておこう。
俺はおばさんにぺこんと頭を下げて、サラを追って店を出た。
表で待っていたレボの背中に袋をちょっと乗せてみる。
「重い?」
――大丈夫ですよ。軽いものです――
軽く答えるレボに、
「無理してないよね?」
重ねて問う。
――まだまだ重くても平気ですよ。透流様とサラさんを乗せても大丈夫だと思います――
「俺たち2人が乗っても平気なの?」
――はい――
「なになに?私が乗っても大丈夫なの?」
――よろしければ集合場所までお乗りになりますか?――
「サラ、レボが乗ってくか?って聞いてるけど・・・どうする?」
「乗せてくれるの?」
――どうぞ――
「うん、どうぞって言ってる」
「嬉しい!一回乗ってみたかったの!レボ、ありがとね!」
サラはレボの首にギューッて抱きついた。
――うぐほ・・・っ!――
「サラ!サラ!首絞まってる!レボが死んじゃう!」
「あ、ごめんねー!つい嬉しくて・・・」
サラのヘッドロックは悪気が無いからマジ危険、不意打ちでくるからチョー危険!
「・・・とにかく、レボに乗って急いで集合場所に行こう」
「そうね、レボ、ありがとう」
サラはそう言ってレボの頭を1回撫でて背中に跨り、
「トール、いらっしゃい」
俺を呼んだんだけど・・・
そのポジションて・・・
「俺が前で抱っこされるの!?」
その扱い、俺のほうが女の子じゃないか!
「だって、そのほうが安定するでしょう?ほら、急いで!」
――透流、諦めろ――
モーリオンは苦笑しながら言う。
うん・・・いいよ、もう、どうでも・・・・・・
俺は溜息を吐くとサラの前に跨った。
「うふふ、トールのこのすっぽり感がちょうどいい感じ」
「サラ・・・俺を抱っこするんじゃなくてレボに掴まったほうがいいと思うよ」
もう、何も考えないことにした。
気にしたら何か色々失いそうな気がする。
専門用語・・・なのか?
わからない単語や品物の名前はぐぐってください、たぶんすぐにヒットすると思います。
買い物編、もうちょい続きます。
間違い等はご連絡くださいませ。