第28話 黒き魔女
久しぶりに更新できる><。
なんで?どして?
これって・・・母さん?
え?
なんで?
――透流、落ち着け――
モーリオンが俺の頬に擦り寄る。
あ、ごめん、吃驚しちゃって・・・
落ち着かなきゃね。
俺は1回深呼吸をして、
「えと、これは何ですか?」
その小さな肖像画を指差した。
「これはな、我が家に代々伝わる物だ。3000年前にこの街に工房ができた頃に初代が描いた物らしい。何でも、この娘が胸に抱いている剣の鞘を作った記念に描いた物で、この鞘は最高傑作だそうだ。この娘が誰かはわからんが・・・お前にそっくりだと思わないか?」
「本当ですね・・・トールにそっくりです」
「そっくりどころじゃないわよ、性別と髪の長さと目の色は違うけどあとはまったく同じ!本人て言ってもいいくらいよ」
「トール、お前17歳って・・・サバ読みすぎじゃないのか?ほんとの歳は3000歳以上で、もしかして噂の不老不死の魔女なんじゃ・・・」
その瞬間、俺はラウルの鳩尾に肘を入れていた。
腹筋固ぇ!
でも、不意打ちだったから決まった!
「ぐぇぇ・・・」
「ふんっ、俺は3000年も前から生きてねぇつーの。ホウキに乗って宅配もしねぇ!」
「酷ぇ、場を和ます冗談だったのに・・・」
「和んでないわ!」
――和むというか・・・場が凍ったように感じたが・・・――
ほえ?
確かに笑えるようなもんじゃなかったけど凍るほどでも・・・・・・
周りを見ると、確かに凍ってる。
なんでだ?
ラウルも首を傾げている。
「そうか・・・気がつかなかった・・・黒き魔女・・・」
ダグが肖像画を見て呆然と呟いた。
「あまりにも幼い娘だから気がつかなかった・・・そうか、この娘が黒き魔女か」
そして俺を見る。
「お前は黒き魔女か?それともその息子か?」
その目が真剣で俺は戸惑うしかない。
魔女か?と問われれば違うとはっきり答えられる。
でも・・・
息子か?と問われて違うとは・・・言えないような気がしないでもない。
だってさ、この子、俺の母さんにそっくりなんだもんなぁ。
――そんなに似ているのか?――
「似てるんだよなぁ・・・この子、マジで俺の母さんの若い頃だもんなぁ」
「トール?」
「でもさ、俺の母さん、普通の主婦だぞ。それも専業主婦。黒き魔女ってあれだろ?セレンが前に教えてくれたやつ。その美貌と色気で昔の王様誘惑して勇者だか救世主だかに倒されたとか何とか・・・」
「まぁ、黒き魔女は妖艶な美女の代名詞ではあるな」
ラウルが、
「男としては一度くらい遭遇してみたい三大美女の一人だ」
一人納得してそう言う。
「へぇ、そんなのがあるんだ。あとの二人は?」
「一人は1000年位前にいた魔法使いのリシェル、あと一人はその年代で変わるんだけど、今はヴィージンガー公爵夫人かな」
「・・・3人のうち2人が過去の人、1人は人妻・・・遭遇無理じゃん」
「そうなんだよなー・・・、あ、でも、黒き魔女はまだ生きてるって噂があるぞ。何せ、魔女だからな。会えるかもしれない」
そう言ってラウルは男くさくニヤリと笑った。
ラウルのくせに・・・
――・・・・・・透流、、話がずれているんだが・・・――
「コホン・・・」
俺は咳払いを一つして、
「その妖艶という言葉にかすりもしないのが俺の母さんなんだよね、どっちかって言うと可愛い系?この子って母さんの14歳くらいの時にそっくりなんだよね、母さんその頃はもう父さんに出会ってて父さん一筋だったみたいだし。うちの両親大恋愛の末に結婚したんだよね、もうさ年中ラブラブで地球温暖化の原因の一環じゃないかっていうくらいなんだわ、父さん以外の男はOut of眼中?俺の母さん他の男を誘惑する暇があったら父さんのお弁当の下拵えに時間をかけると思うんだよね」
息継ぎ1回で一気に話す。
ちょっと息を整えて、
「この世界と向こうの世界の時間軸がどうなってるかなんてわかんないからその絵の女の子が母さんじゃないとは言い切れない、ただ俺は母さんからそんな話しを1回も聞いたことが無いしそんな素振りを見たことだって1回もない。だからその絵の女の子の子供か?と聞かれたらわからないとしか答えられないけど黒き魔女の子供か?と聞かれたら俺は全力で否定するね、ありえないよそんなこと。それにさこの絵って当時に描かれた物なんでしょ?この子が黒き魔女だったら・・・王様ってロリコン?うっわーそれって最低じゃね?王様が変態って・・・そんな国やだよ」
再び息継ぎ2回で一気に話す。
「トール・・・」
「ん?なぁに?ラウル」
「お前の話し聞いてて息苦しくなった・・・頼むから普通に息継ぎして話してくれ」
ラウル、若干青褪めてる?
「それから・・・"ろりこん"てなんだ?」
首を傾げて聞いてくる。
「あー・・・んと、幼女趣味?いい年こいたおっさんが幼い女の子にはぁはぁすること」
「はぁはぁ?」
「んと・・・性的興奮の表記法?」
「ほほう・・・って、それって最低じゃねぇか、当時の王様酷いやつだな」
「うんうん・・・・・・あれ?黒き魔女が王様を誘惑したんだよね?」
「あー・・・そういやそうだったな」
「この子が黒き魔女だったと仮定したとして・・・誘惑ってできると思う?」
「うーん・・・俺は・・・こう、出るとこがしっかり出てるほうがいいけどなぁ。普通はそうだろう?」
「確かにね。まぁ、好みは人それぞれだろうけど。でもさ、俺、この子が誘惑したってのが解せないんだよね。母さんに似てるから余計にそう思うんだろうけど」
「わかるわかる、この絵がこの子の内面まで描き表してるとしたら誘惑はありえないだろうな。なんかおっとりした感じに見えないか?絶対無理だろ?」
「だよねー!・・・ってことはさ、誘惑したって言うのが間違いじゃね?王様がロリコンで襲ったって方が現実味あると思うんだよな」
「でもよ、当時の国王がどんなやつだったかってのもあるんじゃないか?」
「あ、そうか!超イケメンだったらこの子からモーションかけるのもありかも」
「言葉の意味はわからないけど、何が言いたいのかはなんとなくわかる。・・・なぁセレン、当時の国王ってどんなヤツだ?」
「国王、イケメン?」
俺とラウルが振り返ったら、
「あれ?みんなどうしたの?」
「ん?何かあったのか?」
3人とも固まってた。
――透流・・・話の展開にみんな付いて行けていないのだと思うのだが・・・――
あー・・・そういえば、若干シリアス展開だったよね。
すっかり忘れてた。
「えと・・・何話してたんだっけ?話それちゃった?・・・ごめんね?」
首を傾げて可愛く言ってみる。
これでごまかせるかな?
浩輔や朱里が相手ならばっちりなんだけど・・・
――確かに可愛いが・・・ごまかせるかどうかは微妙だな――
うーん、やばい?怒られる?
でもさ、よく考えると脱線したのってラウルの所為だよな?
「何だ、俺ちっとも悪く無いじゃん。謝って損した。話がそれたのラウルの所為だからラウルが怒られればいいと思うよ」
「いきなり何だよそれ!」
「だって、三大美女からだろ?話がそれちゃったの」
「・・・うっ、確かに・・・」
「やっぱりラウルの所為じゃん!」
「トールがそれに乗ってきたのもあるだろう!?トールにも責任はある!お互い様じゃないか!」
「えー、大本はラウルじゃん、俺は悪くないもーん」
「もーん・・・て、いや、まぁ、確かに俺かもしれないけどー・・・」
「うん、ラウルが悪い!」
などと話していたら、
「・・・もういい・・・」
ダグが深く溜息をついて呆れたように首を振った。
「お前に話を振った俺が一番悪いのかもしれん」
「いや、ダグは悪くないと思いますよ」
「そうね、ダグは悪くないわね。悪いのは、この二人が救いようもない阿呆だということだわ」
なんかみんな酷い!
俺は悪くないのに・・・
「ラウルの所為だぞ・・・」
「お前も係わってるだろう?連帯責任だ」
「あぅぅ・・・」
3人にジーッと半目で睨まれて、俺たちは、
「ごめんなさい・・・」
正座して謝るのだった。
「えと、それじゃぁ目の色を元に戻すね」
俺がそう言うと、
「色を変えるのは簡単にできるのか?」
ダグが興味深げに聞いてきた。
「うん、精霊に頼んで光の反射を変えてもらっただけだからね」
「精霊魔法か」
ダグがふむふむと頷いている。
俺は目を閉じ意識を集中して、
「解呪」
前から決めていた術を解く呪文というかキーワードを言う。
目蓋の裏で一瞬のスパーク。
ゆっくりと目を開けると、
「おお!」
ダグがなんだか嬉しそうに声をあげた。
「黒だ黒!そうか・・・黒い目というのはこんな色なんだな」
マジで嬉しそうだな、おい。
俺は珍獣か?
俺を見る目がそう言ってるぞ!
「ほう・・・意外とこれは・・・いいですねぇ」
セレンがニンマリ。
「あら・・・キラキラしてて綺麗じゃない」
サラはワクワク。
「おお!なんか余計に女の子っぽくなったぞ!」
ラウルは・・・チッ・・・
お前ら・・・
「いでーーーっ!」
とりあえず、ラウルの尻に蹴りを1発いれておこう。
「しかし・・・思ってたより黒目っていいな」
「そうですねぇ・・・何と言うか、神秘的で・・・」
「おい、そこのオヤジ二人・・・目つきがキモイ、こっち見んな」
「可愛らしさが増したわねー。青い目も綺麗だったけど黒と比べたらちょっと硬質な感じがしてたかも。本来の色だからかしら?黒のほうがいいわ」
「サラありがとう、可愛いってのはいらないけど」
「トール、お前俺に何気に酷くないか?」
「ラウルだからね」
「オヤジって・・・私はまだ28ですよ」
「俺だってまだ154歳だ!」
「あら、可愛いのはいいことよ、事実だし」
「トールはいじわるだ・・・・・・」
「28なのか。髪が薄いからもっと行ってると思ったよ。いや、ドワーフの年齢わかんないし。事実じゃない!それからラウル、これだけははっきり言っておくけど、いじわるじゃない、ただの愛情表現だ」
「やっぱりトールはいじわるだー!」
ラウルは放っておこう。
――透流、楽しそうだな――
・・・まぁね。
みんないい人ばかりだし。
モーリオンもなんだか嬉しそうだね。
――うむ、嬉しいぞ。久しぶりにお前の綺麗な目が見られたからな――
レボにも見せてあげたいな。
――そうだな、見たら喜ぶだろう――
でも、このまま外には行けないだろうなぁ。
「ダグ、ちょっといいかな?・・・あのさ、レボ、工房の中に入れてもいい?」
「れぼ?」
「うん、表で待ってもらってる狼。レボ、俺のこの目が好きなんだよね。またすぐに色を変えなきゃいけないだろうし・・・」
「目の色は変える必要ないぞ」
「へ?でも・・・」
黒い目は魔物が持つものじゃなかったっけ?
黒き魔女も黒髪黒目の双黒だし。
俺も双黒だってわかっちゃうとやばいんじゃないの!?
「その契約石があれば黒目であってもどうとでもごまかせる」
はい?
何ですと?
「なに、簡単なことだ。そのちっこいドラゴンと契約したら黒目になっちまったって言やぁいいんだよ」
ええぇ!?
そんな大雑把ことでOKなの!?
「あぁなるほど!契約石を持つものは稀少ですからね。ましてやトールは魔獣2体と精霊7種との契約者です。まぁ、魔法はちょっとアレですが・・・稀少中の稀少ですからね」
アレな魔法しか使えなくて悪かったな。
てか、稀少って・・・俺、稀少生物?
「何!?お前・・・高位精霊全種と契約してるのか!?・・・稀少ってレベルじゃないぞ・・・」
稀少のレベル超え・・・絶滅危惧種?
「そうなのよね、よく考えてみたらトールって規格外というか・・・」
規格外・・・不良品か?商品価値が無いのか!?
「そんなもん、軽く踏み越えて遥か彼方に行っちゃってないか?」
人外魔境まで行っちゃってるといいたいのか!?
それならむしろ"行く"じゃなくて"逝く"だろう?
「そうね、そうよね、踏み越えるどころか蹴飛ばしちゃってるものね」
なんという傍若無人!
俺って俺様!?
「ここまでの契約者となると・・・国で保護されるぞ。下手すりゃ国家間の政治的取引に利用されるかもしれん」
「そうですね・・・私たちで保護しなければ・・・」
ワシントン条約ですか!?
「トールが契約石を持ってることは隠さなきゃいけないわね」
「そうだな、身分が保証されても身柄の安全が確保できなけば本末転倒だ」
要人警護ですか!?
――透流、混乱するな。思考が滅茶苦茶だ――
だってこいつら言いたい放題だぞ。
俺、普通の男子高校生なのに!
みんないい人だって思ってたのに!
酷い!
俺、泣いちゃうぞ!
――・・・透流、類は友を呼ぶという言葉を知っているか?――
うん、知ってる・・・・・・って、類友ですか!?
今のこの状況の根本は類友なんですか!?
――この、会話が一旦ずれると際限なくずれて行くところは先程のお前とラウルの会話と似ていると思うのだが?――
あぅ・・・否定できないところが辛い・・・
モーリオンはくすくす笑う。
――お前と共にいるのがこやつらで良かったと我は思う――
・・・うん。
――"みんないい人"だな――
うん。
みんないい人だ。
――お前はいい子だな――
"子"って言うな。
――いい子だよ、透流。お前は本当にいい子だ――
モーリオンは優しく言う。
俺はモーリオンを抱き直し頬擦りした。
モーリオンもいい人・・・いいドラゴンだ。
モーリオンの声を聞くと安心できる。
包まれてる感じがする。
モーリオン、大好き。
すっごく好き。
好きすぎて時々泣きそうになる。
ほんとに大好きなんだよ、モーリオン。
――うむ、知っている――
モーリオンは?
俺のこと好き?
――あぁ、もちろんだ。透流、愛しているよ――
うん、俺も愛してる!
モーリオンと俺がギューッて抱き合ってたら、
「トール、決まりました」
セレンがまじめな顔をして俺を見た。
「トールは現状維持です。契約石を隠し、目の色も今までどおりに変えて安全第一に行くことにしましょう」
「契約者ってわかると危ないものね」
「俺たちが傍にいるときなら守れるけど、一人のときに襲われたらトールじゃ戦えないからな」
「聞いたんだが・・・攻撃魔法が壊滅的に使えないんだって?こんな細っこい腕じゃ剣を持って戦うなんてのも無理だ。おとなしく契約石は隠してこいつらに守られてたほうがいいぞ」
俺の知らない間に何か色々決まったみたいだ・・・
俺の意思が入る余地はまったく無いんですね、わかります。
「とりあえず!目の色戻す前にレボに見せる!工房の中に入れていいよね?!」
一応了解求めるようには言ってるけど、視線で絶対入れろ!とダグを睨む。
ダグは苦笑して、
「連れてこよう」
部屋を出て行った。
レボと一頻りじゃれていたら、
「トール、さっき渡した髪飾り、つくり直すから返してくれ」
ラウルたちの体のサイズを自ら測っているダグが手を休めないまま話しかけてきた。
「作り直すの?」
「あぁ、契約石を隠せるようにしようと思っている」
「それはいいですね。今までは他人に会うことも少なかったけれど、これからは人に会う機会が増えるでしょうし、隠しておけるのならそれがいいと思います」
セレンが頷く。
「それから、お前がさっき俺に渡した石の入った袋、ちょっと見せてみろ」
「これ?」
「そう、それだ」
ダグは袋を受け取ると、中身をテーブルに広げて検分。
「ほほう、良い物があるじゃねぇか。殆どが魔宝石だな。こんなにどうしたんだ?」
「ん~・・・モールを討伐に来て返り討ちにあった冒険者からもらった」
そう言うと、
「討伐?」
ダグが不思議そうに聞き返してきた。
「こんなちっこいドラゴンを?」
――こんなとは何だ!こんなとは!――
モーリオンご立腹。
「今は小さいけど、モールは黒竜の森のドラゴンなんだ」
モーリオンを撫でてなだめつつダグに教える。
俺の答えにダグが何か固まったように思えるけど、ま、いいか。
「モールはね、すっげー強くてかっこいいんだぞ!それに綺麗で優しくて、可愛いんだ!もぅ大好き!」
モーリオンをギューッと抱きしめると
――我も可愛い透流が好きだぞ――
モーリオンがチュッと口角のとこにキスしてくれた。
どうせならちゃんと唇にキスしてくれればいいのに!
いいもん、俺からしちゃうから!
意気込んでモーリオンにキスしようとしたら反対にモーリオンから唇にキスしてくれた。
うひゃぁ!
よく考えたらこれがモーリオンとの唇への初チューだ!
はずかしー!
でも嬉しー!
「相思相愛だよね俺たち!あぁもう幸せーーッ!」
と、幸せを噛み締めてたら、
「お前らは・・・・・・」
ダグは盛大な溜息とともに思いっきり脱力していた。
あ、初チューを人前でやっちゃった!
でも、軽いバードキスだからいいよね?
そのうちフレンチキスくらいしたいよなーって思う俺って・・・いいもん、健全な青少年なら好きな相手と熱~いキスがしたいって思うのは当たり前だもん!
・・・ドラゴン相手にできるのかどうかはこの際おいておこう。
考えない、考えない!
その後、吹っ切れたような清々しい表情のダグと色々話し合い、俺がもっていた魔宝石(普通の宝石込み)をダグに預けることになった。
その中の風属性の魔宝石1個と、無属性のわずかながら魔力の底上げができる魔宝石1個を、元々セレンが杖に付けていた火属性の魔宝石と一緒にセレンの杖に付けることした。
「これで魔法攻撃の強化ができます」
セレンはとても喜んでくれた。
ラウルとサラは、元々魔力が殆ど無いこともあり、また、二人とも武器に属性を持たせるのを嫌ったため何も付けないことにした。
「下手に属性があるとそれと反対の属性を持つ魔物に当たった時に拙いのよね」
「光や闇の属性ならまだマシなんだけどな」
あいにく光属性と闇属性の魔宝石はなかった。
「なぁ、本当に残り全部もらってもいいのか?」
ダグが申し訳なさそうに聞いてきた。
「俺が持ってても仕方がないし・・・ダグなら仕事とかで使えるでしょう?使っちゃってよ。その方が魔宝石も喜ぶと思うし」
そう、俺が持ってても文字通りの宝の持ち腐れになっちゃうんだよね。
「全部使っちゃっていいよ」
「すまんな、ありがとう。その代わり、こいつらの武器は任せてくれ。今できる範囲内にはなるが、できるだけ良い物を作ろうと考えている」
「ダグ、ありがとう。でも、無理しないでね?」
「子供が気にするな」
「・・・俺、17歳だからここの基準からしたらもう大人なんだけどな」
そう、この世界では15歳になったら成人だ。
親の許可なしに結婚だってできるらしい。
生活環境からなのか・・・精神年齢が元の世界よりも高いってのもあるのかな?
「年は17だけど、見た目も中身もまだ子供じゃないか」
ラウルが笑ってそんなことを言うから・・・
「そんなこと言うけど、ラウルなんか26歳なのに中身は10代前半じゃないか!」
そう言って手を伸ばすと、思いっきりいっぱい髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜてやった。
「こら!痛い!痛いって!」
ラウルのただでさえあちこち跳ね気味の髪がさらにくしゃくしゃになってちょっと満足。
「私たちから見たらお互い様。どっちも子供だわ」
サラが呆れたように言い、締めてくれた。
ラウルと同じ・・・う~ん、何か微妙な気分。
みんなの採寸と細かな打ち合わせが終わり工房を出ると太陽はすっかり傾いていた。
「結構時間がかかってしまいましたね」
「今日はもう他の買い物はできないわね」
「急ぐわけでもないからまた明日買い物しようよ。俺、お腹すいた」
「では、宿に帰りましょう」
「そうだな、久しぶりにしっかり体も洗いたいし・・・」
「・・・ほぇ?体を洗う?」
「部屋にね、熱いお湯で体を洗える小部屋が付いてるのよ。うちのパーティーはセレンがいるから使えるの」
「すげー気持ちいいぞ。水が豊富なこの土地ならではの設備だよな。うちにはセレンがいるから熱い湯で使えるけど普通は水のままなんだぜ」
「火の魔法を蓄える魔宝石が付いていましてね、その熱を利用してお湯を雨のように体に降り注ぐことができるんです」
それって・・・もしかしてシャワー!?
「帰ろう!今すぐ帰ろう!俺、体洗いたい!」
ひゃっほー!
久しぶりのシャワーだ!
ちょー嬉しいかも!
――透流、"しゃわー"とは何だ?お湯の雨?――
ここのシステムがどうなってるかはわかんないけど、たぶんきっとすっごく気持ちいいものだよ。
モーリオンも気に入ると思う!
――そうか、楽しみだな――
うんうん、一緒に入ろうな!
――うむ――
楽しみだよねー。
俺はモーリオンを抱きしめながら考える。
サラにもらった石鹸がまだ残ってたよね、それでモーリオンを洗うとアワアワになるよね、アワアワモーリオン・・・可愛いかもしれない!
「モーリオン、洗ったげるからね!」
俺は振り返り、
「みんな、早く帰ろう!」
3人を急かすと、うきうきしながら帰宿を急ぐのだった。
そして・・・・・・
"もしかしてシャワー"は"なんちゃってシャワー"で、俺は十分堪能できたんだけど・・・
――なんだこれは!?熱いぞ!?――
水浴びしかしたことがなかったモーリオンは熱い湯がちょっと苦手らしい。
――そうか、透流はこれが気持ちいいのか。ならば我も好きになれるよう努力するぞ。また一緒に入りたいからな――
うはっ!
俺って愛されてるなぁ。
「モーリオンありがとう。大好き!」
まだ半分泡が残るモーリオンを抱きしめ、チュッと音を立ててモーリオンにキスをした。
2回目のキスは残ってた泡が唇に付いてちょっと苦かった。
黒き魔女についてあれこれ・・・
ちなみに・・・
フレンチキスを誤解してる人が多いと思うんだけど、フレンチキス=ディープキスですよー。
軽いキスって意味じゃないんですよー。
ベロチューですよー。
やっと、モーリオンと透流がチューしたよ。
このタイミングでするのかお前ら!?
いや、させたのはうちやけどね・・・
間違い等がございましたらご連絡ください。