第22話 使えない子と残念な人たち
残酷描写があります、ご注意を。
「俺は言ったからには実行する!男に二言は無い!」
ラウルはちょっと涙目になりつつやけっぱち感丸出しでそう宣言した。
いや、ラウル、無理しなくてもいいって。
――透流、思ったことや考えていることはちゃんと口に出さないと人間には伝わらないぞ・・・――
ごめん、念話になれてたからうっかり聞こえてるもんだと思ってた・・・
☆
「あの・・・ラウル?」
俺はおずおずと切り出した。
「無理しなくていいよ?」
ちゃんと声に出さなきゃね。
「トール・・・」
ラウルはまた俺の頭をぐしゃぐしゃにする。
「痛いよ」
「あぁ、ごめん、つい手触りが気持ちよくて。髪がさらさらで頭の形も綺麗に丸いから、こう、掌になじむ感じが・・・」
「あら、そうなの?」
「どれどれ・・・」
二人まで撫でに来るし!
「ほんとだ、気持ちいい」
「ラウルとはまた違った手触りで・・・気持ちいいですね」
「いや、だから痛いんだって・・・」
もみくちゃにされる俺の頭。
俺、櫛とか持ってないんだぞ!
3人の手を跳ね除けようとした時、
「「「痛い!」」」
モーリオンが俺の頭に乗って3人の手に噛み付いた。
――透流に触れるな人間!嫌がっておろう!――
翼で頭を覆うようにして威嚇。
うん、モーリオンありがとう。
気持ちはすごく嬉しいよ。
だけど・・・
「モール!爪立てないで!痛い!」
マジ痛いんだって!
――す、すまない!――
あわててばたばたするモーリオン・・・可愛い。
と思ったのは俺だけじゃなくて、
「ちょ!やだ!可愛い!小さいのに一生懸命守ろうとして!何この独占欲っての?主人を守るんだーってのが可愛い!怒られてあわててるのがまた可愛い!」
サラのつぼにはまったらしい。
俺の頭からガシッと鷲づかみでモーリオンを引っぺがすとその豊かな胸にむぎゅーーーーっ!って抱きしめた。
うん、ちょっと気持ちよさそうでうらやましい。
とっさのことで反応できなかったモーリオンがジタバタするけどそこはほら、男顔負けに槍ぶん回し、岩とか片手で投げちゃう人だし・・・
「ああん、このひんやり感がまた気持ちいい!」
あ、谷間に頭がぎゅ―って・・・
よかったね、モーリオン。
「ねぇ、知ってる?豊かなお胸には男の夢と情熱と希望が詰まってるんだよ」
「ほほう」
「うまいこと言うなぁ・・・」
「よかったね、モール」
――我は透流の胸のほうが好きだ!――
思わず俺は自分の胸を見た。
「俺の胸?・・・えと、モールは貧乳派なのかな?うん、ラウルと一緒だね!」
「いや、俺は貧乳派というわけじゃなくて!・・・って、なんでトールの胸!?」
「あら、そうなの?残念ね、モール」
サラの腕の力が緩んだ隙にモーリオンは逃げ出して俺の胸にしがみついた。
「男の子に負けちゃったー」
「勝っちゃったー」
――・・・もういい・・・――
俺の胸にギューッてしがみつく。
「あらら、モール泣いちゃった?」
「微妙にシクシクしてる感じ」
――泣いておらぬわ!――
「泣いてないって言ってる」
「男の子ねー」
「ねー」
――"子"ではない!―
"子"って言われる悲しみを味わうがいい!
――・・・透流、根に持っていたのだな・・・――
俺って意外としつこいよ?
モーリオンに限ってだけど!
☆
何かもう、ぐだぐだのうちにラウルたちに同行することになってた。
「レボやモールがいくら強かろうと、子供の一人旅はダメだ!」
と、セレンが言い張っちゃったんだよね。
もう、子供扱いに反論する気もおきないよ。
おまけに、
「トールを立派な冒険者に育てる!」
なんてラウルが無駄に燃えまくってて。
いや、育てていらないんだけど・・・
「トール、もうね、色々諦めたほうがいいよ」
サラが面白そうに慰めてくれた。
モーリオンもレボも笑うだけだし・・・
――こやつらと一緒に行動したほうがお前の負担も減るであろう?――
――透流様も楽しそうではありませんか――
「二人とも反対するかと思ってた」
――うむ、はじめはどうかと思ってはいたが・・・こやつらとお前が楽しそうに会話をしているのを見て気が変わった。我らと共にいるときとはまた違った顔を見せるのが可愛くてな――
――そうですね。とてもお可愛らしい――
「可愛いって・・・」
もういいよ・・・・・・
一緒に行動し始めてすぐにわかった。
この3人は旅慣れてる。
それに、半端なく強い。
何回か魔物の襲撃を受けたけど、相当の群れで来なきゃレボの出る幕が無い。
リザードマンのときは相手の数が多すぎたんだ。
今はイノシシに似た感じの魔物と戦ってる。
イノシシなのに二足歩行ってあり?
肉は食えないらしい。
「すごいね」
――そうだな――
――おかげで私は楽ができます――
ラウルが長剣で切り込む。
スピードを活かした戦い方だ。
鍛え上げられたというような体つきじゃない。
実用的な筋肉のつき方だ。
たぶん、剣士にしては軽量級なんだと思う。
確実に急所に剣を当てている。
一体一体確実に仕留め、それが倒れる前に次の獲物に向かう。
なんていうのかな、無骨な剣捌きなんだけど思わず見惚れちゃう感じだ。
無意識に目で追うんだよね。
あ、何もないとこで転びそうになった。
ドジッ子属性?
サラは見かけによらず力押しだ。
誘い込み、一気に薙ぎ払う。
穂先が長めの槍を使ってるからかな。
薙ぎ払った後、仕留め損なったやつを刺突で仕留めていく。
背後の敵は石突きを使い倒す。
ちゃんと訓練受けてたのかな、動きに無駄が無い。
片手で振り回すのは流石だよな。
でも、せっかく可愛いんだからさ・・・
とどめさした時のニンマリ笑顔と、倒した後のドヤ顔はやめたほうがいいかも。
セレンはもう、すごいとしか言いようがない。
足止めをして範囲魔法を叩き込む。
それはね、いいんだ。
魔法使いだからね。
でもさ・・・・・・
魔法使いなのに敵に突っ込むって何事?
ゲームの中だけかと思ったよ、殴り魔。
魔法は最初の1発で、後は杖を使って殴る殴る殴る。
離れた敵にはナイフを投げてるし!
それにあの超笑顔が超怖いんですけど!
杖についてるのって・・・体液!?肉片!?
セレン、職業間違えてる気がするよ・・・
すごいパーティーなんだけど、微妙に残念な気がするのは俺の気のせいだと思いたい。
「よし、終了!」
魔物を殲滅し、ラウルが爽やかに笑う。
魔物の血塗れだけど。
サラが魔物の死骸を蹴飛ばしたり槍で跳ね飛ばしたりして一箇所に集めてる。
今回の魔物、血の色が赤だったからなんかもう壮絶。
ここまで来ると・・・怖いとか気持ち悪いとか超えちゃってるんだよな。
まだ自分で魔物とか殺してないから他人事に感じるのかもしれないけれど。
死骸が無造作に積まれてるのを冷めた目で見てる自分がちょっと嫌かも。
この後セレンがこれを燃やすんだよね。
――魔物の死骸は穢れだ。野晒しにするものではない――
――穢れは死霊を集めます。透流様はお嫌いでしょう?――
うっ・・・
嫌いです・・・・・・
「セレン!」
「トール、どうしました?」
「俺に燃やさせて!」
「トールが?」
「うん、俺がやりたい」
セレンは俺の頭を撫でて、
「いいですよ、やって見せてください」
優しく言うんだけど・・・
「セレン・・・俺、ガキじゃないぞ」
「あー・・・なんというか、小さいもので・・・」
う・・・っ、気にしてることを・・・
俺の周りって、なんででかいヤツばかりなんだろう。
でもまだ成長期だよな!
伸びるはず!
・・・母さんに似なければだけど・・・・・・
――透流は母親似なのか?――
「うん、俺、母さんにそっくりなんだ」
「ほほう、トールは母親似なのですか」
「父さんに似てれば身長ももっと高くなっただろうし、顔とかもイケメンになってたんだけどね」
「いけめん?」
「いい男って意味」
――透流は可愛いぞ――
男が可愛くてもなぁ・・・
俺が溜息をつくとセレンがまた頭を撫でた。
うー・・・諦めよう。
「・・・何をしてるの?」
サラが来た。
「トールの頭を撫でている」
「見たままじゃない」
「集め終わったのか?」
「ラウルが引っ張ってるので終わりよ」
「よし、トール、出番だぞ」
セレンがぽんぽんと軽く頭を叩き手を離す。
「あら、トールがやるの?」
「うん」
「精霊魔法を使うのね」
「あー・・・うん、そうなるかな」
でもさ、魔術の精度、上げたいんだよね。
「よし、やるか!」
「がんばれー」
「がんばれよ」
「おー」
二人に応援されてラウルのところに向かう。
――魔術を使うのか?――
モーリオンが俺の肩に乗った。
「うん、練習したほうがいいでしょ?」
――うむ・・・――
「大丈夫、考えがあるんだ」
――無茶だけはするな――
「うん、ありがと」
モーリオンの頭を撫でる。
目を細めて気持ちよさそうにするのが可愛いんだよな。
ラウルの傍に行くと笑顔で迎えてくれた。
血塗れで血がこびりついた長剣を持ったままだから、まるでスプラッタ映画の殺人鬼状態だけど。
「トール?どうした?」
「これ、俺が燃やすんだ。セレンに代わってもらった」
「トールにできるのか?・・・あぁ、精霊魔法か」
「んー・・・ちょっと違う」
「ん?違うのか?」
「うん、ちょっと離れててね」
「おう、よくわからんが、がんばれよ」
「がんばるー」
ラウルが離れたのを確認して俺は術を展開する。
まずは、この死骸の山を結界で包んで・・・
――なるほど、結界内で燃やすのだな――
「うん、こうしたら余分な魔力が漏れないでしょ?」
――うむ、考えたな――
術の展開はそこそこ速くできるから攻撃にも応用できると思うんだ。
それから、重ねてもう1個、術を展開。
これを燃やすだけだから魔力はそんなに強くなくてもいいよね。
ほんのちょっとだけ・・・ほんのちょっとだけ・・・
う~ん・・・これが呪文ってのが何か悲しい。
いろいろと悲しい。
結界内に魔力が満ちる。
――・・・透流!強すぎる!――
「え?」
気を抜いた瞬間、
カッ!
結界内が白く輝いた。
それは一瞬のことで・・・
光が消えると、そこには死骸の山だけじゃなく、結界で包まれてた部分の地面もえぐれて消えていた。
「あ・・・」
ヤバ・・・やっちゃった。
モーリオンが首を振り、深く溜息をついた。
「えと・・・」
修復修復~
術を展開して地面を修復。
巻き戻すように修復されていく地面。
魔術って便利だね!
修復を終えて振り返ると、ラウルたち3人が呆然とこっちを見ていた。
あ・・・あれ?
何かまずかったかな・・・?
とりあえず、笑ってごまかそう。
俺は3人に向かって、
「ちょっとやりすぎちゃったみたいー」
と、思いっきりにっこり笑った。
何か気まずい・・・
笑ってごまかすの、通用しなかったみたい。
3人がじーーーって俺を見てる。
「えと・・・どうしよう・・・?」
――自業自得というんですよね、この状況を――
レボ、何か冷たい・・・
――そうだな、もしくは自縄自縛とも言う――
モーリオンも冷たい。
でも、なんで二人とも四文字熟語知ってるんだろう?
――先日透流様が使っておいででした――
あうぅ・・・
俺が頭を抱えてしゃがみ込んでいたら、
「トール、今のは何ですか?」
セレンが俺の前に立った。
思わず息を呑む。
逆光で見下ろされるの・・・怖い・・・
無意識に、体がガクガク震えだした。
「あ・・・あ・・・・・・」
怖い・・・怖い・・・怖い・・・ッ!
「や・・・やだ・・・くるな・・・っこないで!」
逆光の中、きらめく剣の幻影。
腹部の痛み。
フラッシュバックだった。
冷たくなっていく手足。
俺はうずくまり必死で呼吸しようとしたけど、うまくいかない。
――透流!――
――透流様!――
助けて・・・ッ!
モーリオンとレボが俺を呼ぶ声にすがる。
駆け寄る足音、抱き起こす手を感じる。
「トール!どうした!しっかりしろ!」
セレンの焦ったような声。
「「トール!」」
ラウルとサラの声。
助けてくれと叫ぼうとしたけど声が出ない。
それ以前に呼吸がままならない。
ヒューヒューと鳴る呼吸。
苦しい・・・
ヒュク・・・ッ
喉が震えて。
意識がブラックアウトした。
眠くて限界。
シリアスっぽく終わっちゃったので続き早く書きたいです。
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