第21話 冒険者
過保護な保護者は速攻型ですが・・・
「うわー!モーリオン!レボ!精霊さんもダメー!」
俺は右手でブレスを放ちかけたモーリオンの口を掴み、左腕で飛びかかろうとしたレボの首にしがみつき、精霊をまとめて結界に閉じ込めた。
「むやみやたらと攻撃しなーーーーい!攻撃したら口利いてあげないからね!」
☆
俺たちは全員(3人の人間含む)でとりあえず座れそうなところに落ち着いた。
精霊は俺の周りでふわふわ浮き、レボは俺の横でお座りしつつ槍使いの女の人をにらみつけ、モーリオンは俺に抱かれてしゃっくりをついている。
ブレスを途中で止められたからしゃっくり出ちゃったらしいけど・・・可愛い。
「えと、ごめんなさい」
剣士と魔法使いは苦笑を浮かべてて、槍使いはなんか怒ってる。
とりあえず、謝っておこう。
――謝る必要などない――
しゃっくりついてても念話はぶれないんだね。
――そうです!この女・・・透流様に手を上げたんですよ!――
――主ハ悪クナイ。悪イノコノ女――
「いやいやいや、悪いのは俺なんだって。・・・たぶん」
うん、何で殴られたかはよくわかんないけど、たぶん俺が悪いんだと思う。
「いや、君の仲間が怒るのも無理ないよ。助けてくれた恩人に手を上げたほうが悪い。すまなかったね」
魔法使いが穏やかに微笑みながら頭を下げた。
「まったくだ。悪かったな。ほら、サラも謝れ」
剣士が眉を下げたちょっとなさけない顔で笑い頭を下げ、隣に座る槍使いを見る。
「殴ったことは謝るわ、ごめんなさい」
サラと呼ばれた槍使いも頭を下げた。
「いや、俺もよくわかんないけど何かしちゃったんだと思う。すみません」
「何かって・・・もういいわ」
深く溜息をつくと、
「私はサラよ。助けてくれてありがとう。殴っちゃってごめんなさいね」
にっこり笑った。
金茶のベリーショートの髪にネコっぽい目のキュート系美人のにっこりの威力はすごいです。
ちょっとドキドキしちゃった。
モーリオンがチラッと俺を見る。
俺は笑ってモーリオンの頭を撫でた。
「俺はラウルだ。助けてくれてありがとう。それから、かっこいいって言ってくれてありがとな」
剣士もにっこり笑う。
笑うと何か子供っぽくなるんだ。
青い目がキラキラしてて、好青年って感じ。
「私はセレン。火と風の魔法使いだ。助けてくれて感謝してる」
魔法使いは本当に穏やかに笑う。
やわらかそうな短い金髪に垂れ気味の青い目がすごく優しそう。
額がちょっと後退してるのが残念かも。
「えと、俺は透流といいます。このドラゴンは・・・」
お、しゃっくり止まったみたいだね。
――うむ。・・・透流、真名は教えるな。お前以外には呼ばれたくない――
ん、わかった。
「このドラゴンは・・・モール、こっちの狼はレボ、それから精霊さんたち」
「君は・・・魔獣使い?精霊師?」
「ほえ?」
「職業はどっちかなと・・・おや?」
魔法使いのセレンが不思議そうに俺を見る。
「君は冒険者ではないんだね」
冒険者きたこれ!
異世界ファンタジー!
「俺、旅に出たばかりで・・・皆さんは冒険者?」
「えぇ、そうよ。これが冒険者の証」
サラが銀色の腕輪を見せてくれた。
他の二人もそれぞれつけている。
あぁ、なるほど、腕輪をつけてないから冒険者じゃないってわかったんだ。
「君はどこの出身だい?」
セレンが俺をじっと見る。
え?俺って不審者?
「え・・・えと」
戸惑っていたら、
「あぁ、すまない。君のような小さな子が魔獣と精霊を連れているのがちょっと不思議だったからつい・・・」
セレンは申し訳なさそうに笑った。
「セレンは好奇心が強いのよね」
「探究心と言ってくれ」
「じっと見られると子供は怯えるぞ」
小さな子って・・・俺、何歳に見えるんだろう。
「えと、俺、ずっと森で暮らしてたから・・・」
うん、嘘は言ってない。
異世界に来てからずっと森にいたもんね。
それを聞くと、ラウルは納得したように頷いた。
「あぁ、辺境の方が忌み色に対する拒絶が強いからな。人里を出て森で暮らしていたのか」
拒絶・・・
村でのことを思い出して思わず震えた。
それに気がついたラウルは俺の頭をクシャッて撫でてくれた。
レボもモーリオンも精霊も、俺を慰めるように擦り寄ってくれる。
「君は、精霊に愛されてる子なんだね」
セレンが優しく笑う。
優しくされてすごく嬉しい・・・けど、"子"って・・・
「俺、17歳なんっすけど・・・」
「「「え?17歳!?」」」
「・・・何歳に見えたんだよ」
「あー・・・14歳?」
ラウル。
「12歳」
サラ。
「10歳」
セレン。
俺は思いっきり脱力した。
ここまで子供に見られると怒る気力も出ねぇよ・・・・・・
閑話休題。
「ラウルさんは・・・」
「ラウルでいい」
「はい。ラウルは髪を見せてても平気なんですか?平気なのは冒険者だから?」
「そうだな。忌み色は忌避されるが冒険者になれば風当たりは一気に弱くなる」
そうなんだ!
「俺でも冒険者になれるかな?」
そうしたら、もうあんな理不尽な目にあわなくてすむし、モーリオンやレボが暴走することもなくなる!
なれるものなら今すぐなりたい!
「冒険者になるためには冒険者ギルドに登録する必要があるんだ」
「詳しく教えてください!」
説明してくれそうなセレンの言葉に俺は食いついた。
「い・・・いいけど・・・」
その剣幕にセレンが戸惑う。
戸惑いながらも説明しようと口を開いた時、
「その前に、汚れ落としちゃわない?体液とか乾いてきてごわごわするし・・・臭い!」
サラが顔をしかめながらそう言った。
・・・確かに、3人とレボの姿はちょっとあれだ・・・スプラッタ映画?
体液が赤じゃないだけましなのかも。
この世界のリザードマンの体液は腐った沼みたいな青緑色をしていた。
それに・・・うん、臭いんだよな。
生臭いというか腐り臭いというか・・・
落ち着いてきたら気になるね、やっぱり。
☆
3人と1匹は川で汚れを落とすことにした。
サラから石鹸を渡されたときはびっくりした。
この世界にも石鹸てあるんだね。
泡立ちとか匂いとかあまりよくないんだけど無いよりはまし!
「レボ、洗ってあげるね」
――透流様、私は浸かるだけで・・・――
「ダメ!ちゃんと洗おうよ。俺、汚れて臭いレボに触りたくないぞ!」
――・・・それは困ります、綺麗に洗ってください――
「わかればよろしい!」
ついでに俺も水浴びしちゃおう。
「モーリ・・・モールはどうする?」
まだちょっと言い慣れないなぁ。
「一緒に浴びる?」
――うむ、我も仲間に加わろう――
モーリオンは楽しそうにそういうとレボに付いてパチャパチャ川に入って行った。
あぁうぅ・・・可愛い。
さっさと脱いで体洗っちゃおう。
あぁ・・・風呂に入りたいよなぁ。
日本人はお風呂民族だ!
マントを脱いで広げると、手早く制服を脱いでたたむ。
この世界の服を早く手に入れなきゃな。
パンツもこれ1枚じゃ悲しすぎる。
この世界にパンツがあるかどうかわかんないけど・・・
などと考えつつタオル代わりのTシャツを持って振り返り、フリーズ。
「トール?どうかした?」
目の前にたわわな白桃が・・・・・・
カァァァァッッと顔が熱くなる。
「どうしたの?あぁ、そうか、大丈夫よ!今は小さくてももう少し成長すれば今よりはたぶん少しは大きくなるはずだからね」
サ・・・サラさん・・・っ!
「それにね・・・ここだけの話だけどね、ラウル、ペッタンコのほうが好きみたいなのよねー。私くらいあると手に余るとか何とか言っちゃって・・・」
な・・・んで・・・
「トールは可愛いしラウルの好み・・・トール?どうしたの?」
なんで・・・
「何で平気で全裸さらしてるのぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「え?女同士で恥ずかしいも何も無いでしょう?」
「俺は男だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あら!?・・・ほんと、付いてる」
「「なにぃ!?」」
俺の男宣言にサラはちょっと驚いて、俺はあわてて前を隠して、ラウルとセレンが岩の向こうからこっちを覗いた。
「こっち見んなゴルァァァァァァッ!」
ドゴォォォォーーーンッ!
サラが大岩を二人に投げつけた。
ラウルとセレンのご冥福をお祈りいたします。
「「生きとるわぁぁぁぁっ!」」
「だから見んなって言っとろうがぁぁぁぁぁっ!」
「「ごめんなさーーーーーい!」」
☆
まぁ、なんだかんだあったけど俺たちは一緒に火を囲んで夕飯を食べている。
メニューはレボが獲ってきたウサギと俺が釣った魚、デザートはドライフルーツ。
「何から何まで・・・ご馳走様です」
セレンが律儀にお礼を言い、
「あぁ、この甘さがたまらない!」
ラウルは甘党が発覚、風の精霊に手伝ってもらって旅の間に作った干し柿がお気にいりで、
「・・・・・・・・・ムグムグムグ・・・」
ひたすら食ってるサラ・・・・・・
三者三様で面白いパーティーだよな。
一通り食事も終わり、後片付けも終わった。
「えと、改めて・・・冒険者ギルドについて教えてください」
俺は話を切り出した。
是非ともこれは聞いておかなきゃね!
「あぁ、そうだったね」
セレンが教えてくれるようだ。
「冒険者ギルドは大きな街なら支部が必ずあり、登録はどこの支部でも受け付けています。登録に銀貨50枚が必要ですが、依頼をこなして行けばすぐに取り返すことが可能です。依頼は各ギルドの掲示板に依頼書が貼ってあり、受けたい依頼を剥がして受付に持って行き手続きをします」
「早い者勝ちね」
サラが注釈を入れ、セレンが頷く。
「冒険者のレベルはLv1~Lv10まであり、依頼は自分のレベルから2つ上まで受けることができます」
「ただし、1回につき最高3つまで。支部によっては1つしか受けられないところもあるからな」
「全ての冒険者に公平に依頼が行き渡るようにとの配慮ですね。依頼をいくつかこなしギルドポイントを貯めるとレベルアップすることができます。冒険者のステータスとポイントを管理しているのがこの腕輪です」
「腕輪に魔力で書き込まれているんだ。自分の腕のサイズにぴったりだからめったなことでは無くしたりしないが、もし無くしたら再発行は金貨5枚、レベルも1からやり直しだ」
「厳しいのよね」
「登録時に魔力で書き込まれますから腕輪の情報は正確です。そして、重犯罪者は登録できません」
「ギルドに要注意人物、危険人物として認識された人も登録できない。そして登録後にそう認識されると登録削除だ」
「そうそう、自分のレベル以上の依頼を受けることが可能ですが、依頼を何度も失敗するとレベルが下がったり、失敗頻度が高すぎると登録削除になりますから注意が必要です」
説明を聞く限り、ゲームのギルドシステムとそんなに変わらないみたいだ。
「登録するのに条件てあるの?年齢制限とか・・・」
「年齢制限はありますね。登録は10歳からになります。トールはぎりぎり大丈夫ですね」
「いや、俺、17歳だし・・・」
「あ、そうでしたね。つい・・・」
「つい・・・って・・・・・・」
セレンの穏やかな笑顔に文句言えない・・・
俺ってそんなに子供!?
泣いてもいいですかー!てか泣くぞ!
――透流・・・――
モーリオン、俺、そんなに子供?
――・・・・・・・・・いや・・・子供ではない・・・とは言えないような・・・――
酷い!モーリオンてば子供相手にあ~んなことやこ~んなことを・・・・・・
――と、透流!何を言う!我は何も・・・――
うん、してないよね。
――透流・・・――
しょげたモーリオンを見てちょっとすっきり。
俺って意外と意地悪なんだぞー!
「ギルドについてよくわかりました。ありがとうございます。大きな街に行ったら登録します」
セレンにお礼を言っていると、
「あ・・・っと、忌み色は登録に条件がある」
ラウルがあわてて言う。
「忌み色は紹介者が必要なんだ」
また忌み色か・・・紹介してもらえる当てがないし諦めるしかないのかな。
なんだか悔しい。
「なぁ、トール・・・」
少し考え込んでいたラウルが
「お前さえよければ、俺が紹介者になってもいいぞ」
真摯に俺を見る。
「え?いいんですか!?」
「あぁ」
ラウルが頷くが、
「ちょっと待って!そんな簡単に決めちゃってもいいの!?」
サラが止めた。
「紹介者になるってことはその責任を全て負うってことなのよ!?」
え?それって・・・?
「トールが依頼を失敗したらその補償はトールだけじゃなくラウルも負うってことです。依頼だけじゃなく、全ての事柄についてです」
「もしも、もしもよ?もしも、トールが犯罪を犯したらその罪は紹介者であるラウルにもかかってくるの」
「トールが行う全ての事柄に対しトールと共にラウルも責任を負います。どこにいようと、何があろうと、どちらかが死ぬまでそれはついてきます」
それって重すぎじゃん!
「ラウル、俺、登録諦めるから・・・」
「トール・・・」
「俺、そこまでしてもらえない。だって、ラウルにそんなこと負わせるわけに行かないよ。迷惑かけられない」
それに、俺、この世界の人間じゃない。
何があるかわからないから・・・そんな重いことできない。
――透流・・・――
優しい声。
慰めてくれるモーリオンを抱きしめる。
うん、大丈夫、諦めはいいほうだからね。
すっぱり諦めた!
「ラウル、ありがとう」
俺は晴れやかに笑いかけた。
それなのに・・・
ラウルは困ったように笑うと俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
「俺はな、お前にそんな顔させたくてあんなこと言ったんじゃないぞ」
え?俺、笑ってたよね?
「悲しいことや悔しいことを隠して笑うなよ」
俺、そんなモノ隠してなんかいないけど?
「トール、泣きたい時はちゃんと泣け」
ちゃんと泣いてるぞ、こっち来てから涙腺弱くなったし。
「まだ子供なんだからわがままくらい言えよ」
いや、俺、モーリオンにわがまま言いまくってるし。
「目に涙溜めて笑うなよ」
だからそれは涙腺弱くなってるからすぐ涙出るんだってば。
またぐしゃぐしゃと頭を撫でる・・・というか掻き混ぜる。
結構痛い。
髪が絡まって痛い痛い痛い!
「よし、決めた!」
ラウルはこぶしを握って気合を入れて、
「お前らが反対しても、俺はトールの紹介者になってこいつを冒険者にする!」
高らかに宣言した。
ラウルって・・・ものすごく突っ走るタイプ?
「だからさ、泣くなよ」
俺の目を剣士の荒れた指で拭う。
ザリザリした指先が柔らかい皮膚を擦って痛いんっすけど。
「泣くなって」
頭ぐしゃぐしゃ・・・・・・
・・・・・・って!
「さっきからラウルが痛いことするから痛くて涙ぐんでるだけだってば!」
もう、髪が絡んじゃったじゃないか。
「あれ?ラウルどうしたの?」
ラウル、両手を地面に付いてガックリしてるし。
「ラウル?」
指差してセレンとサラを見たら、セレンは苦笑を浮かべて、サラは呆れたように俺とラウルを交互に見ていた。
自分で作っといて何だけど・・・
ラウルってさ、いじりたくなるよね。