第20話 出会い
人間って、怖いよ。
でも・・・やっぱり俺、人間なんだよね。
☆
洞窟を出て1週間。
最近旅慣れてきた感じ。
街道を少し外れた森や林や川沿いを歩いたり、レボに乗ったりとのんびりと進んでる。
途中、1度だけ小さな村に立ち寄った。
レボに言われたとおりにマントのフードを目深に被り、髪を隠して村に入った。
小さな村だから商店なんて普通の民家が雑貨屋を兼ねてるのが1軒あるだけ。
それでもこまごました生活必需品はそれなりに揃ってたから俺は必要なものを買おうと店に行ったんだ。
最初はとても優しいおばさんだった。
手拭とかカバンとかポーチとか、おばさんの手作りっぽい小物も売ってて、必要だったからいくつか買った。
他にもいるものを何点か・・・
おばさんは、ほんとに優しかったんだ。
村の人も、俺が一人で旅してるって知って、とても心配してくれた。
でも・・・
ちょっとした不注意でフードが外れてしまった。
俺の髪を見た瞬間、村の空気が変わった。
一気に険悪なものになった。
優しかった人たちから感じるのは、嫌悪。
雑貨屋のおばさんも、俺のことをまるで汚いものを見るような目で見てた。
怖かった。
口汚く罵られ、どこからか石が投げつけられて・・・
あわてて逃げ出したけど、その中の一つが俺の額に当たった。
痛くて、血も出てくるし、すごく悲しかった。
人の殺意のこもった悪意が怖かった。
怖くて怖くて泣きそうだった。
でもね・・・
それ以上に怖かったのは・・・
――人間風情が・・・透流に傷を・・・っ!――
――このような村、消してしまいましょう――
――そうだな。なに、我にかかれば一瞬だ――
――一瞬で消すなど!こんなやつら、じわじわと始末するほうが・・・――
――それもそうだな。このようなクズどもは苦しめて・・・――
「二人ともやめて!それ、怖いからやめて!」
過保護な保護者の怒りだった。
それ以来、極力人間とエンカウントしないように気をつけてる。
人間に会うより、魔物に合ったほうが精神的にも負担が無いよ・・・・・・
洞窟を出て2週間。
今日も街道を外れた森の中、流れる川に沿って進んでる。
さっき、どっから見てもゲームに出てくるリザードマンな亜竜人1匹とエンカウントしたけどレボが瞬殺した。
レボ、強いね!
のんびりと川沿いを歩く。
さっきから俺、歌ばっか歌ってる。
もちろん小さい声だけど・・・
暇だな~って言ったら二人して歌を歌ったらどうか?なんて言うんだもんな。
「えー、なんでー?」
――透流の歌は好きだ――
「あれ?俺、歌ったことある?」
――いつも口ずさんでおみえでしたよ――
「うそん!」
――無意識でのことであろう――
――いつも楽しそうに小さな声で歌っておられました――
うっひゃーーー!
ちょー恥ずかしい!
――不思議な旋律の不思議な言葉の・・・お前の国の歌なのだろうな――
「・・・そういえば、俺が話してる言葉ってここの言葉?」
――いや、お前の言葉はこの世界の言葉ではない――
――そうですね、いつも不思議な言葉で話しておられます――
「え?でも、レボに通じてるよね?」
――私は透流様のお考えを読ませていただいておりますから――
「あぁ、なるほど・・・」
あ、でも、あの村・・・
「立ち寄ったあの村で、俺、話し通じてたけど・・・?」
――村での会話、透流はこちらの言葉を使っておったぞ――
――使い分けておられるのでは?――
うわー、俺ってすごーい、バイリンガルだー・・・・・・自覚無いけど。
――ばいりんがる?・・・お前が使う言葉には、たまにわからないものがある――
「あー、英語とか和製英語はわかんないのかな」
日本語しか伝わってない?
もしくは、言葉として俺が知ってて、意味を漠然としかわかってないものは伝わらないとか?
――我らはお前の思念を読むからな――
なるほど、なんとなく理解・・・したような気がする。
――それで・・・だ、歌ってはくれないのか?――
「歌わなきゃ、ダメ?」
――嫌なのか?――
――私は透流様の歌、好きです――
「でも俺、母さんがいつも歌ってた童謡とか、古い歌しか知らないよ?」
――なんでも構わん――
――私たちにとっては異国の歌ですので、古いとか新しいとかはわかりません――
うー・・・こんなことになろうとは!
二人のわくわくキラキラした視線がかなり厳しいんですけど!
「ち・・・小さい声でいいなら・・・」
――うむ――
――構いません!――
あうぅ・・・
童謡関係のレパートリーは俺の年にしては多いほうだと思う。
J-POPとかは・・・壊滅的かも・・・
結局童謡メインで歌ってたんだけど、モーリオン、レボの背中で寝ちゃったよ。
子守唄ですかそうですか。
――とても優しい旋律ですからね、実は私も気持ちよくて・・・――
「急ぐ旅じゃないし・・・昼寝しちゃおうか?」
――いいですね――
レボの賛同を受けて俺は気持ちよさそうな木陰に村で買った厚手の布を敷いた。
村であったことを思い出して体が震える。
やっぱり怖いよ。
俺、今ちょっと人間不信かも。
レボが擦り寄ってきて慰めてくれた。
もふもふで癒される。
「ありがとう、レボ」
もふもふ最高。
昼寝の準備をして、小さく結界を張る。
「魔力の使い方、かなり上手くなったでしょ?」
――そうですね。攻撃の命中率は最悪ですが・・・――
「それは言わないでー!」
そう、相変わらず攻撃だけは使えない。
「広い範囲でドォーーーン!だったらいけそうなんだけどなぁ」
――世界を破壊する気ですか・・・――
あははは・・・はぁ・・・
「とりあえず、寝よう!」
――そうですね――
レボがくすくす笑ってるけど無視だ無視!
レボにもたれてモーリオンを抱っこして・・・
なんだか幸せ。
ぽかぽか小春日和の木漏れ日の中、気持ちよくまどろむ。
ふと遠くで人の声?
レボが身動ぐ。
――何か争うような音がします。魔物の臭いと・・・わずかですが血の臭いも――
「レボ?」
――様子を見てきます。透流様はここに――
「俺も行く」
――しかし、危険が・・・――
――我がおる――
モーリオンが起きて軽く伸びをした。
「うん、自分でも結界がはれるし、モーリオンもいる。大丈夫だよ」
――・・・わかりました――
――透流、精霊も呼び出しておくといい――
「わかった。・・・精霊さんたち出てきて」
俺の呼びかけに7人の精霊が姿を現す。
――主、大丈夫、チャント守ル――
「うん、ありがとね」
俺はマントのフードを被った。
レボを先頭に気配を消し声をたどると・・・
川原で3人の人間が複数のリザードマンに囲まれていた。
その中になんか色違い?のリザードマンが・・・
鎧っぽいの付けてて他のに命令とかしてるっぽいから・・・便宜上、リザードウォーリアって呼んどく。
――まずいですね、私たちなら囲まれても何とかなりますが、この数の亜竜人を人間3人では・・・面倒です。こちらに気づかれる前にこの場を去りましょう――
――そうだな、透流、引き上げるぞ――
うん、関わらないほうがいいよね。
・・・でも・・・・・・
俺は3人を見た。
剣士の男の人が周りのリザードマンを長剣で殴り、切り倒す。
槍使いの・・・あれは女の人?・・・は槍でなぎ払い突き刺していく。
魔法使いの男の人は足止めをしたり取りこぼしたリザードマンに攻撃したりしてる。
3人ともかなり強いほうなのかもしれない。
だけど、多勢に無勢、3人のダメージは目に見えて増えていく。
人間は怖いよ。
でもね。
俺、人間なんだよね。
「レボ、お願い」
――透流様?――
「あの人たち、助けて。レボならできるでしょう?本当なら戦えない俺がこんなこと言えないんだけど・・・」
――透流様・・・――
「レボに負担をかけるのはわかってる。でも、レボだったらあれくらい簡単に倒せることもわかってる。お願い、あの人たちを助けて」
――透流・・・――
モーリオンが静かに俺を呼ぶ。
うん、俺、まだ人間が怖いと思ってるよ。
でもさ・・・・・・
「レボ、お願い」
俺がそう言うか言わないうちにレボはリザードマンの群れに突っ込んでいった。
「風の精霊さん、レボを守って!」
レボは風と相性がいい。
俺は風の精霊に頼んでレボに風を纏わせた。
レボは振り返りチラッと俺を見た。
その目がとても優しくて笑ってて。
ありがとう、レボ、がんばって!
いきなり現れた大きな狼にリザードマンだけじゃなく人間たちも驚いている。
その一瞬の隙に、レボはその牙と爪で人間の周りの奴らを屠る。
風を纏いスピードの上がった攻撃。
あっという間に十数体のリザードマンが倒れた。
圧倒的な攻撃力。
次々に倒されるリザードマン。
すごいよ、レボ!
かっこいい!
レボがリザードマンを次々に倒していき、人間たち3人はリザードウォーリアと対峙した。
うん、これでもう大丈夫!
あの3人ならリザードウォーリアくらいは倒せるはず。
リザードマンを全て倒したレボが戻ってくる。
そしてその向こうにはリザードウォーリアを倒した3人。
「レボ、ありがとう。怪我はない?」
――大丈夫です。風の加護をありがとうございます――
「うん、怪我がなくてよかった」
3人は俺たちを見ている。
俺はフードをさらに深く被る。
「行こう」
やっぱりまだ怖い。
石が当たった痛み、剣に刺された痛みを思い出し体が震える。
――大丈夫か、透流――
「うん、大丈夫」
――早くここを離れましょう――
「うん」
俺たちが踵を返したとき、
「待って!」
槍使いの女の人に呼び止められた。
一瞬、逃げようかとも思ったけれど、俺はその場に止まることにした。
レボの圧倒的な強さを見た後だから、きっと、危害は加えないはず。
俺はうつむき、駆け寄る3人を待つ。
レボが俺を守るように前に出た。
モーリオンも俺の肩で魔力を高め、精霊たちも俺を守るように周りを舞う。
威嚇するレボたちに怯みつつも3人は俺の前に立った。
「お礼くらい言わせて」
「ありがとう、助かったよ」
「俺たちだけじゃ死んでいた、本当にありがとう」
「ありがとう、おかげで死なないですんだわ。感謝してる」
3人は、本当に嬉しそうにそう言ってくれた。
よかった、助けることができて。
俺は小さく頷くと改めて3人を見た。
そして、剣士を見て固まってしまう。
魔物の血とか泥とかで汚れてしまっててわからなかったけど・・・この人、黒髪だ!
俺が固まっているのを見て剣士が苦笑した。
「この黒い髪が怖いのだろう。すまんな」
「ち・・・ちが・・・っ」
ちがう!違うんだ!
怖いんじゃなくて・・・
何で平然と髪を出していられるの?
何で受け入れられてるの?
――透流・・・――
モーリオンが俺をなだめるように俺の頬に擦り寄る。
――透流、落ち着け、大丈夫だ――
「怖がらせてしまったな。すまない。助けてくれてありがとう」
剣士の声が寂しそうで・・・
「違う!怖いんじゃないんだ!」
俺は思わず叫んでた。
3人と、何故かモーリオンとレボに精霊までもが驚いて俺を見る。
「怖いんじゃなくて・・・俺・・・俺・・・」
やばい、涙出てきた。
――透流・・・――
――透流様・・・――
いたわるような二人の声。
俺がフードを取ると3人は目を見開いた。
「なっ!」
「え?黒髪なの!?」
「あぁ、そうか・・・君も苦労したんだね」
剣士が優しく微笑んでくれる。
「俺・・・俺・・・俺な・・・」
俺はあふれる涙を袖で拭い、うるんだ目で剣士を見上げた。
「黒髪を出して平然としててちょーかっこいーぜ!そいでもって受け入れられてるのが謎で不思議ですげーよ!って思ってあんたを見てたんだ!」
しばらくお待ちください。
じゃなくて!
「何でみんな固まってるの?」
「お前のせいじゃボケェェェッ!」
槍使いの女の人に盛大な突っ込みと拳骨をもらった。
なんかまた、キャラ増えました。
名前ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!(プチパニック)