第2話 異種族交流と書いてヒトメボレと読む
なんていうか・・・・・・うん、夢のようだ。
☆
淡く発光する岩によって照らされた洞窟の中、目の前に悠々と横たわる巨大な黒いドラゴン。
アジアンな竜じゃなく西洋の背中に翼を持つドラゴン。
驚きが過ぎると今度は感動が俺を支配した。
そりゃまぁ、怖いとは一瞬だけ思ったけれど、でも、ドラゴンだぜ?
リアルドラゴン。
美しいフォルム、輝く黒真珠な鱗、叡智に満ちた金色の目。
ここで感動しなかったら男じゃない!
すげーでかい!
すげーカッコイイ!
すげー綺麗!
陳腐な形容詞しか出てこない俺のボキャブラリーを呪いたい。
今俺は、モーレツに感動している!
泣いてもいいですかお母さん!
たぶんきっと今の俺、大好きな玩具やお菓子を目の前にしたガキみたいになってる。
あの尻尾に触りたい。
キラキラな鱗を撫で回したい。
爪をツンツンしてみたい・・・むしろツンツンしてください。
興奮で、頬が、耳が、いや全身が紅潮しているのがわかる。
あ、まずい、視界が歪む。
嬉しさのあまり涙が出てきたらしいぞもったいない!
クリアな視界でこの奇跡の存在をじっくり舐めるように見て記憶に刻み込まなければ!
制服の袖でグイッと涙をぬぐうと俺は顔を上げた。
ドラゴンの金色の目と視線が合う。
しばし見詰め合う俺とドラゴン。
ふとドラゴンの目が眇められ長い首を動かし顔を俺に近づけてきた。
やばい、食われるかもしれない。
いや、そもそもドラゴンは人間を食うのか?
肉食?
草食?
意外と雑食?
うんまぁそれはどうでもいいけど、これはやっぱり死亡フラグか?
俺はこのまま死ぬのか?
おかーさんおとーさんごめんなさい。
俺はこのまま・・・死んでも後悔は無い!
リアルドラゴンをこの目で見たんだ!
我が人生に一片の悔い無し!
嫁に殺されるのなら本望だ!
でも最後に一言言っておきたい。
(ちなみにこの間約0.5秒)
「俺食っても旨くないかもよ?」
ドラゴンが目を見開いた。
スイッと首が引かれ俺を見下ろすドラゴン。
あぁやっぱりカッコイイな。
うっとりと見上げているといきなりドラゴンが唸り声を上げた。
洞窟に反響する大きな音に俺の体が硬直する。
なんだ?なんだ?いったいなんだ?
――人の子よ・・・・・・――
脳内というか・・・頭に響く声。
――・・・・・・お前は面白いな――
笑いを含んだドラゴンの声に俺は全身の力が抜けた。
☆
綺麗でカッコイイ、憧れのドラゴンと対峙する。
とにかく俺は今幸せの絶頂。
あぁ、夢のようだ。
ドラゴンが雌だったら嫁にしたいくらいだ!
――残念ながら我は雄だ――
クスリと笑うドラゴンの声。
あぁそれはとっても残念だ・・・・・・・・・って?
「今俺って声に出してたか!?」
――出してはいないぞ?――
「あぁそうか・・・って、ま、まさか!」
俺の心を読んでるのか!?
――読むまでもない、お前の思っていることは我にすべて聞こえている――
なんだって!?
すべて聞こえてるだって!?
ドラゴンは人の思考や心の中が全部聞こえるのか!?
――いや、全て聞こえるわけではない。表に出ている思考のみが聞こえる――
「てことは・・・?」
俺ってば、思考が全部駄々漏れ!?
――そうだな――
「・・・ど、どこから聞こえてました?」
――我の前に現れた最初からだ――
全部かよ!!
グルグルとドラゴンが唸ると同時に笑いの波動?を感じる。
あぁ、この唸り声はドラゴンの笑い声なのか。
――人の子よ、お前は本当に面白いな――
穏やかなドラゴンの声。
心が、体が震えるような心地いい声。
「俺は西島透流、透流だ。ドラゴン、お前の名前を教えて欲しい」
じっと見つめてそう言うと、ドラゴンは少し困ったように首を傾げた。
あ、どうしよう、可愛いかもしれない・・・じゃなくて!
俺は焦ってわたわたする。
「いや、無理にとは言わない!だってほら、名前って大事なものだろうし、知られたら困るってことも・・・」
――教えたくとも我に名など無い――
「え?・・・名前、無いの?」
――あぁ、名は無い――
「困らない?」
――我の名を呼べるような存在は無い。だから困ったことは無い――
「でも俺は無いと困る・・・」
――透流?――
名前を呼ばれた瞬間、俺の腰は砕けていた。
――どうした?透流、大丈夫か?――
心配してくれる声。
ずるい・・・ずるいよドラゴン。
――透流?――
そんないい声で、まるで耳元で囁くように名前呼ばれちゃったりしたら・・・・・・
俺は座り込んだままドラゴンを見上げた。
「俺、どうにかなっちゃいそう・・・・・・」
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