第17話 長の名前
――名など必要ないだろう?――
狭量なドラゴン様は憤然と言い放つ。
――長は長だ。名など必要ない――
ドラゴン様の心の広さは針穴ほどもないようです。
「前もさ、俺が名前付けるの反対したよね?」
――うむ――
「なんで?」
――嫌だからだ――
即答ですか、そうですか。
――長は長だ。長でよいではないか――
取り付く島もございません。
そんなモーリオンに狼の長は苦笑した。
――長でもまぁ構いませんが・・・実はもう長ではないもので・・・――
「え?そうなの!?」
――はい、魔物となってしまいましたので群れを出ました――
「・・・・・・重ね重ねすみません」
頭を下げたら、
――いえ、お気になさらず――
下げ返してくれた。
「長は・・・群れで呼ばれてた名前とかないの?」
――ありません――
「う~ん、それじゃやっぱり名前付けなきゃ・・・」
――透流――
「契約は名前がないとできないんだよね?」
――・・・透流――
「名前が無いならつけるしかないよね」
――・・・透流!――
「・・・何?モーリオン、うるさいよ?」
俺がジト目で見ると、モーリオンはちょっと怯んだ。
「あのね、長は俺のせいで長じゃなくなったんだよ?だからさ、俺には長のお願いを聞く義務があるの!」
――しかし・・・――
「あーー!もう!」
俺はモーリオンを抱き上げると
「長、ちょっと待っててね、モーリオンと話しつけてくる」
長をその場に残し、声が聞こえないくらいのところに離れた。
「あのね、もう一度言うけど、長は俺のせいで死んじゃって俺のせいで魔物になっちゃったんだよ?その結果、群れをでる羽目になって・・・」
――確かにそうだが、長は前からいずれは群れを出ると言っていたのだぞ――
「そうなんだろうけど、でもさ、魔物になったのはイレギュラーじゃん」
――いれぎゅらー・・・?――
「んと、不測の事態ってこと。それに、俺と契約紛いな状態になってるんでしょ?」
――うむ――
「それだったらしっかりと契約したほうがいいんじゃないの?長もそれを望んでるわけだし、名前も付けてくれって言ってる。・・・それでね、」
モーリオンが何か言いそうになってるのを遮って、
「俺がモーリオンに名前つけたときモーリオンすごく喜んでくれたでしょ?長も喜んでくれそうな気がしたんだ。長にはいっぱいいっぱいお世話になってるし、いっぱいいっぱい迷惑もかけてる。お礼しようにも、何したらいいかわからない。長、何もいらないって言うし・・・名前を付けることで少しでもお礼できるならさ、俺、嬉しいんだ。だから・・・モーリオンに反対されると困るし悲しい。ね、モーリオン、俺、長に名前をプレゼント・・・贈り物にしたい。許可して欲しいんだ。ダメ?」
一気にそう言った。
じっとモーリオンを見つめていたら、
――・・・・・・わかった。長に名を贈ることを認めよう――
溜息をつき、認めてくれた。
「ありがとう、モーリオン」
――我は・・・お前のその目に弱いのだよ・・・そんな目は我以外には見せないでくれ――
「・・・えー」
――涙に濡れて光るお前の目は・・・そう、お前風に言えば・・・ヤバイのだ――
「なんだよそれーーっ!」
むぅっと剥れたら、モーリオンは肩に乗って俺に擦り寄った。
あう、可愛い・・・・・・
なんか誤魔化された感じはするけど・・・ま、いいか。
――それでだ、なんと名付けるのだ?――
「んー・・・どうしようかな」
チラッと狼の長を見る。
ちょこんとお座りをして待ってるのがなんか可愛いんですけどー!
待て!ですか!?
お預け!ですかぁぁぁぁ!
――・・・・・・透流・・・――
「あ・・・あははははは・・・ははは・・・はぁ・・・」
・・・・・・あ、そうだ!
思いついた!
というか思い出した!
「Revolution」
――ん?――
「レボリューションにする!」
――レボリューション?――
「うん、俺のいたとこの言葉なんだけど、革命って意味なんだ」
――ほう――
「普通の狼から魔獣になったってのも革命的なんだけどね、一番の理由は、俺が小さい頃飼ってた犬のこと思い出したんだ」
すっごく強かったんだよなぁ。
向かうところ敵無し!って感じで。
「近所のいじめっっ子や怖い犬から俺のこと守ってくれたんだ。レボリューションて言い難かったから家族みんなレボって呼んでたんだけどね」
ちなみにレボリューションて名前はお母さんがつけた。
――ほほう、お前を守る・・・という点では長に通じるものがあるな――
「うんうん、いいでしょ」
――うむ。それで、どんな犬だったのだ?――
俺は記憶に残るいちばん好きなレボが俺を見上げてる姿と、かっこよく俺を守ってくれてる勇姿を思い出し、その映像をモーリオンに伝えた。
「真っ白な綺麗な毛並みのチワワ!某消費者金融のCMのチワワにそっくり!」
――ぶっ・・・――
すっげー(気が)強い犬だったんだよね。
キャンキャンうるさい咆え声でいじめっ子もでっかい犬も追い払ってた!
――うむ・・・長にぴったりだな・・・――
なんか、モーリオンの声が笑ってるけど・・・気にしないでおこう。
☆
――レボリューション・・・すばらしい名をありがとうございます――
「うん、喜んでもらえて俺も嬉しい」
――よかったな、長・・・いや、レボ――
無事契約も済み、俺たちはニコニコ笑う。
なんかモーリオンだけちょっと違う笑いのような気がするけど・・・気にしなーい。
――そういえば・・・聞きたいことがあった――
「何?」
――レボから事のあらましは聞いたのだが、お前が結界を抜けた理由がわからない。何故あの時結界を抜けた?――
「それは・・・っ」
――お前を責めているわけではない。あの時お前に何があったかが心配なだけだ――
――あの時透流様はいきなり駆け出されました。いったい何があったのですか?――
モーリオンとレボはは優しく俺を見つめた。
「あの時・・・浩輔と朱里がこの世界に来たんだ」
今でも二人がこの世界にいることがわかる。
感じるんだ。
「だから俺、そのことで頭がいっぱいになってて、そこにあの人間たちが現れたから・・・俺、たぶん二人の情報が欲しかったんだと思う」
――そうか・・・・・・――
モーリオンが考え込んだ。
たぶん、次にモーリオンが言いそうなことは、わかる。
――透流、二人を探しに行きたいか?――
モーリオンは俺を見上げ、静かに聞いた。
その声と視線に俺は震えた。
二人を探しに行きたい。
でも、俺はモーリオンと離れたくないんだ・・・・・・
俺って、親友失格だよな。
二人には会いたいよ。
すごくすごく会いたい。
でも俺は、モーリオンと一緒にいたい。
その気持ちのほうが強いんだ。
浩輔、朱里、ごめん・・・・・・っ!
唇を噛んで俯く俺にモーリオンは、
――探しに行けばいい――
優しくそう言う。
――大切な友を探しに行けばいい――
「でもっ!」
――我のことは気にするな――
「でも・・・でも俺は・・・っ!」
――大丈夫だ――
モーリオンは笑った。
――大丈夫、我も共に行く――
「はい?」
――我もお前と共に行く――
モーリオンはすっごく楽しそうに笑った。
名前付けるまでが長いのは名前がなかなか決まらないから・・・ということは内緒です。