第16話 精霊の祝福
斜め下に向かっていきますどこまでも。
暴走した魔術のとばっちりで生き返った上に魔獣化しちゃうってありですか?
――ありだと思うが?――
――ありですよね――
ありだそうです。
俺たちみんなあの時意識なかったりパニクッてたりで推測でしかないんだけど・・・
①俺がいっぱい術を展開する。
↓
②結果、辺り一帯に術展開。
↓
③狼の王も範囲内。
↓
④モーリオンと一緒の状況。
↓
⑤暴走。
↓
⑥俺の魔力駄々漏れ。
↓
⑦魔力を取り込みつつ体が再構築。
↓
⑧結果、魔獣化。
てな感じ?
「う・・・なんか色々ごめんなさい」
――謝らないでください。こうやってまたあなた方と共にあることが嬉しいのですから――
「でも、魔獣化しちゃったんだよ?」
――その方があなたを守れます。それに、こうやって会話もできますしね――
狼の長はとても嬉しそうに言った。
☆
狼の長が持ってきてくれた果物・・・イチジク、柿、梨、リンゴ、石榴・・・ぽい物を美味しくいただくと、今度は自分の惨状が気になり始めた。
「・・・・・・お風呂はいりたい・・・」
服は破れて血まみれでごわついてるし、体にも血が付いたままだし、泥やら煤やらで真っ黒だし。
うん、家だったら母さんに怒られてご飯なんてもらえないとこだ。
異世界でよかったよ、うんうん。
泉で体洗って着替えよう。
・・・そういえば、
「泉・・・って無事?」
森、広範囲で燃えちゃってたし・・・
――大丈夫だ、燃えたのは結界から先だ――
「よかったぁ、あの泉が燃えちゃってたら俺泣いてたよ」
あんな綺麗なとこが消えちゃうのは嫌だ。
「ちょっと泉に行ってくるね」
――我も行こう――
「一緒に水浴びしよっか」
――そうだな――
モーリオンが俺の肩に乗ると、
――どうぞ、お乗りください――
狼の長が伏せて乗るよう促した。
「長の乗り心地、ちょっと揺れたけどいい感じ!」
――ありがとうございます――
そして泉は相変わらず綺麗で・・・って、
「あれ?」
やたらキラキラしてる?
――精霊がお前を歓迎しているようだな――
なんで?
それに、今まで精霊とかぜんぜん見えなかったし感じなかったよね?
――魔力の所為だろう。お前がここで受け入れられているのは元々ではあるが、しかし・・・この歓迎はいったい?――
モーリオンにもわからないみたいだ。
「長は・・・知ってる風だね?なんか楽しそう」
――精霊たちが透流様を歓迎しているのは・・・――
狼の長が笑いながら言う。
――あなたが森を蘇生したからですよ――
「ほぇ?」
――あの時に焼きつくされた森を生き物が棲めるまでに再生したからです――
やった覚えがないーーーー!
――まぁ、私と同じようにとばっちりですが――
狼の長、グルグル唸って・・・すっげー笑ってるんですけど。
とりあえず服を脱いで泉に浸かる。
ついでにモーリオンも抱っこして。
破れたのが制服のほうじゃなくてよかった。
――透流、我は泳げるのだが・・・・・・――
「あ、そうなんだ」
そっと手を離すとモーリオンは水面から長い首を出し優雅に浮いている。
潜ってみたら・・・
これは・・・・・・犬かき!
「可愛い・・・・・・・・・」
どうしよう、萌が止まらない。
なんて考えてたら髪の毛を齧られた。
引っ張られてちょっと痛い。
「よし、さっさと洗っちゃおう」
顔を洗うと・・・・・・あれ?なんだこれ?
額というか、眉間のちょっと上に固いポッチがある。
「にきび?」
――どうした?――
「うん、なんかできてる」
――あぁ、魔宝石だな――
「え?」
――我と同じものだと思うぞ――
モーリオンを見ると、額に前にはなかった小さな石があった。
透明な石。
揺れる水面に顔を映して目を凝らす。
ちょっと見難い。
鏡があればいいのにな。
「これは何?」
――契約の証――
「契約の?でも前はなかったよね?」
――お前に強い魔力があるからだろう――
「そーゆーものなの?」
――そーゆーものだ――
そうなんだ・・・・・・
微妙に納得できるようなできないような。
でもまぁいいか、繋がってる証があるのは嬉しいしね!
汚れを落としてモーリオンと一緒に中島まで泳ぐ。
俺は平泳ぎでゆっくり、モーリオンは優雅に・・・犬かき。
「イタッ!」
また齧られた。
中島でモーリオンを抱っこして日向ぼっこ。
秋の日差しは夏ほど暑くは無いけれどぽかぽかして結構気持ち良い。
風が吹いたら寒いかもだけど、風もなくて気持ち良い。
そんな俺たちの周りをいろんな光がくるくる回り口々に
――祝福を!祝福を!――
・・・って言ってるんだけど?
――この森にすむ精霊たちそれぞれの種の代表が来ているようだ。かなりの高位の者たちのようだな。祝福を受けるといい。そのほうがこれらが喜ぶ――
とばっちり魔法だからなんか申し訳ないんだけど。
――構わんだろう?お前がやったには変わりない――
「なんかさ、モーリオン楽しそうだね」
――楽しいぞ――
「・・・そうですか」
俺がそっと両手を差し出すと赤い光が手の上に乗った。
暖かい。
――火の精霊だ。その薄緑は風、水は青、濃い緑は森、他にも大地、光、闇まで来ておるな――
「えと、もしかして全種類?」
――うむ――
「うはぁ・・・」
俺は精霊たちを見た。
ほわんっと優しい気持ちになる。
「ありがとう、みんなの祝福を受けるよ」
そう言ったとたん、ふわっと全身を何かが包んだ。
――ほう・・・――
モーリオンが俺を見て驚いたような声を上げた。
「何?どうしたの?」
――お前の魔宝石の色が変わった――
「え?」
あわてて水に顔を映してみる。
水面が揺れて見難いけど・・・小指の爪くらいの大きさの石が淡くオパールのように光ってる。
なんか、インドの女の人とかがつけてるビンディみたい。
「あ、モーリオンのも色が変わってる」
透明だったのに、今は俺のと同じようにオパールっぽくなってる。
「精霊の祝福のせいかな?」
――そのようだな。これでお前は精霊魔法も使えるぞ――
「・・・・・・なんですと?」
――精霊の祝福とは我らの契約と同じものだ。よかったな――
なんというか、モーリオンてば確信犯?
してやったりって感じなんですけど。
それにしても・・・
「俺、自分の魔力使って魔法?魔術?使えるんだよね?」
――うむ、お前の使えるものは人間の魔法使いが使うものとは系統が違う、魔法というより魔術と呼ぶほうがあっているかもしれん――
「そして今度は精霊魔法?精霊とか呼び出して使うやつ?」
――そうだ――
「両方とも使えるわけ?」
――使えるな――
・・・俺ってば、どこに向かってどこまで行っちゃうんだろう・・・
――行き着くところまでどこまでも・・・行き着く先があるかどうかは疑問だが、お前らしくていいのではないか?――
モーリオンはほんとに楽しそうだ。
――ほんとに楽しいぞ。お前が戸惑う姿は本当に可愛い――
笑ってるしーーー!
むー・・・なんか腹立つ。
☆
狼の長に頼み込み、乗せてきてもらった。
焼けてしまった森の面影は倒れた木々とか立ったまま焼け爛れた木とかあるにはあるけど、下生えに覆われ蔓が巻きつき若木も育っててしっかりと森は再生されていた。
なんていうか・・・駄々漏れ魔力のとばっちりでの再生だって聞いたから魔物が出そうなおどろおどろしい感じになってたらどうしようって思ってたけど明るい感じでよかった。
――大丈夫か?――
――透流様?――
黙りこんだ俺に心配性な保護者たちは声をかける。
「うん、大丈夫。俺、嬉しいんだ」
森が戻ってきてることが嬉しい。
「モーリオンも、長も、森も、全部戻ってきて嬉しい」
俺が笑うと保護者たちも嬉しそうに笑った。
新しい、できたばかりの森の中、俺たちはまったりとくつろぐ。
気持ちいいなぁ~
モーリオンを抱っこしてもふもふな狼の長にもたれて・・・・・・
「・・・そういえば、長は俺が考えてること全部わかっちゃったりするの?」
――いえ、全部はわかりません。そうやって声に出されるか、私に向けて話しかけるように考えていただかなければわかりません――
「駄々漏れってわけじゃないんだ」
――我には駄々漏れだがな――
「それはもう諦めてるよ」
ん~・・・ってことはさ、念話もできるってこと?
――長、俺の声聞こえる?――
――はい、聞こえますよ――
「おおおおお、すげー!通じた!あ、でもさ、他の魔物にも聞こえちゃう?」
――それはない。長はなんだかんだでお前と契約したような状況になっている――
――はい、ですからこうやってお話しができるのです――
「そっかー、それなら安心して話せるね」
――はい。・・・・・・それで、透流様にお願いがあるのですが――
「なんだろ?俺にできることならいいけど・・・」
――正式に契約をお願いしたいのです――
「え?」
――私にも、名前をいただけないでしょうか――
「なまえ?」
――ダメだ――
狭量なドラゴン様が即行ダメ出しをした。
モーリオンの透流くん改造計画。
・・・というのは嘘です。
主人公最強系は大好物ですが、そこはほら、斜め下を行きますから期待しないほうがいいと思います。