第15話 可愛い
「ただいま!」
俺は玄関のドアを開けると靴を脱ぎ散らして廊下を走りぬけキッチンに飛び込んだ。
「母さん!聞いて!」
「おかえりなさい。あらあらどうしたの?お夕飯はもう少し待っててね」
「いや、ご飯なんでどうでもよくって!」
「まぁ!透流ちゃんはお母さんのご飯が嫌いになったの?」
母さんが涙を溜めた目で上目遣いに俺を見てくるのに怯みつつ、
「お母さんのご飯を嫌いになるわけないよ!そうじゃなくて、俺、ドラゴンに会ったんだ!」
俺がそう言うと、
「ステキ!よかったわね透流ちゃん!」
「うんうん」
「どんなドラゴンさんなの?」
「モーリオンは・・・ドラゴンの名前ね。モーリオンはすっごく大きくて綺麗な黒竜でね、俺ってば一目惚れ!」
「あらあら、お名前聞けたのね」
「うん、俺が付けたんだ!モーリオン、喜んでくれたよ!」
「あらー」
母さんはびっくりしていた。
「透流ちゃんはそのドラゴンさんをお嫁さんにするの?」
「それは無理ー。だってモーリオンもオスなんだもんなー」
「残念ねぇ」
「うんうん。でもさ、モーリオン、俺のことすっごく大事にしてくれるんだ」
「あら」
「過保護なくらいだよ。それに、すっげー独占欲強くってさー」
「あらあらあらあら」
「でも大好きなんだ」
「そうなのね。じゃぁ、透流ちゃんがドラゴンさんのお嫁さんになるのね」
「え?」
「透流ちゃん、今、幸せ?」
「うん、幸せだよ」
「だったらお母さんは応援するわね!」
「え?え?」
「お母さんが幸せなんだもの、お嫁さんになったら透流ちゃんはもっと幸せになれるわ」
「母さん?」
「あら、言ってなかった?お父さん、ドラゴンなのよ」
「ガウ!ガウゥ!(よっ!透流!)」
「えええええええええーーーーーっ!!!」
☆
「えええええーーーっ!」
俺は自分の声で目が覚めた。
なんか寝汗かきまくってるよ。
すげー夢見た。
辺りを見回すと、すっかり見慣れた洞窟の中。
足りないのは・・・
「モーリオン・・・・・・?」
あっ!!
思い出した、モーリオン!!!
俺、ちゃんとできたの?できなかったの!?
モーリオンの声を聞いたような気がしたんだけど・・・・・・
――起きたか、透流――
「モーリオ・・・・・・んン!?」
フリーズ。
――どうした?――
可愛く小首を傾げるモーリオンは
――透流?――
大きさも可愛くなっていた。
☆
俺の前にちょこんと座るモーリオン。
ちっさい!可愛い!萌える!いろんな意味で、俺、泣きそう!
いやいやいやいや、今はそんな萌えてる場合じゃなくて。
でも・・・・・・
「可愛い・・・・・・・・・」
そんな俺にモーリオンは溜息をついた。
気を取り直してモーリオンから経緯を聞く。
何でも、俺が使った魔法?魔術?でモーリオンは蘇生したんだけど、竜珠を中心として魔力が収束したため体が小さくなったらしい。
元の大きさに戻ることも可能だけど安定しないそうで・・・・・・
――この大きさでやっと安定した――
「戻れるの?」
――うむ、混ざり合ったものをうまく調和できれば元に戻るだろう――
「混ざり合った?」
――我の魔力とお前の魔力が混ざり合っている――
「え?俺に魔力なんてあった?」
――もともと素養があったのだろう。我の魔力が呼び水になったためか、今のお前は並外れた魔力を持っている――
「並外れたって・・・どれくらい?」
――ふむ・・・――
モーリオンは目を細め、俺をじっと見た。
そんなモーリオンも可愛い・・・・・・
あぁ、抱きしめたい。
と思った瞬間、抱き上げていた。
――透流・・・・・・――
「あ・・・つい・・・・・・」
抱っこするのにちょうどいい感じ。
モーリオンはまた溜息をついた。
「ごめんー」
俺はモーリオンを抱いたまま・・・だって放したくないし、
「それで、俺の魔力ってどれくらい?」
モーリオンにすりすりしながらもう一回聞いた。
――・・・・・・・・・わからん――
「ほぇ?」
――底が見えん――
えーと、それって・・・・・・?
――無尽蔵――
再びフリーズ。
それってどんなチートだよ。
――契約を結んだ時はこれほどの魔力は感じなかった。魔力干渉も我から透流への影響のほうが強かったのだが、今では拮抗している――
だから調和させるのに手間取っているとモーリオンは言うけど・・・
「俺にもモーリオンの魔力が干渉してきてるの?」
――我とお前は繋がっているからな、干渉はしているはずだが?――
「・・・・・・俺、別に違和感なんて感じてないぞ?」
――お前は・・・・・・なんというか、無条件に我の魔力を受け入れている・・・――
おおっ!愛のなせる業!
・・・・・・・・・ってことは、
「モーリオン・・・俺のこと愛してくれてないの?」
俺は目をうるうるさせながらモーリオンを見た。
――何を言って・・・っ!・・・――
モーリオンは一瞬硬直した後、
――・・・・・・・・・もう、いい・・・――
大きく溜息をついた。
「そっか、調和させて安定したら戻れるんだね」
――うむ・・・――
「そっかそっか、戻れるんだ」
よかったぁ。
――・・・・・・透流は、我がこのように小さいのは・・・嫌か?――
「モーリオン?」
――お前は大きい我のほうがよいのだろう?――
「そうだね、小さいモーリオンはさ、こうやって抱きしめる事ができるし可愛いしどこに行くにも一緒に行けそうだからいいな~とは思うけど、本当のモーリオンは大きなモーリオンだろ?・・・俺はさ、モーリオンであれば大きくても小さくても関係ないんだよね、実は。でも、大きなドラゴンである事がモーリオンのアイデンティティであるなら戻らなきゃいけないと思うよ」
――・・・・・・あいでんてぃてぃ・・・とは何だ?――
「あー・・・・・・なんて言ったらいいのかな、自分が自分であること・・・みたいな感じ?」
――我が我であること・・・か――
「うん」
――我は・・・お前と共にあり、お前を守る存在でありたいと思う。このような小さい形では思うようにお前を守る事ができない。また、以前の大きさではいつも共にある事ができない。困ったものだな――
モーリオンは苦笑した。
「小さいままでもいられるの?」
――うむ、お前の使った魔術の影響だろうか・・・自分の体なら自由に魔力で形作る事ができるようだ――
「おお、じゃぁ臨機応変に大きさ変えるとか?」
――ふむ・・・そうできればいいのだが、魔力が安定しなければどうなるかがわからん――
「モーリオンの魔力、全部戻ってる?」
――完全に戻っている。我は拒んだはずなのだがな――
「だって、戻さなきゃモーリオン死んでたもん」
あのまま死んだほうがよかったのかよ・・・なんか腹立つ、泣きそう。
――そう拗ねるな――
「拗ねてない」
――透流――
モーリオンはそっと俺の頬に顔を擦り寄せた。
――我はまたお前と共にいられることが嬉しい。透流、感謝している、ありがとう――
「うん、俺も嬉しい」
モーリオンの言葉一つで拗ねたり機嫌が直ったり、俺って単純。
「モーリオン、生き返ってくれてありがとう」
俺はモーリオンをしっかり抱きしめた。
モーリオンも小さい手足(というか全部足だけど)で俺にしがみつき、羽を広げて俺のこと抱きしめてくれてるみたいで・・・・・・
可愛い・・・・・・・・・
――透流も可愛いぞ。だが・・・やはりもう少し大きくなりたいものだな――
☆
「ワフン・・・」
俺たちがぎゅーって抱き合っていたら咳払いなのか溜息なのか咆えてるのかよくわからない声がした。
そっちを見ると狼がお座りしていた。
えと?
なんか狼の長っぽいけど、微妙に違うよね?
それに・・・なんかこう、気配が魔物っぽい?
――おお、長、どこへ行っておった?――
え?やっぱ狼の長なの?
――はい、そろそろお目覚めかと思い果物を探してきました。透流様、ご気分はいかがですか?――
「長なの?」
――はい、もう、長ではありませんが・・・――
「長の声が聞こえる?・・・いや、それよりも、無事だったの?切られて血がいっぱいでてて、ぜんぜん動かなかったし、俺の所為で長が死んじゃったって思・・・思って・・・・・・」
思い出したら体が震えてきた。
鮮明にあのときの光景を思い出す。
焼けた木々と大地、倒れた狼の長と広がる赤、動かないモーリオン、ぎらぎら光る大剣、焼け付くような痛み、男の顔・・・怖い・・・・・・
手が、足が冷たい。
――透流、大丈夫だ。もう全て終わった。みんな生きている。大丈夫、大丈夫だ――
「モー・・・リオン・・・」
――落ち着いて、もう大丈夫だ――
モーリオンの優しい声にパニックになりかけた感情が落ち着いてくる。
大きく息を吐く。
「ありがと・・・、うん、もう、だいじょぶ・・・」
――申し訳ございません、私の所為で・・・――
「長は悪くないよ、俺が結界を出ちゃったから・・・」
それよりも!
「長、怪我は大丈夫なの?」
そっちのほうが心配。
――はい、黒竜様と一緒に私も生き返らせていただきました――
「ほえ?」
――私も透流様の魔法で生き返らせていただきました――
えぇ!?それってどゆこと!?
俺、まったく覚えが無いんですけど!?
1本1本が短いので・・・
連続ってほどでもないのですが投稿します。
書くのに時間かかるけど、書き上げたら即投稿って形に変えます。
一応、読み返して自己添削はしますが、誤字脱字等がございましたらご連絡ください。