第13話 救世主(side浩輔)
浩輔視点です。
「救世主か・・・・・・」
あの後、俺たちは召還されたわけを説明された。
何でも、夏の季に入ってすぐ、この国の最北のトゥラ山脈近辺で異常な魔力値を観測したらしい。
それは空間に作用する系統の魔力だったらしい。
魔力はその一瞬だけで消えたのだが・・・その後、各地で魔物や魔獣が活性化してきたようだ。
トゥラ山脈には巨大な暗黒竜が棲み、山だけじゃなく周辺の森も掌握しているという。
原因はその悪竜の元に魔王が降臨したのではないか・・・とのことだ。
あくまでも憶測。
調査隊を送り込もうにもその森は人が入るのを拒むらしい。
数十年前に何度か竜を倒すべく討伐隊を送り込んだが帰還した者はいない。
今回も無理だろうと判断。
こうなったら神頼みしかないってことで創造神に祈ったところ、聖巫女にご神託があった。
異世界から救世主を召還し、魔王を討伐させろってね。
他力本願な神様だな。
迷惑だ。
過去にも召還してるらしい。
歴史書にも書かれているし、吟遊詩人が歌い継いでいるとか何とか・・・
今俺の手にあるのがそんな歴史書だ。
何故だかわからないが異世界の言葉がわかるだけじゃなく文字も読めるようだ。
向こうからこっちへ渡ってくる時にわかるようになるらしい。
便利だけど・・・なんでもありの世界なのか?
本の内容は堅苦しい文体で書かれた面白くない幻想小説・・・ってヤツだな。
神だの魔王だの・・・・・・
ページを捲りつつ説明の最中に起きた事件を思い返す。
救世主の剣について説明を受けていたとき、扉がノックされ、宰相が入ってきた。
8人の中にいたおっさんが宰相だ。
なんでもトゥラ山脈の森で大きな魔力の発動があり、森の一部を焼いたらしい。
その後、森の上空を山脈方向から巨大な黒い影が過ぎ、今度は広範囲によって焼かれたそうだ。
森の消失はその2回だけだが、今度はその中心に光の玉ができその内部で魔力が渦巻き始め、今もまだ続いているとのこと。
救世主である俺にも関係があることだからと教えてくれた。
宰相は調査隊の派遣について相談しに来たらしい。
王様は頷くと俺たちに挨拶をし部屋を出て行った。
王様が出ていったあとも説明を受けたけど、なんか気が削がれたって言うのかな、大まかな説明になった。
救世主には特別な武器があるとか、今すぐ出発するわけではなく、しっかり準備をした後に大々的な壮行パレードをしてから出発するなどなど。
壮行パレード・・・うんざりだ。
そして、説明の後、俺たちは神殿を出て王宮の一角にあるこの部屋へと連れてこられたわけなのだが・・・
「浩輔くん・・・透流くんのこと、まだ感じられないね」
朱里は気落ちしソファに沈み込んでいる。
俺たちは部屋に入ってから必死で透流の気配を探った。
やり方なんかわからない。
この世界に来た時、当たり前のように透流を感じていたんだ。
消えた気配を探ろうにも方法なんかわかるわけが無い。
必死だった。
だが、透流はいまだ感じられない。
「私たちがここに召還された時のことだけど・・・・・・」
朱里は体を起こした。
「あの穴って、透流くんを引き込もうとしてたよね」
「おい・・・っ!」
「大丈夫、ここの人は日本語なんてわかんないよ」
「確かにそうだけど・・・・・・」
俺は朱里の隣に座った。
「本とか見てわかったんだけど、ここ、言語体系も日本語とまったく違うじゃない?だからいくら聞いてもわからないと思うのよね」
朱里は見るとは無しに天井を見る。
「確かにな・・・」
俺もソファの背にもたれ天井を見上げる。
そう、天井裏には俺たちの会話に聞き耳を立てている密偵がいるんだ。
うまく気配を隠しているつもりだろうけど常日頃から各種ストーカーに付回されていた俺たちを舐めるなよ。
密偵の気配なんてストーカーに比べたら漏れまくってる。
「話、戻すけど、この召還は透流くん目当てだと思うのよね」
「あぁ、俺もそう思う」
「透流くんが無事に見つかっても・・・・・・」
「わかってる、救世主役は俺がやる。透流にはこんな面倒で危険なことなんてやらせるわけには行かない」
「うん、ありがとう」
「お前にお礼を言われる筋合いはないんだけど?」
「・・・わかってるわよ」
「お前も手伝えよ」
「もちろんよ。透流くんを守らなきゃ」
俺たちは頷きあった。
「今何時かな・・・」
朱里が呟き俺は腕時計を見る。
時計の針は午後9時を指しているが太陽の位置は少し傾いているだけだ。
午後2時か遅くても3時くらい・・・?
俺たちがここに召還されたのはお昼くらいだったのだろう。
「疲れたな」
「うん」
「疲れた頭ではどうにもならない、少し休もう」
「そうだね」
「向こうの部屋が寝室になっていた。朱里はベッドで寝ろ。俺はここで寝る」
「ありがとう」
朱里はクスリと笑うと立ち上がり、
「じゃぁ、お呼びがかかるまでおやすみなさい」
寝室へ向かい、
「あぁ、おやすみ」
俺はその背を見送ってソファに横になった。
透流、絶対に探し出すからな。
俺たちは鋭気を養うためにしっかり熟睡したのだった。
そう、しっかり熟睡した。
途中、起こしに来たらしいが俺も朱里もまったく起きなかった。
俺たちが起きたのは翌日の日も高くなった頃。
「透流!?」
思わず飛び起きた。
いきなりだった。
いきなり透流の気配を感じた。
「浩輔くん!」
朱里が寝室から駆け出してきた。
「これって・・・これって!!」
俺は大きく頷いた。
「透流だ」
読み返しが不十分のままUP。
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