自サバ女って何ですの?
わたくし、フェティア=バージアとラウレンツ=ボルクが婚約したのは、15歳のとき。
高位貴族としては遅い婚約だったが、王家の婚姻などのもろもろの事情が重なった結果である。
あちらの方がようやく落ち着き、そろそろ相手を決めねばと両親と話していたところ、とある夜会でフェティアに一目惚れしたラウレンツ側から申し込みがあったのだ。
フェティアは侯爵家の嫡女、ラウレンツは伯爵家次男。それほど家格差もなく、ラウレンツは騎士として身を立てる予定だったとのことで、腕も立ち、実直な性格と聞く。
しかし、人の印象など鵜呑みにできるものではないと、一通り侯爵家の密偵が調べてみることになるが。
伯爵家が困窮していて支援目当てというわけでもなく、侯爵家の権威が目的というわけでもなく、純粋にフェティアを欲しているとのこと。
取り敢えず、為人も真偽も確認しようと、両親を交えて顔合わせをすることに。
そこには、穏やかに微笑む伯爵夫妻と、がちがちに緊張したラウレンツがいた。
それから、何度か交流し、問題なさそうだと判断したフェティアの意志によって、婚約は成立したのだった。
問題ないと思っていた。そう、学園に入学するまでは。
貴族が義務とされる、学園に通い始めてから、何かがおかしいと思い始めた。
婚約当初から、まめに手紙や贈り物をしていた婚約者は、学園に入学してから頻度が減り、今では定例のお茶会にも欠席が増えてきた。
理由を聞くと、友人付き合いで、ということしか分からなかった。調べようと思えばできなくもないが、一応その後の埋め合わせはされている。まだその段階ではないかと、フェティアは思い特にラウレンツに苦言を呈することはなかったのだが。
「へー、ラウの婚約者、フェティアちゃんっていうんだ、可愛いね~」
婚約者と待ち合わせていたはずのカフェに、何故か、見知らぬ女性が一緒に来た。
それに、連れ立ってやってきたときは、肩を組み、笑いながら、だ。
「…ラウレンツ様?」
「ああ、すまない、フェティア。どうしても来るって聞かなくて」
「ごめんね、婚約者同士の逢瀬に邪魔して。ラウの婚約者に会ってみたくてさ~。だってこいつ、真面目で融通利かなくて、面白みないでしょ?」
口を開けて大声で笑いながら、その女性は勝手にラウレンツの隣に腰掛ける。
ぱちぱちとフェティアは目を瞬かせた。
なんだろう、この無礼者は。
フェティアは侯爵令嬢だ。その自分に挨拶もせず、許可してない名前を呼び、婚約者と知っていながら、隣に座る。
「それで、どなたですか? わたくし、紹介も受けておりませんが」
冷ややかに問うと、ラウレンツが慌てながら、言い繕う。
「こちらは、同じ騎士科で男爵令嬢のイロナ=ユントゥネン」
「どうも、よろしくね~」
「そうですか。ユントゥネン嬢」
「かたっくるしいな。イロナでいいよ、フェティアちゃん」
イロナは笑い飛ばすが、フェティアは淑女の笑みを崩さず。
「わたくしは、あなたに名前呼びを許可しておりません。バージア嬢とお呼びください」
「うわぁ、出た出た。淑女のなんたらってやつ。あたし、男兄弟で育ったし、そういうの苦手なんだよね」
「おい、イロナ」
「ほら、あたしってサバサバしてるじゃん? 細かいこと気にしないっていうか」
おや、とフェティアは思う。
もしかして、友人が言っていたのはこれだったのだろうか。
「なるほど」
まさかお目にかかれるとは思っていなかったが、よりにもよって自分の婚約者繋がりで出逢うとは。
「何、1人で納得してんの? 感じ悪いよ、そういうの~」
イロナはからかうように言っているが、完全にフェティアを見下している目だった。
自分のように気安い付き合い方はできないだろう、みたいな優越感すら見える。
「いえ、友人に聞いていたのです。自サバ女、というものを」
「自サバ女?」
「はい、ラウレンツ様。何でも、自分はサバサバしているので、淑女の遠回しの表現や、陰湿なやり方は合わないと言うのだとか。
ただ無神経で失礼な性質を、サバサバという言葉で言い換えるというのです。
ついでに、男同士の付き合いとはこういうものだと、男女の距離をはき違えた無礼者にみられる傾向なのだと」
初めて見ましたわ、と続けると、イロナが分かりやすく気色ばむ。
「ねえ、それってあたしのこと言ってんの?」
「それ以外の何だと?」
「え、失礼なのは、フェティアちゃんの方じゃない? 初対面で無神経とか無礼者とかさ」
「あなたの言動のどこが、そうでないと言われるのです?」
訝し気にフェティアは見る。
無礼者というより、もはや珍獣を見る目つきで。
「婚約者であるわたくしの目の前で、ラウレンツ様と肩を組み、婚約者同士の交流に断りもなく参加。
初対面であるにも関わらず、上位貴族に対する礼儀も挨拶もない。名前呼びを許可していないのに、繰り返す。敬語すらできない。まだ、わたくしの従妹の3歳児の方が弁えてましてよ」
「っ! 何か言ってよラウ! お前の婚約者だろ!!」
「いや、フェティアの言うことは正しい。すまない、こんなのを連れてきて」
「分かってくだされば、と言いたいところですが、ここ最近の不義理はこの方のせいですわよね?」
原因が分かった以上、再考せねばならないだろうか。
「おい、ラウ!」
「黙れ」
「今日はこれでお開きにいたしましょう。ラウレンツ様、誠意というものをみせていただきますわ」
ヒステリックに喚くイロナを一瞥した後、フェティアは立ち上がる。
ごきげんよう、とそれだけを残して立ち去った。
さて、改めて調べたところ、やはりあのイロナという男爵令嬢に振り回されていたとのこと。
確かに、友人付き合いというものはあるだろう。
同じ騎士を目指すものなら、男女とはいえ、連帯感が生まれてもおかしくはない。距離感を間違えなければ問題はなかったのだが。
ボルク家から、ユントゥネン家には令嬢の教育如何について抗議したらしいが、一向に直る気配はないようで、ラウレンツは距離をとろうとしたらしいがうまくいかず。
結局は、ボルク家との婚約は解消になった。
フェティアへの対応も含め、この程度のことをあしらえなければ、侯爵家の婿としては不適格だと見做されたのだ。
現在学園では、婚約解消の原因となったイロナは、周囲から避けられているとのこと。
話しかけようとしても誰からも逃げられ、少し離れたところでひそひそクスクスされ、癇癪を起こしては侮蔑の目で見られていると。それは、騎士科でも。
元々、同じ騎士科でも女性の、真面目に騎士を目指すものからは敬遠されていたのが、男性からも同じ対応をされるようになったのだ。
今までは、女みたいにそんな細かいこと気にしないとか、男同士みたいなものという名分をかざして傍若無人に振舞っていたが、それも通用しなくなったということだ。
まあ、ラウレンツには未だに付き纏っているとのことだが、もう無関係なので好きにしたらいいと思う。
ただ、騎士としてはやっていけないだろうことは誰が見ても明らかで。
王家は言わずもがな、どの貴族家も、あのような礼儀も節度もない、無神経な人間を側におきたいとは思わないからだ。
ユントゥネン男爵家は継ぐものがいる。
騎士として身を立てることはできず、あの性質では婚姻も難しいだろう。
少なくとも、彼女の望んだ未来は閉ざされたようなものだ。
しかし。
「自サバ女って本当に存在したのねえ…」
友人の夢物語だと思っていたわ。
了
なんか、書きたいものと違うものができた。ほわい?




