ナポ子、ヒスる。
「ど、どうしてくれんだ! 床に思い切りぶちまけちまったじゃねえか、べ、弁償しやがれ!」
「ゆ、勇樹様こそ、私を汚した責任をとってくださいよお!」
畳にぶちまけられたナポリタンを囲って俺とナポリ女は言い争っている。ああ、最悪だ、クソ!畳にナポリタンのソースがべったりついているじゃねえか。
「ひ、人聞きの悪いことを言うな! おっ、俺はヤリ●ンじゃねえぞ!!」
「ヤ●チンって何ですか? 美味しいものですか?」
「いや、臭くて苦……って、ナニを言わせてんだ! このポンコツが!」
「ヒィィン! 更年期ですか!? ヤリ●ンだかハミ●だか知らないですけどさっきから怒ってばっかりです、怖い!」
ナポリ女は涙目で頭を抱えて、その場で踞る。
うっ、言葉がきつかったかな。しかし、俺だって怒りたくなるわ!訳の分からない存在に訳の分からないことを言われて混乱してるんだ。とりあえず、冷静になってこの目の前にいるアンノウンに話を聞くとしよう。
「はあはあ、大きな声を出して悪かったよ。でもな、人の家に我が物顔で上がり込んでいきなり『私はナポリタンの精です』とか『私を食べないでください~』って何だよ? とりあえず、本名を教えてくれ。場合によってはポリスに通報しなきゃならないからな」
「あ、はい……私も興奮してごめんなさい。そうですね。勇樹様は私と初対面ですし、自己紹介しますね。私はナポリタンです!」
鳥頭かな?
「よし、決めた。お前は今日から『ナポ子』な。おい、ナポ子。とっとと家から出ていけ」
「な、ナポッ……あ、安直過ぎます! もっと愛嬌のある可愛らしい名前で呼んでください!」
「うるせえ! わけのわからないこと連呼しやがって……ポリスに通報されないだけマシだと思え! お前なんか『ナマポ』でもいいくらいだっ」
「ひ、酷い! 酷すぎます!」
あー、もう、興奮しすぎてますます腹が減ったわ。とりあえず、床のナポリタンはごみ袋に入れて廃棄だな。それとこの犬のクソみたいに寒いなか外に出るのは億劫だが腹が減って仕方ない。片付けが済んだらまたメシを調達しにコンビニだな。
「あっ、あっ! わ、私を捨てる気ですか」
ごみ袋にナポリタンを入れていると横からまた涙目でナポ子が口を挟んでくる。
「勘違いセフレみたいなことを言ってんじゃねえ! お前は捨ててないだろ!」
「ま、まだ、食べられるじゃないですか。三秒ルールって言葉があるくらいですし。私を粗末にしないでください! バチが当たりますよ」
「もうとっくに三秒過ぎたわ! 埃まみれなんだよ! ま、まあ、確かに食べ物を粗末にしたのはちょっと悪いけど……って、お前、このナポリタンを食べないで下さいとか言ってたじゃねえか」
「あ! やだ、た、食べないでください!」
「何なんだよお前は! 捨てるって言ってるだろうが!」
ナポ子は床で欲しがり屋の子みたく手足をバタバタとさせと泣き出す。やばい、この女と会話していると頭が痛くなってくる。とっとと、コンビニに行こう。スーツの上からコートを羽織り、財布を持って玄関に向かう。
「あ、ど、どこに行くんですか」
「コンビニだよ、どこかの誰かさんのせいで俺のメシがなくなったからな」
「ま、また、私を買う気ですね? やだあ!」
「も、もう、ナポリタンは買わねえわ! マジでお前その危ない言い回しやめてくれない? そのうち、俺がしょっぴかれるわ!」
「な、何を買う気ですか」
「お、お前には関係ねえだろ? 俺の胃袋は行き当たりばったりだからな。見てから決めるさ」
「う、浮気は許しません。ナポリタンを買ってください!」
「な、何が浮気は許しませんだ! ナポリタンを買うのを嫌がったり、薦めたり……二重人格かお前は! だいたい、ナポリタンを買ったらお前が妨害してくるから食えねえだろ!」
「ぶ、仏壇にでも飾ってください。そうすればWinWinですね」
「何がWinWinだ! ナポリタンを仏壇に飾る馬鹿がどこにいるんだよ! 馬に蹴られて鼻もげろっ」
「ヒィ! ど、怒鳴らないで下さいよう」
も、もう知らん!
俺はドアを思いきり開けて、コンビニに向かって走る。背後でナポ子の喧しい声が聞こえてきたが、無視する。俺はお腹が空いてるんだ、余計なエネルギーを使わせないでくれ。あ、鍵するの忘れてた。まあ、ここいら田舎だし、俺みたいなボロアパートに入り込む変態はあのナポ子以外はいないだろ。すぐ戻ってくるし、まあいいか。
──十五分後。
「あ、お帰りなさい。どんなナポリタンを買ってきたんですか?」
部屋に戻ると、ナポ子はコタツで蜜柑を頬張っていた。
「お前まだいるのかよ! ナポリタンは買ってねえよ……。オムライスだ」
「え、勇樹様って意外と……あ、なんでもないです」
「言いかけはやめろ! 何が言いたいんだよ、ハッキリ言え!」
「あ、その、見た目と反して子供っぽい食べ物が好きなんですね」
「どういう意味だよ! 子供っぽい名前のやつが言う台詞じゃねえだろ!」
まったく。
コイツがどういう存在なのかとかなんで俺の名前を知っているのかとか気になることは山のようにあるがとにかく今日は疲れた。明日になったらコイツは叩き出してやるとして、メシを食おう。俺はまたコンビニで買ってきたオムライスを取り出す。
「はあ、いただきま……」
「じ~……」
口にオムライスを運ぼうとした瞬間、目の前に俺をガン見する黒髪ショートの幼女が現れた。うーん、白昼夢かな。




