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君の心を開いた俺の土魔法

作者: くろのわーる

気分転換でびゅーと書いた短編です。ただただ勢いだけで改稿とか全くしてないので変なところがあると思う。書きたくなったから書いた。そして、恋愛ものなのにファンタジー臭くなるのは恋愛もの初心者ということでご勘弁を



 舗装が行き届いていない馬車道は慌ただしいビートを刻むように俺の軽い身体を跳ね上げる。

 馬車での移動も今日で一週間、こんなにもビートを刻まれては俺のキュートなお尻でも流石に割れてしまう。


 なぜ、こんな苦労をして馬車に乗っているかと言えば、時は1ヶ月前に遡る。


 貴族子息子女の義務でもある定期魔力測定で問題は起こった。


「まさかクルスが王級を超える魔力量を持っているなんて・・・」


 自分の息子の魔力量が王族すらも超える量だと知り、愕然とするドランレイ子爵家当主でもある父親。


「どうしたものかしら・・・」


 父親と母親の2人は王家すら超える魔力量を持つ息子に嬉しさを覚えると共に高位貴族達に知られたら面倒事に巻き込まれる心配をしていた。


「「・・・はぁ」」


 2人の溜息はとてつもなく深かった。


 この世界では魔力量=権威と言うくらいには重要視されている。勿論、魔法属性も重要だが…実際、王国では魔力量が原因で昇爵や降爵が行われる事が間々あり、隣国の帝国に至っては魔力量で皇帝が選ばれると言われる程だ。


 『三男』のクルスは侯爵家の血を半分受け継いでおり、少しとはいえ王家の血も混じっているため、血統は申し分なく昇爵を狙う貴族や降爵の憂き目にある貴族達からしたら跡取りとして喉から手が出るくらいには欲しいだろう。


 唯一の救いは男子というくらいか…。これが女子だったら魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする貴族社会、王家を巻き込んでドランレイ子爵家が大変な事になっていただろう。



 クルスの魔力測定から一週間後、ちょうど侯爵家当主とその夫人である祖父母が孫達に会いに子爵領に来たので相談することに。


「クルスのことでお母様とお父様に相談があるのよ。ねっ!あなた」

「ん、あ〜まあ、そうだな」

「ちょっと!大事なことなんだからしっかりしてよ!」


 何処の家庭でも強いのは妻である事実は変わらない。


「クルスに何かあったの?」


 普段はハキハキと話す義理の息子が言い淀んている姿を見て、これは中々の大事なのではと祖母は話しやすいようにと助け船を出す。


「じ、実は・・・」


 ゆっくりと戸惑いながらもクルスの父親から語られる魔力測定の結果は大いに祖父母を驚かせた。


「・・・ふむ」

「まさか…クルスに王族を軽く超える魔力量があったなんて…」


 通常、魔力量が多い者はその多さ故に魔力制御が上手く出来ず、漏れ出る魔力が周囲に影響を及ぼす。


 特にまともな訓練を受けていない幼少の頃に多く見られ、最悪は魔力暴走を引き起こし大事故に繋がる事例があった。


 しかし、クルスの場合は意思が覚醒してからというもの隠れて魔法を使い倒していたこともあり、制御もお手のもので漏れ出る魔力は極僅か、家族の誰1人もクルスの膨大な魔力量に気付ける者はいなかった。


 また、王族を超えるような魔力量を持つ者を無役にしておける程、貴族社会は甘くないが侯爵家にも子爵家にもクルスに就けるポストは現状では空いていない。

 クルスの為に新たに貴族家を興すにも金銭面も領地も人もない。


「・・・困ったわね」

「「・・・」」


 祖母の呟きに反応して言葉を返す者はクルスの母親だった。


「お母様、クルスを姉様がいる辺境伯家で養子にしてもらおうかと思うの、どうかしら?」


 母の姉、侯爵家の長女は王国の南に存在する脅威、原始の大森林から王国を護る役割を担う大貴族。


《王国の防壁》とも言われるフォールデン辺境伯家に嫁いでいた。


「あの件ね。・・・いいかもしれないわね」

「確かに・・・クルスなら条件を満たすな」


 王国でも指折りの大貴族。フォールデン辺境伯家に長女が嫁いだのは元侯爵夫婦にとっても満足で誇らしかったが問題は長女が第一子を出産した後に起こった。


 当時、辺境伯家と侯爵家という大貴族家同士の結婚とあって、両家や周囲の貴族家、それこそ王国内からも南の防衛が盤石になると後嗣と共に期待が寄せられていたのだ。


 そんな重い重圧の中、なかなか妊娠しなかった長女もついに懐妊し、期待はある意味で叶ったと言えよう。しかし、叶い過ぎたとも言える。


 生まれてきた子は期待通り王級を超える魔力を持っていたが同時に希少で強力な魔法属性も宿していたのだ。


 その魔法属性は貴族達が最も恐れる『毒』の魔法属性。


 魔力を宿し、常人よりも強力な肉体を持つ貴族達であっても毒には抗いづらいのが実情。


『貴族を殺したいのなら毒を使え』と言うのがこの世界での常套句だ。


 生まれた子に罪はない。辺境伯夫婦も待望の子供に出来る限りの愛情を注いでいたが幼く多過ぎる魔力はついに暴走してしまう。


 母親の姉である長女は巻き込まれ、一命を取り留めたが代わりに子を産めぬ身体になってしまった。


 一般的には魔力暴走が起きても貴族は保有する魔力で威力を減衰する魔力ガードを使い、さほど大事にはならないのだが長女よりも子の魔力量が圧倒的に多いことが災いした。


 最早、子を成せぬ大貴族の家に跡継ぎが1人では不安を募らす家臣や傘下の貴族達。


 王宮からも南の防衛の為だと要望で側室を願われたが辺境伯は妻を思い、願いを一顧だにせず本妻(長女)に拘った。


 これには周囲から多少の反発があり、蔑ろにしては支障があると妻からの説得もあり、辺境伯は仕方なく傍系からの養子を受け入れることで妥協したのだ。


 しかし、辺境伯家の家格に合う魔力量は最低でも公爵級以上。


 公爵級の魔力量を持つ子などそうそうに居らず、ましてや第一子は毒属性で魔力暴走を起こしている。


 半端な魔力量では養子に出しても生死に関わると公爵級の魔力量を持つ子供の親達に二の足を踏ませていたのだが今回はクルスに白羽の矢が立った。


 馬車の窓から見える自然をボ〜ッと眺めながら俺は事の顛末を回想していた。

 そして、疲れたので寝る。城に着いたら誰か起こしてくれ。


 肩を揺すられ、目を覚ますとそこは城門前。どうやらやっと着いたようだ。


 城門から城内へと続く通路に執事やメイドが並び綺麗に整列して迎えられる。

 まずは侯爵家である祖父母が前を行き、次に子爵家である両親と俺達兄弟が後に続く。

 老紳士たる執事長が誘導し、部屋へと通される。


 その際に辺境伯家との顔合わせは晩餐でと言われ、両親に叱られながら俺はダラダラと過ごした。


 晩餐の準備が整い、メイドさんに先導され大食堂に足を運ぶ。

 入室の順番があるようで家格が1番下の子爵家からだ。

 席につき、祖父母や辺境伯家の人々を待っている間、テーブルを見渡せば銀食器に紛れ、ひとつだけ木製の食器が置かれていた。

 それを見て、前世の知識がふと蘇る。


 銀食器は毒に反応する。つまり、あの木製の食器が置いてある場所には辺境伯家の長女が座るのだろう。


 そんな事を考えていると祖父母も到着し、程なくして辺境伯家の人々も到着した。

 辺境伯家当主は荘厳な雰囲気を纏ったイケおじで夫人は母親と姉妹ということもあり似ていた。


 その2人の後ろを歩くのは一人娘であるアナスタシア。

 俺はアナスタシアを一目見て、胸が高まり体温が特に顔の温度が上昇するのが自分でもわかった。


 アナスタシアは長い黒髪に毛先は魔法特性が強く出ているようで紫色に変色していた。

 瞳もサファイアのように深く綺麗な瞳で見ているだけで吸い込まれそうになる。


 全員が着席し、辺境伯家当主の挨拶で晩餐は始まり、我が家ではなかなかお目にかかれない食事が運ばれてくるが俺はアナスタシアに見惚れていた。


 両親に話し掛けられても曖昧な返事を返すばかりで両親は困った表情をする。


 アナスタシアは自分ひとりだけ違う食器類に疎外感を感じているのかその表情は優れない。

 俺は純粋に彼女の笑顔が見てみたいと思い、声を上げる。


「辺境伯閣下、晩餐の最中に無粋ですが魔法を使用する許可を頂けませんか」


 突然の申し出にも辺境伯は動じず、余興としても面白いからやってみろと言う。

 許可を貰い、俺はアナスタシアを見遣る。彼女は俺の視線を受けても興味は薄かった。


 それはそうだろう。彼女は自身の魔法に人生を苦しめられているのだ。

 本心では魔法なんてなければいいのにとすら思っているかもしれない。


 それでも彼女を救えるのは俺の魔法だ。


 席につき、静かに集中する。俺の魔法属性は土。

 世間では地味な魔法なんて言われることもあるが俺はこの土魔法がことのほか、気に入っていた。


 イメージするのは前世の世界にあったカトラリー。

 アナスタシアにもせめて、みんなと同じ食器類を使って欲しい。今のままではまるで序盤に虐められているシンデレラだ。


 両手で握り締めた手の中に魔力を注ぎ、イメージを固める。

 わずか5秒でクリスタル製と思えるスプーンが出来上がる。次いで人数分創ったらフォークやナイフも創っていく。


 俺が土の造形魔法で創ったカトラリーに食堂は静まり返っていた。


「・・・素晴らしい」


 辺境伯が呟いたことで食堂の時間が動き始めた。


「閣下、もしよろしければこのカトラリーで食事をしませんか」


 再びの沈黙もあっさりと破られる。


「本当に良いのか?」


 閣下の疑問は当然だ。この異世界でガラスはまだ定着しておらず、超超超高級品として扱われる。


「構いません。その為に創ったので」

「わかった」


 了承を得たことで給餌のメイド達に緊張が走る。この異世界でガラス製のカトラリーなど目の前にある物だけなのだ。


「安心して下さい。この程度、いくらでも創れますので」


 俺のひと言でブリキみたいになっていたメイドさん達が動き出し、それぞれの席に配っていく。


 アナスタシアにも配られ、彼女は恐る恐るカトラリーを手に持つ。


 その後の晩餐はそれまで以上に話に花が咲いた。


 食後、上機嫌な辺境伯から無礼講を言い渡された俺はアナスタシアが座る椅子の前に跪く。


 そして、愛の言葉を告げる。


「可憐なあなたにはこの花が似合う」


 差し伸べた両手に魔力を込めて、ガラスのチューリップを創り出す。

 そのチューリップの造形は素晴らしく、アナスタシアは造形魔法に驚くのも忘れて、ガラスの花を見つめる。


「この花をあなたに」


 差し出されたガラスのチューリップに自然と手が伸びるが途中で引っ込めてしまう。

 アナスタシアは辛い記憶を思い出す。


 それは物心がついた頃、初めて毒魔法が発現した時の記憶だ。

 庭園に咲く、色とりどりの花がアナスタシアのお気に入りだった。

 どれくらいお気に入りかと言うと庭師の静止も聞かず、自身で水やりや手入れをしていたほどだ。


 だがあの日、初めて毒魔法が発現した日。


 庭園に咲く草花は一瞬で色褪せ朽ちていった。その悲しく苦い記憶が蘇る。


「大丈夫です。私の創ったガラスは色褪せない」


 俺の言葉でアナスタシアはガラスのチューリップを受け取り、今日1番の笑顔を見せてくれた。


 大好きな花、しかし幼き日より触ることさえなくなってしまった。

 自分が触れれば、枯れてしまうからだ。でも久しぶりに触れた花は色褪せることもなければ、枯れることもない。

 不変的なガラスのチューリップはアナスタシアの心を開かせるのに充分だった。


「ありがとう」


「その笑顔が見たかった」



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