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ペットな王子様 番外編集  作者: 水無月
黒猫王子と弟
7/12

黒猫王子と弟 7

「おっす」

「いらっしゃい」


 翌日、昼前にやってきてくた蓮を、私は笑顔で出迎えた。

 蓮の後ろには、朝からうちを抜け出して蓮の所へ行っていたラウルの姿。

 魔法で瞳を黒く見せ、こっそり借りていった柾の服から、蓮に買ってもらったらしい服に着替えている。これなら、普通の子供に見えなくない。

「ありがとね、蓮」

「いやいや、もともと俺の身内がひまわりに迷惑かけてるわけだし、気にすんなよ」

 こそっと言った私に、こそっと言い返す蓮。

 ラウルには聞こえなかったようで、何を言ったか気になる素振りを見せたものの、それよりも柾の事が気になるらしく、ラウルの視線はリビングの入口へ向けられていた。

「柾ー!」

「はーい」

 名前を呼ぶと元気な返事と共にリビングから現れる柾。

 蓮を見ると嬉しそうな顔をしたものの、視線はきょろきょろと落ち着きがなかった。

「どうしたの、柾?」

「朝からラウルが見あたらないんだよ」

「俺なら、もがっ」

 柾の心配そうな表情に思わず口を開いたラウルだったが、蓮が素早くその口をふさいだ。

 私は誤魔化すように、柾に笑顔を向ける。

「きっと散歩に行ってるのよ。いつもの事だから心配ないって」

「そっかー」

 残念そうに呟いた柾はラウルの存在に気付き、気を取り直したようににこっと笑った。

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

 言い慣れないからか、ぎこちなく挨拶を仕返したラウルに思わず微笑みそうになるのを堪えながら、私は蓮に視線を向けた。それを受け、口を開く蓮。

「柾、こいつは俺の姉ちゃんの息子で、しゃく 朔夜さくや。柾と同じ年。遊びに来たのはいいけど俺も両親も用ができちゃってさ。話は聞いてると思うけど、夕方まで一緒に遊んでやってくれよな」

「うん。わかった!いこ、朔夜くん」

「うむ」

 柾に誘われ、嬉しそうに返事をしたラウルだったが、その返事のしかたに柾はきょとんとした。

 確かに、普通のお子様は『うむ』などと返事しないだろう。というか、私はすっかりなれてしまって違和感がなくなっていたが、つっこみどころ満載な話し方だ。数時間の間に、蓮に矯正されているはずもない。

「えーと…」

「柾」

 どうしようかと考える私の隣で、柾を呼び寄せる蓮。

「朔夜は今、漫画の影響で殿様言葉にはまってるんだ。何もつっこまず、そのままつきあってやってくれるか?」

「うん。わかった」

 耳元でそっと告げた蓮に、こくりと頷く柾。

 再びラウルに笑顔を向けると、二人でリビングに入っていった。

 何やらゲームをはじめようといるらしい二人の会話を聞きながら、私は蓮に向き直った。

「蓮、ナイスフォロー」

「まぁ、不思議がられると思ってたし」

 苦笑いを浮かべる蓮だが、ラウルの扱い方はさすがだなーと思う。

 今日の段取りもほぼ蓮が考えてくれたし、それに…。

「ラウルの偽名、蓮が考えてくれたの?えーと、釈朔夜だっけ?」

 さらりと紹介した初耳なラウルの和名にこっそり驚いていたので尋ねたものの、蓮はどこか遠い目をする。

「え、何?」

「いや、思いつかなかったから、昔変人王子が使ってた偽名を借用しただけなんだけどな」

「あー、そうなんだ?」

 なんでピオニーさんがそんな名前を使っていたのかつっこみたかったが、どうやらいい思い出ではないらしい蓮に、それ以上尋ねることは出来なかった。

 そして、用がある蓮が去っていくのを見送ってから、リビングに戻る。

 二人はすでにうち解けて、ゲームを楽しんでいるようだった。

「いっけぇ!」

「ぬぅ!?だが、それくらいでは負けはせんぞ!」

「おぉ!?そうくるんだ」

 二人でゲーム画面を見ながら騒いでいる様は、普通の小学生と変わらない。

 こちらの世界の同じ年頃の子供と遊ぶのは、ラウルにとってはいい経験だろう。

 できればテレビゲーム以外で遊んでくれた方がいいが、最初は互いに知っているゲームが打ち解けやすいのかもしれない。

 慣れたら外で遊ばせようと母親めいた気持ちになりながら、私は二人にミルクティーをいれ、ランチの準備をしにそっとキッチンへ移動した。

 二人の楽しそうな声をBGMに、朝から仕込んでいた生地を伸ばし、具を盛り付け、オーブンでピザを焼き始める。その間にスープとサラダを作りはじめた。

 少しして、ふと背後に気配がして振り向くと、そこにはひょこっと顔を出してキッチンを覗いているラウルと柾がいた。

「姉ちゃん、手伝うよ!」

「うむ。何かすることはないか?」

 どうやら、いい匂いにつられて、ゲームを中断して手伝いに来てくれたらしい。

 我ながら、いいしつけをしたと思ったりする。

「二人ともありがと。じゃあ、柾はサラダのお皿を用意してくれる?あと、ラウ…」

 うっかりラウルと呼びそうになり、はっとする。

「らう?」

 言葉を途中で途切らせた私を不思議そうに見て、最後の言葉を繰り返す柾。

 私は平静を装いながら、どう誤魔化そうか頭を回転させた。

「らぅンチの準備にあと必要なのはー、フォークとかスプーンとかかな?朔夜くん、そこにあるの、テーブルに並べてきてくれると嬉しいなー!」

 無理やり妙な発音のランチで誤魔化すと、私はラウルに笑顔を向けた。

「うむ。よかろう」

 私が必死だったのがわかったのか、笑いを含んだ瞳で答えるラウル。

 柾も少々不審そうな顔で私を見たものの、手伝いを始めたラウルにつられるように、自分に与えられた仕事をし始めた。

 内心ほっとしつつも、気を引き締める私。

 ラウルがぼろを出さないかと心配だったが、人の事を心配している場合ではなかった。

 慣れとは恐ろしいもので、ついいつものように接してしまいそうになる。

 他人のふりは意外と難しいようだった。



 その後も、私もラウルも時々ぼろを出しそうになってはなんとか誤魔化しつつ、時間はゆっくりと過ぎていった。

 なるべく二人で遊ばせているので何を話しているのかあまり聞いていなかったが、二人とも楽しそうに過ごしているので、私は安心して洗濯やら自分の部屋の掃除やら、宿題などを片付けていた。

 そして、夕飯の仕込みでも始めようかとキッチンに立った時、柾とラウルがひょっこりとキッチンに現れた。

「姉ちゃん、ちょっと外に遊びに行ってきてもいいかな?」

「いいけど、もうすぐ日が暮れるよ?」

 まだ暗くなるには時間があるが、今から遊びに行くには少々遅い気もする。

 庭に出て遊んだりしていたので、今更外にいくとは思っていなかった。

 不思議に思って柾を見つめると、その後ろでラウルが何か訴えるように私を見つめているのに気づく。

「?」

 何が言いたいのかわからずにラウルを見つめ返したものの、すぐに柾が口を開いた。

「そんなに遅くならないから、ちょっと行ってくるね!いこ、朔夜くん」

「う、うむ」

 柾に促され、何か言いたげに私を見つめながら玄関に歩いていくラウル。

 なんだろうと思いながら玄関で二人を見送り、考えるためにリビングに戻ると、少ししてラウルが庭に続く窓から現れた。

「ラウル?柾は?」

 驚いて声をかけると、ラウルは眉根を寄せながら私の隣に腰をおろした。

「俺を探しておる」

「かくれんぼ?」

「そうではない。『ラウル』をさがしておるのだ」

「…あぁ!そういうこと!」

 柾にとってのラウルは、黒猫の事。

 どうやら柾は、朝から姿の見えない黒猫を探しに外に出かけたようだった。

「どうも猫の俺が大好きらしくてな。まぁ、猫になっても俺の魅力が隠しきれんのはわかっておったが、ずっと猫の俺を褒めおるのだ。だが、朝から姿が見えんので、だんだんと心配になったらしい。一緒に探してほしいと頼まれたのだ」

「全然心配してない私には、頼みづらかったのかな」

 私はラウルが目に見える場所にいるので当然気にしていなかったのだが、柾にとってはラウルはちょっぴり勇敢な子猫。

 朝から夕方まで一度も姿を見せない子猫を、勇敢だからこそどこかで怪我などしていないかと心配になったのかもしれない。

「猫の姿で迎えに行ってくる。サクヤはレンが急に迎えに来て帰ったとでも言えばよかろう?」

「いいけど…ラウルは、もう一緒に遊ばなくていいの?」

 もとはといえば、ラウルが柾と子供同士で遊んでみたかったのだ。

 せっかく楽しそうに過ごしていたのに、予定より早く終わらせるのはもったいないような気もした。

「仕方ないであろう?兄が弟を心配させてどうする」

「いや、兄じゃないけどね」

「心配したままではマサキも楽しくなかろうし、俺が猫の姿で遊んでやることにした。俺のほうが、大人だからな!」

 どうやら、ラウルは柾に気を使ってくれているようだった。

 自分の身を案じてくれているのが、嬉しかったのかもしれない。

 いつもなら寝るとき以外は猫の姿になるのを嫌がるくせに、自ら私に口付けをして黒猫に戻るラウル。私を見上げて尻尾を揺らすと、走ってリビングの窓から外へ出て行った。

「さて、迎えに行くか」

 互いに思いやる気持ちを嬉しく思いながら、私はそう言って立ち上がった。

 蓮に予定変更のメールをしながら、私も柾を探しに外へでかける。

 そして、黒猫を嬉しそうに抱きしめている柾と、仕方がないのぅとでも言ってそうな黒猫ラウルを見つけ、自然と微笑が浮かんだのだった。

 

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