魔王様と討伐隊 □ 07
いざ、尋常に勝負! とばかりに王の間の扉を勢い良く蹴り開け、十人の団体様が雪崩れ込んで来た。
その騒がしさに驚いたんだけど、取り合えず手に持っていたカップはイシュへと預ける。
勿論、イシュへご馳走様を言うのは忘れませんよ。
魔王討伐なのだから、彼らは当然私を殺す気満々な訳なんだよね。
その表情も決死の覚悟って感じで、皆様緊張感が漲っているんだよ。
その辺は、十分頭では理解しているんだけどさ。
感覚が他人事なんだよねぇ。
映画撮影見学会で、迫真の演技を見ているって気分?
凄いわぁ、と感心して見ていたら、一行の脇を擦り抜けて近寄って来るシャイアに気が付いた。
「あ、シャイアご苦労様」
おいで、と犬を呼ぶように掌を向けて彼を呼ぶ。
シャイアは人型から、本性である双頭双尾の巨大な狼へと戻り、玉座に座る私の足元へと座った。
ぽん、と膝を叩けば二つの頭が乗せられるので、撫で撫でしながらシャイアに尋ねる。
「ちゃんと出来た?」
「無論だとも。魔王様の期待を、この俺が裏切るはずもないだろう?」
胸を張るシャイアに良しと頷き、改めてご一行様へと目を向け、私を倒そうとしている一人一人の顔を確認する。
ご一行様は十名。
半分は、かなり体格も良いから、肉体労働である剣士なのだろう。
残り半分は、割と細身なタイプだから、魔法とか精霊とかを使っちゃう術師なんだと思う。
「お……お前が魔王かっ……?」
先鋒にいた剣士と思わしき彼はリーダーなのか、少し動揺した様子で呟くように私を見る。
まぁ、玉座に座っているからには王だと思うんだろうけど、座っているのが少女なんだから狼狽えるわよね、普通。
「はい、初めまして。魔王です」
彼の不安を取り除いてあげるべく挙手してみせたが、しかし。
やだ、どうしよ。
すんごい好み。
滅茶苦茶、好み。
山男みたいに赤く日焼けしているけど、素肌は白っぽいのだと思う。
髪はブロンドだけど、長旅のせいでくすんでるのかな。
私を睨み付けてくる瞳は翠。
無精髭もイかしてるしっ、頬擦りとかでゾリゾリしたいんですけどっ。
生真面目で頑固そうな表情にキュンキュンきちゃう。
身長はイシュ位の高さみたいだから、一八〇センチは軽くいっているよね。
ゲームで見るような、ごっつい剣を片手で構えてんだから、力あるよね。
それにしても、草臥れたボロコートで身体が見れないよ!
裸見せろよ!
痴女じゃないから、全裸を見せろなんて言わない。
上半身だけ脱いで見せてくれっ。
胸筋見たいよ!
上腕見せろよ!
太腿どんだけだよ!
割れた腹筋見せろよ!
男ならケチケチすんなよ! と、少し興奮してしまう私。
さっき、ちょっとだけ聞いた声も、低くて掠れていて良い感じそうだし。
もうちょっと彼の声を聞きたいんだけどなぁ。
「ねぇ、貴方名前は何と言うの?」
呼び掛けようにも、名前を知らなければ話にならないから聞いてみたのに。
彼の後ろにいた、術師らしきプラチナブロンドの美人なお姉さんが、私を睨み付けながら鋭く遮る。
「名で貴方を縛るつもりよ! 答えないで」
へ? そんな事出来るの? と思わずイシュを振り返る。
「魔王様のお力でしたら、名を知らずとも縛る事等容易い事でございます」
へぇ、そうなんだ。
一つ賢くなったと頷き、再び術師のお姉さんを見たら、目が釣り上がっていてびびった。
王の間はかなり広くて、ご一行様とこの玉座までは結構距離があるんだけど、私の無言の問いに答えたイシュの声は良く通ったみたい。
「……っ……愚弄するにも程がある……獣畜生如きに案内をさせるのも馬鹿にした話っ……覚悟するが良い、魔王よ!」
あ、何か今、ささくれを逆撫でするような言葉を聞いた気がするなぁ。
「今日こそは魔王を倒し、時の迷宮へと送り付けてみせよう! 永遠の牢獄の中で苦しみ、己の蛮行を悔い改めるが良い!」
美人なお姉さんが詠唱しだすと、残りの術師達も合わせて唱え始める。
私が名前を尋ねた剣士さんも含め、詠唱の邪魔をさせないようにと他の剣士さん達が術師さん達を取り囲んで護る。
透かさず、控えていたガルマ、サナリが私の前で壁となり、次いでイシュも加わって護りの態勢を取る。
シャイアは美人術師の言葉に、敵意剥き出しで臨戦態勢を取っているし。
でも。
魔族が過去に色々とおいたをしたのは分かっているけどさ、最近は大人しくなったと思うんだよね。
過去、魔族がやらかした非道に付いては、詫びるつもりもあったし、損害に付いても検討していた訳よ。
なんつーの?
向こうにも言い分あるのは重々承知してますけど、人の話も聞かずに問答無用って、お前様はそこまで偉いのか? みたいな。
こちとら、友好且つ穏便に話し合いましょうよって気持ちだったし?
それを、獣畜生? 丁重にお迎えに行ったシャイアを畜生如きですと?
蛮行を悔い改めろとな?
蛮行なんて言われるような事、私は何もして無いですよ?
胸の内でふつふつと反芻していたら、ちょっとだけイラッとしちゃったのよね。
そしたら、あら不思議。
私の前で壁を作っていた四人が、弾かれたように素早く脇に退いたの。
大公達が何で青褪めて私を見るのか甚だ疑問だけど、折角退いてくれたんだし、と玉座から下りてご一行様へと向かって歩き出した。
普段なら、直ぐに咎めるイシュなんだけど、私が一行に近付いて行く事に、何にも言わなかった。
私が無言で近寄って行くもんだから、術師達の詠唱が早口になる。
討伐隊との距離が残り半分って辺りまで近寄った所で、術が完成したみたい。
術師が一斉に私へ向けて両腕を突き出すから、一旦立ち止まったんだけど、ちょっと微風が吹いて前髪が揺れただけだった。
今のが、時の迷宮とやらへの切符だったのかな?
「そ……そんな、馬鹿なっ……まさかっ! もう一度……もう一度よっ!」
美人術師が悲痛な声を上げ、青褪めた術師全員で再び詠唱をしだす。
人の顔見て青褪めるのって、重ね重ね失礼だと思う。
不機嫌も顕に再び歩み寄ると、緊張の糸が切れたみたい剣士の一人が斬り掛かって来たので、五月蝿い! と睨み付けてやった。
高く振り上げられた剣が、一瞬にして屑鉄となり剣士の足元に零れ落ちる。
剣の重みが無くなった為に、踏鞴を踏んだ剣士は、手に握っていて残された柄に、驚愕の表情を浮かべて慌てて引き下がった。
そしたら、今度は二人の剣士のスイッチが入ったように、いきなり斬り掛かって来るもんだから、すんごくイラッとしたのよ。
鬱陶しいわっ! そう思った瞬間、突然立っていられない程の重力が掛かったように、剣士二人が勢い良く床に倒れ込んだ。
起き上がろうと顔を真っ赤にさせては、起き上がれずに顔を青くして、と忙しなく顔色を変えながら、一生懸命床から起き上がろうとしてんだけど、強力接着剤でくっつけたようにピクリとも動かない。
まだ邪魔するか、と無言で最初に斬り掛かって来た剣士を含めた、残り三人を睨み付けたけど、目を見開いて青褪めているだけで、それ以上は邪魔する様子も無かったので、そのまま術師達へと歩み寄る。
歯を噛み鳴らしながらも、震える声で必死に詠唱を続ける術師達の目の前、美人術師の前で立ち止まると緩く小首を傾げその顔を見上げる。
全員が目を閉じていたけど、私が直ぐ傍にいる事は分かるんだろうね。
詠唱の声がちっとも揃ってないし、こんなんじゃ術も完成しないだろうと、素人の私にでさえ分かる。
「時の迷宮だっけ? 貴女達が行ってみる?」
静かに告げた瞬間、詠唱は止んだ。
腰が抜けたように床へへたり込む術師達を一瞥してから、残る剣士達、大変私好みの剣士さんを見上げて、私は改めて尋ねたのである。
「さて。貴方のお名前は?」