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魔王就任 【討伐編】  作者: 市太郎
討伐隊がやってくる
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魔王様と討伐隊 □ 05

 覗いた記憶から伺うには、インコ君達は少しだけ魔力が使えるらしい。

 死体に虫が取り付かないようにとか、他の動物に食べられないようにとか、魔力の全てが食事に関してだったけど。

 犬が餌を前にして涎を垂らすように、インコ君達は一ヶ月もの間、小動物のような円らな瞳を、期待でキラキラと輝かせ涎を垂れ流していたのだ。

 何なの。

 この可愛い連中。

 萌え度が高くて、ちょっとよろめいてしまった。

 ぎゅっと目を瞑ったままのインコ君の愛らしさに、可愛いなぁと思う。

 姿は確かにガーゴイルなんだけどね。

 ペットとして飼いたいけど、私の魔力事情だとインコ君は直ぐに破裂しちゃいそうだし、飼い殺しする位ならやはり野に帰してあげるべきだよね。

 野鳥じゃないんだから、野に返すっていうのはちょっと違うんだけどさ。

 ご飯を前にキラキラしているインコ君達は萌えるけど、キラキラの対象が腐っていく死体は萌えの中には入らないし。

 『でも、可愛いなぁ』

 心の中でぶつぶつ思いながら、二度と会えないかもしれないので、ここは思う存分撫で愛でてやろうとインコ君を撫で撫でしてやった。

 イシュが一生懸命後ろで何か言っているけど、聞こえない振りだ。

 でも、そろそろインコ君のキャパを超えちゃいそうだから、程々にしとかないと手の中で破裂させてしまう。


 ふと気付くと、暗褐色だったインコ君の体が灰褐色になっていた。

 撫でる手を止めると、インコ君がやけに震えている。

 緊張でプルプルというよりかは、寒さでガチガチといった具合である。

 あれ? と顔を上げると、豪華絢爛な広間はいつの間にか霜が下りて、所々氷柱が下がっている有様。

 冷気の発信源である大公達に目を向けると、未だ礼を取った姿のままだが、その背中にどす黒いオーラが見えるのは気のせいだろうか。

 魔力が見えない私なのに不思議ね。

 イシュを振り返ると、手の中でガチガチ震えているインコ君へ、凄い殺意の篭った目で睨んでいた。

 どこがスイッチだったか良く分からないけど、彼らはインコ君に激しく嫉妬しているようだ。

 アホらしいと溜息を零すも、このままインコ君を離したら大公達に殺されそうだし。

「……あーっと、何だっけ。もう直ぐ、討伐隊が獣領に来るんだよね。シャイア」

「はっ」

 普段は低く掠れた耳に心地良い声なんだが、とってもドスの効いた声で応える。

「責任持って討伐隊を王都まで誘導するように。傷付けたらお仕置きだから、心して励むように」

「しかし」

「励むように」

 異論を唱えようとするシャイアの言葉を遮って、簡潔に告げる。

 納得いかないようだったが、魔王の命令なので渋々頷くシャイアを確認してから更に告げる。

「傷一つ無く、丁重にお迎え出来たらご褒美考えておく」

 その瞬間、シャイアは広間から消えていた。

 某居酒屋の『喜んでー!』が聞こえたような気がした。


 消えたシャイアのいた場所を見つめ、ご褒美は言い過ぎだったろうか、と不安が過ぎった所にガルマの声が響いた。

「魔王様!」

「何?」

「妾にもご褒美を下され!」

「……」

 うん、ガルマはとってもストレートだね。

 でも、順番が逆だと思うんだな。

「じゃぁ、ガルマはご褒美の為に何してくれる?」

 そう尋ねながら、未だ寒かろうと手の中のインコ君を、懐の隙間に入れてやる。

 シャイアが消えた分、若干冷気が弱まったはずのに、なぜか一層強くなった気がした。

 冷気が強くなった元を振り返ると、イシュの長い髪がメデューサのように浮き上がり揺れている。

「……」

 阿呆は無視しておこうと、再びガルマに目を向ける。

 現段階ではガルマの仕事は無いと思う。

 討伐隊が通るのは獣族の領地だし、私の許可無く他種族が領地を侵すのは禁止としている。

 勿論、商業的、交流目的で他種族の領地を行き来する事はなんら問題無い。

 大公であり族長であるシャイアが、配下の魔族に厳命すれば、味見といって討伐隊に手を出す者もいないだろうし、王の間にある扉も使わずに、颯爽と仕事に向かったシャイアの張り切り具合を見れば、手助けも必要ない事だろう。

 悔しそうに肩を震わせているガルマを見て、しょうがないなぁと私は溜息を零す。

 大公とか呼ばれている癖に、何でこうも手間の掛かる連中ばかりなのだろうかとも思うのだが、余り無下にも出来ないというのが実情なのである。

 それは、王が臣下を思う情なのかもしれないけどね。

 実際、どんなに醜悪な魔族であろうと、芋虫や毛虫みたいな魔物であろうと、嫌いにはなれないのだ。

 あ、団体の昆虫類は、ちょっと勘弁して下さいとは思うけどね。

 黒い生物以外なら、どんな容姿の魔族だろうと魔物だろうと嫌悪は持たない。

 寧ろ大公でもあるガルマなんかは、顔を合わせる機会も多い分、情も厚くなってしまうのは仕方無いのかもしれない。

 自分でも甘いなぁ、と苦笑浮かべながらガルマに近寄る。

「必要あれば呼ぶから、今は大人しくお家に帰ってなさいな」

 一三〇センチ程に縮んでしまった私へ、礼を取っているガルマの頭は気持ち低い場所にある。

 少し目を細め、自分の魔力を意識しながら、下げられているガルマの頭を撫でてやる。

 私の身体という器に収まり切らない魔力が、意識する事でガルマを撫でる腕へ集まるのが分かる。

 と言っても、私は魔力が見えないのでイメージで、伸ばした腕がほんのり温かくなるから集まっているんだろうなって程度なんだけどね。

 ドライアイスの靄のようにゆらゆらと漂う魔力が腕に集まりましたー。

 ガルマを掃除機に見立てて、はい! 吸い込まれましたー。

 というイメージ。

 こんなイメージでも、ちゃんと魔力を与えているらしいので良しとする。

 唯、未だ加減が分からないので、ちょっとのつもりだったのだけど、ガルマの息がハァハァしだしたので早々に安全な距離まで離れる。

「という訳だから、お家で待機!」

 ハウス! と扉を指差すと、ガルマは幾分満足したのか、それ以上は駄々を捏ねる事なく、纏うドレスの裾を摘んで淑やかに膝を下げた後、しずしずと扉を使って広間から出ていった。

 やけに満足した顔をしていたけど、ガルマの出て行った扉を眺めながら、さっき悔しがっていたのは、実は演技だったのではないかと、今頃になって気付いた私。

 ガルマには、色々としてやられる事が多くて、本音と演技が良く分からないのが問題なんだよね。

 イシュはその点、凄く分かり易いから、助かってたりもするんだけどねぇ。

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