魔王様と討伐隊 □ 02
後少しで、王の間に到着である。
壁に手を付きゼーハーと上がった息を整えていたら、復活したイシュに追い付かれてしまった。
「僭越ながら、お抱え致しま……」
「だが断る!」
小首を傾げるように覗き込んでくるイシュの言葉を、みなまで言わせずきっぱりと告げた。
電光石火に答えた。
撃てば響く反応である。
正に阿吽の呼吸である。
傾いた事で、さらりと流れるキューティクル満載な煌びやかな白銀髪、心配気に憂いを含んだ表情は、張り手を飛ばしたくなる程美しい。
しかし、薄紫の瞳の奥には、狡猾さが垣間見えるから油断がならない。
黙ってれば目の保養なんだけどなぁ、と溜息を零しつつ顔を上げた私は、側近達が待っている王の間へと入って行った。
この世の贅沢の限りを尽くしたと言わんばかりの王の間には、既に三名の側近達が私を待っていた。
豪華絢爛贅沢三昧なのは、王の間に限らないのだけどね。
天井には、過去、時の人であった最高の職人による、最上級のなんとか石で作らせたシャンデリアがずらり。
壁には、過去、時の人であった最高の職人による、タペストリーが以下省略。
床の絨毯や大理石も、勿論以下省略。
インテリア全てに於いて、勿論以下省略。
私の寝室、執務室、この魔王殿全てが、過去以下省略。
兎に角、キラキラチカチカして眩しい広間なので、切実にサングラスが欲しい。
魔界なんだから、もっとダークでおどろおどろしい内装にすれば良いのに、何で金ぴかなんだろう。
いえ、ホラー系にしろとは言わないけど、私の好みで選べるのならシンプルでアースカラーが良いんだけどな。
魔界に賓客なんて来ないんだから、無駄に豪華にしなくても良いと思うんだよね。
十歳児には見合わない、黄金で出来たどでかい玉座に座る。
どんだけ成金趣味なのよと思ったりもするが、他の椅子を用意してくれないので仕方がない。
イシュに文句言っても、威厳がとかどうとかで取り合ってくれない。
威厳を見せ付ける相手そのものが来ないんだから、無用の長物じゃないか。
大体、十歳児の少女体で、威厳なんてどうやって出せというのかと。
お尻が冷えるし、硬くて座り心地が悪いから、ふかふかのクッションを敷いてあるんだけど、ふっかふかし過ぎてこれまた安定が悪い。
近々、イシュをぶん殴ってでも、椅子を交換させよう。
しかし、たまにしか使わないんだから、交換に掛かる費用の方が無駄かしら。
後で真剣に検討しようと考えつつ、何とか安定する位置をキープしてから、既に控え待つ側近達に目を向けた。
イシュを始めこの広間に揃っている側近達は、己が種族の長であり大公である。
宰相であるイシュは私の斜め後ろに立っているが、他の側近達は半下座の姿勢で控えていた。
私の、というか魔王の許し無く、魔王と目を合わせる事は現在禁じられている。
私自身には特に影響は無いのだけど、結果として影響はあるか。
相手の目を見るという事は、相手に意識が向いている訳で、目を合わせる事で、現在無制限で垂れ流し放題の私の魔力が、相手へ流れて行くらしい。
私の魔力も否応無くというか、落ちてくる水を拒否する事が出来ないのと同じで、高い所から低い所へ水が流れるように、自然且つ強制的に相手へ流れて注がれていくんですって。
唯、私は毎日が垂れ流し状態で、自分の魔力がどれ程であるのかさっぱり分からないんだけど、相手側にとってはナイアガラの滝を一身に受ける程の衝撃らしいのね。
ナイアガラと説明された訳じゃないけど、私はそのように理解した訳よ。
しかも濃度も濃いから、魔力の低い者だと魔力が注がれ過ぎて、直ぐにパンクしちゃうみたい。
そう、空気入れ過ぎてタイヤが破裂するのと同じね。
しかし、垂れ流し垂れ流しって、私がまるで締まりが無いようで嫌だわ。
そもそもこの少女体も最低限の器であって、身体の中に魔力が納まりきらずに溢れているんだよね。
同じ空間とかちょっと擦れ違うだけでも、この余分に溢れているのが流れていくらしいのです。
だから、下位の連中相手だと加減が分からないから、私の代わりにイシュが気を付けてくれている。
下手したら、目を合わせていなくても、余分に溢れている魔力が流れ過ぎて、気絶しちゃうって事もあるみたいだし。
イシュが気を付けてくれているお陰で、今の所は目の前で破裂されたという体験は無しで済んでいる。
魔力がそこそこある中位クラスになると、余分に溢れている魔力が流れていっても問題は無いし、寧ろ魔力の質が上がって多少は強くなるみたい。
ちょっとなら目を合わせて平気だけど、短時間で失神コース。
上位魔族や、今この広間にいる大公とかになると、余分な魔力が流れても全然問題無いし、やはり魔力の質が上がるから私の近くにいると良いらしい。
目を合わせて会話しても、中位クラスよりかは大分保つんだけど、垂れ流された魔力の濃さが変に作用する。
症状として、目がうるうるしだす。
次いで、頬が赤くなってくる。
呼吸が荒くなる。
股間がとんでもない事になっている。
ここまで来ると、ゾンビのようにフラフラと私へ手を伸ばしてくる。
下手に相手を見つめると貞操の危機へ直結する為、上位連中に関しては特に気を引き締めているのだ。
もう少し私自身が魔力の調整とか出来れば、下位の魔族相手でも、直接目を見て話す事も出来るようにはなるらしいんだけどねぇ。
取り合えず、今は目を合わせなければ問題が無いので、低頭している彼等を順に見る。
私の一番近く、右手に控えているのが、私の近衛及び、陸地での軍を担う獣族長のシャイア。
彼の本性は、双頭双尾の狼。
獣の姿となれば六メートル位あって、私と彼ではアジアゾウと子供の対比である。
リアルもののけ姫が出来ちゃうのである。
彼が正に、男は狼なのよ~と化さない保証があるのであれば、ワンコになって貰って毎晩同衾をお願いしたい位である。
双頭共瞳は琥珀で、毛は勝色というか、暗い紫みの青い色合いで、光を浴びて無くてもキラキラしてとっても綺麗。
人型の時は、頭一つになるのが不思議だけどね。
きりりとした眉に、少しやんちゃさが覗く眼差し、唇も少し厚くて肌は浅黒い。
本性が巨体なので、人型の時もそれなりにでかくて二〇〇センチ近くはあるし、筋骨隆々なんだけど無駄なく引き締まった体躯をしている。
暗紫青の髪は、前髪が少しだけ長い無造作なショートなせいか、ワイルドなハンサムに見える。
他の大公に比べたら幾分口調も砕けているし、私個人の意見では親しみ易さではダントツ。
犬は人間の友達って言うじゃない?
シャイアは犬でなくて狼だけど、会話だって出来ちゃうし、でっかいワンコにもなれるし、動物好きの私にとっては、無条件で親しみが湧いてしょうがないのだ。
正直、大変好みなんだけど、いかんせん彼の性質は狼なので、油断すると喰われるとか喰われるとか喰われるとか、肉体破損及び貞操面で大変な目に合うから、同衾出来ないのが非常に残念である。
惜しいものだと一息零し、シャイアの隣に控えている男を見た。