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魔王就任 【討伐編】  作者: 市太郎
終わりよければ
29/31

魔王様と討伐隊 □ 28

 翌日、ラズアルさんとロゼアイアさんと揃って顔を合わせてしまった。

 突き飛ばして逃げ出してしまった事を非常に気まずく思いながら、ぼそぼそと謝ったらラズアルさんは爽やかで優しい笑顔を浮かべて気にしてないと言ってくれた。

 本当に良い人である。

 顔だってハンサムで、はにかんで笑ったりすると少年っぽい純な表情になったり、そんな反面では騎士道精神で凛々しく自分を厳しく律していたりとかね。

 女性にモテたんじゃないかなぁと思うんですよ。

 魅力的な男性に、何て素敵な女性なんだ的な瞳で見られたりしたら、勘違いするしないは別としても満更でもないし、二十七歳からちょっと数年経っていたりしても、トキメクってモンじゃない?

 ドキドキなんですよ。

 甘酸っぱいんですよ。

 そんな甘酸っぱい自分に、取り乱しそうになったりするんですよ。

 でも残り数日だし、ラズアルさんとロゼアイアさんには良い気分で帰国して貰いたいという見得もあるし、恥ずかしいの我慢して頑張っているんですよ。

 実際、ラズアルさん眼福な人だし。

 性格も誠実だし、ウチの大公等みたいに押し倒して来ないだろうし、安心出来るし。

 ティータイムでもご一緒に、とお庭でラズアルさんとお茶を飲みつつ、しみじみラズアルさんの顔を眺めながら思っていた。

 魔界にバカンスとかで来ないかなぁとか、バカンス出来る観光地自体が魔界に無いしなぁとか、バカンスならやっぱり海だけど、海だとフェリーサイズの蛸だか烏賊もどきが海岸まで遊びに来るし、人間がのんびりバカンスなんて出来ないよなぁとか、山は魔獣いるからハイキングも無理よねぇとか、ハイキングといえば山だけど温泉あるのかしら、火山帯ってあったっけ? とか。

 ラズアルさんとの出会いを生かす方法から、なぜか観光産業を本気で考え出していた。


 無言でラズアルさんをガン見して考えていたからか、ラズアルさんも無言で私を見ている事に遅まきながら気付いて、ちょっと恥ずかしくなってしまう。

 魔族の癖に凡庸な顔していてすみません。

 見つめないで下さい。

「魔王殿は、魔界から……人間界へ出掛けられたりはなさらないのですか?」

 僅かに視線を下げながら、問い掛けてくるラズアルさんが、ちょっとだけ恥ずかしそうな仕草をしているように見えた。

 はにかんでんのかっ!

 大男の癖に可愛いじゃないかっ!

 観光産業を考えていた事も忘れ、思わず喰い付きそうになったけど、彼の言葉にはたと気付いた。

 そうだよね、無理に魔界に来て貰わなくても、私が人間界に行けば済む話じゃない?

 いずれは人間界に行って、どんな世界なのか実際に自分の目で見たいとは思っていたのよ。

 唯、それはもっともっと先のビジョンだと考えていたのだけど、リオークア国王には貸しがあるし縁も出来たし、こっそり遊びに行っても良い気がする!

「是非行きたいですっ!」

 身を乗り出して、食い付いてきた私に驚くラズアルさん。

 それまでの甘酸っぱい雰囲気は立ち所に消え去り、リオークア国の産業に付いて、リオークア国ならではの特産物、名産物等を根掘り葉掘りと聞いた。

 他にも、宗教観とかね。

 リオークア国は他国に比べて軍事に力を入れているから、軍国とも言われているんですって。

 軍人が政治の中心にいるのも、他国では見られない特色なんだとか。

 他国を凌駕する軍国という見栄もあって、今回この少人数で挑んで来たというのもあるらしい。

「魔王殿を前にし、己がいかに驕っていたかを思い知りました。死を覚悟して参りましたが、少なからず魔界へ打撃を与えられるのでは、と心のどこかで思っていたのでしょうね。国に戻りましたら、より一層鍛錬に務めたいと思っております」

 いやいやいやいや、私が規格外なだけですから、とは流石に言えなかったけど、胸を張って言い切るラズアルさんに水を差すのもと思ったので黙っていた。

 少ししんみりとした空気になったけど、再びリオークア国に付いての話に花が咲いて、昨日の気まずい思いも払拭出来たと思う。

 リオークア国は海に面しているから、漁業が盛んであるが、土地はそれ程豊かではないので農作物に関しては少し弱いとか、ロゼアイアさんがウチの離宮で使っている術を知りたがっているとか。


「決めた。今回の件に付いて、リオークア国から見返りを要求しましょう」

「見返り、ですか?」

 ラズアルさんが、予想外とばかりに目を見開いて驚く。

「国王とかその回りの人とか、実際に何か要求された方が気分も落ち着くでしょ? 魔族相手に貸しを作りっぱなしというのも気持ち悪いだろうし。何か無いかなぁと考えていたんだけどね、国札を見返りとして頂きたいな」

「……え? ……国札が見返りで宜しいんですかっ?!」

 国札とは、パスポートみたいな物で、出身国を証明する札なのね。

 この国札を持っていないと、国境を越える事が出来ないの。

 人身売買とかで死亡届けを出されてしまうと、この国札が貰えなくなるから、他の国へ売られてしまったらその国からは出られないのだ。

 勿論、自国から他国へ逃げ出す事も出来ない。

「リオークア国で正式に国札を発行してくれれば、人間界に見聞しに行っても問題は無いでしょ? 無いよりあった方が色々と融通利くと思うし、どうかなぁ。やっぱり、魔族相手に国札を発行するのは嫌かな?」

 嫌なら、偽造出来ると思うから、問題ないんだけどねって事は黙っておく。

 偽造の国札を持ち歩いているよりかは、非公式でも正規の国札を発行して貰う方が良いしね。

「いえ……その程度の事で宜しければ、大丈夫だと思います」

「本当? まだ、暫くは自由に人間界へは行けないと思うんだけど、行けるようになれば、ロゼアイアさんが知りたいと言っていた術に付いても検討出来るじゃない? 土地の様子とか天候の状況とかを見ない事には、術が構成出来るか分からないしね。それに、観光とかしてみたいし」

 観光にラズアルさん付き合ってくれたら、尚良いと思う訳なのですよっ。

 超私欲丸出しだけど、私王様だから良いと思うっ。

 大公等なんか、国札なんて関係無いだろうし。

 他の魔族だって、基本人間界には用は無いし、興味も無いから国札なんていらないだろうし。

「本当は、もう少し先の事として考えていたんだけど、折角伝手が出来た訳だし、問題が無ければ是非国札を発行して貰えると嬉しいかな」

「……あの、本当に国札だけで宜しいんですか?」

 半信半疑でラズアルさんが改めて確認してくるので、逆に問い返した。

「え。国札だとお手軽すぎる?」

 だって、パスポートを王様の責任で偽造発行してくれるんだよ? と思ったのだけど、よくよく聞けば、電車の切符並なお手軽さみたいなのね。

 旅行で他国に行くなら、ものの五分も掛からずに一往復分の国札が発行されるんだとか。

 出国入国に関する期間に制限は無くて、出入国の回数に制限があるんだそうです。

 留学する場合なんかも、この一往復分の国札が利用されているんだって。

 商業で使用する国札に付いては、定期券と一緒で一定期間内であれば何回でも出入国が可能なんだとか。

 それらとは別に、国王や貴族は『家』で国札を持っていて、没落するまで無期限で何度でも使用出来るそうであります。

 成る程、と頷いた私は、貴族御用達の国札を改めて要求したのでありました。

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