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魔王就任 【討伐編】  作者: 市太郎
終わりよければ
26/31

魔王様と討伐隊 □ 25

 何だか面倒臭くなったので、もうビジネスライクで進める事にして、令嬢との遣り取りで顔を強張らせているお嬢さん達に目を向けた。

「未婚で先のある娘が、一時とはいえ攫われたともなれば、色々と心にも無い噂や良くない風評が付いて回るでしょう。人間界では、貴女方のような若い未婚の女性が、一人で暮らす事に対しても、色眼鏡な目で見られると聞いています。リオークア国の国籍を貰い、宮殿に住み込んで侍女として働くといった身分が貰えるのであれば、リオークア国へ一緒に戻る方が良いとは思いますけど、そこまでリオークア国側が考えていないのであれば魔界で暫く生活するという選択肢もあると提供しているのです。その辺りは理解出来ますか?」

 一旦言葉を切り、お嬢さん達の顔を順に眺めると、其々が頷いたので続けて話す。

「勿論、これは提案なのであって、貴女方には無理強いをするつもりはありません。先も伝えましたが、魔界での安全と生活に就いては王である私が保障します。住むにあたっては仕事もして頂きますし、その賃金もお支払いは致します。但し、魔界で暮らす人々もいますが多くはありませんので、結婚は自然と遠のきますよ? といった事をさっき伝えたかったんですけどね。貴女方の待遇に対して、リオークア国側がどこまで用意しているのかを確認した上で尚、興味があるのであれば、もう少し詳しく話しますから遠慮なく聞いてきて下さいな」

 言いたい所はそんなモンかな、と私は緩く小首を傾げた。


 この世界の人間界に住む人間、未婚の娘達は親と共に暮らすのが常である。

 嫁ぐまでは親元で過ごし、嫁ぐこそが女の幸せであるという認識が一般的なのだ。

 早ければ十歳そこそこで僅かなりとも仕事を始め、十五歳前後で成人と見做され、きちんとした仕事に就き始める。

 十八歳辺りから適齢期に差し掛かり、二十五歳を過ぎれば行き遅れと見られる。

 二十五歳にもなって未だ結婚もしないというのは、本人にとって、また家族にとっても恥ずかしく思わせるらしい。

 今回、攫われたお嬢さん達に対して一番の気掛かりが、その嫁げるかどうかという事なのだ。

 裸にされたとはいえ、本人達は意識の無い状態だったから、ここは黙ってれば問題は無い。

 しかし、其々が村や街に戻った時に、以前と同じような暮らしが出来るのか、となるとそこが心配なのである。

 本当に、余計なお世話だなとは思うんだけどね。

 美しいと評判な娘が、二ヶ月近くも消息不明となって、何もありませんでしたと思う人の方が、少ないのではないだろうか。

 下世話な人間はどこにでもいるもんだし、そんな悪意混じりの風評で被害者なのに、肩身狭い思いで生活しなければならないのは気の毒に思う。

 ラズアルさんにちゃんと聞いた訳では無いけれど、お嬢さん達の待遇に付いてはまだきちんと決まってもいないようだし。

 同じ婚期が遅れるなら、魔界で暮らすのも有かなと思って提案してみたのだ。

 私が言いたい事を言い終えてから、暫しの間沈黙の時間が続いた。


 お嬢さん達も色々自分で考えているようで、帰る場所の無い四名は時折互いの顔を見合わせている。

「あの……」

 のんびりとお茶を飲んでいた所、沈黙を破って私に話し掛けてきた娘がいた。

 リオークア国から攫われてきた娘だ。

「何?」

「……あの……何で、そこまでして下さるんですか?」

 思ったよりも自分の声が大きく響いてしまい、他の娘から注目を浴びてたじろいでいたが、躊躇いながらも問い掛けてきた。

「ん~……単なるお節介かなぁ……ラズアルさん達が来た事で繋がった縁だからね。自分の家に戻れたとしても、その後は幸せに過ごしているのかとかは、少なからず思ったりすんだろうし。自己満足かな?」

 うん。

 要は、自分が後味悪い思いをしたくないだけなんだよね。

 地球でもメディア・パニッシュメントはあった訳だし、特に貞心の強い風習があるこの世界では、その傾向が強いんじゃないかと思ったんだけど。

 村八分とか、そんな心配する程でもないかなと思ったら、問い掛けてきたお嬢さんがしっかり私を見て言ったのである。

「私、魔界で暮らしてみたいと思います」

「……リオークア国の人だったよね。家に帰らなくても良いの?」

「はい。私の家も、どちらかと言えば貧しい家でしたし、いつ売られてもおかしくない暮らしでした。小さい村ですし、私が戻った所で返って親に居心地悪い思いをさせると思うんです。それならば、魔界に住むのも良いかなと思って……」

「私も、正直家には戻り辛いです……」

 別のお嬢さんが、躊躇いながらも口にする。

「成る程……ラズアルさん。一度、リオークア国のお偉いさんと相談して、もう少し具体的な待遇を提示して貰えるようにお願い出来るかな? 後、魔界に残りたいと検討しているお嬢さん達は、侍女に案内させるから魔界に住んでる人達が、どんな暮らしをしているか実際見てみると良いかも。それでもう一度良く考えてから、結論出してみたらどうかな。それからでも遅くは無いし」

 ラズアルさんとお嬢さん達に告げ、一様に頷いた様子を見てから、侍女のクレアティヌを呼んで、お嬢さん達の案内と魔界での生活のあれこれを説明して貰うようお願いし、お茶会はお開きとなったのである。


 結局、その後どうなったかと言えば、魔界に住んではどうかと、最初に提案した四名を含んだ半分にあたる十二名が魔界に残る事になった。

 魔界居残り組みがその後人間界へ戻る際には、便宜を図ってくれる事もリオークア国王からお墨付きを貰った。

 国籍は勿論の事だし、仕事や住まいに関しても、不遇な扱いはしないといった事等だ。

 居残る事に決めたのは、全て村から攫われた娘達だ。

 人の口に戸は立てられないとは言うけど、小さな村ではあっと言う間に噂にもなるだろうからしょうがないのかな。

 街から攫われたお嬢さん達は、仮に噂が立ったとしてもどうにかなる程度には裕福なようだし、戻れる家があるなら戻る方が良いしね。

 喧嘩吹っ掛けてきていたご令嬢も、青褪めた顔をしていたけど助けて貰ったお礼と、失礼な発言に付いて謝罪してきたのだ。

 貴族の令嬢なんて、戦国時代や中世でのお姫様と、扱いは似たようなものである。

 某と繋がりを持つ為に、結婚させられる駒みたいなもの。

 全員がそうではないけど、多くはそういう環境なのだ。

 家柄が大事なのも結構だけど、回りに左右されずに自分でしっかりと考えて大事な物を間違えないように。

 みたいな事を、偉そうだよ私と思いつつ、個人的意見として言ってしまった。

 折角、綺麗な容姿しているんだから、頭も冴えている好い女に育って欲しいじゃないの。

 私が好い女好きだから、理想押し付けているだけなんだけどね。

 それに、状況や立場を考えないでの行動は頂けないけど、物怖じもしないで発言する姿勢は良いと思うし、上手く伸びれば結構なやり手になるんじゃないかなって期待感もあったりする。

 そんな訳で、ラズアルさんとロゼアイアさんを残した帰国組みは、ラズアルさん達が連れて来た馬諸共、リオークア国へ転送されて帰国したのである。

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