魔王様と討伐隊 □ 23
それから二日。
ラズアルさんからは、その間に細々と報告を貰っておりました。
お嬢さん達は無事に今保護をされている状況でありちゃんと家まで送って行く事や、現在魔界にいる事等を様子を見ながら少しずつ教えていったのね。
いやぁ、流石にいきなりここは魔界でーすとか言ったら、折角落ち着いたのにまた動揺しちゃうじゃない?
そんな訳で少しずつ状況を教えて、魔族からも危害を加えられないんだ、と安心するまでに二日を要したのであります。
この期間が、短いのか長いのかは分からないけどね。
ラズアルさん達もいたから、落ち着くのは早かったとは思う。
で、確認した所、四名のお嬢さんはリオークア国外から攫われたみたい。
全員が異なる国から其々攫われたようだから、家に帰してあげるのに、少しラズアルさん達と四名のお嬢さん達とも要相談である。
取り合えず、私と会いたいという要望を頂きましたので、天気も良いしお茶でも飲みつつという事で、お庭でお茶会形式で対面する事になったのね。
イシュとガルマには遠慮して貰って、その代わりにシャイアとサナリがくっついて来た。
折角、保護したお嬢さん達なのに、イシュとガルマの顔を見て、道を踏み外させたら意味無いからね。
二十五人のお嬢さん達がいるから、お茶のセッティングとかは私の侍女達に任せてある。
そんな訳で、ラズアルさん率いる軍人組と、保護されたお嬢さん達と改めてご対面したのよ。
既に皆さんが待っていた訳で、私が近付いた事に気付いたラズアルさんが一番早く腰を上げ、続いて軍人組が直ぐに反応して立ち上がる。
軍人組に釣られたのか、おずおずとお嬢さん達が立ち上がったんだけど、一番最後に渋々と腰を上げたお嬢さんがいたので、自然と目がそちらへと向かう。
「魔王殿。この度は、娘達の保護へのご協力並びにご尽力頂きました事、改めて心よりお礼申し上げます」
「いや。それはもう良いから」
顔を合わせる度にとまでは言わないけど、事ある毎に謝辞を口にするラズアルさんには苦笑漏らしつつ、皆へは席へ座るよう促して自分も腰を下ろす。
侍女達が其々に用意したお茶を出している間に、保護されたお嬢さん達を順番に眺めていく。
濃淡に差はあるけど、全員が綺麗な銀の髪をしていた。
それなりに可愛かったり、綺麗だったりするお嬢さん達である。
うん。
イシュとガルマで慣れちゃったから、ちょっと『美』に対して感覚が鈍くなっているのよね。
あ、でも、お嬢さん達は皆人目を惹く容姿である事は間違い無いから。
お嬢さん達も私の事を、遠慮しがちにちらちらと見ている。
その表情から伺えるのは、自分より幼い子供が『魔王』であるという驚きかな。
後は、やはり見知らぬ場所だし、恐怖の対象である魔族と対面している、という怯えが少し滲んでいる感じ。
この二日間では危害も加えられなかったし、一国の軍人が貴人に対するのと同じように接しているのを見て、多少は安心を抱いているけど、いつ何時危害を加えられるかは分からないという不安だね。
そんなお嬢さん達の中で、一人睨み付けてくる娘がいた。
先程、渋々腰を上げた娘である。
あからさまな嫌々な態度や、私を見る眼差しが、未だ監禁中のスナイさんを髣髴とさせる。
ラズアルさんの隣に座っているから、このお嬢さんが件の貴族のご令嬢かと考える。
十五歳はいってそうだけど、二十歳には満たない十七歳前後って感じかな。
他のお嬢さん達よりかは、確かに育ちも良い分堂々とした雰囲気を持っているし、容姿に付いても一段飛び抜けてはいた。
何でそんなに強く睨み付けてくるのか、少々興味をそそられて視線を合わせていたんだけど、正直魔界を去れば関係の無い人になる訳だし、気に止める必要も無いか、と興味を無くしてラズアルさんへと目を向けた。
「で。リオークア国以外から攫われたお嬢さん達は、どうする事になったの?」
ノクレアン国のお嬢さんが三名、ナエンカーレ国のお嬢さんが一名である。
まず始めに自分達の事が話題になった事で、四名のお嬢さん達が緊張の表情を浮かべる。
その内の一人が、ラズアルさんと目を合わせ、促されるように頷かれると、躊躇いながら私に向かって話してきた。
「……この度、私達を助けて頂きまして誠にありがとうございました」
曲がりなりにも王へ、然も魔王へ直接言葉を交わす事に畏怖と緊張を抱きながらも、私に向けてくる眼差しはしっかりとしているし、ちゃんと自分の意思を持っているように見えるし、お礼も言う事も出来るしと好感が持てた。
「私達四人は、貧しさ故に親より売られた身です。こうして助けて頂きましたが、元より帰る場所がありません」
そこで言葉を切ったお嬢さんの後に続いて、ラズアルさんが引き受けて先を話す。
「このまま共にリオークア国へと連れ帰りまして、娘達の待遇は改めて考えようかと思っております」
「例えば?」
簡潔な私の問い掛けに、ラズアルさんが一瞬たじろぐ。
「国籍は? 住居は? 生活費は? 仕事の斡旋は? 国から受けられるべき保障や権利は? そういうの具体的に考えてはあるの?」
矢継ぎ早な私の問いに、ラズアルさんは何か言おうと口を開けたけど、躊躇ったように閉じてしまった。
「まだ、その辺りまでは決めてないんだ?」
「申し訳ございません」
弁解出来ない様子で恐縮するラズアルさんを余所に、小首を傾げて思案をする。
貧富の差が激しい人間界では、貧しさの為に子供を売る親が少なくないのだそうだ。
勿論、国は推奨しているはずもないし、禁止はされているけど、取り締まっている訳でもない。
その為、未だ人身売買なんて犯罪が暗黙の了解で跋扈しているのである。
この世界でも、日本と同じように子供が生まれると出生届を提出して、国籍が与えられるのね。
国によって年齢は異なるけど、国籍を持つ民は定められた年齢に達したら税を納める。
税を払う国民がいなければ、国の整備や防衛なんて出来ないんだから当然よね。
魔界にだって、ちゃんと納税義務はあるのよ?
しかも納税率一〇〇パーセントと、大変素晴らしいのよー! ウチの子達ってばーっ!
まぁ、ウチの事情はどうでも良いんだけどね。
で、売られた子供達は、死亡届が提出され、国籍を失ってしまう事になるの。
国籍を持たなければ、国境を越える事も出来ないし、当然結婚も出来ない。
その辺りは、日本の戸籍法と類似している部分が多いと思う。
住民票みたいなシステムは無いけど、やはり国籍を持たない人間が出来る仕事は限りがあるし、住む所だってまともな場所は望めないのだ。
「ねぇ? 貴女達は好きな人とか、将来を誓い合った人はいなかったの?」
矛先を変えて、四人のお嬢さん達に聞いてみたが、恥ずかしそうに顔を赤らめるも一様に頭を振ってみせる。
「そうなんだ……ラズアルさん達と一緒に、リオークア国へ行くのも良いと思う。ちょっと考えてはいたんだけど、一つの提案として、貴女達が嫌でないのなら、この魔界で一時期暮らしてみても良いわよ? 国籍は責任を持ってリオークア国で用意して貰えば良いし、先々リオークア国へ戻った際には、住む場所とか仕事とか優遇して貰えるように用意だけは整えて貰うとかね? 収入は人間界より相場は少ないけど多少はあるし、その分出費は基本的に掛からないからお金も貯められると思うし、魔界なら下手に治安が悪い場所よりも安全よ?」
これはあくまでも私のお節介で提案したんだけど、魔界が安全と言ったら例の貴族令嬢様が馬鹿にしたように鼻で笑いやがったのでございますよ。