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魔王就任 【討伐編】  作者: 市太郎
して良いコト悪いコト
18/31

魔王様と討伐隊 □ 17

 胸に突き刺さった氷柱から、驚きで目を丸くしたまま飛んで来た方、つまりはスナイさんをぎこちない動きで見る。

 部屋に入って来た時も幾分顔色が悪く強張っていたけど、今見る彼女は血の気が引いて真っ白といった顔色をし今にも倒れそうな程だ。

 ラズアルさん達も驚愕に目を見開き、固まったまま私を見ていたけど、私の視線がスナイさんへ向けられると、我に返った様子で弾かれたようにスナイさんを見る。

 本当にこの時は、全てが一瞬で色々な事が動いた。


「っ……スナイ殿! 何て事をっ!」

 ラズアルさんの咎める声が響くのと、大公達の心火が一気に燃え上がったのとどちらが早かったのか。

 目で見なくても分かる。

 大公達の激しい怒りを感じて、不味いと思った。

 この氷柱、人間だったら即死モンだし、人間の感覚でいるものだから、本当にびっくりし過ぎていたんだよね。

 だから、言葉を口にするよりも強く頭で、駄目だと思ったのよ。

 手を付けんな。

 殺すな。

 傷付けるな。

 といった事を強く思ったの。

 私の本能での命令に、大公達の動きが止まる。

 そういった事が、本当に全て一瞬で、僅か数秒の間だったんだと思うんだけど、驚きから段々落ち着いてくれば、刺さっている氷柱が、凄く良く出来たホログラムみたいになっているんだよね。

 ホログラムみたいに向こうが透けている訳でもなく、ちゃんとした氷柱に見えるんだけど私の体に穴を開けずに貫通している訳。

 無意識に止めていた息をゆっくり吐き出すと、逸早くイシュが傍に駆け寄って来た。

「魔王様っ!」

「あー……平気みたい……びっくりしただけ……傷とか怪我とか無いから」

 胸に突き刺さっていた氷柱に触れた途端、一瞬で消えてしまった。

 これも無尽蔵な魔力の賜物なんでしょうか。

 安堵感から息を吐くイシュの肩を軽く撫でると、緊張で強張っていたのか、イシュの力が抜けていくのが分かった。

 シャイア、サナリ、ガルマへと目を向けたら、三人とも半分本性が出ている状態だった。

 シャイアは上半身が獣化している状態だし、サナリも顔が大鷲になっているし、ガルマも露出度の高い濃紺なドレスを着ているのに、全身金色の鱗が出ていて顔が蛇化していた。

 本性を剥き出しにしてまで怒る所は初めて見るので些か驚いたけど、口から火まで燻って漏れてました。

 私の本能、天晴れである。

 彼等が止まってなければ、スナイさんを始めラズアルさん達がどうなっていたか、想像もしたくない状況になっていたと思う。

「三人共、私は大丈夫だから取り合えず落ち着いて」

 一応は人型に戻ったけど、シャイアは服が破れちゃったから上半身裸だし、怒り覚めやらぬって感じで、未だ皆の目は吊り上ったままだが仕方が無い。

 ラズアルさん達の表情も驚愕そのものだったが、軍人組と神官組では思いは異なるようで、魔術というか神術? を食らっても平然とした様子の私に驚いている軍人組に比べ、必殺の一撃が無駄に終わって愕然とした表情の神官組。

 スナイさん程では無いにしろ、ライカエッタさんの顔色も青く余り良くないようだが、ラズアルさん達のようには驚いてないから、スナイさんのやる事は承知していたのかなとも思う。

 スナイさんに至っては、持っている力を全て使い果たしました、所か命も削りましたって感じに、悄然とした様子で、辛うじて椅子に腰掛けているような状態。

 この場の空気をどうすれば? と思った所にイシュの低く冷めた声が響く。

「人間共よ。これは一体どういう事だ? 魔王様への暴挙暴言の数々、魔王様が寛大にも赦されているからこそ我等も黙ってはいたが、この度の事は暴挙が過ぎるであろう。攫われた娘達の件に関しても、魔王様自ら動かれ尽力を尽くされているにも拘らず、このような振る舞いが人間界での礼儀と言うつもりか」

 静かにとだが淡々としているだけに、イシュの怒りは相当なようで口を挟み掛けたら遮られました。

「恐れながら、此度に関してはご容赦を頂きたい。魔王様は気になさらないと仰られるのでございましょうが、貴女様は我等魔族に於いて掛け替えの無い方でございます。永きに渡り不在でありました王が漸くお戻りになられたのです。我等魔族の王は、人の王とはその意味が異なります。渇命する程に求めていた我等の王を、これ程に軽んじられながらも、唯黙せよとの命令は余りにも酷というもの。我等の心情もお察し下さい」

 普段のイシュからは到底想像も付かない、冷静なんだけど切々とした訴えに思わず、すみませんとぼそぼそ謝罪してしまう私。

「これ以上魔王様へ害為す事あらば、例え魔王様がお止めしようとも我等は持ち得る力全てを駆使し、お前達に永久の苦しみを与えてやろう。お前達人間は弱き柔な生き物。そう易々とは死なせては遣らぬ事を努々忘れるな」

「我等が魔王様は、人間を傷付ける事は好まぬ故、業腹ではあるが此度を最後に赦しはしようが、次は無いものと肝に銘じておけ。これまで為された事が無に帰し、魔王様が嘆かれる事は我等とて望みはせぬ。今もその首が繋がっていられる事、魔王様へ感謝するがよい」

「今もこうして首が繋がっていられる人間が、お前達だけじゃないという事を覚えておけ」

 珍しくも饒舌なサナリに続き、ガルマ、シャイアがラズアルさん達に告げていく。

 本気で、人間界全滅しても良いと思っているのが分かるだけに洒落にならない。

 私まで怒られ脅されている気分で、非常に肩身が狭く遣る瀬無いのであります。

 静まり返ったこの場で、逸早く動いたのはラズアルさんだった。

 腰掛けていた椅子を倒す勢いで立ち上がると、囲んでたテーブルを回り込み、私に向かい半下座となって深く低頭する。

 そんなラズアルさんに続く軍人組。

「貴公等の言われる通り、我等の首が刎ねられても文句を言えぬ愚行を冒した事、深くお詫び申し上げます。魔王殿のお怒りを我等の首で収めて頂けるのであれば、いかような処罰でもお受け致します。誠に申し訳ありませんっ」

 軍人組が揃って殺して下さいと、首を差し出してこられても正直困る。

 大公達を見ても、ラズエルさん達を見る目は非常に冷ややかだし、本当に困ったと思っていたら、ガルマがライカエッタさんに目を向けた。

「ライカエッタと申したな。スナイとやらの術にそなたも力添えしておったな?」

 背筋が一瞬で冷たくなるような声音のガルマに、名指しされたライカエッタさんが途端に青褪め震え上がる。

「…………兎に角、お嬢さん達の救出には協力します」

「魔王様」

 大公達の憮然とした眼差しが向けられ、イシュが非難混じりに私を止めようとするが掌を見せてそれを遮る。

「私は手伝うと言った。だから手伝う。でも、今回の件には、スナイさんもライカエッタさんも邪魔でしかないから、少し別室にて事が済むまで大人しくしていて貰いましょう。……シャイアに任せる。不自由が無い程度で、面倒見ておいて」

 私の命令だから、渋々スナイさんとライカエッタさんの腕を掴むシャイアだったけど、私へ向けられる眼差しは不満が篭められていた。

 軽く手を振り促すと、シャイアは二人を掴んで消える。

「ラズアルさん達を殺してしまったら、連れ戻したお嬢さん達を国まで連れて行く人達がいなくなるから困るでしょう。それに、私は首を刎ねる趣味は無いから。夕食まで時間もあるし、お互い少し頭を冷やしましょうか」

 苦笑浮かべつつ腰を上げた私は、ラズアルさん達にも宛がった部屋で休むように告げ、サナリは伝達係として残しイシュとガルマを伴い部屋を後にしたのだ。

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