魔王様と討伐隊 □ 15
それから、ラズアルさん達から会いたいとの要望も無いまま二日が経過した。
サナリに確認した所、どうやらスナイさんとライカエッタさんが、承諾しないまま平行線を辿っているのだそうだ。
他の八名は、寧ろ私達魔族の協力を仰ぐべきという意見で、既にまとまっているらしいのだけど、一行の責任者は神官であるスナイさんである為、やはりスナイさんを蔑ろには出来ない状況なのだろう。
同じ神官であるライカエッタさんは、スナイさん張りに激しく反発している様子ではないが、魔族と協力し合う事には嫌悪感があるみたい。
面子とか思想とか、その辺りの問題かな? と思ったりもする。
魔族からの協力に賛成している軍人組は、メンバーを変えてスナイさん達を説得しつつ、魔界に住む人間の方達とも入れ替わりでちょこちょこと会っているみたい。
現在、魔界に在住している人間。
つまり、過去に攫われて来た人間達は、一部を除き私の離宮にまとまって住んでいる。
私のと言うか、魔王の離宮です。
大奥ってヤツですよ。
私は女ですし、少女ですし、女性は目で楽しむ以外には特に興味はありませんので、以後使う予定も無いと言う事で、そのまま魔界に残った人達の為に利用する事にしたの。
離宮には部屋がたくさんあるし、残る事を決めた人達もそう多くは無かったしね。
と言うか、どんだけ侍らかせていたんだい、囲っていたんだよってな部屋数があるのですよ。
離宮の庭は、魔王の空位が続いている間に荒れ果ててしまったので、一掃した後畑にして残った人達に面倒を見て貰っているの。
私が食べる食材もだけど、彼等の食事に関してもこの畑で採れた収穫物が使われている訳。
魔族と同じに、擬似人肉なんて食べさせられないじゃない?
畑に果樹園に小さいながらも牧場だって付いているので、今の人数で十分やっていける規模なのだ。
この離宮には住んでない極一部の人間は、本気の恋愛であえて攫われて来たという人や、世話になった魔族に惚れ込んで居残っている人もいて、そんな人は魔族の家に住んでいるので食材の宅配サービスも行っている。
有料だけど、支払いは魔族だから問題無し。
離宮で働いている人達にも、ちゃんとお給金は出しているのよ?
まぁ、人間界の相場よりかは低いと思うんだけど、たまには人間界に旅行したいなんて場合は無料送迎付きだし、魔界を一人で歩いていても襲われないし、住む所はタダだし、食事は自給自足だけどそう悪くないと思っている。
後、目安箱もどきも設置してあって、改善して欲しいとか、こういうのがあると良いなんて意見も、可能な範囲で取り入れている。
予算とか、技術の都合とかもあるけど、アイデアは多いに越した事無いしね。
当初、そこまで人間に気を使う必要も無いという魔族もいたんだけど、私の独断で強行しました。
残っている人間が少数というのもあって、魔族の神経を逆撫でるような要望も無いし、今の所は良い流れでいっているから反論していた魔族も今はいない。
実際には、魔王様へ直々に反論なんて事は出来ないんだろうけどね。
権力って怖いですね。
まぁ、そういった環境で住んでる離宮の人達と、軍人組は地味に交流を深めているようでして。
力仕事に手を貸してくれたり、畑や果樹園で使用されている魔術に興味津々だったりと楽しそうでもあります。
離宮の庭は、ガルマの管轄なんだけど、人間界の穀物をなるべく多く育ててみようという研究も兼ねているの。
簡単に言えば、魔術と言う名のビニールハウスで多種類の植物を育てているようなものでして、その発想が目新しいと、術師さん達がうろちょろしているみたい。
一つの庭で、東西南北春夏秋冬の穀物が収穫されているんだから、日々研究熱心な術師魂が刺激されるのか、興味が惹かれるのも仕方無いのかもね。
端から見ていると、そんな暢気な状態で良いのかなぁと心配もしてみたり。
ラズアルさん達の出す答えがどちらでも問題無いように、こちら側でも着々と準備を進めている。
儀式の贄として集められたお嬢さん達が、リオークア国から攫われて来たとか関係無く、一度魔界で引き受けるつもり。
ステアーナ侯爵には引き続き、首謀者の屋敷の様子に付いて報告をして貰ってもいる。
ステアーナ侯爵の推測通り、現在贄として監禁されているお嬢さんは二十五人と確認も出来ている。
何かしらの虐待を受けている様子も無いので一安心ではあるけど、誘拐されているんだから怖い思いをし続けているのだろうし、なるべく早く帰してはあげたいのだ。
とは言え、こちらの都合もあるので、もう少しだけ我慢して貰おうと胸の内で謝る。
この二日、頭を悩ましている『お灸』に付いてなんだけど、どうしたら良いかなぁ。
こういう時、独裁者って困っちゃうよね。
感情からすれば、お前らは極刑だ! とも思うんだけど、人間とのいざこざをこれ以上増やしたく無いというのも本音。
でも、牽制はしたい。
ノクレアン国の司法に任せるべきだとも思うが、正しく裁かれるのだろうかという不安もある。
何せ、首謀者は下手な貴族よりも金を持っている商人らしいのだが、ステアーナ侯爵からの報告では、貴族の影がちらほらと見え隠れしているようなのである。
殺せと言えば、素直にというか嬉々として殺しに行く連中が揃っているし、私にはそれを言う事が可能なのである。
本当、権力って怖いなぁと思うんだよねぇ。
あぁ、何か良い方法無いかなぁ、と溜息を零して執務室の窓からお庭を眺める私なのであった。