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魔王就任 【討伐編】  作者: 市太郎
おいでませ御一行様
14/31

魔王様と討伐隊 □ 13

 ここからは私達の憶測なんだけど、前置きした後の続きはイシュに任せた。

「ゴハ月からセユ月の三ヶ月間の召喚された頻度と、その後召喚回数が減っている事を考えますと、贄に該当する娘が手近にいなくなった事が一つ推測されます。また、セユ月から本日に至るまで、召喚の回数が減った件ですが、今月はコフ月となり、淫魔族の活動が普段よりも活発となる周期に重なります。よって、リオークア国で消えた少女達を集め、大規模な召喚の儀式を行うのでは無いかと思われます」

 まぁ、贄とは言っても、頂くのは召喚された淫魔だから、儀式になるまでは少女達は無事ではなかろうか、というのが私達の希望的観測でもあったりする。

「こちらの推測とはなりますが……召喚の儀式が行われるのはコフ月の二十日、つまり四日後の深夜と考えられます」

 イシュが締め括ると、互いの顔を見合わせた後、代表としてラズアルさんから質問が上がった。

「その儀式はどこで行われるのでしょう」

「うん、そこが問題なんだけどね。まず、リオークア国では無い、他国で儀式が行われているようなのよ。そちらの政治情勢が良く分からないんだけど、貴族の令嬢も攫われている訳だし、色々と問題が出るんじゃないかな?」

 ラズアルさん達の顔色が変わり緊張が走る。

 どこまで血が濃いのかは知らないけれど、一応王家とは縁続きの令嬢が攫われた訳だし、事が大きくなれば、戦争なんて話も大げさでは無いと思うのだ。

 実際、二十名前後の少女達が誘拐されている訳であって、犯人と言うか首謀者? はかなり裕福な地位にいる事は、私にだって想像が付く。

 少女達を誘拐した実行犯にしても、国が総出で捜したのに痕跡が辿れないと言うんだから、そこらに転がっている術者程度じゃない訳で、抱えるにしろ流しにしろ、人間界で術師を雇うには、今回のように特に腕を問われるような術者の場合は、大金が掛かっているはずである。

 しかも、大人数を誰にも知られずに、監禁し続ける環境も持っていなければならない。

 となれば、商いで財を成したかなり上の裕福層、下手をすると貴族様辺りになってしまうかもしれないのだ。

 犯人、若しくは首謀者を捕まえるとなれば、回りへの影響は必須ではないかと思う訳である。

「で、そこで提案なんだけどね? ラズアルさん達が構わないのであれば、この件は私達に任せて貰えないかなぁ」

 ラズアルさんもだけど、魔族を毛嫌いしているスナイさんまでもが、零れ落ちそうな程に目を丸くしてこっちを見た。

 魔族が人間族に対して非道は行った事はあっても、協力してくれた事なんて未だ嘗て無いもんね。

 うん、驚くわよね。


 スナイさんが逸早く我に返り、眉を吊り上げ睨み付けて言う。

「魔族が協力ですって? 一体何を企んでいる! 我々人間に仇を成してきておきながら、今更何を白々しいっ! お前達魔族の言う事等信用出来るものですかっ!」

「じゃぁ、いつでもお帰り頂いて結構ですよ?」

 吐き捨てるように拒絶するスナイさんに、一瞬白けた思いが過ぎるも、軽く肩を竦めて言葉を返す。

「魔界で行方知れずになったお嬢さん方を捜すのも自由ですけどね……帰る時に一声掛けて貰えたら、山脈を超えた辺りまでなら送ってあげますから」

 魔族に対する嫌悪感情は根深く、そう簡単に信用されるとも思っている訳ではないよ? 勿論ね。

 特別、仲良し小好しに成りたい訳でもないし。

 唯、過去に魔族がどうのこうのなんて、私には関係無い事だし、過去の事であれこれ言われたって正直、だから何よ? なのである。

 人間と、今後無理してでも付き合わなければならない、なんて必要も無いけど、あれこれ突っ掛かってこられるのも鬱陶しいのよね。

 だから、多少の恩を売ると言うか、イメージ回復の一石にでも、なんて下心は確かにありますとも。

 でも、憎まれながら、喧嘩腰であれこれ言われてまで、是が非でも協力したいって程でもないのね。

 だから、スナイさんがそこまで言うのなら、ご自由にって事で私は腰を上げたんだけど、焦ったのはスナイさんとライカエッタさん以外の人達で、慌てて私を引き止めるのだ。


「お、お待ち下さい、魔王殿っ……本当にご協力頂けるのでしょうか?」

「ラズアル!!」

 声を荒げるスナイさんを見てから、私を引き止めるラズアルさんに目を向ける。

「ラズアルさん達が希望するのであればね? 大した手間じゃないというのもあるけど、元々ウチの連中を呼ぶ為に、関係の無いお嬢さん達が犠牲になっている訳だし……と言っても、行方知れずになったお嬢さん達が、本当に贄とされているかは今の所確証無いし、四日後に儀式が行われるかというのもあくまで憶測でしかないから。その辺り、私達を信じるか否かはラズアルさん達次第じゃないかな?」

「ラズアル! お前は、魔族の甘言に乗ると言うのですか?!」

「しかし、スナイ殿。以前であれば、人間と見れば襲って来ていた魔族が、魔界にいる我々を見ても襲っては来なかったのですよ? 魔界の全てを見た訳ではありませんが、魔王殿の統治が行き届いている事は確でしょう。私とて軍人の端くれとして務めてきた自負があります。人であろうと魔族であろうと、荒んでいるかどうかは見れば分かりますし、見る目も持っているつもりであります。ましてや、我々への待遇を始めとし、魔王殿自らこうして対話する機会を作って下さっているではありませんか」

「それが我等を貶める罠だとは思わないのですか!」

 感情的なスナイさんと、冷静なラズアルさんの会話を聞いているんだけど、テニス観戦の気分で視線が左右を往復する。

 両者共に譲らないと言った雰囲気だし、私がここにいた所で話がまとまる訳でもなさそうだから二人を止めた。

「まぁ、お二人とも。まるっきり無償で協力する訳でも無いし、この話はそちらでもかなり良い条件になるんじゃないかなぁ。ほら……政治的と言うか外交上の駆け引きとかでね?」

 使えるんじゃないの? と、にっこり笑ってみせた。

 人間界の国同士の問題なんて、私にはまるっきり関係は無いんだけどね。

 戦争なんて、一番いい迷惑なのはやっぱり民衆な訳だし。

 それこそ彼等にとっては関係無い訳じゃない。

 それと、乱交パーティーなんていかがわしい事に、ウチの連中使うなよってのもある。

 娯楽の為に、魔族へちょっかいを出してくるな、という牽制も狙いの一つなのだ。

「そうだなぁ。友好に、なんて事までは言わないけど、リオークア国とは付かず離れずの丁度良い距離で、付き合って行ければ今の所は良いかなって感じかしら……と、王様への言付けが最低条件でどうかな?」

 何せ、私半端無く長生きするらしいから、私が死ぬまでの間に、人間界での魔族による被害なんてまず無くなると思う。

 現に今発生していないはずだし。

 もし悪さしていたら、私からお仕置きがあるし、私のお仕置き受けるとは言語道断だと、大公達からのお仕置きも、漏れなく全員からプレゼントだしね。

 せいぜい、人間界で生息している魔物の被害程度になるんじゃないかな。

 魔物に関しては、一斉に回収しちゃいましょうって訳にはいかないんで、これは追々の事だから今回とは関係無いけどね

「今直ぐここで答えを出せというのも無理だろうから、十分に皆さんで話し合って貰って構わないよ。国の偉い人と話さなければいけないというのであれば、それも構わないし……特に、術の規制はしてないから存分に話し合って下さいな。といっても、期限は四日しかないけどね。他に何か聞きたい事があるのなら、そうだな……サナリを付けておくから彼を通してくれればいつでも時間作るよ。サナリが部屋にいて邪魔だと言うなら、廊下に立たせておいても良いしね」

 他に何かあるかとラズアルさん達を見たが、今は特に無いようなので、少々物言いたげに見つめてくるサナリを残して、私は他の大公達を引き連れて執務室へと戻ったのである。

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