魔王様と討伐隊 □ 12
「さて。魔界でお嬢さん方の行方を捜したいのであれば協力は惜しまないし、人間界にいるのであれば可能な範囲で協力しても構わないと思っているんですけどね」
全員が顔を上げ、目を丸くして私を見つめる。
「な……なぜ、そこまでして我々に協力をしてくれるんだ?」
ラズアルさんが掠れた声で尋ねてくる。
まぁ、当然だとは思うけどね。
「クショーレア山脈を超えてから、私と会うまでに多くの魔族に会っていると思うけど、彼等は大人しかったでしょ」
自慢気に笑みを浮かべて、逆に私が問い返せば、戸惑いながらも全員が頷く。
「その現状を維持したいのよね。下手に人間側からちょっかいを掛けられると困るの。寝た子を態々起こす必要も無いでしょ? 寧ろ、魔族が大人しくしていれば、人間界も平和に過ごせる訳だしどこか問題ある?」
一様にして黙ってしまったので、無言の肯定と見做し話を進める。
新たに、イシュに淹れて貰ったカフェオレを味わいながら、戸惑う彼等にも多少気分を入れ替えて貰おうとトアンを新しく淹れさせた。
サロエナさんが作ってくれたクッキーを勧め、勿論自分も少し摘んで一息入れたのである。
少し確認したかったので、彼らの立場や自己紹介も簡単にして貰った。
一応、この団体の責任者は、位から見ればスナイさんが一番偉いらしい。
リオークア国王から、任命を受けたのがスナイさんだから。
一行の指揮を取っていたのは、経験値が高いラズアルさん。
スナイさんともう一人の術師、ライカエッタさんはモザネアイ教所属の神官で、他の人達はリオークア国王室師団に所属する軍人だそうです。
自己紹介と言っても、スナイさんとライカエッタさんに付いては、ラズアルさんが話してくれたんだけどね。
スナイさんとライカエッタさんは、黙り込んでしまっているから。
しかし、こちらの世界でも宗教と言うのが存在している事に、少なからず驚いた。
私が驚いたのも当然なんだけど、後でイシュに確認したら、宗教が存在するのは人間界のみで、他種族では信仰はされていないそうなのだ。
まぁ、宗教と言ってもざっと聞いた限りでは、ギリシャ神話とか古事記みたいな、世界創世記の神様を信仰しているみたい。
この世界を作ったモザネアイって神様を、信仰しているモザネアイ教。
スナイさんとライカエッタさんは、モザネアイ教からリオークア国へ派遣されている神官なんだそうです。
神官なんて言ったら、祝詞を上げながら紙で出来たハタキみたいな物を振る、なんて事を想像したりするんだけど、こちらの神官は武道派らしい。
僧兵ならぬ、神兵というのかな?
スナイさんとライカエッタさんは、魔力が多かったので神術の鍛錬を行いつつ、派遣先であるリオークア国の神殿で奉職しているらしい。
残り三人の術師さんはリオークア国の軍人で、見た目の歳の順でロゼアイアさんが魔術師、ケネアイラさんが精霊魔術師、リーデアルさんが妖精術師であると、本人達自ら自己紹介をしてくれた。
ロゼアイアさんは魔力が多いので、スナイさんやライカエッタさんと同じ術師ではあるんだけど、教団に所属しているかしていないかで、多少扱う術に差があるみたい。
やっている事は、神術も魔術も一緒なんだけど、修行方法とか門外不出な術とかに違いがあるそうです。
ケネアイラさんの精霊魔術というのが混合型で、魔術と契約した精霊を使役する術。
ちなみに同じ混合型で、妖精魔術とか、妖精神術、精霊神術というのもあるそうです。
リーデアルさんの妖精術というのは、精霊よりも上位である妖精と契約して使役する術。
どの術師でも根本として魔力が無ければ成れない職業で、術師となる為に必要な基礎の魔術を習得してから得意な分野へと分かれていくらしい。
ロゼアイアさんの場合なら、持っている魔力一〇〇パーセントを魔術として使うタイプ。
ケネアイラさんなら魔力一〇〇パーセントの内、魔術五〇パーセント、精霊術五〇パーセントとして使うタイプ。
リーデアルさんなら魔力一〇〇パーセントを妖精術として使うタイプなんだけど、リーデアルさんみたいに魔術以外の専門家となると、多少調整を付ける事が可能らしく、魔術一〇パーセントと妖精術九〇パーセントといった感じで、力加減をコントロールは出来るみたい。
それでも、ケネアイラさんみたいに五〇パーセントずつといったコントロールは出来ないのだそうです。
当初、踏み込んで来た時に、皆が同じ術を詠唱出来たのは、スナイさんが主となって皆がそれを補佐するという陣だったから。
補佐の魔術は基礎魔術になるから、ケネアイラさんもリーデアルさんも詠唱が可能となる訳ね。
で、続いて自己紹介してくれたのはラズアルさん達の近接チーム。
こちらも、リオークア国王室師団所属の軍人さんな訳だけど、騎士団なのだそうです。
騎士団なんだから、騎士の称号をお持ちなのだそうです。
ラズアルさんは、騎士団の中将を務めているんですって。
エリートさんですね? 軍の階級は良く分からないんだけどさ。
同じく歳の順で、レッケルさん、カイアザータさん、クグエンティアさん、コーチアールさんが大佐なんだとか。
成る程成る程と、全員の自己紹介を聞いて頷く。
自己紹介して貰ったんだから、こちらも紹介すべきよねって事で、ご存知私が魔王です、から始まって、イシュ、シャイア、ガルマ、サナリを簡単に紹介を済ませた。
さて、ラズアルさん達が魔界まで来るに至ったお嬢さん達の消失に付いて、少女連続誘拐事件と勝手に命名して改めて詳細を確認する事にした。
ラズアルさん達が国を出るまでに確認出来ていた範囲では、十九名の少女が行方不明となっている。
一番最初の被害者と思われる少女は、セユ月の中旬に帰宅する途中で行方知れずとなる。
その後、十日程経ったセユ月の下旬に別の領地に住む少女が、就寝していたはずの自室から行方知れずとなり、三日後には更に別の領地に住む少女が、買い物へ出掛けたまま行方知れずとなる。
セユ月から月が替わり、ヌア月、アン月の始めまでの間に、計十九名の少女達が失踪しているのだ。
少女達の特徴としては、十五~十八歳、容姿は美しく、銀の髪が特徴であるとの事。
勿論、少女達が自主的に失踪したと思われる背景、恋人との駆け落ちや、家出せざるを得ない事情なんかも無し。
人身売買といった犯罪で調査をしてみたが、失踪した少女達が奴隷市場に売り出された形跡も無し。
現場に残された魔力の痕跡から推測すると、予め狙いを付けた少女を魔術によって拉致したと思われる。
過去、魔族が人間を攫う手順に酷似していたのも、今回魔族が疑われた原因でもあったりする。
と、ラズアルさん側が持つ情報を簡単に教えて貰ったので、今度はこちらが持つ情報を提供する。
まず人間界から、淫魔族を召喚する儀式が多発している件。
リオークア国内での誘拐事件はセユ月から発しているが、セユ月の三ヶ月前に当たるゴハ月から召喚が頻繁に行われており、セユ月に入ってからは逆に召喚の回数は少なくなっている事。
アン月の中旬頃を最後に、今の所は召喚はされてない事。
以前、その手の好事家達の間では、容姿が美しく銀の髪を持つ若い娘が贄とされていた事。
ここまでの情報を、ラズアルさん達と共有した訳なのだ。