エピソード8
「……ありゃ、やっぱし魔法だにゃー」
「えっ、インプラントじゃないんですか?」
「うぅむ。やー、あれは確かに魔法ぜよ。ちゅーても妾たち精霊や、それが宝具を通して発動する純粋なんとはとはうんと違うもんじゃき、今までずっと忘れとったぐらいのもんだがにゃ」
木蓮がそう言うのであればそうなのだろう。樹は木蓮に「それは一体……」とシリアスに続きを促す。芝居がかっているけれど、こういう言い方をした方が木蓮は気をよくして話をしてくれるのだ。
しかし、「いや、一先ずアレに話を聞きいこう」と、今回は断られてしまう。
◇
「ユウサクくん、ごめんね。少しいいかな?」
樹がユウサクの方へ来た。
「いいけど、何さ? 手短に頼むぞ、まだ準備中なんだから」
ユウサクは樹の方も見ず火起こしの続きをしながら返事をする。
「火を出してるそれってインプラントなのかな?」
「これか? 悪いけど、聞かれても俺だってわからんのさ……本当さ! 嘘じゃないぞ。『ガラクタ町』に住むまでは父親と手品とかしてたんさ。そん時からできてたけど、あんましなんでできるかは覚えてないのさ。だから種明かしもできねーぞ」
ユウサクは試しに手を叩いて鮮やかな火花を散らして見せると「ほらな」、手をヒラヒラ広げて振って、仕掛けがないことをアピールする。
「……とすれば生まれつきの信者っちゅーことになるのか? なんとも珍妙なやつぜよ」
やっと木蓮がそれらしいことを語り始めた。
「うぉ! そーいえば木蓮様もおったんさ! 分かりづらいのさ。あれ、木蓮様も飯食うのか?」
「木蓮さま、シャーマンっていうのは?」
「え、シャーマンってなんさ? 多分だけど絶対違うぞ!」
樹が新たな情報を探ろうとするが、その度ユウサクが話の腰を折る。しかし、どっちも気になっているのは間違いない。
2人の反応に木蓮は、ちょっとばかりイジワルがしたくなって「うーむ……そんなに知りたいか?」と、焦らす。
「もちろんさ!」
「僕も知りたいですー!」
素直で気になるユウサクと、ノリのいい樹は2人ともすぐ挙手する。
「わっはっは。よかろう! ちゅーても、妾は『信者』なんて作ったことないき、そう詳し言えんがな。知っとること、ぜ〜んぶ話してしんぜよう!」
「「おー!」」
気をよくした木蓮は一気に話し出す。
「シャーマンとは何か。そりゃあズバリ、妾たち精霊からの返礼ぜよ! 『人が救いを求め精霊を崇める』その信仰の質がそのまま妾たちの力になるき、妾たちもそーいう者らを認め生きちゅー間、ちぃとばっかし権能を貸してやる。これがシャーマンの力の仕組みぜよ」
「うん?」
ユウサクは木蓮の説明を大人しく聞いていたが、
「おかしーぞ! 俺そんな迷信とか、胡散臭いもんは信じたことないさ」
と木蓮に対して反応する。
「心当たりがない、これがまさに生まれつきのシャーマンの特徴ぜよ」
「どういうことさ?」
「さっき、信仰に対してその者に対しての恩返しちゅーたろ? つまり、おまんじゃのーて、おまんの先祖やら何やらが信仰しとったが、力を返礼する前に死んだから代わりにおまんへそれを返しとるっちゅーことだにゃあ。まそれぽっちの火花を起こす程度じゃあ、その精霊もほとんど滅びる寸前ぜよ。やれやれ。近頃、信心のなさは目に余る」
「へー。なるほどなー」
ユウサクは納得して「じゃそろそろ、こう! やっても、何もできなくなるのかー。なんか寂しいのさ」若干、他人事みたいに言いながら手を擦り合わせていたが、
「……安心せい。人間如きの寿命と比べりゃあ、ソイツが滅びるより先におまんが死ぬぜよ」
「そうか! じゃあいいさ」
木蓮はユウサクの言い方が気に食わずに言ってやったつもりだったが、ユウサクは安心したようで、また何度も嬉しそうに手を叩いて火花を飛ばしていた。
少し離れてから樹は
「木蓮さま、ユウサクくんに力を貸している精霊っていうのは誰なんです?」
と質問するが「知らん」即答され「そうですか」と苦笑する。(まあ木蓮サマから新しい情報が出ただけいいのかな?)
ちょうど2人がそんな話を終えたところで、今度はユウサクが駆け寄ってくると
「なぁなあ! じゃあさ、俺もなんかこう、すごいのできたりするってことか! ほら、なんか魔法らしくさ、燃やし尽くしたりさ!」
「無理ぜよ」
「えーなんさー! せっかくいいとこ見せれると思ったのにさ!」
返ってきた答えに、ユウサクはガッカリしたようにその場にあぐらを掻くけれど、満更でもなさそうに掌を見つめる。
「まそうはゆーても、鍛えりゃそこそこにはなるらしいき、励むんがええで!」
「む。あったぼうさー! 俺は叶枝ちゃんのためになら何でもやってやるさ!」
ほんの一言煽っただけで、ユウサクはバッと拳を作りながら立ち上がってはそう意気込む。
「うむ。やる気があるんが1番ぜよ! けど鍛えてもほどほどにな!」
「あ、ところで鍛えるってどーすりゃいいのさ?」
「ガハハ、知らんぜよ!」
木蓮の適当な答えにユウサクは「なんなのさー!」と文句を言っていたが
「もう日没だが、火つけんでええんかにゃ」
と言われて「そうだな」と大人しく作業に戻った。
木蓮はあっちこっち、忙しないユウサクを「はっはは、男子は元気なんが1番ぜよ!」と楽しそうに笑ってから「樹、おまんはもう聞きたいんないのか?」と樹にも聞く。
「はい、僕の方は大丈夫です。ありがとうございました」
「うむ。くるしぅない!」
夕暮れ。真っ赤な太陽が黄ばんだ丘の上を真っ赤に飲み込んでいく。
(うがー、火がついてんのか見えずらいぞ!)
ユウサクは夕焼けのせいで燃えているのか見えづらく、イライラとし落ち葉を払い散らすが、それで一面に火が燃え移り、樹に手伝ってもらい消火と後片付けを済ませる。
火を消さないようにしながら缶を並べるユウサクを尻目に、樹は木蓮と2で「綺麗な夕焼けですねー」、「うむ。そろそろ叶枝も眩しくて起きそうだにゃ」美しい夕焼けをのんびり鑑賞していた。
「あ、きょうちゃん、あっつー! おかえりー!」
樹が帰ってきた京介と敦也に気づいて、木蓮を持っていない方の手を振って呼ぶ。
「何さ、もう帰ってきたのか!」
ユウサクだけ、まだ缶が温まっていないので慌てて確認する。
「おう、ユウサク! さっきみんなで何か話してたろ。話してたんだ?」
京介が話しかけてきた。少し前に叶枝、樹と3人でいた時のを見ていたらしい。
「え? あぁ。あれは俺のすっごい話さ!」
「そうか! なら後で俺にも聞かせてくれよ!」
ユウサクのことを京介は何かと気にかけてくれるが、ユウサクは予想外に火を起こすのに手こずってしまい、まだ調理が済んでいないので、できる限り京介たちを後ろへやりたくない。
「あそうだアニキ、肩でも揉もうか!」
「アニキ? てか、肩揉もうかって、お前どうしたんだよ」
ユウサクは何とか京介たちを止めようとするが、敦也も丘の上までやってくる。
「火を放っていくな! ……樹、アイツは他に問題を起こしていないか?」
ユウサクに注意を行った後、見てそんなことを聞く。
「あはは、大丈夫だったよ。そっちは?」
「周辺に魔物はいなかったが、アイツの話では『ガラクタ町』の方にまで魔物が出現しているらしいから用心するに越したことはないだろう」
「そっか」
お互いに簡単な報告が完了する。
「そっちのことも詳しく聞きたいが、もう夜だ。見つからんよう火は消そう」
「そうだった……あっつー、待ってくれないかな」
「……加熱用でなくてもいいだろう。ソイツを待つ理由は、ない」
「でもせっかくユウサクくんが頑張ってくれたんだから、あったかいのが食べたいよね~」
樹がユウサクの方へチラリと視線を送る。
「もちろんさ! 俺は叶枝ちゃんのために、料理を振る舞うのさ!」
ユウサクが再び調理に戻ってから、樹は2人にも説明をする。
「木蓮さまが言うにはあの火、理屈は違うけど宝具と同じように精霊の能力らしいんだよね。ならユウサクくんの話通り、『ユウサクくんの火』が魔物に対して何かしら影響があるのかも気になる。多少の疲れはあるけれど、魔物の大群なんて前線でしか見つかってないわけだし、僕たちならある程度は対処できるはずだよ?」
樹は更に続けて「それにね、ユウサクくん悪い子じゃないから……これからだよきっと。楽しみじゃない」と、やや欲が見え隠れするような言い方をする。
「あー、アニキってそういうことか」
「なるほどな、それについては了解した……俺は、人を見る目がないからな。だがアイツのことは嫌いだ」
樹の説明に、一行はユウサクが使った火を消さず夜を迎えることになる。