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妖精大戦  作者: 谷原田
開戦
7/20

エピソード6/帰路、もしくは旅路

 気絶したユウサクは、京介側の荷車に他の荷物と同じく落ちないよう上から麻縄に縛り付けられている状態で目を覚ました。車輪なので、こう整備されていない道を進むとかなり小刻みに揺れる。だが下に積んである布類が全部吸収してくれるおかげで、動けない以外は快適であった。

 何はともあれ。寝ている間にではあるが、ユウサクは8年ぶりに『ガラクタ町』からシャバへ出てきたのだ。

 ◇

「げほっ」

 意識が覚醒してくるが、ユウサクは怠けて目を開けるより先に、小さくあくびをする。(なんか、やたら甘いな?)久々にシャバの空気を口に含んで感じる、やたら喉に冷たく刺さるような味が合わず軽く咽た。ガラクタを漁る時も、物を買う時も、飯を食べる時も、寝る時も、あれだけずっと「不味い」、とか「ロクデモナイ」と貶していた『ガラクタ町』の空気が堪らなく恋しいのは何故だろう。

 ユウサクは芋虫みたいに身をよじって抜け出すと、四つん這いになって『ガラクタ町』を探すが既にそれらしきものは見えない。というか、左右どこを向いても枯れた草葉に覆われて黄ばんだ坂と、せいぜいそこに幾らか裸の木が残っている程度の、ずっと同じような景色が広がっている。(ま、木でも草でも1本生えてりゃ俺のいた『ガラクタ町』の近くじゃないな。外の花も枯れてたもん)

 なんとなく、ふっと短く息を吐きだす。

 ユウサクにとって、非常に不本意ではあるが『ガラクタ町』は1番長く住んでいたところだ。実感はない。けれど、『ガラクタ町』を出たことについて高揚や開放感なんてのも感じちゃいない。思い出に耽れば2、3懐かしい場所はパッと目に浮かぶが、それ以上に嫌いな記憶の方が多いし、帰りたいとも思わない。なのに――(やっぱり不思議さ)。

 (もしかしたら『ガラクタ町』のこと気に入ってた……の、かも?)首を振る。

 「違うだろな〜。もう冬かー」意地でも認めず、ユウサクは肺に馴染まない空気を全て季節のせいにした。



 (にしても、寝てる間によくこんな遠くまで来たもんさ。コイツら、俺のこといじめてたポポと比べたって全然細いぐらいなのに)下手な乗り物より、よっぽど速度が出ているのではないか――ユウサクには物心ついてから乗った乗り物なんて、ガラクタを漁っている最中に拾った前輪のない自転車ぐらいだし完全な想像だが。

 ずっと似たような景色。けれど差を見切れないほど早く進み、変わっていく。

 ――ッ。感傷に浸っていると腕に僅かな衝撃と、嫌な音がした。

 昨日、今日でもうダメになりかけてしまった服の袖がついに、ほつれて開きパタパタ、リズムを取り不規則に靡く。(おー。かっこいいのさ……そうだ! これ叶枝ちゃんに見せたら、きっと()()()のさ)気に入ったようだ。童顔のユウサクには似合わないが。

 馬なんかに乗ってもこういう気分になれるのだろうか? 京介のひく荷車で、そんなことを思いながら前に移動を始める。両脇が坂になっていて、道が狭いので2台の荷車は縦に並んでいる。叶枝はきっと、敦也の方の荷車にいるだろうから。ユウサクはこのマントのようにカッコよく音を立てて靡く自分の様子――袖の剥がれたボロ布姿――を見せるため、そっちを目指す。

 移動するのに荷車の正面は風が目に入って痛かったから、荷物をまとめるのに被せてあった布を剥がして潜り込み前まで進む。物資の詰まった箱に何度か頭をぶつけ方向を変えながら。

 ユウサクは、やっと出口になる布を破持ち上げ荷車をひく京介の後ろから飛び出した。

 ユウサクの思った通り、叶枝は前にいた。

「叶枝ちゃーん!」

 叶枝が乗っていたのを見つけユウサクは嬉しそうに声をかけ目が合う。ユウサクは今、服が破けて半裸だから叶枝の顔を赤くさせることには成功するが、それは恋というものではなく――叶枝は見たくないものを隠すよう手を出し、顔を背けた。


「おう、ユウサク起きたのか! 敦也、今日はこの辺りで止まろう」

 京介が気づいて前の荷車をひく敦也に叫ぶ。返事は聞こえなかったが、前の荷車もゆっくり速度を落とすと、2人は並んで坂を登り丘に荷車を停める。

 ◇

「おはよう。ユウサクくん……ぜぇ。助かった〜」

 息も絶え絶えに、白い顔をした樹が声をかけてくる。対して、京介と敦也は、『ガラクタ町』から物資を乗せた荷車をひいて来たにも関わらず額に僅かな汗が滲むだけで、どちらもまだまだ余裕がありそうだ。(もしかして、コイツらも精霊か魔物の……いや顔怖いし魔物の親戚なんじゃないか?)2人の膂力と体力に、つい妬ましくなってユウサクは悪態をつく。

 「いやぁ、ありがとう」樹がユウサクに礼を言った。

「はあ? なんの話さ」

 だが心当たりがないユウサクは困惑して聞き返すと、代わりに京介が

「ユウサクが倒れてから、ちょうどいいし日が沈むか、ユウサクが起きるまでは走り続けることにしてたんだ」

 と答えた。ユウサクは聞いた顔のまま体が強張って、動けなくなる。

「え、ずっとあの速さでか? ……俺どれぐらい寝てたのさ?」

「ぜぇ。ざっと2時間ぐらい、かな……?」

 樹が、まだ落ち着かない荒い息で言う。

「わー、そりゃ鬼さ」

「ねー。緑鬼だよ」

「誰が鬼だ」

 ユウサクの素直な感想に便乗して2人は冗談を言うが、肝心のユウサクは気づかず、無視する。

「てかさ、こんなとこで止まってて日暮れまでに『機械都市』(ギア・タウン)? だっけ。間に合うのさ?」

 ユウサクは思い出した心配事をそのまま口にした。

 ――京介と樹が(あー、しまった)と、ユウサクから見て2人共そんな顔をする。

 (俺、何かやらかしたか?)ユウサクは急にドキドキしてやったことを思い返す。

「今日は野宿だ、出発するのが遅くなったからな」

 敦也が来た。これは皮肉なのだが、ユウサクはそのまま素直に受け取って「そっか」と納得してしまう。

「それで、あとどんぐらいでつくのさ?」

「……明日の朝に出て昼前にはつく」

 敦也はユウサクの上からな(なまいきな)返事に、見積もりだけ出す。ユウサクは何も思わなかったが、ぐったり大の字に寝転んでいた樹は「ひえ〜!」と悲鳴を上げていた。

 (野宿か、あんまいつもと変わんねーな)

 ――「はっ!」ユウサクは叶枝の方を見つめて気づく。(俺なんて、いっつも野宿してるのさ! これは今までの失敗を取り返して、叶枝ちゃんに良いとこ見せるチャンスさ!)


 ユウサクは役割分担の話をしていた3人のところへ駆け寄ると

「なあ、飯は俺が作るのさ! 任せてくれよ!」

 そう提案だけすると、早速荷車に戻り、懲りず張り切って積荷の中から物色を始める。

「あの、ユウサクくん。手伝ってくれようとするのは助かるんだけど――」

「それなら気にしないでいいさ! ここまで連れてきてもらったし、俺も良いとこ見せなきゃだしさ!」

 樹が何か言おうとしたのを途中で遮ってユウサクは自分の胸を叩く。

 流石に、自炊ならユウサクにも(普段からそーやって生きてきたんだ。これぐらいできるさ)と自信がある。今は、どの缶にするか決めかねているところだ。

 京介は殺し屋みたいな眼力でユウサクに任せても問題ないか悩むが

「料理っつたって缶だけだし、そうおかしなことにはならんだろ」

 と2人にも確認をとる。

 ユウサクは鼻歌を歌いながら足で蹴って穴を掘っていた。

「怪しくない? 缶だよ」

「加熱用のも多かったからな……」

 下手にユウサクを放っておくよりはその方がいいだろう。敦也も京介に同意すると、話を進める。

「今日はずっと気を張っていたはずだが、寝てないだろう?」

「あー、確かに。なえぽん疲れが溜まってるかもしれないね」

「じゃあ俺と敦也で周辺の確認をしてくるか。樹、2人のこと頼めるか?」

「いいよ〜。疲れてるし」

 話がまとまると、寝転んでいた樹も「よっ」と勢いをつけて起き上がる。

「樹」

「あっつー、どうしたの?」

ユウサク(アイツ)の見張を頼むぞ、油断しないようにな」

「あはは、了解。任せてよ」

 「行ってらっしゃい」と2人を見送った。

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