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妖精大戦  作者: 谷原田
開戦
6/20

エピソード5

 道中。ユウサクは叶枝の気を惹こうとして、少し進む度に「ここは昔、銅山だったとこの遺跡で――」とか「ここ、俺が来た時はまだ建物が残ってたんだけど、3年前前ぐらいに解体されちゃってさ。他の奴らに――」などと、饒舌に説明をしていた。

 叶枝はユウサクが嫌いだし、最初は途切れず無駄で中身もないような話を必死にしてくるユウサクへ「そんなのいいわよ、早くして」と一蹴した。が、返事をしないとユウサクはもっと話に熱を入れて語るので仕方なく、一言二言程度、何とも素っ気ない相槌だけする。

 しかし、(あし)らわれている当のユウサクは気にすることもなく、まるで「聞いて聞いて」と尻尾を振るしつこい犬のように喜んで自分の知っていることを限界まで披露した。

 ◇

 ユウサクがいらぬ長話をしていたので、決して早く着いたわけではないけれど、とにかく余計な問題は起こらず到着できた。

「みんな、ついたぞ。でも、どーするのさ? 金目の(もん)パクるにしても普段はカスみたいなセキリュティしてるくせ、今に限って鍵しまってるぞ」

 ユウサクは自分よりも一回り大きな金庫を揺らしながら、中身を取り出すのが困難であることを確かめると、振り返って京介たちに聞く。

 敦也が反応する。起伏のない声で「それをしたら略奪になる、やめろ」とユウサクを止めて、他の飲食類や、衣類などの生活用品なんかを運び出す。

「まっ、今さら金なんかあっても仕方ねえってことだよ」

 京介はユウサクの背中を軽く叩いて、一緒に行動するように促す。

「ん-、そうなのか? じゃあ他のは全部そっちにあるさ」

 ユウサクは考えても、その差が分からなかったが、そういうものだろうと理解して金庫なんかは無視すると、その他の物資を交換所の外へ運ぶのを手伝った。

 物資を運びだすのに約40分、合計して50t弱となった。


「木蓮様、お願いします」

 運び出した荷物の前に立つ叶枝が自信の宝具(アーティファクト)、木蓮に呼びかけた。京介、敦也、樹、ユウサクの4人は1歩引いたところでそれを見守る形でいる。

「う~む、やっとか。魔法は妾が発動させちゃるき、構えときんちゃい」

「はい」

 叶枝の瞳と、構えた右腕に橙色、幾何学模様に煌めく陣が浮かび上がる。そのまま屈んで地面に手を付けてから数秒、木蓮が魔法を発動させると、叶枝の腕に浮かび上がっていた陣は大地へ流れ込み、油膜のように薄く広がっていく。

「うおー、なにさこれ!」

 足元を僅かに揺らしながら無数の植物の芽が瓦礫やガラクタを押し退けモリモリと顔を見せる。それらはお互い絡まりながら成長を続けると、黒ずみ、形を変え、やがて2台の荷車に成長する。

「妾製荷車の完成ぜよ!」

 木蓮の力であろうか。立ち上がった叶枝にユウサクは駆け寄ると、「なにさこれ! なあなぁ!」感情が昂ってどうしようもない様子だ。

「わはは、これぞ魔法ぜよ!」

 初めて見た超常の力に、夢中でブンブンと手を振り飛び跳ねるユウサクへ、叶枝の頭の上から木蓮は自慢げに言う。

「これさ、俺にもできるの?」

「そりゃ無理ぜよ。これは()()()じゃき」

「そっかー……ならさ、きっと他にもいろいろいるんだろ精霊って! 楽しみだな、火とか出せるのもいるのかな!」

「なーんちゅーこと(ゆー)とるき!」

 ユウサクは魔法を使えないと言われても気にせず、それより他の精霊がいるのなら、その精霊たちの操る魔法も見てみたくなった。例えば、いきなり目の前で炎を生むような魔法があれば。叶枝がそれを使ったらきっと綺麗なんだろうな、ユウサクは思ったことを勢い任せでそのまま口にする。

 が。自分のことを『樹妖精』なんて名乗った木蓮を相手に、よりにもよって『火が見てみたい』だなんて言ったものだから当然怒られる。


「よし。さっそく積み込んでこー!」

 京介、樹の2人は持ち出した必要な物資、食料や飲料、生活用品の積み込みを。敦也は周囲の警戒をすることになるが、交換所や換金所、その他施設など障害物があるからここでは見渡しが悪いと思ったのか、ワイヤーを使って建物の上に登っていった。


「あ、あのさ!」

 正面から覗き込み声をかけるがそっぽを向かれてしまった。

 ユウサクは他の3人が離れたから、今こそ2人で話し込めるチャンスだと思ったのだ。

 魔法を使った後、交換所前の階段に座り込んだ叶枝は、きめ細かい肌にじんわりと汗の粒を滲ませ、逆上せたように虚ろな目で前を見つめ休んでいる。

「あのさ、叶枝ちゃん……」

 ユウサクは視界に入れてもらえるよう移動するが、今度はその反対側を向かれ振り向いてはもらえない。

 鈍いユウサクでも流石に気づく。嫌われていることに。

 胸の中、心臓のあたりが、掻きむしることもできないのに、無性にかゆくて苦しくて――

 だからユウサクは何か良いところを見せようとしてちょっと考える。「ん?」

「よーし、積み終えたぞ」

「こっちもおっけーだよ。あっつー、頼める!」

 京介と樹が物資を積み終えたところだった。

「わかった、代わろう」

 樹に呼ばれた敦也も施設の屋上からワイヤーを伝って素早く下りてくると、樹と位置を入れ替わる。

 (つまり、京介と敦也で荷車を曳いていくのか)。

 ユウサクはそれを見て「これだ!」と閃く。

「待った! それ、運ぶの俺がやるさ!」

 (敦也の荷車、あれなら水しか積んでないし俺にも持ってけるはずさ!)ユウサクは敦也の前を横切って荷車に飛びついたが、「うぉっ」持ち手を掴んで面食らう。(なんだこれ、重っ!)

 良いところを見せようとしていたのに、持ち手すら上げることができず焦る。(カッコ悪いなんてもんじゃないぞ)

 ユウサクは足を下に入れたり、火の消えた鉄パイプを差し込み、てこの原理で持ち上げようとしたりするが、それでも持ちあがってはくれない。


 当たり前だ。まあ京介が運ぼうとしている方は食料と衣類に、その他の雑貨が山積みになって見た目も重さも敦也が運ぼうとしている荷車よりあるのは間違いない。それと比べれば荷車の上は水だけでスッキリしているから運びやすくも見えるだろう。

 しかしだ。水は1mLで1g、1立方メートルで1トンの重さである。そして敦也側の荷車には3m、2m、2m、計12トンのポリタンクに入った水がぎっしり積んである。そも、絶対人間が運ぶ物ではない。本来トラックや貨物列車なんかの乗り物で運ぶような量だ。ユウサクはもちろんそんなこと知りようがないが。


 でも、ユウサクとしては叶枝からの印象が悪くなってしまうのだけ嫌だ。

 誰かに何か言われる前に、どうにか、少しでも動かしてやろうとユウサクは必死に踏ん張って、2つの意味で顔を赤くしていたが

「自分で言っといて、情け無いわね」

 よりにもよって。叶枝から言われユウサクは意識を失い崩れ落ちた。

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