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妖精大戦  作者: 谷原田
開戦
20/20

エピソード19

「ね、えー」

「よっしゃ、交代か!」

 羊市に話しかけられて悠作は声を弾ませたが、

「それはまだ、というか、交代してちゃいつまで経っても終わんないだろ」

 羊市も立ち上がると、悠作の横で作業を再開したのでげっそりする。

「それじゃ何さ?」

(ぼかぁ)、質問に答えたぞ?」

 悠作にも話すように振る。

「俺か……え、何を話せばいいのさ?」

「なんでもいいよ。早く話したまへ」

「……イッチバン嫌いな振り方さ」

「じゃ詳しく自己紹介にしよう」

「あいよ、わかったのさ」

 悠作は主に、ここと、『機械都市』(ギア・タウン)へ来るまでの事を話していく。叶枝に会って、叶枝が可愛かった。叶枝の魔法がカッコよかったこと、一瞬で敵を突き飛ばして、それから――

「へー」

「な、なにさ?」

 羊市は顎を上げ、少し背の高い悠作を見下す。

「もしかして、一目惚れ(好きなの)かい?」

 図星を突かれて顔が熱くなる。どう言い返すか。考えてむっ、と息を吸い込み、詰まらせる。

 叶枝の事は好きだけど、それは叶枝本人に伝えることだし。なにより、羊市の言い方に揶揄うようなものを感じて(コイツには言いたくねえ)と思ったから

「だったらなにさ!」と無理やりシラを切る。

「いや、構わんがね? もしかしたら見向きもされてないんじゃないかー、とか」

「な、なな、なんだと!」

 羊市からの言葉を起爆剤に悠作は怒りを爆発させ、襲い掛かる。しかし逃げた羊市を追い詰めたところで

「待て待て待て、待ちたまへ! 僕に当たるのはお門違い、というやつじゃないか?」と、目を瞑って言うのに、悠作も、自分で振り上げた拳を見つめる。まだ。収まらないが、乱暴するのはよして

「悪かったのさ」と腕を下ろした。

「ほんとだよ、カッコ悪い」

 (クソ、コイツめ)羊市は走って絡まった髪を指で解きながら毒を吐いてくる。

「でも、なんでお前がそんなこと言うのさ。関係(かんけー)ねーじゃん」

 羊市はピタリと手を止め、たった今2人が暴れて崩れた本の中から1冊、見繕ってくると悠作にもハンモックと男女の描かれた表紙が見えるよう持ち直して

「ほら、色恋って素敵だろう!」そう言って推してくる。

「自分でやってろよ!」

「自分以外のを眺めるから楽しめるんだろう? それで、どうなんだい?」楽しそうにくっついてくる羊市を引き剥がす悠作の顔は、叶枝のことを考え、茹で(ダコ)みたいに赤くなる。

「絶対お前には言わねーのさ!」

「えぇ……」

 娯楽が少ないのは『ガラクタ町』と変わらないのかもしれないな、口惜しそうにする羊市を見て悠作は思う。

「ところで、さ」

「うん?」

 羊市がどうやって聞き出そうか、と思案中、悠作から何か話しかけてくる。

「お前、京介たちとも知り合いなんだよな? ならさ、叶枝ちゃんの、好みとか、分かるか?」

 常に眠そうに半分閉じている羊市の目から感情を読み取るのは難しかったが、今はわかる。(きっと、楽しんでいやがるぞ)

 しかし、ちょっと間を置くと羊市は首を寝かせて黙る。

「お、おい、なんだよ、言えよ! 揶揄ってたんだからさ」

「いや好きなタイプって言われてもな、一緒にいなかったかい? 剛賢(ごうけん)。アレが叶枝と両想いか、付き合ってるものだと思っていたが」

「は⁉︎  誰だよそいつ! てか、今もなのか⁉︎ どこで聞いたんだよ‼︎」

 胸ぐらを掴んで羊市を前後に激しく()する。

「うげ、落ち着きたまへ。両想いなのはほんと、だって、本人から聞いたのだよ」

「む、昔はなっ! 今は違うし!」

「え」

 それは、もう、「叶枝が好きだ!」と言ってるのと同義ではなかろうか。何も隠せていない顔だ。

 悠作は勢い任せで羊市に言い返してから(しまった)と、羊市のニヤけた顔を見て思う。だが時すでに遅し、だ。悠作は羊市を放して胡座を掻くと、頬杖をついて不貞腐れる。

「では聞き返すが、君は知っているのかい? 今の叶枝が好きな相手」

「そりゃ……知る訳ないのさ」

「いいじゃないか、バレても。(ぼか)ぁ、君の味方だぞ?」

 少し屈んで話しかけてくる羊市。ムカつくが、これで何も情報を得られなければ損しかしないで終わってしまうので抑えて聞く。

「教えてくれよ」

「タイプで言うと、真面目で熱心なやつ? かな。曖昧にしか言えないけど、そう言うのじゃ見込みあると思うよ(ぼか)ぁ。童顔、ってのは好みじゃないかもだけど、それだって成長すれば変わるだろ? 叶枝なんて、それこそ福笑いとか、土砂崩れみたいになってなきゃ内面クズでも落とせるよ。その点、君は平均より上だろう。問題ない。それより君は会話がポンコツなのだよ、きっと」

「お、おう。ありがと、って言えばいいのか?」

 話し出すまでの間延びしたような口調から一転して、饒舌になった羊市。全体的に思うことは多いが、それでも、期待できそうな評価に悠作も満更じゃない。多少自信も湧いた。

「? でもさ」

「うん」

「聞いといてなんだけどさ、詳しいな?」

 悠作の質問に

「2年前までは一緒にいたからね、若葉とか、樹もね? あ、学校じゃなくてこの屋敷でね。むしろ、ここらでの復興に人段落した頃学校に行くから、って。その為に」もっと先に言え、と思うようなことを語り出した。

「ん? ……ならお前さ。叶枝ちゃんのこと俺に教えるとかデリカシーのカケラもねぇじゃん。やっぱ喋るんじゃなかったのさ!」

 悠作は羊市の言葉を聞いてから、内容を噛み砕き理解して羊市に話してしまったのを深く後悔する。(コイツ、俺でも信じらんねーぐらい口が軽ぃぞ!)

「どーせなら、恋は実った方がいいだろう?」

「でも、お前からすりゃ、その、叶枝ちゃんの好きな奴は剛賢ってんだよな?」

 悠作が羊市を責めるように言い出したのを遮る。

「あー、いや構わないのだよ。僕ぁ、あいつが大っ嫌いだ」

 羊市の化けの皮、羊毛? が剥がれた気がした。割と無茶苦茶なことを言っていないだろうか。悠作的には、もちろん助かることではあるのだが……。

「じゃあさ、どうしたら叶枝ちゃんは俺のこと好きになってくれるのさ」

「これからやることは決まってるんだろ? 手に職つける為に努力、しかも叶枝からも見え易いところで、だ。じゃあ後は口だけだろう。とにかく、言い回しさえ良ければいける!」

「お前……そんな簡単じゃねえだろ」

「む。でも本には××××とかってーー」

「やっぱお前に言うんじゃなかったのさ‼︎」

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