エピソード18
悠作も、嫌嫌だが手伝ってやることにして右から左へ、右から左へ。何度も往復して部屋の外へ本を運ぶが、まだまだ本はずらりと足元に残っている有様。
数が多いし、何より重い。(仲良くなれ、とか言ってたけどさぁ、これじゃなんにもならないだろ)
悠作は飽きて、今は積んだ本を崩さないよう少しづつズラしていくのに凝っていた。
それを、本を抱えて戻ってきた羊市に見つかって
「あ、こら。遊んでないでよ」と咎められる。
が、むしろ
「てかさ、徳楽いくらなんでも言葉が足りないんじゃないか? すっげー、めんどくさい。急に任されるような量じゃねえって、これ」と文句を言い返す。なにせ、これだけやっても、本の向こう側が見えてこない。というか2、3歩進めば足場すらない。
(せめて先になんか言ってくれりゃいいのにさ)嫌なことでも「よろしく」とか、一言二言あれば違うものだ。(いや、あんま変わんねーな)
羊市は眠そうな目を細めて悠作を睨み付けると、頬をむっ膨らませ
「失礼なやつだ、君は。あと、呼び方の訂正を要求する……様をつけたまえ」と迫る。
「やだ。てかじゃあさ、お前はそー思ったことないのか?」
たじろぐ。
「僕……そうは、思わない、こともない」
「だよな」
どうやら、徳楽の口数については同じ見解のようだ。
けれど、
「でも必要なことは全部言ってくれてるんだ、それは君の理解力がポンコツなんだろ? あと、呼び方は直したまえ」
と、結局そんなふうに詰め寄られる。(めんどくせぇな)
このまま片付けを手伝っても埒が開かない。というか、また別の仕事を振られるかもしれない。(いっそ、コイツでいいから聞いてみるか?)
「なあ」
悠作がぶっきらぼうに話を振る。
「俺さ、『国士』ってのについて聞いたらここまで連れてこられたんだけどさ」
「うん。じゃあ、僕説明すればいいんだな?」
「でも短く、短くな?」
一から十まで、長く話されても眠くなりそうだから、悠作はあらかじめ注文を付け足した。
「では、教えてしんぜよう」
しかし、羊市が説明し始めてから、いきなり悠作と食い違う話が多かったので、結局、大枠からの説明となった。
「……ふむ、そうだね。じゃあまず、其方の勘違いを訂正するところからかな」
◇
「まず、『国士』なんて、大袈裟な言い方が勘違いだ。そも、そーやってひとまとめにできるものでもないしね」
成り立ち。
「十数年前、僕生まれてないから、きっと君も生まれてない頃だろう。政府と行政の統治が最も滞っていた時代だ。各地で重なった大災、連発事故で、いよいよ対応が困難となってしまった。それら諸問題の解決に協力したのが、地方にいた”有力な個人”や、集団だ」
それなら、どうして『国士』なんて物騒なのになるのさ。
「完全な復興には程遠いものの、落ち着きを取り戻したころ。先の問題の後も、行政と連携しながら復興を行なってたんだ。でも、やっぱり度々揉めたり、衝突が起きたり。それに不満を露わにして政府から『安芸』が独立した」
バッカじゃねえのか?
「その通りだ。今は全世界が災禍に巻き込まれて鎖国してるような状態にあるから、ってだけ。今後はど〜なることやら」
お前らも。
「そんなわけないでしょー、もー。阿呆な質問しないでよ。僕らぁ立場的に『国士』になるのは得だからそうしてるだけ。広島の、人喰い童子と争うのは真平御免だし、『国士』ってだけで行政から抜けきらない腐敗も僕らにイチャモン付けづらくなるしね。ま、タイミングを見て裏切ればいいのだよ」
羊市はそんなふうに悠作へ言って、飛びかかる。悠作がまた何か言い訳し始める前に。
「うわ、何すんのさ!」
「疲れた! はい、立って! 休憩交代だ!」
羊市は悠作の腰を持って立ち上がらせると、今度は自分がドカッと座ると、自分はもう、しばらく動かないぞ、と腕を組んだ。