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妖精大戦  作者: 谷原田
開戦
15/20

エピソード14/エンジニア(1)

「他に誰かいないのか?」

 言ってからまずいと思ってユウサクは口に両手で口を塞ぐ。が、何かしら言われると思っていたのに篤実は俯くだけだった。

 (なんか悪いこと言ったな)と思っていたら、篤実が話し出す。

「この街だけじゃない、もうエンジニア自体が、みんないなくなってしまったんだ」

 聞き捨てならないことを言う。

 確かに、この規模の都市で篤実と敦也しかエンジニアがいないのは思っていたが。ユウサクが『ガラクタ町』で落ちてた本を見て知った話だと、災害前にはなるがエンジニアなんてかっこいいし、食い扶持にも困らないからと将来人気の仕事だったはずだ。それが、そんなに少なくなったりするのだろうか。

「エンジニアってさ、そんなに足りてないのか?」

「うん。相次ぐ災害と、あとは魔物のせいで。一応、環境が整っていれば、と言う人はいるけれど、それどころではないんだ。もう今は。私も優秀ではないけれど、それでもここにいるのは私以外に誰もいなかったからだ」とまた弱々しく答える。

「え、そんなにいないのか?」

 いくらなんでも、言い過ぎで、あり得ない話ではないかと思った。が、篤実の哀愁漂う姿にそう言うのもなんだか良くない気がして、代わりに「何か、できることがあれば俺も手伝うのさ」と声をかけてみた。実際何ができるか分からないけれど。

 そんなユウサクの言葉に、待ってました! と言わんばかりに背を向けていた篤実が振り向くと「そうだ! ならユウサクくんが将来、エンジニアになってくれないかい?」と閃き、提案する。人差し指を立てて言う篤実の手はユウサクのと変わらないぐらい荒れていた。

 さっきまでは悪いと思っていたユウサクだが、急な話に、反射で「いやさ……」と口にする。すぐ言ったことを思い返して(いや楽しそうだな。でも、何するのか分かんねーし、どのみち俺じゃ無理そうなのさ)と考えて「難しそうだし、俺でいいのさ?」と付け加える。

「うん。いいんだよ。せっかくだ。興味があるなら見ていくかい?」と、改めてユウサクへ提案してくれる。ユウサクがちょっと前まで登っていたあたりを指差して。

 ユウサクにとって、あまりに貴重な話だから「え、見せてくれるの!!」と、聞き返すが絶対に見せてもらうつもりで、篤実についていく。

 ――さっきの話もあるのに、篤実というのはどうやら相当甘い男のようだ。ユウサクへ嬉しそうに「うん。もちろん」と答えて、2人は整備用のクレーンに乗り、部屋の中の機械を見て回ることになった。


 篤実が5m程もあるピストンがいくつも並ぶ列を指差して「ここはね、動力部分。これを稼働して、運動エネルギーと熱を、全て向こうのエネルギータンクに保管するんだ。町中にあるあれらも、全部動力を補うための発電装置だったりするんだ」説明する。他は新しいのに、そのタンクだけ随分古くて、外側なんか汚れて茶色い。

 ユウサク的には、思ってる装置と違って「発電施設にしては、随分アナログじゃない?」と質問すると篤実が、「『蒸気機関』と、『カラクリ』を利用したんだ。大災害の後、事故で発電方法なんかも問題になってね……新しい仕組みにする必要があったんだ。でも工場なんかは機能しなくなっちゃったから、全部自分たちで拵える必要があって」と簡単に教えてくれる。

 あと発電施設の事故と、汚染についてはユウサクのいた『ガラクタ町』は汚染されてたし、心当たりがあるので「そうなのか」と納得する。

「でもさ、なんで全部剥き出しになってんのさ」

「それは、管理上の問題だよ。私はこんなだから。ここ以外は全て敦也に任せているし、そうなると、どうしてもね」

 篤実は右足のズボンの裾をたくし上げて、ユウサクに、自身の義脚を見せる。皮膚の下にはうっすら、金属でできた血管が蠢いている。(型落ちってやつだな。いっぺん、前に見たことあるのさ。確かにこれじゃ歩けねーのさ)ユウサクは納得する。

 ユウサクは部屋の機械に目線を戻してから「なあ、動いてることも見てみたいのさ!」と頼んでみる。

 が、それに篤実は「ごめんね」と断ってから「最近は、まあ何かと怖いからね。動かせるのは昼間だけなんだ。音がすごいからね」と、機械の操作板を撫でて言う。

 これもユウサクの心当たりのあることだ。「バケモノに気づかれるとか?」思ったことを聞いてみると、篤実も「そうだね。そんなところだよ」と頷いた。


 それからしばらく2人は話をした。説明する方も、聞く方も、どっちも楽しそうに。

「『カラクリ』というのは私がこの街の設計を任された時に発明したんだ」

 篤実はこの街のことはなんでも知っていて、それが自分の誇りだと段々語ってくれた。ユウサクは篤実から『カラクリ』について話を聞き、途中「これなら俺にでもできそうさ!」と自分にもできそうなことを頼んで、いくつか仕組みを教えてもらい明日やってみようということになった。


 2人の話にもひと段落ついて、ユウサクは「おっさんすごいな」と調子に乗って篤実をトントンと肘で突く。

 それを篤実も嬉しそうに笑って「ふふ、ありがとう」と答えて「でもユウサクくんも。すごいじゃないか。『ガラクタ町』にいたおかげなのかな? 全部参考書もない独学だろうに」とユウサクの今までの生活で培われた金属なんかに対しての知識を褒める。それに、ユウサクはどこか目頭が熱くなるような気がした。意外と、ユウサクの今までは無駄や停滞といったものではなかったらしい。

 ――しかし。篤実はふと、また急に、話し出す前の暗い雰囲気に戻ってしまった。

 ユウサクの頭を撫でしんみりと「でもね、そんなことはないだ。まず僕は優秀ではないし。所詮、地方に左遷されて助かっただけの――」言いかけたが

「そんなことないさ! アンタは絶対すごい人なのさ!」

 ユウサクは興奮気味に言葉を被せて、憧れに満ちた目で篤実へ言い返す。

「だってさ、敦也と2人でずっとやってきたんだろ? しかも、それまではずっと1人でさ! 機械語、みたいなのは俺じゃ全然分かんねーけどさ、『カラクリ』なら俺にも分かるし、作れそうだしさ! すげーのさ!」

 真っ直ぐ篤実を見上げて言う。

 篤実はユウサクから目を逸らしてしまうが「ありがとう」とつぶやいた。

 それにユウサクも改めて「うん、間違いないさ。すごいんだ」と、何故かユウサクが胸を張って言う。

 「ははは。すまないね」篤実はユウサクに礼を言った。


 「あー。楽しかったのさ!」一通り話も済んだところで、ユウサクの方から思い出すと、自分の身分証について話を切り出す。

「ごめんユウサクくん、忘れていた。今から渡そう。ところで、身分証の発行に名前がいるね。苗字はあるかい?」

「ないのさ」

「わかった、じゃあユウサクくんの名前を教えておくれ」

 「? 俺はユウサクさ……」一度首を傾げるが、気づいて「あー。実はさ、俺、漢字なんかさっき見たばっかで知らないのさ」篤実には素直に言えた。「だから普通にユウサクでいいのさ」ユウサクは手を振って面倒そうに言うが

「ひらがな、カタカナでも登録できるけど、ユウサクくんの場合、やっぱり漢字の方がかっこいいんじゃないかな? 大丈夫、僕も一緒に考えるよ、ほら。ちょうど、敦也たちが使ってた辞書だってあるし」

 篤実に誘われて、ユウサクは惹かれる。かっこいい方が絶対いいに決まっている。でも、正直そんな分厚い本を見せられても、今日読んで自分の名前を決めようという気にもならない。だって、カッコいい方がいいけど、叶枝の側にも居たいのだ。なら早く身分証が欲しい。

「あ、そうさ! ならさ、おっさんが決めてくれよ!」

 軽いノリで、ユウサクは命名を篤実に頼む。「僕でいいのかい?」篤実は、もっと自分よりも、そう言いかけたが被せるようにユウサクは「あぁ、篤実さんが決めてくれよ!」もう一度、篤実に言う。

「はは……これは、責任重大だね」

「そんなことないさ、別に。テキトーでいいさ」

 しばらく、篤実も何十年ぶりかに漢字辞書を開いて文字を探す。何がいいだろうか、昔敦也の名前を決める時に買った子供の名前の本なんかあればもっと良かったのに。


「では、『悠作』くんなんていうのはだろうだろうか。意味はね――」

 篤実は文字を書いて、悠作に見せながら説明しようとするが「いいじゃん!」何も言わず、悠作は自分の名前が書かれた紙をひったくると、目の前に広げて眺める。

「……はは、気に入ってもらえたのなら良かったよ」

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