エピソード13
奥から出てきたのは、京介、敦也、そして黒いツナギを着崩した白髪の男。
話通りなら、あれが敦也の父親、篤実という人だろうか。歳のせいで垂れた目尻、半分閉じかけている細い目をしているが敦也に似た顔の作りをしている。むしろ皺がある分、硬い顔に味を出しているか。若い強面2人もいるせいで、まるでマフィアのボスみたいな雰囲気まで感じられる。
(敦也の顔が怖いのは遺伝だな)遠目から見える篤実の顔を見て、しみじみそう思った。
バレないように、3人が出てきた方から逆の方を通って下りようと回り込む準備をするが、どうやら篤実にバレていたようで「おーい、ユウサクくんだね?」ちょうどユウサクのいる方へ声をかけられて、足を踏み外し音を立ててしまった。
「うわ」全員に見つかってしまい、ユウサクは顔を白くするが(バレてんなら、もう観念するしかないさ)と思って謝ることにした。
歯車の裏からユウサクは顔を見せる。それを見て篤実が2人へユウサクが下りるための梯子をとりに行くよう頼んだが(この程度の高さだし)、ユウサクは手っ取り早く飛び降りた。京介と敦也がそれを見て、受け止めようと動く。もう、遅いが。
肉が地面に叩きつけられるような大きな音を立ててユウサクは着地する。ただ、ユウサクの基準では怪我しない程の高さを選んでいるのだし、怪我はない。
慌てて来た2人はユウサクの様子を見て一息つく。でも、敦也からは大人しくせず、勝手なことをしたと叱られた。あと、京介からも軽く注意された。ユウサクはそれ以上にテンパってしまい内容を記憶していないけれど。
しばらくして、後ろにいた篤実が冷や汗と涙をハンカチで拭って「随分長いこと話し込んじゃったみたいだ。ごめんね」と謝って3人の方へやってきた。本当はユウサクから謝ろうと思っていたのだが、向こうから。
ユウサクも、向こうの反応に動揺しているうちに、もう近くまで来て「僕は篤実、姓はない。この『キャンプ』でエンジニアをしているよ」敦也より上手い不器用な笑みで握手を求めて来る。
フリーズしていたユウサクだが、敦也も京介も顔が怖いだけで話してみると悪いやつではなかった。きっとそういうものなんだろう、と思うことで納得し「俺はユウサクさ。勝手にごめん」と返して握手に応じた。
篤実は、ユウサクが不安そうに握りしめていた壊れたランプを指差して「はは、いいんだよそれは。別に、急を要す物でも、都市の運営に必要な物でもないのだから」と言ってくれる。
だがそんな篤実に、ユウサクは余計罪悪感を感じて「俺、勝手に登ったから」と言って目を瞑った。
けれど、篤実は優しく頭を撫でて「危ないのは良くないね。気をつけるように」と注意だけで済んでしまった。(なんだコイツ、本当に敦也の親父か?)ユウサクはますますわからなくて首を傾げる。ユウサクのやらかしについて、言及はこれだけで終わりのようだ。
京介が「そういえば樹たちはもう帰ったのか?」とユウサクに聞く。
「おうさ」
「そうか。じゃあ今日は俺らだけでも見回りに行くか」
と京介が敦也に相談する。それが気になって
「なあ、見回りってなにさ」
「こんな状況だからな。魔物からの都市の警戒は兵士の人がしてくれているが、街中のトラブルまでは手が回らねえんだ」
敦也が京介に「そうするか」と答えて時間を確認すると、もうかなり時間が押していたようで京介が「すまん篤実さん、俺らも行かなきゃだ」と断ってから2人とも出ていってしまう。
◇
(今日もう3回目だぞ、知らない場所なのにさ!)取り残されたユウサクは横に立つ人物を見ないようにしゃがみ込む。
きっと、穏やかな人柄の人物なのだろう篤実は。さっき出て行った京介たちの方へ手を振っているのも優しそうだった。でもユウサクにとって敦也似の強そうな顔に、高い背の篤実はその分だけ怖いものだ。
ユウサクはついに限界を迎え「他に誰かいないのか!」と口に出してしまう。