#5 おみやげ
またまた更新が大幅に遅れて申し訳ありません。
もしもし…
ぷるるるる
「麗庶です。今から帰還します。」
「…涅津君でしたか。」
「先輩っ。楽しめましたか!」
「もちろん…です。良かったです。」
「多分4時間ほど…かな。 帰るのにかかる時間。」
「わかりました…バイクで手配しておきます。」
「ありがとうね。それじゃあ。」
ふー。
海が、きれいだなぁ。なんで誰も来てないんだろう。
砂浜をかき分け、ただ道へと戻っていく。
まさに、生きてると言うように。また人生に戻っていく。
じゃあね。海さん。
行った道を戻ればいいんですよね…。
すたすた…。
むんっ…ん。
まだ潮の匂いが止まらない。
まだ戻れと言ってくる。
進めど進めど、家が見える。もうじきに駅が見える。
私の出発地点だ。
だけど…すごく変です。
おかしいです、だって。行きはもっと早かったのに。
風が私に磯の匂いを押し付ける。
…
おかしいよね、なんで戻りたくないんだろう。
どたっ
なんで、私は…。
あぁ…人魚でいたいな。
あの兄弟もいい人だったし…。
なんで、こんな。
悲しいのかな。まだいっぱいあるのに。
どうして、どうして。終わっちゃうのかな。
…でも、でもです
私が…生きなきゃ、私の前に…犠牲になった人を戻せない。直せないですから。
海…。ああ。
あの金属も、液体だったなぁ…。
みんなあれにせがまれて…。
そして私だけが今存在してるのかな。
存在なんてしなきゃよかったし、人魚のままで居たいよ。
稚拙な…ヒレを脱いだ私は麗庶飽希。でも、この黄金が脱げない。
進まなきゃ、だめなんだよ。
楽しかったに執着しちゃだめなの。
わかってる、わかってるのに。
あの弟の純粋さ…ああ、私もああなりたかったのかな。
もう、戻れないよ
私に手を振ってくれた人には、本当にごめんなさい。
ごめんなさぃ゙…ごめんっ…ずっ…なざ…ぃ…。
私は、また人殺しにならなきゃ。
人殺しのゴミカスのゴミクズの、最低な飽希にならなきゃ。
喜んでくれてありがとうって言葉にしたいのに、サイダーのビー玉みたいに落ちて、
いっぱいに感情が溢れて、それの灰汁が…私。
…駅がどんどんと遠ざかるように、でも確実に近づいていく。
にげたいにげたいにげたい。
埋まってしまうほど、優しさが、私を…純粋さが…私を…あぁ。
すこし腕を見ると…やっぱり黄金だ。
この黄金に愛情をくれたあなたといたいよ。
みんな、愛してくれない。だって、道具だもん、物だもん。
あの一人は違った…。いや、他にも仲良くしてくれる人はいっぱいいる。
その仲良くしてくれる人は、果たして殺せぬ私を好きになるの?
でも、あの子が愛してくれたのは人魚だ。そうだ。私は人魚を演じただけで…私は人魚じゃない。
これで大丈夫、これで。
もっともっと私が萎縮する。進んでる。もう駅の前なのに。
案内放送がやっぱり私に告げる。
まだ改札の外だけど、だけど。
進もう。もう、私はわたしなんだ。人魚じゃない。
諦めちゃだめだ。
かいさつ…おねがい…します。
はんこの音は随分と静かだった。
何よりも何よりも無機的な階段がそびえる。
ちょっと後ろ向きに、私はスタスタと、じめっと、あるく。
急にぎゅっと光が私を結んだと思えば、帰りの電車だ。
羨望僅かに、直通ではない。逃げられるのかな。
いや、涅津くんが待ってるし。
そう思って私は全てを目の前の電車に委ねた。
お願いします。ボソッと頭を下げて。
…この椅子は。
かなり柔らかい…いい。
乗客は…私以外誰もいない。
寂しくはないの。私が見えないから。
運転手さんの声とともにモーターが唸って。そして、磯の匂いはもう消えてしまった。
景色はまだ海。美しいまである海。
うとうとしてしまいそう。
…ねむい。
朝早かったから…仕方ないけど。
景色はゆっくりと、でも確実に変わっていく。
なんか…みえる
花火だ。
まだお昼だけど、花火を…手向けてるのかな…薄くて見えないその色は…。
海に視えるような、青色。
美しいが、誰とて…みない。
あんな砂浜には誰もいないだろうに…
なぜなんでしょうかね…。
そうもしているうちに、段々と線路は上がっていく。
こうか…ってものでしたっけ。
海の遠景もだんだんと、生まれ変わっていく。
そこにはもう雄大な海とわずかな街というよりも、街一色に染められてくみたいに。
人も少しずつ増えている。けれど、私の隣が埋まるほどでもない…かな。
このモーターに揺られるとだんだんと
気がつけば線路も1本増えて…いよいよって感じがします。
はぁーっ。
なんか…眠くなっちゃう。
行きはかなり早かったのに、帰りは遅い…って言いますかね…言わないですね…。なんでだろ
あ、経由地が違うのか…。そうでしたか…。
そう考えるうちにまた都会の一色、人間の巣みたいな空間へと変わっていく、これがもとに戻るってこと…。
次は終点…。
気がつけば、もうこんなところ。
遅いって言ってるのは一瞬でしたね。
荷物は、ヨシッ。
ありがとうございました。
心でそう言って私はホームに足を戻す。
次は…10番線。
20分後…。
また…弁当見ちゃう?
…わぁ。
すごくいっぱい、行きに寄ったのと同じところだけど、駅弁またいっぱい増えてる。
夕飯決めてないから、まあなんかいい感じのがあるといいんですが…。
あ、この…ご当地インスタントラーメンセット。結構サンプル見ると美味しそう…。
買っちゃえっ。
あと他にはー、やっぱり駅弁ですよね。
このお肉のにおいは…。
うわぁ…肉汁が弾けるような。すごく美味しそうな…におい。
なんだろ…あっ。
サイコロステーキ弁当。ガッツリしてていいですね。
あとお水さんも買わなきゃ。
…他には、あっ。
シウマイいっぱい売ってる…。
一個60円…ちょっと高いかもしれないですが…お土産として240個位買いますか…。
…お会計ありがとうございます。
またいっぱい買いすぎちゃった…。
さて…えっ、あと五分!?
急がなきゃっ。
駆け込みは良くないから、ちょい急ぎ足で…すたすたすたすた…。
ふーっ、間に合った。
これじゃあ観光客ですよぉ…買いすぎて…。
あっ、ぎりぎり空いてる。
荷物…。
棚に上げないと…。
んーっ、んーっ。届かな…届いたっ。
これで…ゆっくりできますね。
相変わらす電車は無機的なような、温かみがあるような色をしている。
椅子もさっきのと似てるのかな。
そろそろ夕日も下るころなのかな。
段々と空が赤くなっていく。
学生さんもそろそろ乗ってくるかなぁ。
まだまぁだ発車まで時間はあるけど…。
ぎゅいーん。
電車の止まるような音…5番線の方?
なんか…いっぱい足音が。
あっ…まずいっ。
無茶苦茶ドサドサいっぱい乗ってくるじゃないですか…ぁぁ。
そうもしないうちにもうギッチギチの満員電車…。
景色もへったくれもないですが…まあ悪くないですかね… 私が見えなくなるし。
ドアが閉まります、ご注意ください。
その音がなっても尚閉まらないほどに人がいるけど…。
すみません、詰めてくださーい。
駅員さんの声。
これも次いつ聞くかわからない…ですね。
ああ、これが日常だったら幸せなのかな。
そう言い終わる末にピコンピコンと扉が閉まった。
けたたましいほどのモーター音が私を連れ去っていく。
都会の景色をいっぱい、目に焼き付けて。
ただ人間の巣がこれでもかと張り巡らされてる。
ここで働くとしたら何があったんだろう…。
あ、モノレールだ。
いつか乗ってみたいなぁ。
なんか珍しいって聞いたけど…何が珍しいのかな…。
そして自然が見える。ああ、懐かしいな。
…公園とか…遊んだっけかなぁ。
いや、ずっと誰かを見ていた…誰かってのは…まあ、それぞれですけど。
ずっと私は砂場とかで遊んでたっけかな。
夕日が霞む。
もう、夜かな。
…そうかと思えば今度はネオンが露骨に輝いて、ってここはあんまり。
いずれにせよもういっぱいいっぱいの電車は体温に飽和して、少し暑い。
っハンカチ。
ふー。
次はー…次は…。
まだ全然降りないし、次は少し落ちるかも。
あの行きにあったお姉さんたちは…まだ学校かなぁ。それとも帰っちゃった。
また会いたいなぁ。ちょうどここだったかな。
懐かしいな…今日がいつもよりいっぱい…なんというか、ふっくら食パンみたいに、潰れたような一日じゃない…。
久しぶりかな。
扉の音がまた閉まった。
もういよいよ少しずつ帯びた熱も落ち着くようになってきた。
扉が開くたびに、昼からは想像できない寒冷が襲う。
暖冬なのに、やっぱり夜は冷える。昼は普通にあっつかったのに…。
いよいよ線路も減る。
次はー
もう人はまばら…。
夕日さんはもう忘れられたように蒼に染まる。
…次は…次は。
また続いてく。
今日を回暦してまた、明日も生きるのかな。
…その一歩先はくるくる回る。
私は、宙に浮いてるというか…。人間になりたい…少しはなれたかな。
人魚さんでも、人だから…きっと少し人間になれたかな。
もう外の明かりも何もかもすっからかん。
でも、私はいる。だから…大丈夫…です。
次は…次は…。 〇〇方面はお乗り換えです。
モーター音が、きゅーっと収縮する。
ここでは少し止まるんだった。
まもなく…だね。
いよいよ最後の路線。
乗り換えはしない。進むんだ。
そうすれば、きっと。
…ふーっ。
モーターも私も呼吸が合わさって、そして扉が閉じた。
もう客は指で数えられる程度に減ってしまった。
思えば、人の喧騒も、静粛もどちらも好きなんですかね…。
暗がりにもう何も見えない中、ただ感覚は高架に登っていく。
私を照らす神々しい朝日はもうないのだから。いや、明日にはある。
次はー
もう客も誰もおりない。
誰もいなくなって景色もないと、いよいよ眠く…。むにゃぁ。
いやいや、起きなきゃ
ぶるゔるっ。
次はー
次は終点、今のうちに荷物降ろさなきゃっ。
ええーい。
かばんげっと!
でも、お土産とかは…頑張って取るしか。
んーっ、むぅっうっ。
ふーっ。もういっかい。
ふーっ、んづっ。
全部取れた!
次は終点…。
モーター音しか唸らないこの場所に私は一人。
…さて、帰る準備しなきゃ。
おかね、よしっ
おみやげ、よし
きっぷ、よしっ
これで大丈夫ですね。
そう言ってるうちに最後に扉がぴこんとなって、私の外の空気を運ぶ。
楽しい旅でした、ありがとうございました。
私はこうぼそっと呟いて、ホームに降り立つ。
行きと帰りも同じ黒に染まってる。
その色が美しいなって。
…涅津君はついてるってメッセージ送ってくれてる。
ぴこぴこっ。
そうしてるうちに気がつけば、駅の下。
改札の前。
その前にトイレいかなきゃっ。
…ふーっ。間に合った。
少し、あれですね。あれ。
やっぱり服少し濡れてますね…。
ふーっ、これで終わりですか。
長いようで短かった旅でした…。
さて、おみやげおみやげっと。
「切符拝見いたします。」
「ありがとうございました!楽しかったです。」
そう言って私は駅の外に飛び出した。
涅津君が手を振ってる。
「先輩元気でしたか。」
「はいっ!楽しかったです!」
おわり
(幸せなのは今のうち。)
たぶん明日か明後日真最終回だします。
真最終回はバッドエンドになりかねないので、気をつけてください。




