怪傑!鈎十字赤頭巾!!
1
ジョバンニのアジトは、内部も外も騒いでいた。ライカンたちが吼えて牙を剥いていく。
「糞っ垂れぃっ、あの尼みつけ出したら喰ったるで!」
「たったひとりに何やっとるんや!?」
そんな中で、突然と廊下の先で新たなる影が姿を見せて、ロングローブを翻した。驚くライカンたち。
「誰や、わりゃ!?」
投げられた声を流したその影は、腕を組んで光りを放つ眼をむき出したのだ。それは、薔薇色に輝く瞳。そして、発達した犬歯。
「ええ夜じゃの。外は多分、満月かもしれんの。のぉ」
これらの容姿に目を通していったライカンたちの躰を、瞬く間に衝撃の稲妻が駆け巡っていった。
「ま、まさかお前……!」
「あかん、こりゃあかん」
「その、まさかじゃ」
見栄を切ってゆく。
「闇夜に参上、その場で解決。ライカンスロープを狩り続けてウン十年っ、人呼んで『薔薇の経血』。怪傑、鈎十字赤頭巾!! ローゼ=ブルート=ルードリッヒ、ここに完全復活じゃけぇ!!」
真紅の頭巾のロングローブに背負ったハーケンクロイツ。その重みは、いかほどのものであろうか。
「ウィーンの街を荒らすイタリアの野良犬どもを、この儂が纖滅しに来てやったぞ! 覚悟ぉ決めいや!!」
そうして、逃げ惑っていく『狼団』のライカンたちに構わずに、怪傑鈎十字赤頭巾ことローゼは腕を顔の前でクロスさせて、なにやら気張り始めていった。すると、少女の皮膚から衣服の隙間から、煙を吐き出してきたではないか。段々とその顔は、赤く染まっていき、やがては熱を帯びてきた。そして、タイミングを見計らうなりに、ローゼが腕を真横に広げて、大地に足を根差したその瞬間に、少女の躰じゅうの皮膚の穴という穴から赤く焼けた物がたくさん飛び出してきて、逃げてゆくライカンたちを狙った。そう、それは、ローゼ自身の血液だったのだ。
「アイゼン・メイデン《鉄の処女》!!」
無数の赤い針となった物が、情け容赦なくライカンたちを貫いていく。手当たり次第に貫通して、いるもの全てを奪った。そして、その惨状は、廊下じゅうを赤く染め上げていたのである。へばりついた、ライカンたちの血肉。もう、どれが内臓で、どれが皮膚か骨かが分からない状態。そして、剥き出した犬歯の間から白い息を太く漏らしながら、ローゼは次なる標的へと足を進めていった。ローゼがアンジェレッタの行方を追っていたその矢先に、真横の壁をぶち壊して現れた巨体が、少女の襟をとるなりにそのまま向かいの壁へと突っ込んだ。そして、次々と部屋に風穴を空けてゆき、屋外に出たところで巨体から地面に叩きつけられた。気管支に息を詰まらせるも、すぐさま吐き出して飛び退ける。その巨体を見るなりに、鈎十字赤頭巾は犬歯を剥き出して呟く。
「タキオーニかい。ぬしゃ、狼団で一番の力持ちらしいの」
「ああ、あまり自慢することやないがな。一番の力持ちらしいで」
「阿呆」
「なにがやねん?」
「おんしは二番目じゃ。儂が出てきた以上は、儂が一番じゃけぇの」
この言葉に、組の構成員の中でも控え目らしいタキオーニでも、これはさすがにカチンときたようだ。ボスのジョバンニを守る為に見つけ出した、生まれつきの我が並外れた筋力を心の何処か奥底で自覚していたものだったから、これは余計に癪に障ったらしいのだ。その一番の理由とは、純血種の自分に対して、混ざりのローゼからいけしゃあしゃあと「お前は所詮は二番目」と頭から否定されたこと。そして、タキオーニは無言で指の関節を鳴らしてゆきながら、ローゼに歩み寄っていく。
一方のルナは二丁のハンドガンを使って、並み居るライカンたちを撃ち殺していっていた。身を回転させて、迫り来る爪から逃れて聖水を発砲。時には長い脚も使って、手下どもの急所を潰していく。そして、最後の一体を倒した時のこと。扉を蹴り破って部屋に踏み込んだ瞬間、敵の爪先が視界に飛び込んできた。とっさに腕をクロスさせて顔を防御したが、蹴られた勢いで壁に背中を強打。痛がりながら起き上がった直後に、部屋から出てきた相手から胸倉を掴まれて、その中へと放り投げられた。息を嘔吐していき、腹を押さえて立ち上がる。鞭のような蹴りが、ルナの反射的に下げた頭をかすめた。構えをとって前方を見て、その相手を確認。ルナの敵は、赤毛のライカンスロープだった。
「よぉ、ニキータさん」
「人間のくせして、舐めた真似しょってからに」
一歩踏み込んだニキータの蹴りが、ルナの膝を狙う。足を上げてそこを防御したのちに、飛び退けてすぐさま踏み入れたルナは、真横に脚を打ち出して相手の脇腹を蹴る。だが、ニキータが一歩下がったがゆえに、スカを食らってしまう。だからといってそこで諦めるルナでなくて、流れた脚を再び振り上げて今度は踵でニキータの頭を狙った。手応えあり。しかし、とっさにガードされていたようで、思わず舌打ちをした。防御しながらも、蹴りを喰らった勢いを利用して、ニキータが側転。同時に、その爪先が二つルナの視界を横切ってゆく。倒立のまま手を入れ替えて、ニキータは開脚をして真っ直ぐと蹴りを放った。それはまるで、ボウガン《弩:いしゆみ》から発射された矢。これを喰らった瞬間に、太い槍で腹を貫かれたような激痛を味わったルナは、なんとか堪えて足を踏ん張る。すると、前方の敵は倒立から脚を下ろしてゆくと、ゆっくりと上体を上げたのちにルナを見つめた。少し微笑んでいるようだ。
シュッ! と鋭く息を吐いて、ルナは床を力強く蹴る。跳ね上がったその脚の目的は、ニキータの頭の破壊。腕を上げられて不発。だが、この一発で済むものか。真上に放った膝が、ニキータの顎を狙った。一歩退かれて、スカになる。退かれたら追いつくまで。逃がさずに懐へと飛び込んで、垂直に跳躍したと同時に、足の裏を時間差をつけて撃ちだした。胸板に喰らったニキータの体勢が崩れて、苦痛に顔を歪ませる。よっしゃ、手応えありじゃ。着地してまたすぐ飛び跳ねると、今度は足刀を喰らわせた。三度目の正直で、胸板へと蹴りを突き刺すことができたのだ。
吹き飛ばされたニキータは、テーブルを破壊してに落下。背中に破片が刺さり込む。躰を丸めて飛び起きると、床を蹴って横一線に脚をふるった。間合いを詰めるやいなや、宙から飛んできた敵の脚に、ルナは急ブレーキをかけて身を屈める。着地したニキータが、そのまま後ろ向きからの蹴りへと繋いだ。ルナが再び上体を沈めて二撃目から身をかわし、さらに大きく横に踏み出して側転宙返り。そして、着地と同時に背中を見せた姿勢から飛び跳ねて、全身を捻った中からの踵をニキータの顔面へと喰らわせた。メチ、と、自身の鼻が折れた音を聞きながら壁に激突。それと一緒に、ニキータは目に写る部屋の景色が横へとずれてゆくことに気づいた。正面を見据えたままのルナが、段々と視界から外れていく。すると、女が横に伸ばしていた腕の先に持っていた物を見て、自身が今はどういう状態なのかがはっきりと理解したのだ。
ルナから斬首されたのだと。
粉塵となっていくニキータを見つめながら、ルナはサーベルに付着した血糊を振り払って背中の鞘へとおさめた。その形は、サーベルの鍔を組み合わせると十字架になる。このルナも、ローゼとはいきさつは違えど、大きな十字を背負っていたのだ。
ルナはジョバンニの首を目指して、ただいま移動中。中ボスを倒してしまえば、あとは雑魚ばかり。の、筈だったが、もう手下どもは完全に逃げ出したのか始末してしまったのかで、影がひとつも見当たらなかった。だが、一応は用心しながらショットガンを構えて歩いていたその時。壁を突き破って黒髪の少女が顔のみを覗かせたのだ。
「よぅ、ルナさんじゃな。そっちは順調かいの」
「ローゼ、なにをやっとるんなら!?」
「なにをって……。見りゃ解るじゃろ」
そう言葉を交わしたローゼの頭は、仰向け状態。直後に、壁から引き抜かれたと思ったら、数秒後に今度は巨体な影とともに現れて、再び壁を破壊してそのままの勢いで放り投げられてしまい、向かいの壁に穴を空けて部屋の中に落下した。一部始終を見て驚くルナに、チラッと眼を流したタキオーニだったが、すぐ前方の獲物に狙いを定めると歩きながら腕を前に出して、ローゼの空けた穴をさらに広げて部屋へと踏み入れてゆく。飛び起きて着地したローゼは、全力で拳をタキオーニの腹に叩き込んだ。その一撃に表情のひとつも変えることなく、タキオーニはローゼの襟首とベルトを鷲掴みすると、石煉瓦の壁に投げつけた。ぶち当たったその時に、ルナはローゼの骨が砕けるような嫌な音を聞く。赤黒く鉄臭い液を嘔吐しながらも、ローゼは立ち上がってタキオーニと向かい合った。
「お遊びは、この辺にしとき」
「なんやと……?」
「終わらせるからじゃ」
そうひと言をあげた瞬間に、少女の眼は薔薇色の光りを増していった。鉤爪の拳を顔の前でクロスさせるなりに、ローゼは力を入れてゆく。するとその白い顔の下から赤い光りを放って、毛細血管が輝きだした。その変化とともに犬歯のさらなる発達。そして、両腕を広げて雄叫びをあげた。手を床に突いてクラウチングスタートの姿勢をとる。“グルル”と唸りながら、タキオーニを睨みつけた。そのタキオーニも構えて力を溜めてゆく。そして、二つの影が同時に床を蹴って駆け出した。先手を打って、タキオーニが踏み入れて拳を放った時に、ローゼはより高く宙に舞って足を揃えたのだ。次の瞬間、薔薇を彫った靴底が二つともタキオーニの厚い胸板へと命中。それからローゼはさらに、このままの体勢で蹴りを三発ほど喰らわせてやり、そして着地してすぐにローゼはその巨体へと飛びついて、腕を首に巻き付けた。頭を押さえつけて、完全にロックを決める。暴れるタキオーニから壁に背中を打ちつけられつつも、その腕を解くことはなく離さないでいた。どのくらいの気張り合いが続いたであろうか、タキオーニは口の端から泡を噴かしていき、力尽きて膝を抜かして床にう
つ伏せとなる。そして、最後の締めとして、ローゼがタキオーニの頸を折って終わらせた。
2
「待たせたな、こらぁ!!」
長の部屋の扉を蹴り倒して、ローゼはルナと一緒に入ってきた。
「待たせすぎや、われ!!」
『狼団』の頭である、ジョバンニも負けじとして投げ返したのだ。いや、本当にこの二人を待ちわびていたのかもしれない。ジョバンニが机を蹴飛ばした。女二人が二手に別れて飛び退けたのちに、受け身をして転がって片膝を突いたルナは、ショットガンを颯爽と引き抜いて撃った。銀製の特殊な弾を次々とよけられていくのもお構いなしに、手早く前後に動かして装填しながらルナは撃ちだしてゆく。己にめがけて発砲をし続けているシスターを狙って、ジョバンニが牙を剥いて飛びかかったその刹那に、真横からきた弾丸のようなタックルに邪魔をされてしまい、そのまま壁を突き破って隣り部屋に落下。
ジョバンニを下敷きにしているローゼが馬乗りを勝ち取った途端に、豪雨のように拳を相手の顔へと乱打してゆく。十発か二十発ほどを喰らわせた時に、下のジョバンニから手首を捕られて、さらには後ろ足で腕を巻かれてしまった。そして、ジョバンニはためらいもせずにローゼの腕をへし折る。皮膚を突き破って、骨が顔を出した。一度呻きを漏らしたものの、歯を食いしばって親指をジョバンニの眼へと押しやっていく。力をその一点に集中して深く押し込んだ時に、親指が入って、その奥から赤い液を噴き上げていきそして垂れ流していった。ジョバンニの頬を伝い、床へとその赤い溜まりを広げていく。眼底から走ってくる巨大な稲妻に、ジョバンニは思わず吠えたのだ。親指を穴から引き抜いたローゼはさらに、掌に刻まれた薔薇の痕でジョバンニの傷口を覆って力を込め始めてゆく。すると、それと一緒に瞳が薔薇色に光りを放ち、ジョバンニの顔半分からは煙りを立ち上らせていった。これはたまらんと、ジョバンニが下から拳を突き上げて、ローゼの鼻柱を砕く。パンチを喰らった勢いで、馬乗りの態勢を崩して床に尻餅をついたローゼは、トンボ返りをして飛び退けた
。着地するなりに折られた腕を上げてそこに意識を送ると、たちまち骨は皮膚の中へと潜り込んで癒着して完治。顔半分を手で覆いながら立ったジョバンニが、手前の少女を睨みつけた。
「こん糞餓鬼がっ、われひとりに俺の狼団が滅んでたまるかいっっ!!」
そう吼えて床を蹴った。
弾丸のごとく真っ直ぐと駆けていき、牙を剥く。ローゼも真正面を狙って飛び出した。ジョバンニの犬歯と犬歯とが噛み合うが、それは虚しく空を喰い千切ったにすぎず、その目標は身を沈めていたのだ。ローゼは肩を鳩尾に喰らわせて、一旦相手の動きを止める。そして身を引いたのちに踏み込んで、両拳をジョバンニの胸板と下腹部に叩き込んだ。しかも、ローゼの技はこれだけには終わらず。今度は手刀をその脇腹へと突き刺した。貫いた指先を相手の躰から引き抜いて、両掌を厚い胸の下あたりに添えるなりに、ローゼは叫んだ。
「ローゼン・コメート《薔薇の彗星》!!」
薔薇の形の傷口から、一挙に大量の血が噴出されて、ジョバンニの躰を貫いていきながら壁へと叩きつけたのだ。だが、ローゼの攻撃はこれでは終わらずに、今からが本番を迎えてゆく。突き出していた両掌の傷口から煙りを噴き出して、さらにそこから沸騰した血液を滴り落としていく。そして両腕を斜めに広げて構えた。鉤線を描いて、再び胸元から今度はそれをクロスさせる形に広げて先ほどと同じ線を引いた。
「ローゼンクロイツ・クノスペ《薔薇の鈎十字の蕾》っ!!」
その鈎十字状の血液をジョバンニへとめがけて噴出していき、それが当たった瞬間に、ローゼは今一度その両腕を胸元で交差させたのちに真横に広げた。
「アウフブリューエン《開花》っっ!!」
そうした途端に、ジョバンニの躰は四散して飛び散り、壁には大きな鈎十字を焼き付けていたのである。
3
その後。
ローゼとルナはお互い隠れ家へと戻り、再び床を共にした。
そして、翌朝。
先に目を覚ましたルナが、隣りで背中を見せて未だに眠っているローゼの肩を優しく揺すって声をかける。
「おい、ローゼよ。朝じゃ。起きていつもの仕込みをするきに」
「んーー、あと五分だけ」
「なんなら、そら?」
奇妙な既視感におそわれたルナだったが、そこはそれで置いておいて、もうひと声かけようとして揺すった時だった。なんだか、この黒髪の少女に妙な違和感を覚えたので、試しに仰向けに寝相を変えさせてみたら驚愕。
「誰じゃ、ぬしゃ!?」
「えっ! 誰か他におるんかいの?」
それに呼応するかのように、上体を跳ね上げてルナと向き合ったその顔は。それはよく見たら、よく見知った顔。失礼なようだが、指差しながら声をかける。
「ローゼ、おんし、なんだか成長しとるじゃないの……」
「えっ!? 儂がか」
ベッドから飛び降りるなりに、足早と箪笥に駆け寄り扉を開いて鏡でその姿を確認。おや? いつも見慣れた我が面とは違うが、鏡の向こう側の人物が己であることは直感的に理解できたのだ。頬を触り、髪を撫でて、胸の触り心地を確かめて、小振りなお尻の膨らみも感触を確認していく。嗚呼、これは間違いない。否定しようもない事態だ。
「儂、ほんに成長しとる」
「二九歳くらいに見えるの」
ベッドに腰掛けていたルナからの、ひと言。それをローゼは、こう返した。
「血を流したから女になったんじゃな。のぉ」
「ぬしゃ、血を流した云う意味が違うとりゃせんか?」
そして、インナーを身に付け始めていくルナの隣りに駆け寄って、お互いの頭の上で手のひらを振る。
「おぉ、背丈もルナさんと並んどるんでないの」
「ほんにな。昨日まで、おんしちっこかったからな。―――てか、早よ服着たらどうじゃ」
「おぉ、そうじゃった」
二人は仕込みの身支度をしながら言葉を交わしていく。ローゼは、心なしか嬉しそうであった。
「ああ、そうじゃルナさん」
「どうしたんなら?」
「儂、伸びちまったならあの服が入らん」
「確かにそうじゃな」
ローゼの云うあの服とは、ドイツの民族衣装をデザインしたあの服のこと。真紅のロングローブと、常にワンセット。
「新しく作らんとなーー」
仕込み完了。
商品を箱に詰めながら、会話していく。ルナには気になっていた事が、ひとつあったらしい。
「そういえばローゼ」
「なんならー?」
「アンジェレッタの奴に逃げられたまんまじゃったな」
「んふふ。アイツはいずれ見つかるきに」
「どうしてじゃ」
「儂な、調べておいたんよ。『狼団』がウィーンに潜む黒犬の組織と繋がっていること。じゃから必然的に向こう側からの何らかの動きがある筈での。それまで、アンジェレッタを泳がせておこうかと思っとるきに」
「なるほど、向こう側が餌に引っ掛かるのを待つわけじゃな」
「そうじゃ」
箱を軽トラに積み込んで、出荷。運転の道中に、再びルナから切り出した。
「なぁ、その黒犬の組織はなんて云うんじゃ」
「『黒い兄弟』云うとった」
「おんしの次の標的か」
「ああ。連中を滅ぼしてしまえば、だいたいは終わりじゃけぇ」
エピローグ
星の瞬く夜。
ウィーンの一角で小さな悲鳴ののちに、肉と骨を砕く音を立てていき、それはさらに体液を啜り始めた。
「今宵は見事な満月じゃな」
上からそう声がしたので、大きな影はそこへと首を回して言葉を投げつける。
「なんなら、ぬしゃ?」
「儂か」
屋上の縁に片足を乗せた人物が、眼を薔薇色に光らせながら口の端を釣り上げた。発達した犬歯を剥いて、歯の隙間から白く太い息を吐いていく。見栄を切りつつの自己紹介が始まった。
「闇夜に参上、その場で解決。ライカンスロープを狩り続けてウン十年、人呼んで『薔薇の経血』。怪傑鈎十字赤頭巾こと、ローゼ=ブルート=ルードリッヒ、ただいま見参っ!!」
大きな鈎十字を印した、真紅のロングローブを翻した。
『怪傑!鈎十字赤頭巾!!』
完結