第三話「カーテンコール」
人間と同じ性質を持つ種族“人型”には絶対に入れない小説家の部屋、という場所に僕達は一度引き返して来た。生き方は至ってシンプル、枯花参道にある鳥居を潜るだけ。方法が簡潔でも、入室の許可が出るかは別の話。
僕達がそこに入れたのは単なる偶然とか、そんなのでは無くて。僕とルークだけが持つ特別な力が作動してるだけ。そうでなければ、超低確率の、運に任せた鳥居の往復をしているだろう。とりあえず、その話は一度区切って……。
さて、最後は僕的に簡単な説明をして終わろう。もう枯花参道が出ている時点で、水鏡面之世は出来上がっているから、あらすじ内容はクリアした、と受け取るかな。
僕は現世を塗り替えた。僕が小説を書き、それを現実にする力があるから出来た芸当だね。だからこの作品には、パラレルワールド、というのが着いてたはず。現実世界、省略して現世。そこはもう選択者達のいる世界とは違う、僕達の為に造られた、平和な世界。戦争も紛争も起きず、ただ平穏な日々がすぎるだけの世界。
変だと思う? でも、最初から歴史を創り上げ、要らないと思った争いとその戦犯を選り抜いて消し、埋めるために幸福を縫い合わせて。みんなの為、尽力したつもりだよ。それがたとえ、君たちが首を縦に振り切れないものだったとしても。納得できないものでも。
次は、代償について話せば良いかな。
僕は右目、ルークは左目の機能を失った。黒く染まった時には驚いたけど、ルークは包帯を巻いて隠してたっけかな。僕は覚える為に、右目に縦の傷を入れたけど。おかげで目は開けづらくなってしまった。
ルークの耳が狐になってたよね。代償には思えないって? …………選択者は鋭いんだね。そうだよ、彼女は代償だけじゃなくて、ある種の慈悲も込められてたんだ。嘘憑き狐、これは彼女の事。じゃあ、小説家は? うん、僕の事だよ。
僕は逆にもう一つ、代償を加えられてたんだけど。一部感情の欠落と、現世での記憶の追憶。蝦夷菊の花言葉は「追憶」。ふふ、僕ながら上手い表現の仕方だと思ったんだけど。
うん? この文章を書いているのは作者であって、僕じゃない? …………そう思うんだ?
なら、改めて名乗らせて貰うよ。
「僕の名前はネラ・トロイメライ。小説家にして、その代弁者」
代弁者、だよ。分かったかな?
作者の感情を、演劇を、小説というレールを。代弁し、演じ分け、レールにトロッコを置く。それが僕の役目。
うーん、そろそろ時間かな。もう少し話したかった? 安心して、きっとまた、どこかで話す時間が来るから。僕は小説の、どこにでもいるから。
「それじゃあ、また」
まずは慣れ、という事で手早く書き終わらせた物語。これが小説達の基盤となる。
選択者、という意味は、僕としてはこの小説を読むか読まないか、という時点で選択してて……みたいな、イメージなんですけれどもね。厨ニ病らしいとか、理解しづらいとかあるかもしれませんが……どうぞ、温かい目で読んでくださると嬉しいです。
だって、作者は誰よりも自身の作品を愛しているんですから。