第一話「想像芝居、僕と俺の演劇」
演劇が終わるまで、幕は下りない。だが、それこそ想定芝居であったら? 演者は舞台に立ち、演劇を進め、観客達へ物語を語る。だが、演者そのものが消え物であったら?
板付きの演者、それが僕。舞台を照らすスポットライトが、僕の足元から全身を輝きに包む。この光こそ、観客達の視線だと考え、足先、指先、口角、身の毛まで繊細に演じきる。最後まで、気を抜けはしない。僕の名前は“緋奈”。ただの空想に飲まれた人間。糸が自身の体を纏わり付く感覚はただの幻想で、本当はただ本心を見せるのが恐ろしいだけ。利き手の左を胸に、右を真っ直ぐ伸ばしてお辞儀をする夢を、何度見たことか。
僕の演劇は最初から最後まで、人形劇。見てたって面白くない、後味も悪いで最悪な、下手な芝居。
それでもこれを開いたのなら、この文章と違わない僕の演目に目を通しに来たのなら。
「この世界の始まり、そして書き換えまでの物語」
それをたった三話で、語って、演じてあげようと思う。
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僕が足先まで糸を垂らしたのは、小学生後半から。今の今まで、人生に碌な事なんてなかったから、というのが理由。そんな僕にも、空想するくらいの延命余地はあったみたいだけど。
毎日煩い目覚ましの音で目が覚めて、今日も学校か、何て思いながら重たい体を起こして。明るく振る舞おうと、僕なりに上手くやろうとしているけど。きっと、隠しきれてなんていないんだと思う。
僕は今中学生になった。心に深く残っている傷の数々はどれも治っちゃいないが、なんとなく決心をつける事位は出来た。だって、今この瞬間に。
風が僕の体を押す。早くしろと叫ばんばかりに、右目を覆い隠す前髪をやすやすと翻して。放課後の空、暗くなっていく空気と共に彩度を失う雲やそれも。僕がやることに全肯定の意を示すかのように。学校の屋上って、そう簡単には入れないよね。扉は閉まっているし、そうそう鍵が開くことなんて無いし。
ただ、僕が今ここに立っている経由を話すと危ないだろうから、説明は省くとして。
隣に居る、なんて信じている親友の手を握って、目を瞑り、僕は歩みを進めていく。風が冷たい。冬場の屋上ほど、冷え込んでいる日はない。
「それでは皆様、ごきげんよう」
僕の一生は終わり、また少しひん曲がった僕達のエチュードが始まる。
違うのは、現世という舞台から消え物と化した一人の演者、彼女が白鳥のバレエみたいに踊り始めた事。真っ赤でぐちゃぐちゃになって、それでもパチリと火を揺らす蝋燭へ息を吹きかけ、知らない場所の献花が燃えているように。
「さて、選択者。君には俺達の演劇はどう見えた? ……いや、急にそんな事言われたって、だよね」
「改めまして、自己紹介をしよう。俺は楓、またの名をルーク・トライメライ」
「そして僕が、緋奈でありネラ・トロイメライです」
「塗り替えられた現世はただ彼女の引いたレールを走るトロッコへと化した」
「天国であって天国でない、あの地で」
「選択者、貴方は僕達の姿を見られるでしょう。今はただ、文面という僕の走らせたペン跡を見ているだけでしょう?」
「小説家と嘘憑き狐、緞帳が上がり我々はキッカケを始める」
初めてなろうを使って執筆した作品の為、色々と不自然な部分や、誤字脱字、表現の仕方が間違っていたりすると思います。
楓・緋奈が現世での名前、ルーク・ネラが水鏡面之世(主に小説で描かれる現世では無い世界)での名前になります。