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第七話 重症者と死傷者


 中黒(なかぐろ)二仮(にか)、私の前の席の引っ込み思案な女の子。運動は不得意そうだし、小柄な体格からしてもあまり力はなさそうに思える。普通に手押し相撲などで戦ったら私が勝つだろう。


 しかし、私に武器がなく、彼女に武器がある場合、その立場は安易に逆転する。


「あ、あの!」


「うん?」


「こ、これって、き、綺……四有さんのだよね?」


 自らが持つ包丁を指さす。


「うん」


 

 沈黙が広がる。


 二仮は視線を下に向けて、何かを言いかけてはやめて、やっと言葉を紡ぐ。



「わ、わかるよ」


 視線が上がる。





「――や、やっぱりナイフとかってかっこいいよね!」


 目をキラキラさせてそう言う二仮に、私は言葉の意味がわからずはてなが浮かぶ。


「ぼ、僕もカッターとかも、持ってるんだ。に、二個も!あ、あとい、家にはバタフライナイフとかもま、前に買ってもらって。すす、すごいあの、銀色に輝いてる感じ、とか、かっこいいし。血ってあのそのきれいで?いや、怖いからほ、本当に使ってみたりとかはしないんだけ、ど。へ、へへ」


 しどろもどろに二仮は語り、不格好にニヤつく。


「うん。そっかあ」


 知っている。私はこういうのを何というのか知っているぞ。


『……中黒二仮、重度の中二病患者です』


「だねえ。でも、ただの人じゃこの学校に入れるないんじゃ?」


 小声で問う。


『そこが疑問点ですね。正直普段の様子を見ても特別な子には見えないんですけど』


「まあ、いいか」


「し、四有さんも、お、同じなんですよね、だ、だから」


 私は無言で彼女に近づく。そして、手を取る。


「ひ、ひぃ」


 その瞬間、彼女はうわずった声を上げ、後退する。


「そう!私も思ってたんだ!やっぱり武器っていいよね!」


「……で、です、よね。そうだって思ってたんです!」


 一気に彼女は元気になる。


 私はそんな彼女に微笑みかけた。


「ねえ、二仮ちゃん。私と友達になろ!」





ーーー





 中黒二仮は本当に中二病をこじらせただけの普通の少女である。


 しかし、中二病と異能というものは相性が良すぎた。良すぎたのである。


 この学園へ入学するには、まず、願書において自らの能力についてアピールする必要がある。まあ、自分が何者かを簡単に書ければいいのだ。


 普通の受験者はそこで篩にかけられる訳だが彼女は志願理由にて自らの自作ファンタジー魔法学園小説について書き、彼女は自分が魔法使いであると言いたいのだな、と学園側は認識、通過させてしまった。


 そこから後は簡単だ。


 面接などにおいても得意の中二病でそれっぽいことを言い、学園は無駄に全力でそれを解釈した結果、無能力であったただの中二病少女は入学してしまった。


 しかし、中学で孤高を気取った故のコミュ力と常識力の無さから、友達ができることもなく、この学園の違和感に気づくこともなくここまで過ごしてきた。


 そのため、彼女は包丁をなぜか所持している危険人物を同類だと思い、全く警戒しなかった訳だが、傍から見ればそれは違った。








(包丁を持ってるとか、どういう危険人物よ!この学園だとしてもさすがに変すぎでしょう!)


 特に、綺羅と二仮が話していた教室の外、廊下にて一部始終を見ていた少女にとっては。


 彼女は少し透視が使えるだけの一般市民である。それでも、学園の中で美冬の陣営に属していた彼女にとって、それは見逃せる光景ではなかった。


 彼女はその場から少し離れて、綺羅が荷物を取り下校しようとすると、それを追いかけた。


 異能の特性上ばれずに、尾行することを得意としていた彼女は綺羅に付いていった。その家を特定、正体を暴き、少しでも自分の地位向上に役立てようと考えていたのか。いや、まあ高校生であるし、案外衝動的な行動だったのか。


 それは順調に進み、彼女はとあるマンションの一室の前に立った。


 普通の部屋だ。暗くて見えない部屋以外は全て確認したとき、マンションの廊下を一人が通りがかる。彼女は慌てて、部屋から目を離し、礼をした。


 それがいけなかった。


ガチャ


 ドアが開き、一人の女子高生が出てくる。


「ああ、百合子ちゃんじゃん。こっち来なよ」


 綺羅は彼女の手を引き、彼女は強制的に中に入らされる。


「あ、えっと、あの四有さん」


「うん、私を尾行してるとかの連絡はしてないんでしょ?」


「あの、私ただ、たまたま通りがかっただけで」


「うんうん。その意見もわかるけど、ええ?そう。でもそれならいいよね」


 一人で宙を見つめ、言葉を発する綺羅の姿に恐怖を感じ、彼女はなんとか後退しようとする。しかし、扉に鍵がかけられているのに気づき、彼女はがむしゃらに体を前へ動かす。


「おっと、どこ行くの?」


 綺羅のすぐ横を走り抜け、一つの部屋に逃げ込む。真っ暗な部屋だ。しかし、彼女は床にあったものに引っ掛かり、倒れこんでしまう。


「うわ。整理しないとなあ」


 綺羅が扉横のボタンを押し、その部屋に光が灯る。


 そこで彼女は自分が引っかかったものが何かを知る。


 骨である。


「そんなこと言ってもねえ。なら美雪がやればいい話でしょ」


 彼女は叫び、逃げようとするも、動かない。いや、動けない。


「まあ、しょうがないから。だからさ」



 彼女は最後に綺羅の笑顔と金属のきらめきを見た。




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