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第三二話 最近の人類の生命力について


 髪はぼさぼさ、汚い服を着た元担任のギラギラとした目がこちらに向いていた。


 私は横目で美雪を見つつ、小声で話す。


「なかなかリスキーなことをするね」


 こんなに早く来るということは、久慈先生は近くにいたことになる。


 ついさっき偵察してきたときに気づいたのはもちろん、美冬殺害前の偵察でも見たはず、だというのに、


――……いえ東校舎内には他に誰もいません。


――久慈先生がいなくなったとはいえ~


 よくあんなことが言えたものだ。久慈先生に美冬殺害を邪魔されるおそれもあっただろうに。


『綺羅が久慈先生を退場したことを前提としてくれたので助かりました』


 美雪は涼しい笑顔を浮かべる。私は思わず、小さくお手上げをしてから、久慈先生に向き直る。


「……久慈先生、クビにされたとばかり。まだ、この学園に入れたんですね」


「綺羅、私の生徒を殺したな?」


「少ししか殺してませんよ?」


 そうとだけ言って立ち上がる。先生は素早くポケットから何かを出した。


 先生の武器は……バタフライナイフか!


 私はとりあえず、逃げることにした。分が悪すぎだ。


 先生がいない方の扉へ走る。


『右に避けて!』


 その叫びを聞いて、頭をフル回転した結果、左に避ける。あぶなっ、頭の右すれすれをナイフが通り過ぎた。


『引っ掛かりませんか』


「さすがにね!」


 私はこのまま教室を出れるかとほっとしたのもつかの間、進行方向に先生がなぜか現れる。


 これでテレポートじゃなくて、速いだけとか勝ち目なくないか?


 私はすぐ後ろに下がる。が、久慈先生は今度はゆっくりとこちらに向かってくる。


 ああ、いよいよやばいかもなと思いつつ、何か手だてがないか、周りを探る。





 視界の端で、動くものが目に付いた。


 故に私は久慈先生にとびかかる。


 一瞬、浮遊感を感じたあと、すぐに背中へ痛みが走った。


 久慈先生が私を床に叩きつけたのだ。


「さすがですね、武道か何か嗜んでたんですか?」


 久慈先生は私の問いを完全無視すると、私の上に馬乗りになり、拳を振り上げた。


「おま、えのせいで!何人が、死んだと思ってる?!」


 右、左、右、左。


 交互に殴りが入れられていく。女の子の顔に対する配慮はないのだろうか。


 文句を言ってやりたいところではあったが、私はおとなしく待った。準備ができるまで。


「返せ、返せ!おま」


 そこまで聞いたところで、準備が完了したのを確認したので、久慈先生の腕を掴む。


 撃たれた右腕が痛い。でも、幸せJK生活を思えば!


 私は残った力を振り絞って、私の横に久慈先生の体を倒す。


 と、ともに、銃声がまた響き渡った。


「ぎりぎり、セーフか」


 銃弾はなんと久慈先生の丁度心臓の辺りを貫いたらしい。即死だろう。


 これも、久慈先生が私だけを注視してくれたおかげだ。そして、もう一人。


「お姉ちゃん、ありがとね」


 精一杯の感謝をこめて、瀕死ながらも銃を手に取った姉にありがとうを伝える。


 たとえそれが私を殺そうと放った銃弾であっても、結果的に久慈先生を貫き、私を救ったのは事実だ。


 まあ、しかし、瀕死とはいえこのまま銃を持たせておくのも危険なので、とりあえず取り上げて、そこからちょっと考えますか。


 久慈先生の体をまたいで、姉のもとに向かう。姉は弱弱しくも何とか拳銃を上げようと手に力を込めていた。


 美雪といい、美冬といい、お姉ちゃんといい、最近の人類は生命力強すぎないか、そんなことを思いながら歩き始めた、そのとき。


 足を掴まれた。


 まあ、予想してしかるべきだった。そこは私の落ち度だ。これまでのことから考えても、あの久慈先生がそんなあっさり死ぬはずはなかった。


 私は転んだ。地味に転ぶというのは小学生ぶりかもしれない。


 だからだろうか。私は受け身をろくに取れないまま、床に叩きつけられた。


「痛っ!」


 思わず声が出る。


 でも大きな怪我はない。私はほっとしつつ、足を掴んできた久慈先生の手を引っぺがす。


 そのとき、私を……いや、私の後ろを見て、久慈先生が笑った。


「しまった!」


 私はすぐさま後ろを振り返る。



 拳銃の引き金が、引かれた。



――これは言うなれば、そうだなあ。幸せ……JK生活!そう、幸せJK生活だよ!



 ああ、最後に私はこれを思い出すのか。



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