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第三一話 ニッコニコ


『……綺羅って、姉いたんですか?!』


「まあね」


 倒れている二仮の影からお姉ちゃんの様子を伺う。


 お姉ちゃんが持ってる拳銃は五発入りだと考えると、あと四発くらいだろうか。拳銃にはあまり詳しくないからよくわからない。


 そもそも、どこで……って今考えてもしょうがないか。


 二仮が立てたら、二仮を盾にして迫ることも出来るだろうが、さすがに一人で二仮を持ち上げるのはつらい。


 それに、拳銃の弾を避けられるほど運動神経は良くない。


 まあ、朗報が一つあるとすれば、お姉ちゃんの手が明らかに震えていて、撃ち慣れてもなさそうなところか。


「よし」


 私はぐったりとしている二仮を押しのけながら、ゆっくりと立ち上がる。


「まあ、落ち着いてよ。お姉ちゃん。私のこと守るって言ってたじゃん。それなのに私のこと殺しちゃうの?」


「……私は理事長を殺したの」


「へえ?」


「震えた。吐き気がした。彼の苦しみや痛みを想像して、彼のあったはずの未来を想像して、罪を感じた。ねえ、あなたは人を殺したときこんな気持ちになった?」


 ならないなあ。


「うーん、たまに?」


「嘘ね。あなたは人を殺しても一切罪悪感を抱かない。核兵器のボタンを渡されたら、きっとあなたは平気で人類を滅ぼす」


「今の私は幸せJK生活が目標なんだからそんなことしないよ」


「高校を卒業したら?その目標がなくなったらどうするの?」


「さあ?」


 そう話しつつ、じりじり距離を詰める。


「最後のあなたの家族として私はあなたをこの世界に残さない。それが私の世界に対する責任」


 これ以上は無理か。


「そっか、ならちゃんとここを狙って撃ってよね」


 私は右手の人差し指を頭に当てて言う。


「……ええ、さようなら。綺羅」


 お姉ちゃんの指が動き始める。


 と同時に私は右足を前に出して腰を落とす。


 1発目が頭上を通り抜けた。


 私はクラウチングスタートの要領で、床を蹴って、駆け始める。


 2発目が右腕に当たる。


 痛い。でも、あと少し。


 3発目が腹を穿つ。


 私は手を伸ばす。


 銃口を、掴んだ。


「お姉ちゃん、運動してないでしょ」


 こちとら、体育祭に向けてきちんと練習してきたんだ。


 私は銃口を掴んだまま、お姉ちゃんの方へ向ける。


 それにしても力が弱い。理事長を殺したときに何かあったのだろうか。


「さて、お姉ちゃん。これまでありがとう」


 ニッコリと笑い、礼を言ってから、お姉ちゃんの指の上から無理矢理引き金を押す。


 乾いた銃声が響き渡った。


「……結局、家族は私の期待には応えられなかったね」


 倒れたお姉ちゃんから銃を拾い上げる。


「えっと、あと二発ってとこかあ。安全装置とかは大丈夫なのかな」


『……よく頭を狙えなんて言えましたね?』


「そりゃ、私は小顔だからね!胸狙われると被弾する確率が高くなるんだから頭に誘導するのは当たり前でしょ。あの震えようじゃ当たる確率は低そうだし」


『だとしても……はあ、いいです。ちょっと偵察してきますね』


「はーい」


 安全装置は、これかな?ドラマとかでしか見たことがないから、不安だ。


『すみません。銃声に気づいた人がいるみたいでこちらに来てます』


「まあ、そうだよね。よし、被害者の振りをしますか。丁度撃たれたし」


 私は鞄から包丁を出し、銃とともに指紋だけ拭き取ってお姉ちゃんの近くに置く。


 そして、私は二仮の横に座り込んだ。


「二仮は……虫の息か」


『とどめを刺さなくていいんですか?』


「うん、いいや。もう拳銃も包丁もセットしちゃったし」


 そういえば、二仮は私のことを命がけで庇ってくれた。


 おそらく、友達だから。


 でもきっと私は同じような状況になっても二仮を庇うことは絶対にない。だとすれば、私は……。


『傷大丈夫ですか?』


「ん?ああ、うん」


 腹の傷がかなり深いみたいでそこそこ痛くはあるが……大丈夫だ。


 私は顔を上げて半透明の美雪の姿を見つめる。


「そういえば、美雪のときも腹を刺したんだっけ」


『ええ、そうですよ。すごい痛かったんですからね』


「ふーん」


 ――彼の苦しみや痛みを想像して、彼のあったはずの未来を想像して、罪を感じた。ねえ、あなたは人を殺したときこんな気持ちになった?


 美雪は今の私と同じような痛みを感じていた。そのはずだ。なら、想像できるか?









 ……ああ、だめだ。


 どうしても、この痛みと美雪の痛みが結びつかない。


 他者の痛みが自分の痛みと同じようなものだと理解はしても、共感はできない。


「確かに、ね」


 お姉ちゃんの表現は案外的を射ていたのかもしれない。



 足音が聞こえた。


 走っている音だ。


 さあて、どうしようか。


 シナリオをどうするかが重要だ。


 さすがにうら若き女子高生がこんなことするはずない、といういつもの思考パターンになってほしいが、この学園だとそれも少々きついか。


 まあ、なんとかなるだろう。


 腹を押さえつつ、下を向いて壁にもたれかかる。


 ある意味、楽観的思考でいた。


 扉から出てきた人物の声を聞くまでは。


「綺羅。また私の生徒を殺したな?」


 私は何より真っ先に美雪の方を見る。



『あら、こっちに来てたのって久慈先生だったんですねー。気づきませんでしたー』




 素晴らしい棒セリフとともに、美雪はニッコニコしながらこちらを見つめた。





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