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第二二話 周囲にご注意を


「もうすぐ体育祭のリハーサルだよ。鬼塚さんも行かなきゃやばいんじゃない?」


 私を尾行していたらしい少女にそう微笑みかける。


「……」


「あー、ちなみに鬼塚さんは何の競技に出る予定なの?」


「……」


 無視、ひどい。


 というか、振り返ってみると私はうなり声と叫び声以外この子の声を聞いたことがないのか。


「……でしょ」


 やっと彼女は口を開く。


 いい声じゃないか。


「うん?」


「あんたは美冬様を殺そうとしてるんでしょ?」


 わお、正解。


「うん?どうしたの?私が神宮さんを殺すはずないじゃん」


「しらばっくれないで!あんたがトイレで言ってた独り言、私全部聞いてたから!」


 あそこ、外には聞こえないんじゃないの……?


「ずっと冗談か何かだと思ってたけど、暴走状態の私相手に生き残って、しかもそこで美雪の結界護符が使われてたっていうじゃない!」


「いや、全くの誤解。私に神宮さんへの殺意なんて全くないよ」


 彼女に殺意があるのは美雪だし。


 てか、この状況、利用できるよな。よし。


「というか、もし私が神宮さんを殺そうとしてたとして、なぜあなたは一人で私を尾行なんてしてるの?」


「それは……」


「この状況からして、まだ神宮さんに何も伝えてないんでしょ?それは、あなたにも確信がなかったからじゃない?」


 私は美冬の名前自体はあまり口に出してなかった……はず。まあ、殺すとかは少々言ってたかもしれないが。


 それなら、できる。


「まあ、あなたの言うことを美冬()が信じるとは思えないもんねえ」


「?!何を根拠にそんな戯言をっ」


「ほら、前の事件であんなに迷惑をかけたから……ありゃ、もしかして知らなかった?まあ、あなた、散々破壊した挙句神宮さんに後片付け押し付けて寝てたしなあ」


『……あの、なんでこの状況で煽ってるんですか?!』


「それに、それにねえ!」


 私は言葉に詰まる。煽り文句を考えるのは苦手なのだ。つい美雪にアイコンタクトをする。美雪、手伝ってくれ!


 しかし、私の思いは伝わらなかったらしい。私はなんとか言葉をひねり出す。


「それに、知ってる?今回の体育祭は特別、だから、神宮さんもあんなに努力してるし、他の側近の人たちはそこに全力で頑張ってるよ。こんなところで油売ってないで」


 私は鬼塚さんの顔をのぞき込む。


 やはり、美冬は私との約束のせいで体育祭を全力で取り組みざるおえないことを話してないみたいだな。


「あれえ?知らなかった?なんでこう神宮さんが必死なのかも、この体育祭の意味についても?私でさえ、知ってるのに?」


 彼女の元々赤かった顔がますます朱を帯びる。


「でも!お前が美冬様の敵なのは変わらない!美雪だってお前が殺したんだろう!」


「うん」


「は?」


「それは事実。でもね」


 私は彼女の右耳に顔を近づける。


「美冬は言ってたよ――有能な敵より無能な味方の方が厄介だって」




 ピキッ




 そんな音が聞こえたような気がした。



「美冬様を、呼び捨てにするなあああああああああああ」



「そこが怒りポイントだったかあ!」


 私はそう言いつつ、全力でその場から離れる。


 開いている窓から校舎内に入る、その数秒後にガラスが割れる音が響く。


 わざわざ割らなくてもいいのに!


「わー。()だね」


 廊下を曲がるついでに後ろを確認すると、紛うことなき鬼がこちらへ殺気を振るまいて走ってくる。


「これ、暴走状態でいいんだよね?」


『ですね!もうちょっと速く走らないと、追いつかれますよ』


 あれで暴走するくらいだからキレやすいとは思ってたけど、結構な賭けだったな。


 ここからも賭けだけど!


 階段を二段とばしで駆け上がる。


 2F


 鬼の息遣いが聞こえる。いや、うなり声か!


『もっと速く』


 無茶なこと言うなあ!





 あと、すこし!


 開きっぱなしのドアから話し声が聞こえる。


 よし!


 私はそのドアの直前で、見事なUターンを決めた。


 鬼は曲がりきれず、その勢いのまま教室の中に入る。


「え?何?鬼?!」


 私は戸惑う声を聞きつつ、その間にとなり教室へと行った。


 どうか、あちらへターゲットが移って下さい、と願いながら。


『そういえばあの陰口軍団が鉢巻きを取りに行ってましたね……完全にあっちで戦ってくれてますよ』


「――っ」


 思わず、その報告にガッツポーズを決める。


『すごいですねえ。刀とか手裏剣ってどこに隠してたんでしょうか?』


 そう、あいつらは物理系で強いやつらなはず、である。


 なら、きっと……てか。


「刀って銃刀法違反的にいいんだっけ?」


『ガリガリに駄目ですよ』


「どうやって、隠してるんだろ。秘訣聞きたいなあ」


 私は二仮にばれちゃうくらいの雑な管理だしなあ。


『まあ、そうですね』


 と、そんな雑談を悲鳴と破壊音をBGMにしていると、突如静かになった。


 私はこっそり、教室の中を覗く。


 生き残ったのは――顔面蒼白な女子数名。


 刀がぶっ刺さった鬼の胸を見ながら小声で聞く。


「あの状態から生き残る方法ってあります?」


『ないと思いますよ』


 うん。成功かあ。


 一気に体の力が抜ける。


「目撃者とかもいない感じだよね」


『……はい』


 彼女の返答に間があったことが気になり、顔を上げる。


「嘘、ついたね?」



 美雪は相変わらず真っ黒な瞳でこちらを見つめた。

 


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