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第二〇話 ちょっとした大人の話


――学園内理事長室にて――



「直々にここに来るとは意外じゃのう」


 初老の男性は人の好い笑顔で訪問者を迎える。


「急な訪問となってしまい、申し訳ありません。何分近頃は忙しく……」


 訪ねてきた女性は丁寧ながらも、男の言葉を無視するような形で言葉を放つ。


「そなたの忙しさはわかっているつもりじゃよ」


 彼は女性にソファへ座るよう、手で示し、自分も向かいに座る。


「まだ20代で女性の身ながら、もはや若手議員のホープなんぞ、ここ半世紀でも見られなかった正に逸材というものじゃ。わしはそなたの力量を認めておるぞ。尋常(じんじょう)議員」


 尋常議員と言われた女性は頭を下げる。


「過分なお褒めの言葉、ありがとうございます」


「ああ、そうそう、司法の方に働きかけていた件は目的を達成できたのかえ?」


 出されたカップに手を伸ばしかけていた彼女はその手を止める。


「何のことでしょうか?」


「しらばっくれずともよい。そなたが捜査資料を秘密裏に閲覧したのはわかっておる」


「……決して、悪意があったわけでは」


「わかっておる。ご両親が殺害された事件、気になるのは当然じゃろう」


「……」


「かの連続殺人事件に巻き込まれるとはつくづく不運なものじゃのう。まだ犯人は捕まってないんじゃろう?」


「はい」


「しかし、養子にまで入ったというから、実の両親がよほど嫌いなのかと思っていたんじゃがな」


「前の苗字は少し不吉でしたから、政界に入るにあたって、縁起を担いだだけです」


「縁起、それは大切じゃな」


 彼女はそう笑いかける好々爺の話を打ち切るように、横にあったアタッシュケースを取り出す。


「本題に入ります」


「ほう?」


「五、あります。前にお願いした件の見返りとしてはこれで十分なはずです」


「そなたは芸がないなあ」


「申し訳ありません」


 男は興味なさげにそれを見つめると、彼女に視線を戻した。


「今度の体育祭はそなたも観るじゃろうな?」


「……時間がありましたら」


「観ていきなされ。そうでなければ、なぜこれを用意したというのじゃ」


 彼はアタッシュケースの取っ手を親指と人差し指でつまんで見せる。


「そなたは家族を愛しておるのだろう?」


「心から愛しております」


「よいことだ。最近のものは家族愛というものを知らぬ。犬畜生はいつもそうだが、この頃特に、神宮のやつらは目に余る」


「神宮家、ですか」


「神宮家の妹の方が失踪、いや殺されたのじゃ。というのに当主は無関心ときてる」


「初耳です」


「学園内の出来事じゃからな。幼気(いたいけ)な少女は今や下水管の底じゃよ」


「下水……」


「ん?気になるかえ?」


「いえ、物騒なものだと思いまして」


 そう言うと、彼女は立ち上がる。


「そろそろお暇させていただきます」


「まだまだ話していかないかね?老人は暇なのじゃよ」


「残念ですが、そろそろ次の予定があるので……」


 彼女は扉のノブに手をかけた。


「――ご両親を殺したシリアルキラー、心あたりがあるんじゃがなぁ」


 彼女はゆっくりと振り向く。




「その話でしたら、いくらでもお聞きしましょう」




 その目に暗い光を灯して。






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