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第一話 狂っているのは



 一人のうら若き少女が扉の前であわあわと歩き回りながら自己紹介用に考えてきた言葉を思い出していた。


綺羅(きら)さーん、入ってきてください」


「は、はい!」


 教室の扉を開けると多くの視線が私へと集まる。


 私は教卓の前へと行き、これから始まる幸せJK生活に思いをはせ、とびっきりの笑みを浮かべる。


「初めまして!四有(しゆう)綺羅(きら)っていいます。中途半端な時期の転入となりましたが、どうぞよろしく!」


 そう言って教室を見回す。

 うーん、もうちょっと楽しそうな雰囲気作りをしてほしいところだけど、まあいいでしょう!


「四有さんには何か好きなものとか得意なこととかあるの?」


 背伸びをして私の名前を四苦八苦しながら書いている久慈(くじ)先生を横目に、1番前の席の女子が聞いてくる。


「料理かなあ、味付けとかは苦手なんだけどね」


「どんなもの作るの?」


「あ、ごめん。もう一回言ってくれない?ちょっと雑音のせいで聞こえなくて」


「え、あ、うん。どんな料理つくるのかなって」


「ああ、料理ね、昨日の夕飯とかは鯛のソテーを作ったよ。一から魚をさばいたから大変だったなあ」


「綺羅ちゃんは魚をさばくところからやるんだ、本格的だね!」


 やっと私の名前を書き終わった久慈先生はチョークの粉を手から落としながら、そう言って微笑む。


四有キラ


 これは……完全に漢字で書くのを諦めたな。


 そんなことを思いながら、先生から教えられた私の席へと歩みを進める。扉側の一番後ろの席だ。


 久慈先生の話に耳を傾けつつ、荷物を机の横にかけた。


「現在降っている雨により1時間目の体育は中止になります。でも、予報によると夕方頃には晴れるので安心してね!では!」


 久慈先生はクラス全体を見渡した後、私の方をちらっと見て微笑み、教室から出て行った。


 そして、私は意気揚々と前の席に座る女の子に声をかける。


「四有綺羅です!よろしくね!」


「あ、えっと、っそのよ、よろし、く。ぼ、僕は中黒(なかぐろ)二仮(にか)……です」


 何回かつっかえながらもそう言う小柄な女の子は長い前髪で目を隠しており、いかにも引っ込み思案という感じ。


「なあ、仲良しごっこは俺の見えないところでやってくんね?」


 そこに横から誰かが割り込む。


「ひ、ひいいい」


 二仮ちゃんはその男子がよっぽど怖かったみたいで、縮こまってしまった。


「あ、席が隣になった四有綺羅だよ!あなたはなんて名前?」


 折角、隣の席になったのだ。仲良くしたい。


 その男子は机に足を放りだし、こちらを一瞥もせず、なぜか電子辞書をじっと見ている。


「……にわかが。俺の名前も知らんようなやつと話すことはねーよ」


 ふむ、初っぱなからこれとは前途多難だな。


 でも私は幸せJK生活を諦めたりはしない!


 目標目指して!がんばるぞい!



ーーー



「授業の進度は大丈夫でしたか?」


 放課後になるやいなや私の机に数人の女子生徒が集まってくる。


 その先頭にいるのが今私に話しかけてきた超絶美人の子である。これがよく聞く大和撫子というやつであろう。


「ちょっと雑音のせいで集中できなかったけど全然大丈夫だよ。あと、名前を聞いても?」


「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。神宮(じんぐう)美冬(みふゆ)と言います。よろしくお願いしますね」


「神宮ってことはもしかして美雪ちゃんのお姉ちゃん?」


「はい、美雪は双子の妹です。二卵性なのであまり似ていませんが……あの、美雪とはどこであったんですか?」


「美雪ちゃんには学校の案内をしてもらったんですよ」


「そうだったんですか、その後美雪がどこへ行ったとか知ってますか?」


「いや~、なんか案内の途中で急用が出来たとかでいなくなっちゃったのでよくわからないんですよね」


「……そうですか。ありがとうございます」


 美冬は礼をしてから去って行く。その取り巻きがにらむように私を一瞬見つめ、すぐに美冬を追いに走った。







「美冬様、美雪が最後に確認されたのは、職員室前、四有綺羅とともにいるところです。やはり、これは彼女が絡んでいるのでは」


 綺羅に取り巻き、と断定された少女は廊下を颯爽と歩く美冬に小声で話しかける。


「あら、そうでしょうか?私にはあまりそうは思えませんでした」


 美冬は少女をちらりとも見ずに答える。


「さっき、彼女は美雪の話題をだされても全く動揺がありませんでしたし、何より美雪と一緒にいたことを開示するのにためらいがなさ過ぎです」


「ですが、我々の力を考えればそのことなど既に捕まれていると思い隠さなかった可能性もあるでしょう」


「いえ、そこまで私たちを知っていて、賢いのであればそもそも美雪に手を出してりなんてしませんよ。リスクが大きすぎます。それに美雪は敵を見抜くことに関しては天才的です。まして彼女の能力は私が感知できない程度ですよ?」


「……では、どうお考えなのでしょう」


「そうですね、美雪はおそらく私が戦っているのを案内途中に見たのではないでしょうか、そして校庭へと出ようとし、誰かに捕まったというところでしょう、もしくは自ら……いえ、まあどちらにせよ大したことにはなっていませんよ」


「しかし、殺害されたという可能性も」


「少なくともその場で殺された可能性はほぼないです。美雪は服に護符を多く忍ばせていますし、いつも来ている制服には私が作った護符が貼ってあります。美雪が死んだらそれでわかりますよ」


「確かに、そうですね。ですが……」


「なんですか?」


「彼女に少し殺気を当ててみましたが、平然としてました。彼女……只者ではないですよ」


「この学園に入れる者が只者であるはずがないでしょう」


「それは、そうですが」


 美冬は少女の歯切れの悪い返事を聞きながら、ついさっきまでの会話を思い出す。


 あの会話で少し引っかかったところが有る。そう彼女曰く「雑音」だ。


「ふふ、そうですね。覚えておきましょう、彼女――四有綺羅でしたっけ?」







「はっくしゅん」


 なんか噂でもされてるのかな?


 鼻をすすりながら、「詰まりにつき使用不能」と書かれた紙が貼り付けてある看板をまたぎ、部活で使われるのであろうかなーりぼろい室外トイレへと足を踏み入れる。


 臭さに顔をしかめながら室外トイレの一番奥の扉を開く。


「うっ、ひどい匂い」


『……死体とはいえ、仮にも友達だった私の体を便器に突っ込むのはひどくないですか?』


 この雑音といい、今日は意味のわからないことが多すぎる。


「ああ、ついに世界が狂ったか」





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