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第一八話 心強い助けと頭のダメージの相関性


「さてと、あとは助けを待つだけの簡単なお仕事だね!」


 私は炎から私を守る結界を見ながら、そう言った。


 正直言おう。慢心していた、と。


『綺羅、来てます!来てますって!』


 美雪が切羽ずまったようにそう叫ぶ。


 それと同時に炎の中から拳が現れた。


「え?」


 結界がパキンという音を出して割れ、私はすぐさま後退する。


 鬼の拳は空を切り、ほっと一息をつく。


 そんな私に対して、鬼の行動は早かった。


 至近距離でまた拳を振りかぶる。


 こいつ疲れないのか!?


 避けろ。私!


 なんとか体をひねり、対応しようとしたが、むなしいことに、私の頭に拳がもろに当たった。






ーーー




『ああ、もう。勘弁してほしいです!』


 私は思わず、手を顔に当ててそうつぶやく。


 顔を上げると、見えるのは壁に叩きつけられた綺羅に彼女に迫る鬼。


 彼女には今死なれるわけにはいかない。


 美冬を殺した後なら、どうぞやっちゃってくださいというばかりに献上するのだが、今はだめだ。


『死んで、ないですよね』


 彼女が死んでいても、生きていても私にできることはない。


 それはわかっていてもこの状況で何かをしない、という選択肢はあっただろうか。


『綺羅、起きてください!あなた、死にますよ!』


 できるだけ大声で叫ぶ。


 鬼はゆっくりとこちらに歩みを進めていた。


『綺羅!美冬を殺してくれるんでしょう?』


 鬼はまた拳を振り上げる。


『綺羅!』


 思わず、目をつぶった。





「これはどういう状況かな?」


 ゆっくりと目を開く。


 そこには、鬼の拳を受け止める小さい女性――久慈先生がいた。


『久慈先生!』


 思わず声に喜色をにじませて、叫ぶ。彼女に聞こえないとわかっていたが。


鬼塚(おにづか)ちゃんか。美冬ちゃんの側近なのに、異能の暴走なんて珍しいね。いや、だからこそ、かな?」


 鬼はそんな先生の発言もお構いなしに、もう一方の手でも拳を作り、先生の頭に向かって振りぬく。


「鬼塚ちゃんは、あんまり武道とかやったことないみたいだね」


 久慈先生の髪の毛が拳の圧で、ふんわりとはためく。


 先生は拳が通る数ミリ先というところまで頭を曲げ、回避したのだ。


「それにしても、どういう関係かな?綺羅ちゃんと鬼塚ちゃんには接点はなかったと――」


「美雪!」


 教室に凛とした声が響き渡る。


 私は聞いただけで、誰かわかった。


 これで、綺羅の安全は完全に保証される。


 そう、わかっていても、どうしても彼女を視界に入れたくなかった。


「あら、美冬ちゃん。鬼塚ちゃんが暴走してるみたいだから、ちょっと手伝ってもらってもいい?」


「……はい、もちろん」


 彼女は何か言いたげに、沈黙してから了承する。


 彼女が聞きたいことはわかっている。ここに入ってきた瞬間に言っていた言葉、美雪。私だ。


『そういえば、あの護符は美冬手製でしたっけ』


 美冬が私に危険があったら困るからと渡してくれた護符の一部。


 あれを受け渡しすることくらいしか家で彼女と話すことはなかった。だからだろうか、彼女はほんの一ミリ程度の罪悪感からか、過剰なほどの護符を私にくれた。


 ……私の生死など、根本的にはどうでもいい癖に。


「久慈先生、2分だけください」


「おおけい!」


 久慈先生は、圧倒的速さを持って、連続的に攻撃する。


 あの炎を使わせないようにするためだろう。


「準備できました」


 巫女服を着た美冬はお祓い棒を持って、鬼に向ける。


「我が神に逆らゐし汝に」


「早口でお願いね!」


「我、神の代わりを持って、その沙汰を下さん」


「おっと、危ない。さすがに長期戦となると、こちらが不利ね」


「我が名は神宮美冬。我が神と契約せしめし神宮家の8代目巫女なり。その約において」


 ん?もしかしなくても、これは綺羅にとって危険な案件ではなかろうか。


 大昔、まだ私にも「力」が期待されていたとき覚えた気がする。たしか、これは……。


『綺羅!起きてください!』


 生きてはいるようだが、後頭部から血が出ている。頭を打ったのだろう。


『綺羅!幸せJK生活やらなくていいんですか?』


 綺羅の眉が少し上がる。


『起きて!綺羅!綺羅!』


 ああ、いやだ。私が幽霊でなかったら、死んでいなかったら肩を揺らしてでも、その瞼を直接開けてでも起こしたというのに。


 ……いや、私が死んでいなかったら、そもそもこんなやつを起こす必要性もなかったか。


 でも、もう過去は変えられないのだ。


 だから……。


『目を、開けて』




 綺羅の瞼がゆっくりと開けられた。




 

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