表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

 毒攻撃

 俺は農場の南方にある、山の麓にいる。

 日はもうとっくに暮れていて、辺りは暗闇に包まれている。


 新しい力の使い方も覚えたので、実戦で使ってみようとやってきた。



 いつも探索している東の平原ではなく、南の山に挑戦する。


 東の平原の探索は、週に一度の割合で無理せず慎重にやってきた。

 農場から離れずに、浅いところを回ってスライムの討伐だ。

 

 スライムとの戦いにも慣れてきたが、農場から離れすぎると思わぬ強敵と遭遇する可能性もあるし、逃げる場合を想定すると不安もあった。

 

 そこで探索の場所を変えて、山の方に来てみた。



 俺は山の斜面を10分ほどかけて登っていく。

 後ろを振り返ってみると、木々の茂みの隙間から農場が見渡せる。



「この辺で良いかな」


 一息入れてから『広域探知』を発動する。


 俺を中心に魔力を放ち、半径三キロくらいを探査する。



「五十匹以上はいるな――」


 モンスターの魔力の反応は五十以上あったが、全部は数えきれなかった。


 まあいい、どのみちその全てと戦うわけでもない。


 モンスターの魔力の反応は、農場に近いほど弱い。

 離れるほど強くなる。


 一番遠くのエリアにいるモンスターには、まったく勝てる気がしない。




 まずは近くの弱い反応の敵から、戦ってみよう。


 俺は魔力反応のあった中で、一番近くに居た奴をターゲットにして歩き出す。

 ここから三百メートルくらい離れたところに――


「――ン?」


 視界の端に何かが見えた気がして、そちらへと目をやる。


 何もない、ただ真っ暗な森に木と茂みがあるだけだ。

 だが何か、嫌な感じがする。


 俺は魔力を集めて、目を凝らす。


 すると俺の視線の先の――森の暗闇の中に、全長一メートルほどの巨大なハチ型の生物が音も気配もなく、空中に静止していた。



 さっきの探知で、こんな奴は引っかからなかったぞ。


 俺はそいつのいる空間に向かって魔力を広げ、より詳しく相手を探る。

 巨大なハチの周囲には、魔力で作ったと思わしき透明な膜があった。


 その魔力の膜が、俺の探知を阻害していたのか?



 右手に握っていた短剣を巨大蜂に向け、構える。


 するとそれまで何の気配もなかった巨大蜂から、ブゥォォオオ!! という凄まじい羽音が響いてきた。俺に気付かれたと悟った巨大蜂は、自身の気配を遮断していた膜を解除したようだ。


 巨大蜂は空中に静止していたのではなく、羽をはばたかせてホバーリングしてた。




 今になってスキル『危険感知』が発動する。


 巨大蜂は気配がなかったのが嘘のように、不気味な威圧感を振りまいている。

 さっきまでは、姿が見えなかったどころか、魔力すら感じなかったのに――。




 俺たちは暫らく睨み合っていたが、先に動いたのは巨大蜂の方だった。


 巨大蜂は咢を広げて、瞬時に接近してきた。

 俺の顔を挟み込む気だろう。


 俺はその攻撃を鉄の短剣で受け止める。


 噛みつき攻撃を短剣で阻まれた巨大蜂は、その体を折り曲げて尻尾に付いている針で攻撃を仕掛けてくる。


 その針攻撃は身体を捻り、なんとか避ける。

 避けると同時に巨大蜂のしっぽへと、闘気を纏わせた短剣で攻撃を加える。


 ガッ!! 

 という硬い手応えがした。

 昆虫型の魔物だけあって外殻は硬いが、闘気を込めた短剣の強度がそれを上回っいる。巨大蜂のしっぽを短剣が切り裂いた。


 ダメージを受けたことが意外だったのか、単に痛かったのか――巨大蜂は、ギェェェエエエと雄たけびのような怒りの悲鳴を上げる。


 俺はそれに構わずに、胴体、足、羽の順に鉄の短剣で切り裂いていく。

 羽を裂かれた巨大蜂は上手く飛べなくなり、地面をのた打ち回って暴れる。


 地面を暴れまわる巨大蜂と一定の距離を保ちながら、敵が接近するタイミングで、少しづつ着実に攻撃を加え続ける。最初は怯えて動かなかったスラ太郎も、敵が弱り出してから攻撃に加わった。


 十分は経過しただろうか――

 なんとか、とどめを刺すことが出来た。



 倒し終ってから自分のステータスを確認すると、状態異常で毒(弱)を受けていたことに気付く、HPも半分ほどに減っていた。

 戦闘中は必死過ぎて気が付かなかったが、最初に針で攻撃されたときに脇腹を掠っていたようだ。


 俺は持参してきた回復薬を使ってから、巨大蜂の解体を行い魔石を取り出す。


 鑑定をしてみる。


*************************

キラー・ビーの魔石 (光属性) 

所有者 ユージ

魔石値 000089

*************************



 ハチの魔物はキラー・ビーという名前だった。

 魔石値は89、強敵だったからな。

 俺は魔石を異空間へと転送する。

 今日はもう帰って休みたい。


「予想外の強敵との遭遇だったしな」





 さて、山を下りようかと踵を返した俺の背中に――

 トスっ、と何かが突き刺さった。


「ッ――!!」 



 後ろから、攻撃された。


 俺は振り向きざま、後ろにいるはずの敵に向かい短剣を振るう。


 しかし、その時にはすでに敵は十メートル以上の距離を取っていて……


 そして――

 じっとこちらを観察している。



「毒ッ……か――?」


 キラー・ビーに食らった時とは違い、明確に自分の体調の悪さを感じる。

 全身に悪寒が走り、呼吸も荒くなってきた。

 

 俺を攻撃した奴は夜の山の暗闇の中で、こちらの様子を伺い続ける。

 そいつは全身が白い巨大なクモ。


 高さは二メートルほどで、全長は三メートルはありそうだ。

 

 蜘蛛の背中には、人型の髪の長い――人形のようなものを乗せている。


 その背中についている、人形の色も白い。



 蜘蛛の背中の上で、ぐったりと寝そべっている人形のようなそいつは、顔を少しこちらに向けると――


「タスケ……テ、――タス……ケテ」


 と喋りかけてきた。



 鳥肌が立つ、怖いし気味が悪い。



 あれは、人間のフリのつもりなのか?

 擬態なのか?


 助けに来た人間を捕食しようと――?



 馬鹿なのかと言いたくなるが、あの魔物はバカではない。

 俺よりもずっと強いのに、俺が毒で動けなくなるまで待っている。



 キラー・ビーとの戦いで、FPがかなり減少した。

 ああ、ダメだ。

 コイツには勝てない。


 その影響もあって、思考が後ろ向きになる。



 俺は農場に逃げ帰るために、後ろに後ずさった。




 するとそれを察してか、巨大蜘蛛は一気に距離を詰めてきた。


 ヤバいッ!!


 俺は最後の気力を振り絞って、鉄の短剣でカウンターを繰り出す。


 入ったッ!!


 そう確信した瞬間、俺の攻撃は空を切った。


 何の手応えもない。




 攻撃をミスしたのだと気付くと同時に、慌てて敵の位置を確かめる。

 巨大蜘蛛は元居た場所から一歩も動かずに、こちらの様子を観察している。


 は……?

 何だ、これ??





 毒が全身に回ったのか、呼吸がさらに荒くなる。



 これはもう駄目だ、本格的に勝ち筋が見えない。

 俺はスラ太郎を抱き寄せる。


 あいつから一瞬だけ視線を逸らすことになるが、仕方がない。

 俺は後ろを振り向き、農場の敷地を視界に入れる。

 その場所へ――


 スキル『空間移動』で移動した。




「はあ、はあ、はあ、はあ――ガハッ……」



 何とか逃げ延びることに成功した俺は、畑の中に寝転がり呼吸を整えようとするが上手くいかない。

 何とか手を伸ばして回復薬を摘まむと、急いで口の中に放り込んだ。


 俺はそのまま目を閉じて眠りにつく。

 気が付けば、朝まで眠り続けていた。

 

 今が夏で良かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ