殺し合い
「せっかくだから、もう一匹くらい倒して帰るか」
スライムの魔物『スラ太郎』を仲間に加えた俺は、さらに敵を探すことにした。
おあつらえ向きに、草陰に潜むスライムを発見した。
俺は装備している木の棒で、スライムに対して突きを入れる。
ずぼっ――
「よし、このまま」
スライムに対して、俺は何度もこの攻撃をくり返す。
スライムによる顔面へのダイブを警戒しながらだと、これが最適かな?
スライムは俺の攻撃を避けようと、前後左右に移動する。
俺は顔面への跳び付きだけを警戒して、攻撃し続ける。
観念したように動きを止めたスライムは、少しだけブルっと震えたかと思うと、俺の腹辺りを目がけて飛びかかってきた。
ドッ!!
腹に攻撃を喰らってしまった。
痛いが我慢できる程度のダメージだ。
お返しにスライムを、思いっ切り蹴り飛ばしてやった。
宙を舞ってビシャと地面に叩きつけられたスライムは、そこで力尽きた。
俺の攻撃で死亡したスライムは身体を維持できなくなり、液体部分が地面へと吸い込まれていった。
その後に残された魔石を回収して、それを異空間へと収納する。
ステータスを確認すると保有魔石値が「37」に増えていた。
同じスライムなのに数値に差がある。
どうやら魔物の強さによって魔石値は変動するようだ。
「一番最初に倒した個体のレベルが少し高かったのか――」
スライムといえば最弱モンスターの代表格だ。
初めてモンスターと戦闘をした俺でも、倒せてはいる。
しかし、殺される危険もあった。
スライムの体当たり攻撃を躱すのは難しい。
顔面への攻撃で、突然視界を防がれて呼吸できなくなれば、大抵の奴はパニックを起こしてしまうだろう。
「もう攻略法を開発してしまった」
自画自賛しながら、俺は後ろを付いてくるスラ太郎をちらっと見る。
コイツ、さっきの戦いは見てるだけだったな。
加勢するまでもない相手だったからか?
それとも、命令しないと攻撃参加しないのか?
「まあ、そのうち確かめてみよう。それと――」
俺は装備している木の棒を『鑑定』した。
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木の棒 (所有者ユージ)
強度 106
耐久値 086/230
品質C
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「やっぱり」
以前、装備品を鑑定した時から気になっていたのが『耐久値』。
今日の戦闘で使用した木の棒の耐久値は、大幅に下がっていた。
「まあ、使えば減るよな」
修理や補修ができれば増えるんだろうけど、木の棒の修復なんて出来ない。
新しく作った方が早いか――。
木の棒を空間収納できないかと、魔力を込めて試したことがある。
すると毎回『専用装備にしますか?』という表示が出る。
木の棒なんかを俺の『専用』にする気はないが、まともな武器が手に入れば試してみようと思う。
『空間収納』できるのは、今のところ魔石だけだ。
専用にすれば、武器もできるようになるだろう。
その辺に生えている草を収納しようとしても、何も起きない。
回復薬を収納出来れば便利かと思い試してみたが、こっちも変化なしだ。
「そろそろ帰るか」
目標だったモンスターとの戦闘も経験できたし、木の棒の耐久力も減少している。
俺は農場へと帰還する為、西の方向へと歩き出す。
しばらく歩いた先に、人影が二つ見える。
『危険感知』が発動した。
魔物――恐らくはゴブリンだろう。
ゴブリンたちは農場の方角へと連れ立って歩いている。
どうやらこちらの存在にまだ気付いていないようだ。
俺はスラ太郎に右側から迂回して奴らに近づくように命じる。
魔力による繋がりのある従魔には声を出さなくても意思を伝えられる。
スラ太郎が右から回り込む間に、俺は左側から気配を消してそっと近づいていく。
気配を消すと言っても、身を潜めて足音がしない様に移動しているだけだが、風は西から東へと流れているから、匂いで気付かれることはないだろう。
ゴブリンにかなり接近できた。
奴らは短剣と小さめのこん棒をそれぞれ装備し、偉そうに革製の鎧を着ている。
俺よりもいい装備じゃないか、どうやって手に入れたんだ?
以前農場の外でうろついているゴブリンを見たが、装備は布の腰巻だったはずだ。
モンスターもレベルやランクによって装備品が変わるとか?
まあ今はいいか。
俺は右側に回り込んでいるスラ太郎に、ゴブリンを攻撃するように命じる。
スラ太郎の体当たりがゴブリンを捉える。ドウッ!!
「ぐげッ」
不意打ちが綺麗に決まって、ゴブリンの一匹が尻もちをつく。
もう一匹はスラ太郎に短剣を向けて威嚇している。
ゴブリンは不用意に攻撃行動に出ない、結構冷静だな。
だがそれは、今回の戦闘では悪手となった。
俺はスラ太郎を警戒しているゴブリンの、後ろへ忍び寄る。
敵に気付かれずに近づいた俺は、ゴブリンの頭に思いっきり木の棒を叩きつけた。
「ギギャッ!!」
ズゴッ!! という打撃音がして、頭が少し陥没したが一撃では殺せない。
俺は引き続き木の棒を振りかぶり、何度もゴブリンの頭に打ち込んだ。
ドッ、ドッ、ドッ!!
向こうでスラ太郎の体当たりを喰らい、尻もちをついていたゴブリンが立ち上がり、俺を攻撃のターゲットに切り替えたらしい。
こん棒を構えて、俺を攻撃してきた。
俺は木の棒で牽制するが何度かこん棒と打ち合う。
ボキリと木の棒が折れてしまった。
次の瞬間にはゴブリンのこん棒が、俺の右胸に叩きつけられる。
「ぐっ、いってぇ――な!!」
俺はお返しとばかりに、折れた木の棒をゴブリンの左目に突き刺した。
打撲ダメージを受けたが、相手の左目を潰すことが出来た。
目つぶしを受けたゴブリンは、痛みでのたうち回っている。
だがまだ死んではいない。
俺はスラ太郎に追撃するように命じる。
頭を叩きまくってやったゴブリンが、痛みで頭を押さえながらも俺へと向き直る。
折れた木の棒は、ゴブリンの目に刺さったままだ。
俺にはもう武器が無い。
ゴブリンは短剣で斬りかかってきた。
俺と同じくらいの背丈とはいえ、人型の生き物が刃物を持って突っ込んでくる。
当然だが、恐怖を感じる。
しかし――
冷静に現状を把握して、対処できる自分もいる。
敵の動きはちゃんと見えてる。
俺は短剣を持ったゴブリンの手首を掴み、敵の肘を起点にして腕をひねりあげる。
俺に背中を見せたゴブリンの腕を、そのまま折れるまで力を加えた。
ゴブリンは痛みで悲鳴を漏らしながら、短剣を落とした。
それでもゴブリンは闘争心を剥き出しに、残った腕の爪で俺を攻撃してくる。
ゴブリンが後ろにいる俺の腕に向かって、爪を振るう。
ゴブリンの爪の攻撃で、切り裂かれた腕から血が噴き出す。
痛みで掴んでいた敵の手首を放してしまった。
人間の血の匂いに興奮したのか、ゴブリンはさらに獰猛になる。
俺を食い殺したいと言わんばかりに、口を大きく開いて飛びついてくる。
俺はそんなゴブリンの首を手で掴んで、絞め殺すために力を籠める。
ゴブリンも必死に、俺の腕を爪で切り裂き続ける。
そのまま暴れるゴブリンの首を絞める両手に、力を込めた。
それから数分が経過し――
ゴブリンは完全に動かなくなっていた。




