終着点と出発点 2
門番の詰所で、一日過ごすことになった。
暇だったので、外で戦闘訓練をすることにした。
俺の職業欄には『盾使い』がない。
盾はあまり使う機会が無いので、レベルが上がらないのだと思う。
この機会に上げておこうと、アカネルとイルギットの二人と、模擬戦をすることにした。二人に木の棒で攻撃させて、それを俺がひたすら盾で防ぐ。
しばらく続けていると、職業欄に盾使いレベル01が表示された。
これはいい訓練になる。
他のメンバーも攻撃役で参加して、それぞれ経験を積むことにした。
まずは、アカネル、モミジリ、イルギットの三人を相手にする。
「ヤッ――」
アカネルが気合と共に振り下ろす木の棒を、俺は盾で受け流す。
ここでしっかりと受け止めてしまうと、動きの止まったところを他の二人に攻撃されてしまう。
アカネルは攻撃を逸らされて、体勢を崩している。
俺は体勢を崩したアカネルの、胸部の先端を抓りつつ、足をかけて転ばす。
「――ンキャっ!」
右からイルギットが木の棒を横薙ぎに、後ろからモミジリが木の棒で突きを繰り出してくる。
俺はイルギットの攻撃を、今度はしっかり受け止める。
そしてモミジリの、突きに集中する。
俺は身体を捻ってモミジリの突きを避けると、彼女の手首を掴み、そのまま進行方向へと引っ張る。
――バランスを崩し、つんのめって転ぶモミジリ。
転ぶ前に、その尻をパシン! と引っ叩くのを忘れない。
「――キャン!!」
攻撃を盾で防がれたイルギットは、一旦距離を取って仕切り直そうとする。
俺はイルギットへと距離を詰めて、構えた木の棒に盾をあてがう。
イルギットの攻撃動作を封じ込めてから、彼女を抱きしめる。
その後で無防備な尻を、パシン! と叩いた。
「いっ……ちょ、ちょっと――なんでお尻を叩くのよ?」
「楽しいからだ」
三人は憮然としている。
次は、サリシアとナーズとレイレルの三人との模擬戦だ。
この三人は連携などなく、個別に木の棒で攻撃してくるだけなので、それを順次盾で防いでいくだけだ。
余裕があれば、胸やら尻やらを軽くタッチする。
三人との訓練が終わった後で、アカネルから文句が出た。
「なんで私達だけ、強めに叩くのよ?」
「お前たちは前衛だからな。訓練に緊張感を持たせるためだ」
俺は適当に答えておいた。
最後はラズとリズとの模擬戦だ。
二人は小鬼族の特性として、戦闘時に闘気を使う。
しかし、自在にコントロール出来るわけではなく、自然と使えてしまうそうだ。
俺も闘気を使って、二人の攻撃を受け止める必要がある。
パーティメンバーの防具は、革装備を基本にしている。
俺が鋼で順次コーティングしたり、鋼の板を取り付けたりして、カスタマイズしているが、重量が増え過ぎない様にしている。
闘気攻撃を受け続ければ、薄い鋼はすぐに駄目になるだろう。
ラズとリズは木の棒を使わずに、拳で攻撃してくる。
手数が多く、間合いも近いので、俺も受け止めて捌くので精一杯だ。
小刻みに動き回り、二人から同時に攻撃されないように立ち回る。
しばらく模擬戦を続けていたが、急に二人の攻撃が軽くなる。
闘気を使い切ったのだろう。
俺は攻撃を盾で受けながら、二人の身体へとタッチする余裕が生まれる。
模擬戦終了後――
ラズとリズの二人は、疲れて座り込んで動けなくなった。
この二人は闘気を使い過ぎない様に、注意して気を配ってやる必要がある。
今日はもう、休ませることにした。
それから残りのメンバーで、組み合わせを変えて模擬戦をくり返す。
訓練終了時に、全員から――
『攻撃が全部防がれて、つまらない』と不満を表明された。
俺は盾以外は武器を持たずに、防ぐことに専念していたが、相手の隙を見つけては身体の柔らかい部位にタッチしていたので、よけいにムカつくのだろう。
身体を存分に動かした後は、しっかり休憩する。
休憩時間に、俺は山賊の親分が使っていたと思われる、『魔法威力軽減』のスキルを再現できないかとやってみる。
これは今まで試していたが、どうにも上手くいかない。
魔法の構成を、破壊するような魔法。
――なのではないかと思うのだが、魔法を無力化されているだけあって、どんな魔法だったのか、感じがつかめない。
ひょっとして、スキルではなくマジックアイテムの類だったのではと、俺が思い始めた時に、ラズがヒントをくれた。
「魔法攻撃なら、気合いでどうにかなりますよ」
――ああ、そうか。
魔法の構成を破壊するのは、闘気でいけるじゃないか。
闘気と魔法の併用はできない。
それは闘気が、魔力を霧散させているからだ。
気付いてみれば簡単なことだったが、魔法に対して魔力でどうにかしようとばかり考えていて気付けなかった。
コロンブスの卵だ。
俺はヒントをくれた、ラズの頭を撫でてやる。
俺がラズの頭を撫でているのを見て、リズもやってきて自分もとせがむ。
俺がラズとリズの頭を撫でていると、ナーズもやってきて自分もとせがんだ。
俺がナーズの頭をなでながら、アカネル達を見て――
「撫でてやろうか?」
と聞くと――
「バッカじゃないの! 私達、もう子供じゃないんだから!!」
アカネルは拗ねて、向こうへ行ってしまった。
照れ隠しだろう。
モミジリとイルギットは残念そうにしていたが、子供だと思われたくないのか、頭を撫でて欲しいとは言ってこなかった。
現地調査に向かっていた、騎士団が帰ってきた。
騎士団を率いていたボビール・ボーグラードという名の騎士から、丁寧に礼を言わた。俺たちが山賊から奪った馬車は盗難届も出ていなかったので、そのまま使っていい事になった。
行政機関のお墨付きがあれば安心だ。
さて、色々予定外のことがあったが、いよいよ冒険者としての生活を、本格的にスタートさせることが出来る。
俺たちはイーステッドの壁外地区へと、移動を開始した。




