小鬼族の集落 1
山道の脇にある、少し開けた場所に馬車を止めている。
その馬車の中で、俺は生け捕りにして縛り上げてある、山賊を観察している。
「ん~~! んん~~~ッ!!」
俺が短剣で身体を切り裂くたびに、んーんーと唸る。
猿轡をかませているので、言葉は喋れない。
コイツは、傷の直りが異常に速い。
槍で突いた傷は、たった五時間でかなり治っている。
傷が治ると逃げ出そうと藻掻くので、定期的に痛めつける必要がある。
面倒だが仕方がない。
そういえば、山賊の親分が傷を一気に治してたな。
ああいう傷を治す系のスキルも、いくつか種類があるのだろう。
実際に目の当たりにすると、コイツのHP自動回復強化は、かなり有用だと思う。
――このスキルは欲しいな。
でも、女神から授けられるスキルを、こちらからは選べないんだよな。
俺の幸運値がマックスの時にスキルを習得すれば、レアスキルをゲットできるのだろうか?
そんなことを考えながら、俺は山賊の身体に短剣を刺す。
アカネルとモミジリとイルギットは、馬車の外で剣の稽古をしている。
サリシアとナーズは、レイレルから弓の扱いを習っている。
もう少ししたら、夕食の支度を始めるか……
食料が大量に手に入ったので、旅の途中にしては豪華な夕食になるだろう。
街道を進む旅だし、食料をケチることもない。
あと数時間もすれば、夜になる。
焚火と寝床の用意をするべきか、悩みどころだ――
「ユージ、ラズとリズが戻って来たわ!!」
アカネルが、二人の帰還を知らせてくれた。
ラズとリズには、先に小鬼族の村に帰って、状況の説明を頼んでおいた。
小鬼族の村は、山賊に襲われたばかりだ。
そこに大勢の人間が、いきなり押しかけるのも良くないだろうと、先触れをして貰ったのだ。
ラズとリズは武装した五人の小鬼族の男と共に、こちらにやってくる。
男たちは警戒するように、こちらを睨んでいる。
小鬼族の男たちが、俺達を警戒するのは仕方がないことだ。
ラズとリズを村まで送り届けることが出来たのだから、集落に無理してお邪魔をするつもりもない。
捕まえてある山賊を引き渡したら、俺たちはこのままここで野宿するか、もしくはもう少し先のキャンプ地まで進めばいいだろう。
そう考えていたのだが――
「お前たちが、山賊どもを倒してくれた、というのは本当か?」
こちらを警戒してはいるが、どうやら理性的に話は出来るようだ。
「ああ、ラズたちに聞いていると思うが、山賊は全滅させた。一人を生け捕りにしている。あんた達に引き渡したい」
「……その中か? 確認しても良いか?」
小鬼族の男が馬車を指さして、聞いてくる。
「ああ、確かめてくれ」
拒否する理由は何もない。
俺は馬車の中から山賊の男を引っ張り出し、小鬼族の男たちの前に突き飛ばした。
男たちは、先ほどまでとは比べ物にならない殺気を放ち、山賊を確認する。
「間違いない。見覚えのある奴の一人だ」
男たちの中の一人が呟いた。
「アジトで倒した奴らは、殺して焼いてある。山道で殺した奴らは、魔物のエサになった」
俺は他の山賊の、討伐情報を教える。
彼らは、確認しておきたいだろう。
「……そうか、同胞を助けてくれてありがとう。礼を言う。――歓迎したい、村まで来てくれるか?」
「――ああ、招待に預かろう」
俺は申し出を受けることにした。
今日の食事の用意は、必要なさそうだ。
小鬼族の村では、ささやかながらも歓迎の宴が催された。
広場に大きな焚火を焚いて、食事をするだけだったが、肉が多かったのでありがたい。意外と美味かった。
肉の味付けに使っている、香草と香辛料を後で聞いておこう。
小鬼族の平均身長は低い。
一番背の高い奴で、俺と同じか少し低いぐらいだ。
小鬼というだけのことはある。
肌や髪の色はまちまちだが、赤とか青系が多い。
俺達は山賊から奪った麦を、彼らに提供して喜ばれた。
この村では、麦は貴重らしい。
たまに来る行商人から購入して、お粥にして食べているそうだ。
情報交換しながら食事をしていると、ウォー・ウルフに乗った小鬼族の三人の男が帰ってきた。
「――見てきた」
「そいつの言う通りだった。みんな死んでた」
「生き残り、いない」
彼らは山賊のアジトまで行き、状況確認後に帰ってきた。
山賊が生き残っていれば、報復される危険がある。
彼らも、念入りに状況確認してきただろう。
それよりも俺が興味を引かれたのは、小鬼族がウォー・ウルフを飼育して、飼い馴らしていたことだ。
小鬼族の特性として、魔物に襲われにくいという話だったが、まさか飼育しているとは――
俺が興味深そうに色々質問していると、大量に提供した麦のお礼にということで、ウォー・ウルフの子供を二匹、貰えることになった。
子供のウォー・ウルフは人間の俺を見て、威嚇して襲い掛かってきた。
俺はそいつらを捕まえると、魔力を流し込んで自分の支配下に置く。
ウォー・ウルフはオオカミ系の魔物だけあって、鼻や夜目が効く。
探索や警戒に役に立ちそうだ。
まだ子供なので、基本はアカネル達のお守りを任せよう。
俺の従魔にしたことで、性奴隷たちにも懐いている。
財産が共有されるように、共通の主人だと認識されるようだ。
俺のオリジナルらしき、奴隷システム。
――意外と便利だ。




