山賊が現れた 7
アカネル達八人と手負いのウォー・ウルフとの戦闘に決着がつき、俺がレッサー・コンドルを仕留めた後で、とりあえずモンスターから魔石だけを回収してから、けもの道を進み、山道に出た。
モンスターを解体して、素材を回収したいが――
それは後だ。
広域探知をした時に、モンスターの群れ以外にも、気になる反応があった。
素材の回収よりも、そちらを優先する。
少し移動したところに、山賊の馬車がある。
その周りにモンスターが食い荒らした、山賊の残骸が転がっている。
馬車に繋がっている馬は、まだ生きている。
魔物は人間しか襲わないので、無事だったのだろう。
この馬車は、そのまま俺たちが貰って行く。
これで、荷物運びが楽になる。
と、その前に――
魔力探知で引っかかった、案件を処理しておこう。
道脇の草むらに、潜んでいる人間を見つけた。
――なんで、まだ生きている山賊がいるんだ?
俺は槍を装備して、茂みに潜んで隠れている山賊に攻撃した。
山賊に、槍が突き刺さる。
「ぎゃっ、ぁっぁあぁあああ!! 止めろッ、やめてくれ!! 何だお前は、なんなんだよ、いったい。もう許してくれ、頼む。見逃してくれ~~~」
突き刺した槍で、山賊を茂みから引き摺り出す。
そいつは、喚きながら命乞いをしてくる。
こいつは、たしか――
自分は転生者だと言って、俺に命乞いをしてきた奴だ。
山賊の顔などいちいち覚えてはいないが、こいつは何とか見分けがつく。
それに、正確には覚えていないが、長ったらしい名前だったことは憶えている。
戦闘中はウィンドウ表示される情報を、すべて読み込んでいる訳ではないが、なんか長い名前だなと、ぱっと見でそう思ったのは憶えている。
俺は確かに、コイツを殺したはずだ。
念入りに、首に槍を刺した。
なんで、生きてる……。
生き返った?
スキル? 双子? 幻影で逃げた?
…………。
煩わしく喚き続けるので、とりあえず顔面に蹴りを入れて黙らせる。
山賊は生きてはいるが、体調は万全ではないようだ。
どちらかというと、死にかけている。
首を見ると、うっすらと傷跡も見える。
この山賊の言葉は全く信用できないので、尋問は時間の無駄だ。
正直やりたくは無かったが――
直接魔力を流し込んで、鑑定で詳しい情報を読み取ることにする。
……絶対にないとは思うが、コイツが『性奴隷』表示されるようなことがあれば、速攻で殺してやる。一秒でも、生かしておきたくないからな。
この山賊を鑑定した結果、俺の性奴隷になることは無かった。
――よかった。
コイツをスキャンして得た情報で、重要なものは二つの『スキル』だろう。
スキル『成長速度三倍』と『不死』。
どうやら、成長速度三倍のスキルの効力で、コイツは人より三倍の速さで強くなれる代わりに、年を取るのも三倍速くなるようだ。
そんなスキルを持っている割には、対して強くなかったが――
これまで、ろくに体を鍛えてこなかったんだろう。
それだと宝の持ち腐れになるどころか、このスキルはデメリットでしかない。
そして、もう一つの『不死』というスキル――
このスキルは、一度しか発動しない限定タイプ。
死んでしまっても、翌日にHP1の状態で、復活できるという破格のスキルだ。
ゲームなんかではよくある能力だが、『無制限に復活』だとゲームバランスが壊れるので、一度だけという制約が付けられたのだろう。
その他にも、『HP自動回復強化』というスキルもあった。
この世界では、HPは寝れば回復するが、休んでいても自然回復する。
それを強化してくれる、というスキルらしい。
地味だが羨ましいスキルだ。
スキル以外にも『特別扱い』という才能が付与されていた。
所属する集団の中で、特別扱いを受けやすくなるという効果があるらしい。
なんかコイツ、かなり優遇されているな――
女神は、こいつに結構期待してそうだが……
まあいい。
目的地のイーステッドで、騎士団にでも引き渡せば、その先は塀の中で臭い飯を食うだけの人生になるだろう。
……いや、待て。
こいつを街に着くまで、荷物として運び続けるとか嫌過ぎる――
「とりあえず、殺しておくか――」
罪科ポイントが聖科ポイントよりも、一万以上多い犯罪者だ。
別にいいだろう。
俺がそう言って、槍で山賊の心臓を突きさそうとするのを、ラズが止めた。
「……ま、待って下さい。ユージ!!」
ラズがなぜ止めるのか、リズが不思議そうにしている。
「そいつは殺さずに、小鬼族の村に連れて行ってください!!」
「……そっか! お姉ちゃん、処刑だね。皆の前で処刑しなくちゃ!!」
…………。
――それも、そうだな。
小鬼族の村は、山賊に襲われて被害を受けている。
山賊を生け捕りにして連れて行けば、いい手土産になる。
ちょうど馬車の荷台には、ラズとリズを縛っていたロープがある。
俺はそのロープで山賊を縛りあげて、馬車の荷台へ放り込んだ。
せっかく馬車が手に入ったので、荷物はそこに乗せる。
山賊のアジトから頂戴した食料は、干し肉と小麦や大麦が大量にある。
山賊団は大所帯だったからな。
保存食は持ちきれないほどあった。
放置していたモンスターを解体して、素材を馬車に乗せる。
それから、小鬼族の村に向けて出発した。




